39:〔平和とは平穏で〕
新たなアクセサリを身につけた僕は、上機嫌でスキマから降り立った。
ちょうど目に入ったのは、桃鬼が一撃で吹き飛ばした屋敷の一部。
そこに、二人の鬼の姿が。
「あーんもう!どうして私が天狗の屋敷を直さなくちゃ行けないんだい」
「いや……壊したのは桃鬼様ですし……」
「そうだ。壊したのは桃鬼だぞ?」
「あっ、ミコト!いい子だから手伝っておくれ」
何がいい子だ、と言いながらも、僕は大工道具を手に取った。
まぁ、こうなった原因は僕にもあるわけだし手伝おうかと。あと今は気分いいしさ。
「さ、とっとと終わらせてのんびりしよう」
「さすがっ!やっぱりいい子だなぁミコトは!!」
ええい、頭を撫でるな尻尾を触るな。
そんな意味を込めて突き放そうとするが、なにぶんやはり力では敵わない。あれ、なんかデジャヴュ?
「や、止めてあげてください。私も手伝いますから」
「ん?アンタは……」
一瞬桃鬼の手が止まり、僕は押さえられていた顔を上げた。そこには、耳を少しシュンとさせた椛の姿。
ははぁ、桃鬼が怖いんだな。殺されかけたんだから無理もないか。
「椛、そんなに緊張せずとも。桃鬼は理由もなく暴れる鬼じゃないさ」
「そうとも。あの時だって殺すつもりは無かったし、すぐに逃げていればあんなことにはならなかったんだよ?」
隣で踏ん反り返って言う桃鬼の横っ腹に肘を入れる。原因の原因が何偉そうにしてやがる。
「でも、手伝ってくれるのはありがたい」
「は、はい!喜んで!」
「?喜ぶことじゃない気もするけど、まぁ、よろしく」
「……っ、何するんだいミコ」
「お前はとっとと働く」
「あれ、ミコトさん。その羽は……」
体重が軽いことを活かし、骨組みの上に乗って作業していた僕に椛が話し掛けてきた。ちなみに椛は飛んで僕に材料を届けてくれています。
「うん?あぁ、これは天魔の羽さ。貰ったんだ」
「天魔様の羽、ですか?」
「そ。友人の証、とでも言うのかね」
「天魔様と友人、ですか!?それはまた……」
「伊達に歳食っちゃいないから。僕より永く生きてる妖怪は、あの桃鬼ぐらいかな。その次に志妖」
僕の言葉に開いた口が塞がらない、といった様子の椛。なんでもいいけど、そこでその材木落としたりしたら、桃鬼に直撃して修理どころか建て直しの域に入るかもしれないから止めてね。
「あれ、言ってなかったか。僕と桃鬼と志妖、三人共一万歳はとっくに過ぎてるけど」
「………………!!」
「ま、僕はどうでもいいんだけどね」
驚いたまんまの椛を余所に、僕は作業を続けた。
で、空が朱く染まり始めた頃に、ようやく形が出来上がった。ようやくといってもありえないスピードだが。
僕は扉がない部屋の縁側に座り、スキマから出したお茶を啜っている。いや、スキマって本当に便利。
桃鬼と志妖は屋根の上でくつろいでいる。椛は僕の隣でもじもじしている。
「あぁ……平和」
そう、心の底から呟いた。
の、だが。
「……うぇ」
常時発動している能力により、なにやら門の向こう側に不吉な気配を感じていた。
これは……。
「うわぁっ!鬼が来たぞっ!」
えぇい、考える暇ぐらいくれ!
なんて叫ぶことは当然無く、門の扉ごと吹っ飛ばして侵入してきた鬼二人を視界に入れる。
ふむ、一本角と二本角か。
「到着、と。さて、桃鬼はどこにいるのかね」
「多分そこらにいると思うよ?だって桃鬼だし」
「それもそうか」
おやおや、豪快な入り方をした割にはなかなかふてぶてしい態度。
「椛。裏に行ってな」
「え、えぇ!?」
構えていた椛の足元にスキマを開き、落とす。
無駄な戦いは避けたいからね。
僕は茶を飲み干すとスキマに湯呑みをほうり込み、侵入者をまじまじと見つめる。
「……封印は解かなくていいか」
「うん?誰だアイツは」
ようやくこちらに気が付いた様子。一本角の鬼が僕に近付いてくる。
ほぉ、これはまた桃鬼に負けず劣らず……じゃなくて。
「お前、ここに来た鬼を知らないか?」
「ん。屋根の上にいる馬鹿なら勝手に連れてって。もう用は無いから」
「……酷い言い草だねぇ」
僕の前にズダッと着地する桃鬼。ワンテンポ遅れて志妖もスタンと着地した。
うん、着地一つとっても性格って出るんだね。
「桃鬼、どうだった?」
「なに、いい発散になったさ。久しぶりに全力で戦ったからねぇ」
「え!?桃鬼が全力を出したのか!?なら、相手は今頃冥界かぁ……」
いや、バッチリここで生きてるけど。
なんてことは言わない。言ったが最後、また面倒なことになるに決まってる。
「ん?いや、ここにいるさ。コイツと戦った」
「「え?」」
「バカヤロウ!!」
思わず立ち上がって叫んだ。いや、こうなるかもとは薄々感づいてはいたけど、全くその通りにならなくてもいいじゃないか!
「いや、桃鬼。それは嘘だ」
「私もそう思う。だって、コイツ桃鬼どころか私達でも勝てるよ」
「…………む」
若干腹は立つが、なんだか予想外の方向に話が進んでいる模様。
ここは。
「そうそう。こんなしがない妖獣、鬼様相手じゃ粉も残りません」
我慢だ、僕。ここを堪えれば平穏が待っている。
と、いきなり僕の横にスキマが開いた。そこから出て来たのは、当然、我が主人。
「あ、ミコト。リボン借りてくわね」
「え?いや、ちょ」
「じゃあ。羽、似合ってるわ」
その言葉を最後にスキマに引っ込んだ紫。
だが僕は確かに見たぞ、あの最後の明らかに楽しんでるような表情を。
あの野郎……事の顛末を見てやがったな。それでまた面白いからとか理不尽な理由で封印であるリボンを奪ったに違いない。
封印が解かれ、反動で妖力が噴き出す。おかしい、僕は意識してないのに妖力が…………これも紫か!?
ちらりと鬼二人を見てみれば、驚きの中にすごく嬉しそうな感情が流れ込んできた。
……平穏、まだかなぁ。
人気投票、よろしくお願いします!
タグにバトルを追加しようと考えている今日この頃。
この小説の六割は戦闘で出来ています。あとは優しさとet cetera。




