進め 進め 進め 南雲艦隊
六月中旬、南雲艦隊はミッドウェー北東五百海里にいる。何故いるかといえば、ミッドウェーを潰せばシアトルまでの哨戒が減るからだ。何故なら周辺をチョロチョロされると気ぜわしないから。
ミッドウェーを潰した後にシアトルをやろうとしているのは、軍令部からの強い要請があったからだ。ボーイングの工場をぜひ潰して欲しいと。超重爆の生産拠点となっているらしい。ぜひ潰さねばとお思う。
転移先世界でシアトル強襲の成功を教えたのが拙かったか、と思う面々。遠いのだ。南雲艦隊にしても。
もう電探は常時作動で「電波管制?何それ美味しいの」である。いちいち探すよりもこちらに向かってきてくれると手間が省けるな、くらいに南雲艦隊は増長していた。
今回も水雷戦隊の休養先として補給艦は着いてきている。
一方、潜水艦戦隊はまた補給艦を伴いパナマ沖に出撃した。マリアナ諸島とトラックの間を突っ切っての進路だった。産業が息を吹き返しつつあり逆探も製造数が増えた。そして巡洋艦以上と南雲艦隊各艦に優先された。その逆探で敵電探波の無いところをうろうろしながら突っ切ったのだった。さすがに本隊と規模が違い敵に群がられたらたまらない。
護衛は前回利根と霰だったので、今回は筑摩と霞となった。補給艦は前回と同じ健洋丸。物資の補給よりも潜水艦戦隊と霞の乗組員休養先としての任務が主だ。
一足先に活動を開始した潜水艦戦隊だが、今回の主役は電池魚雷だった。九五式魚雷が強力になりすぎて中立国船舶が多数いる海域の商船相手では使いずらかった。射程が二万メートル以上と長くなりすぎて短くしようとすると酸素量の調整も面倒だし、もし突き抜けてどこかの国の船に当たったり中立国の海岸にのしあげたら拙すぎる。そして電池魚雷でも雷速四十ノット、射程一万メートルになっている。これでも射程が長いし破壊力も増しているので十分すぎた。九五式魚雷を半数降ろし、蓄積した電池魚雷に積み替えてきていた。もちろん足りなくなれば健洋丸から補給出来る。積み替えた場合、増えた物品は自動補充の対象ではなかった。隙間があれば積み替え前の数量配分になってしまう。
ミッドウェーを一蹴した南雲艦隊はそのままシアトルに向かった。これを本土からの超長波通信で知るとパナマ沖からサンフランシスコ沖にかけて潜水艦戦を始めた。
前回はパナマ沖に固まりすぎてやりにくかったことから薄く展開して好き勝手に暴れることにしたのだ。
「聴音、こちらに接近する感は」
「ありません」
「速度このまま、取り舵針路三百三十」
「速度このまま、取り舵針路三百三十。宜候」
「選り取り見取りか」
「どうされますか。艦長」
「先任、デカい奴に決まっている」
「では空母ですな」
「当然だが、少々位置が悪い」
「機関長。電池は」
「全速で三時間行けます」
「だ、そうです。艦長」
「一度離れて先回りする。幸い敵艦隊は巡航速力のようだ」
場所はバハ・カルフォルニア半島沖二十海里。
「聴音です。スクリュー音多数。艦隊と思われる」
との報告を受け接近。
航行する多くの商船が発生させるスクリュー音に混ざって聞こえたのを聴き分けたのだろう。
一瞬上げた潜望鏡には機動部隊が映り込んだ。
慌てて
「潜望鏡下げ」
となったのが先程だった。
パナマを通過してサンディエゴに向かうのだろう機動部隊がいた。
イ16はレベルアップで水中速力と静音性の増した艦の性能を生かし先回りをする。
「先任。空気はどうか」
「あと十二時間で二酸化炭素濃度が危ないですが、六時間後に日本時間で十五日です」
「では気にすることはないな」
「ハッ」
「そうだ、水雷長」
「ハッ」
「電池魚雷を六本、初弾で撃つぞ。装填可能にしておくように。次発は酸素魚雷だ」
「了解」
ちなみに電池も充電率八割くらいの状態になるので不安はない。深度二百も平気だしな。
「右舷よりスクリュー音聞こえます。感一」
「逆探上げ」
「逆探上げます」
「逆探に反応」
「下げ」
「下げ」
「潜望鏡は見つかるかな」
「敵の電探は優秀ということです」
「良し、聴音発射をやる」
「艦長」
「見つかりたくないし、射角を広く取ってバラまく」
「水雷長。電池魚雷装填。射角四度」
「ハッ。発射管室。電池魚雷、全管装填。射角四度」
『こちら発射管室、一番から六番まで電池魚雷装填します。射角四度』
この日、イ16潜が発射した計十二本の魚雷は四本が命中。駆逐艦二隻撃沈、巡洋艦一隻撃沈、空母一隻撃破、の戦果を上げた。エセックス級空母ハンコックはこの被雷で機関区が浸水し沈没寸前となり辛うじて沈没を回避し曳航に成功。サンディエゴの大型船用ドックを一年以上占有することになった。
潜水艦戦隊は作戦帰還中、他に軽空母二隻、駆逐艦八隻、巡洋艦一隻、各種船舶三十八隻撃沈という戦果を上げた。潜水艦戦隊と筑摩と霞と健洋丸は北でシアトル強襲があり警戒が手薄になった南方を敵と遭遇することなく帰投出来た。
南雲艦隊はシアトル手前から航空攻撃を受けるも無傷。敵は損害多大なのか手を出してこなくなった。
そして、シアトル爆撃である。主要目標の海軍造船所とボーイングの工場に壊滅的被害を与え、飛行場の他軍港と工場らしき施設を破壊した。
サンディエゴにいた艦隊が迎撃に来るがその前に帰った。もう疲れたのだ。休暇で家族と温泉だ。
次回更新 11月28日 05:00 予定
無敵艦隊の作戦成功は当然なので、もうすぐ決着は付きますね。




