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33:〔鴉と白狼と猫と〕

「はっ!」


距離を取っていた僕に対し、彼女は数秒目を閉じたかと思えばいきなり切り掛かってきた。爪で受け流し、逆の手で剣を地面にたたき落とす。同時に僕はその場から跳び、近くの木に乗る。先程まで僕がいたその場所に弾幕が良い勢いで過ぎていき、何本か木を薙ぎ倒した。


「そういえば名前は?聞いてなかったけど。あぁ、天狗なのはわかるけどさ」


頭に小さな帽子みたいの乗っけてるし。射命丸文が頭に乗っけていたのと似ている、というか同じものだし。


「名乗って何の得になる」

「……いや、別にそういうのは無いけど」


軽くあしらわれているのが気に食わないのか、彼女はなかなかに怒っているみたいだった。耳がチリチリする。

彼女はたたき落とされた剣を拾い上げ、はぁ、と溜め息をついてから呟く。


「文さんは最近ボ〜ッとして手に負えないし……。全く、何が猫又ですか」


ボソッと聞こえた声。口調が違うので、もしかしたら僕に対する言葉遣いは仕事用的なものかもしれない。

ん、文?猫又?


「その文ってのは、もしかして射命丸文のこと?」

「……だったらどうした。盗み聞きとは、趣味が悪い」


やっぱりか。なんだ、文の知り合いだったのか。


「どうしたもこうしたも、ソイツと僕は知り合いなんだ。その猫又っていうのも僕のことだよ」

「なっ……!貴様が!?」


一瞬にして彼女の感情が驚きに支配されていた。うん、驚いた時の顔は皆同じ。


「いや、だが……」

「なにしてるんです、椛……あ!ミコトさんじゃないですか!」

「おおぅっ!?」


突然空から舞い降りて来たのは勿論、射命丸文。パタパタと自分を扇いでいた団扇らしきものを、驚きの声と共に僕に突き付ける。瞬間、僕はぶっ飛んだ。突風が僕を吹き飛ばしたのだ。

そのままどこまでも飛んでいきそうだな、と他人事のように考える。


「っ……!!」

「す、すいません。まさか椛と一緒にいるとは思わなくて……。ですが、軽いですねぇ」


と、先回りしていた文が僕を受け止めていた。軽々と受け止められた僕。男としては微妙な気分である。


「所詮猫だしね。人型のときでも猫のときでも、体重は変わらないんだ」


言いながら、僕は猫の姿になって文の肩に乗った。流石に女の子にお姫様抱っこされ続けるのは情けなさすぎる。


「はぁ……。でも、どうして椛と?」

「椛っていうのか。いや、暇つぶしにここに入ってみたら、いきなり剣を喉に突き付けられたもんだから少し遊んでやろうかな、と。あ、ついでだしこれ結んで」


口にくわえたリボンを文に渡し、右前足に結んでもらう。とたんに身体が重くなった気さえするが、まぁ慣れたものだ。


「はぁ……あの子はたまに融通が利きませんから。昔からなんです」

「昔?」

「えぇ。ちなみにあの子はまだ五十そこそこ、私はもう五百を過ぎますかねぇ」

「五百!?」


なんてことだ。文は僕の予想の十倍以上生きていたことが発覚。

いやでも、あの時封印解いてないし。感覚が鈍るのも当たり前だよね。そういうことにしておこう。じゃないと軽くへこむ。


「まぁ、とにかく降りましょうか」

「乗っけてって」

「はいはい、と」





「本当にすみませんでした……」

「いや、いいよ。それが仕事なら尚更責められない」


呆然としていた椛に文が事情を説明すると、頭の耳をペタンと倒して椛が謝ってきた。


その可愛さに若干キュンときながら、僕はそれを気楽に許した。

言わないが、あの程度で何かがキレた僕も僕だしね。


「私は、白狼天狗の犬走椛です」

「椛は哨戒天狗をやっているんですよ」

「僕は猫又のミコト。まぁ、文ともどもよろしく」



ペこりと頭を下げると、二人も頭を下げて返してくれた。いい子達だ。


「にしても……ここに入るのにいちいち許可とるのも面倒だなぁ。……ねぇ椛、天狗で一番偉いのって誰?」

「天魔様ですが……。ミコトさん、まさか」

「ん、そのまさか。その天魔様とやらのところに連れてって」

「えぇ!?で、出来ませんよそんなこと!」


僕の横でブンブンと首を横に振る椛。


「そか。じゃあ勝手に行くから場所だけ教えて」

「な……!」

「この先を真っすぐ進めば屋敷がありますよ。私の名を出せば通してくれるでしょう」

「あ、文さん!?」

「椛。この方は言って聞く方じゃあありませんよ?ではミコトさん、私達は先に戻っていますから〜」


椛の手を引いて飛び立つ文。成り行きで連れていかれた椛の表情が複雑そうで頭に残ったが、今はどうでもいい。


「天魔様、かぁ。どんな人なんだろ」


ザク、と一歩踏み出す。








なんだか僕、後先考えなくなってきたな。どうしたものかねぇ。

なかなかに捏造。


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