勝利だけ 乞い願い この力は 南雲艦隊
後にマリアナ沖海戦と言われる海戦を当然のように圧倒的な勝利で飾った南雲艦隊。
次の目標は、サイパン島とグアム島の基地航空隊と残存艦隊となった。もちろん速力が出せない降伏艦隊よりも先に攻撃をする。
海戦翌日、降伏艦隊で足りなくなっている水や食料と医薬品を渋々渡し振り切るように速力を上げる南雲艦隊。嫌がらせのように攻撃日時も予告してやった。
サイパン島まで二百海里となったところで四発爆撃機B-24の偵察と護衛戦闘機を伴った攻撃を受けるも零戦の活躍で無傷で切り抜ける南雲艦隊。護衛のP-40も零戦の敵ではなかった。まあ、これから攻撃に行くと降伏艦隊から通信があっただろうし当然阻止に動く。
基地防空に上がってきた戦闘機を零戦が退けまずは飛行場を爆撃する。
(良いか。降爆は後だ。水平爆撃で必ず撃ち漏らしが出るからそれを降爆で潰せ。戦闘機隊は対空砲座を地上銃撃で潰せ)
発艦前の指示を想い出しながら攻撃に入る攻撃隊。
九七艦攻が最近は八十番や航空魚雷を抱いても楽に発艦出来る。以前は合成風速が弱いとヒヤヒヤものだったが。と思いながら
「通常は格納庫をやれ。徹甲は飛行場だ。忘れるな」
『『『『了解』』』』
と指示を出す水平爆撃隊長。
水平爆撃隊の爆撃はサイパン島の飛行場に酷い破壊をもたらした。格納庫は跡形もなく吹き飛び飛行場には直径五十メートルにもならんとする大穴が開いた。細かい撃ち漏らしというか生き残った機体や施設には容赦ない精密爆撃を喰らわせ破壊する。対空砲座も地上銃撃で潰してしまう。造成中のテニアン島飛行場も同じ目に遭っている。さらに比叡、霧島、利根、筑摩の艦砲射撃でとどめを刺してしまった。はるばるアメリカやオーストラリアから資材を運んで再建出来るのだろうか。
グアム島にいた艦隊は立ち向かってきたが水雷戦隊に圧倒されてしまった。そしてグアム島でも同じ光景が繰り返された。
攻撃成功で帰還する南雲艦隊とすれ違う降伏艦隊。彼らの目にはグアムがどう映るのだろうか。
マリアナ諸島壊滅+33任務部隊壊滅の報を受けたハワイのアメリカ海軍太平洋艦隊司令部は嘘だと思った。
だいたいがこんな戯言信じられるものか。
「奴らの飛行機は墜ちない」
「撃っても無駄だった」
「急降下で逃げ切れなかった」
F6FとP-40の戦闘機パイロット。
「奴らの銃撃で主翼が折れる」
「1連射で撃墜された」
生き残ったパイロット達。
「急降下爆撃機も雷撃機も命中率は50%以上」
航空戦を生き残った艦隊士官達。
「最初の爆弾1発でほぼ戦闘不能になった」
ナッシュビル、エセックス、イントレピッド。
「サウスダコタ級の不安が現実になった」
サウスダコタの生き残り士官。インディアナは急な転覆で生存者が発見されなかった。
「航空魚雷1本で船体が切断された」
サンフランシスコ艦長。
「フレッチャー級駆逐艦が爆弾1発で沈んだ」
駆逐隊。
「サイパンもグアムもテニアンも基地としての能力喪失。自力再建は不能」
グアム島海軍司令部。
「奴ら自分に余裕がないもんだから、俺たち降伏した連中を日本に連れ帰らずにグアムに向かわせた」
降伏部隊
なお通信は地上施設が壊滅的損害を受け地上無線局が使用不能になったので、降伏艦隊の中で通信設備が無傷な軽巡ジュノーが行っている。
太平洋艦隊司令部は、どいつもこいつも頭おかしいと思ったが、数日で現実だと証明された。丁度戦闘3日後にグアム入港予定だった輸送船団がいたからだ。
しかし、それをやった日本艦隊はどこへ行った?
だいたい日本にそんな艦隊用意出来るわけがない。じゃあどこから現れた?空母はどれだけいる?
これはコンゴウクラスとトネクラスが2隻ずつ確認されている。小型の5500トン級と称する軽巡とカゲロウクラスの駆逐艦もだ。それがどこからだ?トネクラスは2隻とも消息不明だろう?
墜ちない飛行機。以上に攻撃力が高い兵器。対策をどうすれば良い?
わからないことだらけでハワイで対策は無理なのでワシントンに話を預けるしかないとして、向こうで頑張ってもらうことにした。
また敵の能力が余りに異様なのでハワイにいる第45任務部隊は動かせなくなってしまった。こいつらまでやられると、太平洋艦隊は全滅になってしまう。勘弁して欲しかった。
ワシントンでは大騒ぎになっている。
「まだエイプリルフールには早いぞ」と言った声や「こんな巫山戯た電文を打った奴は首だ」と最初ハワイから報告があった時点で、ハワイ同様信じていなかった。
それがグアムに到着した輸送艦から事実だと知らされると、パニックになった。
2週間後、ようやく現実を見ることにした面々は
「ナグモの亡霊」
と、やけくそでこの怪事件の主犯を特定することにした。
コンゴウクラスはコンゴウ、ハルナの2隻を沈めている。残りの2隻、ヒエイとキシリマはナグモと共に行方不明だ。特に特徴的な艦橋を持つヒエイが確認されている。ならあいつらが地獄からよみがえってきたのだろう、と。
誰も信じていないが、他にそれらしい理由を付けることは出来なかった。
「これで何回目だ」
「なんですか、長官」
「ここに集合するのは」
「ひーふーみー、五回目ですな」
「ではあの声を聞いたのは」
「搭乗員は多いでしょうね。艦隊は四回ですか」
「レベルアップとは不思議だな」
昭和十九年六月五日。南雲艦隊は単冠湾にいた。マリアナ沖海戦以降もう何が何やらわからない艦隊になっている。赤城で四十ノット。加賀は遂に三十七ノット出るようになってしまった。利根・筑摩と駆逐艦など五十ノットを超える。四十ノットでも急旋回は転覆しそうで不安だった。すでに運用規則として赤城と加賀は三十五ノットで、他の艦は四十ノットを超える時に舵一杯は非常時でも禁止となっていた。
比叡の主砲威力は四十六センチ砲同等だったのが四十八センチ砲同等と推測されるまで強力になっていた。利根の主砲は推定三十三センチ砲。駆逐艦は二十センチ砲同等と推測された。八九式十二.七センチ高角砲は長十センチの弾道性能を軽く超え爆発威力(危害半径)は二十センチ榴弾同等と推測される。九六式二十五ミリ機銃はシンガポールで鹵獲出来たボフォース四十ミリ機銃同等となっている。
九三式魚雷と九五式魚雷と航空魚雷は一本で四本分の威力と推定された。
航空爆弾は二十五番通常で八十番陸用を超える爆発力となっていた。
航空機も当然強力になっている。潜水艦など水中二十ノットを五時間可能とか深度計が役に立たない深度でも平気とかわけわからない。
補給部隊各艦も速力向上の他、ポンプの送り出し能力など向上している。
各種物資の復活も十の付く日に加え五の付く日にも復活するようになった。
この能力向上で南雲艦隊全艦を利用した補給作戦を行い、二月三月四月五月の四ヶ月で各地に計百万トン近い重油を提供。一万トンの航空揮発油も提供。他にも各種物資の提供を行った。
日本各地の石油火力発電所は息を吹き返し、原油は全て石油コンビナートに回されるようになった。
電力と各種石油製品が安定供給されることになり、各地の産業も復活しつつある。
海軍艦艇も久しぶりに喫水が下がっている。
今回の艦隊レベルアップで一番嬉しいのは清水器の大幅な能力向上で自由に清水が使えるようになった事(十日ごと、新たに五の付く日も増えた、に清水タンクの清水は復活しているが、それでも勝手気ままに使うのは戒められた)と、何故か艦内の環境が寒すぎず暑すぎずとなった事だ。
もはや無敵であろう。誰もがそう思った。
「出航」
南雲艦隊は単冠湾から出撃する。
そして次に「ナグモの亡霊」が現れたのは6月。ミッドウェーだった。
次回更新 11月26日 05:00 予定
やはり「ナグモの亡霊」は6月のミッドウェーに現れないとですね。
ミッドウェーの次はあそこです。




