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13:〔元・人間は何を思う〕

「むぅ、これからどうしたら」


僕は、湖のほとりで一人悩んでいた。


永琳と出会い、あの話を聞いてから丁度五年。後五年すれば、永琳の言葉が正しいとしての話だが、人間が妖怪を殲滅にかかる。


ため息をついて、石ころを湖に投げる。石ころは湖の丁度半分辺りでピタリと止まり、垂直に湖にポチャンと落ちた。


この湖は、鬼と妖精を分ける境目、国境のようなものだ。

一応、境目としての形を持たせるために軽い結界を張っているが、鬼のような基本能力が高い妖怪なら問題なく素通り出来るレベルなのであまり意味はない。本当に形だけの結界である。


「ま、それでも侵入してくる鬼がいないのは、よほど僕が嫌われたか、桃鬼が何かしてるか……。ま、十中八九嫌われたほうだとは思うけれど」


パタリと尻尾で地面を叩いてみる。

仕方ないとはいえ、嫌われるのはいい気分じゃない。正直、嫌だ。


「でも、な。ああでもしないともっとこじれて大変だったろうし……。犯人候補は僕だけで充分だしな」

「誰に喋ってるんですか」

「そりゃあもちろんこれは独り言っていうそれはそれは寂しい行動……って、なんでここにいるの、志妖」


僕の独り言に勝手に返事をしていたのは、志妖。いつの間に隣にきたんだ?

志妖は僕の尻尾を触り、少し懐かしそうに笑う。


「そういえば、普通に喋ってるけど、能力は?」

「大きな声を出さなければ大丈夫になりました」

「そか、よかったな」


尻尾でポンポンと頭を叩いてやると、少しくすぐったそうに目を細める志妖。


しかし、しばらく見ないうちに大きくなったものだ。

たかが五年、されど五年。

身長が高いとは言えない僕の身体だが、それでも百七十五ぐらいの身長はある。

試しに志妖を隣に立たしてみると、驚いたことにあまり変わらない。若干僕より低い程度である。角も心なしか大きくなったようだ。


「で、なんて言っていたんですか?」

「いや別に」

「犯人はミコトさんではなかったんですね」

「しっかり聞いてたんじゃん」


なんだか性格が桃鬼寄りになってきていないか?



「犯人は」

「人間だよ。その証拠に、まだ被害は出てるんでしょう?最近は大丈夫みたいだけど」


コクりと頷く志妖。

当たり前だ。犯人は僕ではなく人間なのだから。


「そっちはまだ僕を犯人だと思ってる?」


またも頷く。

それを見て、若干安心する僕。そうでなければ、わざわざ犯人面した意味がない。


もし、鬼が自分達の仲間を殺した犯人が人間だとわかれば、すぐにでも襲撃をかけにいくだろう。

それはいい。

問題は人間が、もはや襲い掛かってくるだけの鬼など簡単に殺せるだけの科学力を持っている、ということだ。

五年前ですら得体の知れない銃で何体も餌食になっている。

そして五年経った今。もはや僕の記憶にもないような、超未来的武器まで大量生産されている始末。特にここ最近の文明の発展具合は、異常の一言につきる。

この間街を見に行ったら、なんとシェルターまで設置されていた。街ですらなくなった。もはや都市である。

そんな場所に戦略も何も無しで特攻を仕掛けたらどうなるか?

言わずもがな、全滅である。

それを避ける為にも、あちらには犯人が僕であると思っていてもらわなくてはならない。

我ながら損な役回りを選んだものだ、と苦笑した。


「どうするんですか?」

「ん……。今は特に何も。でも、志妖にお願いがある」

「なんですか?」

「僕を、悪役のままでいさせて欲しい。その為に……」


僕は爪に軽く妖力を込めて、志妖の前に掲げる。


認めてるよ。僕が最低だってことぐらいはさ。


「……ハイ」


志妖は、僕の前に立ったまま目を閉じた。

その志妖の顔に、そっと手を添えて、


「っ」


勢いよく、手を引く。志妖の頬に、一筋の赤い線が生まれて、その赤がだんだんと下へと流れていく。


――あぁ、最低だ。


未だ目をつぶったままの志妖に、僕は能力を使用。

ぐっ、と志妖の前で手を握り、ぐいっと右へ引っ張る。

その先にある感情は、底しれない、恐怖。


「行け」

「――っ!」


その目にかすかな滲みを見せ、志妖は結界を超えて走り去った。

これで、向こうさんは僕をまだ犯人として見てくれるだろう。志妖が何か言ってしまうかもしれないが、それを信じる奴はいない。なぜなら、志妖の服の隙間に僕の毛を挟んでおいたから。あの灰色を見て、僕を連想しない奴はいないはずだ。


「ふぅ」


ゴメン、志妖。

でも、これは皆を守る為なんだ。


膝を曲げ、跳躍。木の頂点に着地して、シェルターに囲まれた都市を見る。


「あと、五年……」


いつしか決めていた、今回の結末。


鬼は、人間が犯人だとは知らない。勿論、攻めてくることも知らない。

それに、僕が消えても、犯人が消えたと喜ぶだけ。


妖精さん達は、僕がいなくてもまぁうまくやるだろう。

なんだかんだで生き残る種族だ。心配はいらない。













「あと、五年続けて……」












誰にも教えず、誰にも知られず、誰にも語られず。


そんな形で、決着をつけてやろうじゃないか。


待っているよ。


あなたたちと元は同じ種族だった妖怪が、ね。

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