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25/112

25:〔仇〕

THE・捏造。

「っとと、ここらでいいかな」


少し開けた森の中、地面を削りながら止まる。それでも三十メートルほど止まらなかった。猫は急には止まれ……いや、止めておこう。


「起きてるんでしょう?」

「……ん」


担いでいた少女に話し掛けると、彼女は小さく頷いた。感情に波は見られない。どうやら、気絶した拍子に暴走も止まったらしい。

地面に降ろし、彼女の手にある小刀に手をかける。抵抗されなかったのでそのまま取り、彼女の手を僕の着物で拭っておいた。


「あ……う……」


僕を見て、少しだけ後ずさる少女。怖がってるのか?というか、それ以上後ろに行ったら……。


「あっ!」

「っと……怖がらなくていいよ。別に君をどうこうする気は無いから。でも……そうだな、出来れば、何があったのかを教えて欲しい」


地面に出ている木の根に踵をぶつけ、転びそうになった彼女を抱き留めながら、なるべく優しく話し掛ける。ついでにちょっと感情を操って恐怖を消しておく。

で、キョトンとした彼女が僕を見て口を開いた。


「…………猫さん?」


猫ですがなにか?














「ふむ……」


尻尾を一振りして「あうっ」あ、ゴメン。

考える。


彼女――藤原妹紅の話は、なんだかいろいろと複雑だった。でもまぁ、簡単に言えば仇討ちと嫌がらせである。


彼女の父親はどうやらかぐや姫にぞっこんだったらしく、一度は求婚を申し込んだ。が、敢え無く失敗。

しかしそれでも恋心は燃え尽きることは無く、今回かぐや姫が月に帰ると知り、かぐや姫を守りに行く、と翁の家に行ったきり今度は帰ってこない。

心配になり父の安否を知ろうと、家の人間に尋ねた妹紅に返ってきた言葉が、父の最期を表す言葉だった。

妹紅にしてみれば、かぐや姫がいなければ父は死ななかったと思うのも当然。しかも、当のかぐや姫は月に帰り、復讐の手すら届かない。

(本当は月には帰らずにどこかに逃げているのだか)

ならばせめて、と手を出したのが、かぐや姫の残した不死の薬だった。


「…………」


ちらりと妹紅を見る。

妹紅は僕の尻尾を触って遊んでいた。


髪は白く色が抜け、その瞳は朱く染まっている。そして、心臓を貫かれても死ぬことのない、不死の身体。


「……どうかしました?」

「いや」


前を向き、更に考える。

妹紅の父親があそこにいたということは……。


頭に過ぎるのは、最悪のシチュエーション。しかもあの時の自分はほぼ暴走状態、記憶なんざすっぽりと抜け落ちてしまっている。

世界に色が戻ったときに月人以外には手を出していないと勝手に決め付けてはいたが、実際はわからない。

何人かはこの手にかけているかもしれない。その中に、妹紅の父親が含まれていないとは言い切れない。

もしかしたら、妹紅の仇は、かぐや姫ではなく――。


「参ったな……」


言うべきか、言わないべきか。

ここは――。


「妹紅、これからどうするつもり?」

「……はぁ、京には戻れないですよ、ね……」

「そっか。なら僕と来ない?」

「へ?」


目を丸くして驚く妹紅。


笑うなら笑え。これが僕の出した答だ。


「次、いつまた暴走するかわからないだろ?僕が力の使い方を教えるよ。少なくとも、そこらの妖怪に負けないぐらいになるまではね」

「はぁ……。妖怪、ですか」


尻尾を触る手を止めて、妹紅は悩んでいた。しかし、すぐに僕の前にきて、


「……行きます」

「ん。なら、行こうか」

「え?早速ですか?」


妹紅の横を通り過ぎて、ザクザクと音を立てて進んでいく。

僕の足音の他に、ひとつ小さな足音が追加された。















今はまだ言えない。


けれど、もっと妹紅が成長して、しっかりと自分の考えが出来るようになったら。


その時は、僕の口からしっかりと告げよう。


たとえその結果、妹紅と敵対することになっても。




――あぁ……凄く、複雑。

やってしまったとは思う。


後悔はするかどうかわからない。

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