32:〔再・妖怪の山〕
「さ、どこからでも来なさい」
「…………」
向き合うは二匹の妖獣。片は狐で片は猫。
狐の名は八雲藍。この間晴れて式となり、八雲の姓を名乗り始めた。果たして名乗り始めたのか名乗られられてるのかは不明。
猫の名はミコト。一人称、僕。
「やぁっ!」
「おっと」
腹部に迫る藍の拳を紙一重で避け、半身になっている藍の背中に肘を落とす。が、それは藍の回し蹴りによって弾き返された。
「くっ……」
悔しそうにしている藍。それを見て距離をとる僕。僕等を見て呑気にお茶をすする紫。
「紫?」
「なにかしら?」
「ちょっと前にも聞いた気がするけどもう一度聞く。これ、何の意味が?」
「言ったでしょう?修業よ、修業。これから貴方はその妖力でいることがほとんどなんだから、その状態でも戦えるように慣れておかないと、いざという時に困るでしょう?」
「いや、いざという時にはこれ外せば」
「貴方じゃなく、私の『いざという時』よ。なにか問題が起きて、その時にミコトが式を解いていたら呼び出せないじゃない」
「……そっちか」
ため息をついて、紫には言うだけ無駄だと悟って藍を見る。
「藍も思わない?無駄だろこの戦い」
「はぁ……まぁ、確かに言え」
「藍?油揚げが待ってるわよ〜?」
「てません!やはり修練は積むべきかと!」
「情けない……」
せめて初めて会った時のような高圧的な言葉遣いならまだしも、藍は僕が万年を生きる妖獣だと知るや否や敬語になっていた。なので、尚更今の発言は情けない。
「わかったよ畜生、本気でやればいいんだろ本気で!」
半ばヤケクソに陥りながら、僕は妖力を全開。二割しか出ていないので全開とは言い難いが、封印があるので仕方ない。
「覚悟しろよ藍、本気で来ないと痛い目見るよ」
「……むぅ。ですがしかし、私とて最強と呼ばれた九尾の狐。あぶ……誇りにかけて負けられません!」
今なんて言いかけたよオイ。なんかそこから負けてる気がするよ藍。
「っ!!」
「はあっ!!」
真正面から激突する僕等。
その刹那、紫が湯飲みをコトリと置くのが見えた。
で、なんだかんだで時は流れ、僕もこの妖力にすっかり慣れて、自由気ままに散歩をしていた。
スキマを使えば移動は楽だが、やはり歩いて移動するのも捨て難い。
「お」
何気なく右を向くと、そこには以前訪れた山の姿が。確か、妖怪の山とかいったはず。
特にやることもなくぶらぶらしていただけの僕には、些細なことも行動に直結する。
というわけで、妖怪の山へ行ってみることにした。
「ははぁ、前来た時より強力な妖気がある。……鬼神が帰ってきてるな」
山の入り口で耳がぴりぴりとしたので能力を使ってみると、案の定の結果が。そういえば桃鬼はここの鬼神とは戦ったのだろうか?まぁ、戦ったとして桃鬼が負けるはずはないだろうが。
ザクザクと足音を立てながら山を登って行く。
そこで、不意に何かの気配が。
「……誰だ?」
気配は上から、なかなかに強力な妖気を放つ妖怪みたいだ。
というか、封印のせいでどうしても相手の妖力が大きく見えてしまう。どうしたものか。
「動くな」
「!?」
突如、僕の喉元に現れた銀色の得物。僕は驚き、身動きが取れなくなる。
そんな僕の耳元で、背後にいるその妖怪は言った。
「この領域に許可なく入るとは、度胸があるのか馬鹿なのか……。即刻出ていけば、何も悪いことはしない」
ふむ、馬鹿ときたか。
――プッツンきたよ?
どうやら、式の業務にストレスが溜まっているみたいだなぁ、僕。
少し可哀相だけど、相手をしてもらおうかな。
「……嫌だと言ったら?」
「この場で殺す」
「……そう。なら……」
僕は左手で右手首のリボンを解いた。
何かが外れ、全身の毛が逆立つような感覚に満たされる。
そして、
「やれるもんなら、やってみな!!」
妖力を込めた爪で剣を弾き、地面を蹴ってその場から離脱。地面が大きくえぐられたのを見て、僕に剣を突き付けていたそいつは驚愕の表情を見せる。
そんなそいつに、僕はニヤリと笑って。
「僕の遊び相手が出来る?かわいいかわいい子犬ちゃん」
「………………!!」
瞬間、頭から犬の耳を生やした彼女は、剣を片手に襲い掛かってきた。
さて、久しぶりに全力で跳び回ってみようかな。
最近眠くてあまり多く書けない……。
はっ!まさか成長期か!?
……わかってるよ、それこそ夢だってことぐらい。




