41:〔二匹の化け猫・2〕
りんごを飲み込むのを待つこと約三十秒、妖獣としては最高峰に位置する九尾の藍様は若干顔を赤くして僕等に向き直った。
「……げ、玄関から入って下さいと言ったはずですが」
いや、それとこれとは話が違う。
「……まあいいです。で、その娘は?どうやら、ミコトさんと同じ化け猫のようですが……」
え、そっちが許す方なの?とツッコむ前に、藍は立ち上がって未だ僕の腕の中にいる少女を見下ろした。またしてもギュウッと身体を寄せてくる少女。
「……また随分と懐かれていますね。どこで?」
「森の中で罠にかかってるのを助けたんだ。で、足を怪我して動けそうになかったから連れてきた」
「はぁ……ですがその娘、もう動けると思いますが」
「え?」
「考えてもみて下さい。その娘は私達と同じ妖獣。紫様のような妖怪に比べて肉体的な損傷を受けると復活が厳しい私達ですが、それでも人間とは比べものにならない程の回復力はあります。故にその程度の傷、痛みはあれど動けない程ではないかと」
「……そっか」
よくよく思い返せば、確かに僕に警戒したときにバッチリ動いていた。
なるほど、今回の僕はお節介を焼いただけだな。
「……まぁしかし、怪我をしているのも事実。治るまでは私が面倒を見ましょう」
「おぉ!さすが!」
流れから断られると思ってなかなか言い出せなかったが、藍の方から言ってくれるとは嬉しい誤算。
僕は少女を降ろそうと屈んで、
「……あら」
少女が、僕の着物から手を離さない。
参ったな、そんな表情で見つめられたら……。
「大丈夫。彼女は怖くなんかないよ。しばらくしたら戻ってくるから、それまで我慢だ」
少女の頭に手を乗せて、僕はなるべく優しくそう言った。
そこで能力を使用、少女から生まれた微弱な『安心感』を増やして。
「お休みなさい」
僕が手を離すと、少女の手から力が抜けて、倒れる少女を藍がフワリと受け止めた。
「九尾顔負けの幻術ですね」
「ん。こういう力の使い方が僕の中じゃあ一番理想的だから」
戦いや騙しに使うよりよっぽど有意義だと思う。
だからといって戦いや騙しに使わないわけではないが。
「じゃあ、しばらく頼むね。何かあったら呼んで」
「わかりました。あまり無茶はしないでくださいね」
「はいはい」
さって、お次はどこへ行こうかね。
短いですが、区切りということで……。
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