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18:〔猫に驚いた神〕

神奈子の背を追い、僕は神社の中へと足を踏み入れる。もちろん隠行を使い、参拝に来ている人間には気づかれないように。


「こっちだ。座りな」


神奈子に勧められるままに、彼女に向かい合う形で座った。

ここで僕は隠行を解き、ついでに変化も解く。尻尾をフラリと揺らし、耳を動かして首の骨を鳴らした。なんだかんだでこの姿が一番落ち着くのだ。


「ほう。猫又、とでも呼ぶのかな」

「まあね」


僕の背後でフラフラ揺れる二又の尾。若干神奈子の視線がそれに合わせて右往左往しているように見えるが、気のせいだろう。


「神に合うのは私が初めてか?」

「一応。見つかるつもりはなかったんだけどね」

「私をナメるんじゃないよ。どんな小さな妖力でも、人間に混じれば特別目立つ。……しかし、ミコト。アンタは何歳だい?」

「ん?」

「いや、あまりにも妖力が小さすぎたのでね。そんな力でよくまぁ……」


頬杖をついて僕をなめ回すように見る神奈子。

実は人間に紛れやすいように妖力を最大限押さえ込んでいるだけなんだけど……。


「ん、僕は生まれたばっかりの新参妖怪だから」


なんだか面倒だったので、流れで嘘をついてみた。特に意味は無い。なんとなくである。

実際はそろそろ千の桁から万の桁へと乗ろうとしている僕の歳。妖力も昔と比べだいぶ増えているのだが、桃鬼には敵わない。アイツは僕の二倍は妖力を持っている。化け物である。

ちなみにもう一人の化け物、志妖は僕とどっこいどっこいの妖力。でも多分そろそろ抜かされる気がしないでもない。


「どうかしたか?」

「いや、なんでも」


不思議そうに僕を眺めていた神奈子にごまかしを入れ、逆に神奈子を見つめ返してみた。


うん。やはり美人……じゃなくて、神様というだけあって何か雰囲気が他とは違うものがある。

妖怪とも人間とも違う『命』。僕の耳はその新鮮さにピクピク動いている。どうやらこの耳、能力を使うと勝手に動く癖があるみたいだ。

少し気をつけないと能力を使っていることが簡単にばれてしまう……ん?


「…………」


立ち上がり、後ろを振り返る僕。今のは……。


「おや……今日はまた随分とお客が多い日だ」


やれやれと言わんばかりに立ち上がる神奈子。

やはり、勘違いではないらしい。


「近くの森の中かな」

「わかるのかい?」

「まぁ」

「……不思議な奴だね。まあいい。私は行くとするよ」

「あ、僕も行く」


社の裏口らしき扉から出ようとする神奈子は、僕の言葉に振り返り一瞬止まる。

しかし、またすぐに前を向いて外へと出ていってしまった。つまりは、勝手にしろということか。


「神様の力、拝見させてもらいましょうか」










空を飛んで移動していく神奈子に、僕はいつも通り跳んでついて行く。発音は同じなくせに一文字違うだけで全く違う。


くそ、神奈子の奴なんの障害もなくスイスイ飛んでいきやがる。それに遅れずについていける僕も僕だけど。








「あいつらか」


隠行を使って木の上で見物を決め込むことにした僕は、周りより背の高い木に立ってそう呟いた。

向こうではしめ繩を背負った神様と妖怪の軍勢が対峙している。しかし、妖怪の方は小妖怪ばかりのようで、神奈子には到底敵いそうになかった。


「お、始まった」


どうやら交渉は決裂。神奈子の周りに太い柱のようなモノが現れる。(ちょいちょい聴こえてくる会話では、そもそも交渉にすらなっていなかった。言うことを聞かない妖怪共に神奈子がしびれを切らしたと思われる)その内の一本を右手に持ち、他の柱は妖怪に向かって投擲、いや発射。

柱に触れた妖怪は跡形もなく粉砕。運よく当たらなかった妖怪は神奈子自ら手に持った柱でホームランしていく。


間違って飛んできた妖怪の一匹を叩き落とし、獅子奮迅の勢いで妖怪を吹き飛ばしていく神奈子を眺める。なかなかの強さだ、やはり神様は侮れない。

なんて頭を掻きながら考えていると、不意に耳がピクリと動く。

強めの妖力が神奈子の近くから感じられ、僕は首を傾げた。

これは、明らかに小妖怪の纏う妖力ではない。


「ん……」


どうやら神奈子は気付いていない様子。もしかしたら気付いているのかもしれないけれど、あの数を相手にしていては……。








「面倒だね」


もう一度周りに柱を展開。

神奈子は、この一撃で終わらせようとして集中する。

そして一斉に柱を放とうとした瞬間、後ろからガサリと音が聴こえていた。

嫌な予感がして振り向いた神奈子の視界に、他の奴らとは明らかに違う妖力を纏った妖怪の姿が目に入る。


(しまっ、防がなければ!)


咄嗟にそう判断した神奈子だったが、この瞬間を狙っていたのか前にいる小妖怪達も神奈子に突撃を仕掛ける。

単体の力は弱くとも、数が多ければそれは巨大な力へと変貌する。

軽いパニックに陥った神奈子は、それでもなんとかしようと身体に力を込め――。


「シッ!!」

「!!?」


――更に大きな妖力を纏った妖怪が、目の前の妖怪を引き裂いていた。

















僕は隠行を解くと同時に妖力を解放、一瞬で神奈子の側に跳び、襲い掛かろうとしていた妖怪を縦に引き裂く。

振り抜いた腕の力に逆らわずに、クルリと一回転して柱に着地。


「な、アンタ」


おぉ、驚いてる驚いてる。


神奈子だけじゃなく小妖怪も驚いてその動きを止めてしまっている。気持ちはわかる。僕だって、いきなり自分の何十倍の力の妖怪が現れたら固まると思う。

けれど、戦いの最中に動きを止めるということは、死亡宣告に等しい行為な訳で。


「神様、後は宜しく」


僕はそう言って神奈子の頬をペチンと叩き、柱から全力で跳躍。

次の瞬間、複数の柱が妖怪達を襲っていた。









「神奈子〜!!」

「?」

「受け止めて〜!」

「なっ!はぅっ!!」


妖怪を殲滅して数十秒、僕は神奈子に向かって落下していきました。


神奈子の首に腕を引っ掛けて落下停止。おぉ、堪えた。


「アンタは……何者だい?」


いきなりの衝撃に顔をしかめながらも神奈子はそう聞いてきたので、僕は神奈子の身体にぶら下がりながら答える。







「さぁ……なんなんだろうね」


ホームラン。

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