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20/112

20:〔トラウマ〕

神社から離れ、僕は縦横無尽に辺りを走り回っていた。


「さすがに、神社が壊れるのは、罪悪感があるし、さっ」


僕が走り去ったルートをなぞるように地面がえぐれていく。このままじゃミステリーサークルができるかもしれない。

まだ妖力を使っていないので全力の半分以下のスピードではあるのだが、志妖は僕を未だ捉え切れていない。これが桃鬼なら、走る道を先読みされて地面の硬度を下げられて終わりだ。


「っとぉ!」


痺れを切らしたのか、志妖が巨大な波動を飛ばしてきた。瞬間地面を蹴って真横へとエスケープ。波動は地面を削りながら木々を薙ぎ倒し、やがて消滅した。


「逃げてばかり……!」


ビリビリと伝わってくる怒りの感情。手を抜いている様子は微塵も見られない。そうこなくては。

さて、今度はこちらから行こうか。


「ふん、ならこちらから行かせてもらうぞ、って……」


前傾姿勢を取った瞬間目の前に現れたのは、柱。


「っくぁ!」

「!!」


身をよじってなんとか回避、したのだが。

僕の身体に、鉄球でもぶつけられたような衝撃が重く響いた。今度は吹き飛ぶことはなく、その場に膝をついてしまう。


「今のは……オンバシラ?」


歯を食いしばり、空を見上げる。

そこでは幾重にも鉄輪を腕に重ねて投げ付けている洩矢諏訪子と、それにオンバシラで対抗している神奈子の姿。なるほど、今のは単なるとばっちりかコラ。

なんてことを少しだけ(今は少しだけ)考え、視線を落として志妖を見る。先程の一撃は志妖の波動だろう。あの瞬間に迷い無く攻撃してくるとは、なかなかやる。


「え、あれ……」


本人は予想外にダメージを受けている僕に驚いている様子。

今の僕は妖力を抑えている。打たれ弱さ絶賛上昇中の僕には、あんな一撃でも致命傷になりかねないのだ。実際、かなりヤバい。


「ケホッ……くっ」


立ち上がり、頭を振る。

何をしてるんだ、僕は。自惚れるのもいい加減にしなければ。

僕は最強でも無敵でもなんでもない、ただ長生きなだけの妖怪なんだ。しかも相手は生まれつきポテンシャルが高い鬼。元から手を抜いて勝てるような相手ではない。


「いいだろう」

「っ!?」

「くだらないことはやめだ。本気で行こう」


妖力を全力解放。僕のそれは量こそ志妖より少ないが、そんなことは関係ない。

僕の真のスピード、お見せしよう。


「なっ……!」


おそらく志妖には目で追えてすらいないはず。それも当然、僕のスピードだって四年前よりかは上がっているし、志妖の前では見せたことがないのだから。


「――――!」


脚、腕、腰、肩、ランダムに切り付けていく。

志妖はそれに対してただ歯を食いしばって堪えていた。しかし、僕は攻撃を止めない。情なんてもの、ついさっき消してしまったから。

何百回目かとなる一撃で、志妖の身体がぐらりと揺らぐ。それを見逃さずに、僕は志妖の首を掴んで片手で持ち上げた。予想外に、軽い。


「おっと。お疲れ」

「あ〜う〜……負けちゃったよ〜」


視界の端で、桃鬼が落ちてきた洩矢諏訪子をぽすんと受け止めていた。桃鬼の腕の中で、小さな神様がその目を見開く。少し遅れて降りてきた神奈子も、僕らを見て同じように目を見開いた。桃鬼はいつも通りの表情であり、つまりは神様二人は僕を見て驚いていると思われる。


「これで終わりか?志妖」

「私の、名を……」


どこかで聞いたことのある言葉の始まり。ドクンと心臓が高鳴り、身体が固まった。あれ?

固まった僕を余所に、志妖は震える手で円を作り、その口に当て――。


「呼ぶなぁっ!!!!」

「!!!!」


志妖の咆哮が、僕に襲い掛かった。

短いですね……すいません。


今日中、もしくは日付が変わる時にまた更新する予定でいますので、お許しください。


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