14:〔孤独を選んで〕
「や。十年振りだね」
「貴方は……」
十年前よりずいぶん大きくなった少女、いや、今は女性と言うべきか。
永琳は、いきなり部屋に現れた僕を見て目を見開いていた。
「どうやってここへ?」
「なに、少しばかり手伝いをしてもらってね」
そう言って、僕は虚ろな目をしている男を部屋の外へと座らせる。少しばかり幻術を使わせてもらったのだ。
昔と比べて数が限りなく増えたパスワードも彼に打ってもらった。ここのパスワードを知っているということは、かなり偉い人だったのかもしれない。が、そんなのは関係ない。
ベタリと床に座り込み、永琳を下から見上げる。
「僕の聞きたいことはわかるだろう?」
「えぇ。まぁ」
「なら、教えてくれ」
「どうして?」
「答える必要があるのか?」
「なら、教える必要はあるのかしら?」
耳がぴくりと動く。
全く、妖怪を目の前にしてこのふてぶてしさ、呆れを通り越して尊敬すらしてしまう。
さて、どうやって聞き出そうかと考えようか。
「尻尾」
「ん?」
「尻尾を触らせてくれたら、教えてもいいわ」
「……は?」
いきなりそんなことを真面目な顔で言い出した永琳。
ゆっくりと僕の背後に周り、
「どうかしら?」
「いや、別に尻尾ぐらいいいけどさ。それで教えてくれるの?」
「えぇ。では……あら、思ったよりフワフワ……フフ、気持ちいいわね」
しばらくの間、尻尾を触って楽しむ永琳。
確かに僕の尻尾は自分でも気持ちいいとは思うが、そんなので情報をくれるのか?だとしたら、尻尾万歳。
「で、いつなんだ?触りながらでいいから答えてくれ」
「いいわ、教える。確か……妖怪殲滅を開始するのは三日後だったはずよ」
「本当に?」
「えぇ、本当。……別に教えても私には影響はないし、すぐ教えてもよかったのだけれどね」
「……ならなんで」
「一度触ってみたかったのよ」
「評価の程は」
「抱きまくらにしたいわ」
「そ」
「三日後、だったな」
あの後軽く三十分は尻尾を弄られ続けた僕は、若干毛のダメージを心配しながら永琳に聞いた。
永琳は、椅子に座って分厚い本をめくっている。
「えぇ」
「わかった。……じゃあな」
「生きていたら、また会いましょう」
本に目を向けたまま言う永琳に、言葉は返さずに手を振ってその場を後にした。
そして、三日後。
僕は森の入口付近の木に乗って、都市の様子を眺めていた。
今丁度、シェルターに小さな穴が開いて、中からぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろ……………………
「おいおい、さすがにあれはないだろ」
思わずうんざりした表情になる僕。
さすがにあの人数はないだろう。数えるのも面倒くさくなる。
「総力戦、ってやつか」
ポツリと呟く僕の周りには、誰もいない。
当然だ。教えてないのだから。
というより、こられたほうが僕としては困る。
僕は桃鬼達にも、妖精さん達にも、無駄な戦いをしてほしくない。
戦うのも、
殺すのも、
死ぬのだって、僕だけで充分なのだから。
「…………きた」
耳がピクピクと反応する。
歯を剥き出しにして、爪に妖力を込める。
感情は既に操作済み。今の僕は純粋な戦闘狂。故にこの状況に楽しささえ覚えても、引こうとは微塵も思わない。
ギリギリと音を立てて歯を食いしばり、身体にも妖力を充満させる。
そして。
「あああああ!!!!」
木を踏み台にして、武装した人間の山に突撃を仕掛けた。
短くてすいません。
そのかわり、次回は長くなると思います。




