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「鷲巣亭、クフェルナーゲル男爵と衛兵隊により鎮圧。死傷者は七名です」
「エッゲルト伯爵邸に向かった第一騎士団第五分隊より報告。伯爵の騎士に化けていた魔族を捕捉討伐した模様」
「シュタール男爵邸、第二騎士団第三分隊が制圧。死傷者八名。男爵の姿をしていた魔族も捕殺成功との事です」
王宮大会議室では忙しく使者が出入りし、会議用の大テーブルに広げられた王都の地図の上で駒が忙しく動かされる。王太子をはじめ各大臣がそれらを眺めやりながら、時に意見を交換し改めて指示を命じる。だが明らかに先手を取ったことがわかっているため、緊張はしていても悲壮感はない。
立て続けにいくつかの指示を出した王太子ヒュベルトゥスが、父王のそばにいるツェアフェルト伯爵に笑顔を向けた。
「伯爵のご子息は優秀だな」
「恐れ入ります」
ヴェルナーと違ってインゴは宮廷歴も長く、簡単に表情に出したりはしない。だが見るものが見れば苦笑を隠し切れていないことが明らかであっただろう。
「まったくですな。努力家とは聞いていたがここまでだとは」
反対側から声をあげたのは軍務大臣であるシュンドラー侯爵である。事実、シュンドラーからすると最初にヴェルナーが持ち込んだ高性能の装備がもし無かったらと思うと冷汗が出る思いである。フィノイ防衛戦での騎士団の死傷者が少なかった件といい、現在の王都掃討戦といい、王国騎士や兵士の損害が少ないのは間違いなくあの装備類の賜物であっただろう。魔物暴走の直後に装備の更新を提案したヴェルナーの先見は評価に値する、と言うのがシュンドラーの見解であった。
「それにフィノイの敵に気が付いた件もだが、王都にも敵が侵入していることを看破した点も素晴らしい」
「あまり褒めすぎると調子に乗りますので、本人の耳には届かないようにお願いいたします」
フィノイ防衛戦の功労者、とヴェルナーを称賛していたグリュンディング公爵の発言にインゴが応じる。今度ははっきり苦笑していたのは表情を隠しきれなくなったからだけではない。それとなく公爵と侯爵が自派閥に取り込もうとしている雰囲気を感じ取ったからである。大きく分ければ武断派、文治派と分けられるが、その中にさらに大小さまざまな派閥がある事もまた事実だ。セイファート将爵が軽く肩を竦めた。
「それにしても、卿の子息はどこであのような魔法具の事を知ったのだ?」
「どこで知ったのかは臣も存じませぬ。あれで武技のほか学問も手を抜いていなかったようで」
「有望だの」
機嫌よさそうに国王が口を挟み、インゴが軽く頭を下げる。
ヴェルナーからフィノイで魔将を孤立させるために提供された魔法薬の存在を知らなければ、貴族に化けていたり王城に潜り込んでいる敵を見分けるのにより苦労を強いられていたであろう。公爵からフィノイ防衛戦顛末の第一報が届いた際に、内務関係者に可能な限り迅速に数を揃えるように指示を出したものの、どこに入り込んでいるのかわからない敵に知られる危険性もあったため、充実した数にならなかったのは惜しまれるところではある。
それでも一定量を確保した国の上層部は決断した。まずは排除できる相手だけでも可能な限り排除すると。単純に時間をかけると被害が大きくなる可能性もあったし、凱旋式と閲兵式の名目で城内の騎士や兵士を疑われずに完全武装状態にする口実などそうは作れない。討ち漏らしも出るであろうがそれは順次対応していけばよいのだ。まずは排除できるものを排除する、と言うことで各大臣の意見は一致した。
王城の各所にそれとなく魔除け薬を散布して、ことさらにそこを避けるそぶりをするものを洗い出し、避けたものが接触している相手をさらに尾行追跡する。宮廷内部から出入りする者を中心に怪しい人物を探り当てると、更にその評判を周辺に聞き取り、疑わしい人物と手が延ばされていない人物をより分ける。こうして政務の内部査察部門や国の影を司る隠密調査機関、近衛騎士団や白竜騎士団の斥候部門などが総動員されながらも外部には一切漏れることはなく、魔族の先手を打つことができた。フィノイに向かっていた騎士団の帰還までに担当部門の責任者たちは文字通り寝る間も惜しんで自分たちの役目を果たしたのである。
「あの移動用魔道具の方が問題ですな。まさかあのような物であったとは」
「今後、発掘された際に他国への流出を留めねばなるまい」
「遺跡が残っておれば、ですがな」
思い出したように口を開いたアウデンリート内務大臣とファルケンシュタイン宰相が難しい顔で会話を続ける。
飛行靴に関しては軍部を中心に激震が走った。実のところ、飛行靴がヴァイン王国内で販売されていないのは、かつて王国内で発掘された分も隣国の商人が買い占めていたからである。古代王国の遺跡が多い他の国々では何らかの理由で知られていたのであろう。それぞれの国で機密扱いにされていたことも疑いようはない。
何より、ここ数年ヴァイン王国では新たな古代王国の遺跡は発掘されていないのだ。国内発掘分が全て流失してしまっていたのは痛恨の極みである。
今回、それでも魔法薬を購入する際に飛行靴を使うことができたのは、王都に残っていた傭兵隊のオリヴァー・ゲッケが予備を保持している可能性をフェリと共に商隊に同行していたフレンセンがインゴに意見具申をしたためである。王国としては多額の代金を支払うことになったが、ゲッケが所有していた飛行靴を使い、飛行靴の補充と魔除け薬の購入とが可能になったのだから無駄ではなかったであろう。なお、ゲッケになぜ飛行靴を購入していたのか、と使者が聴いた際の返答は、「あの計画を立てた子爵が、わざわざ購入を指示していたということは何かあると思ったからだ」と言うものであった。
「恐らく、我が国に配属されている外交官らはあれを保持しておるでしょうな」
「フィノイの件でも随分反応が早いと思ったがそれが理由であったか。結果的にはフィノイの方が短期間で済んでよかった」
ラーデマッハー工部大臣とシュンドラーの会話にエクヴォルト外務大臣と王太子が顔を見合わせて目だけで苦笑する。フィノイ防衛戦の最中、他国からの干渉をのらりくらりと躱していた二人の苦労は決して楽なものではなかった。お互いに自分の労力の方が大変だったと思うのは軍務と政務の間での見解の相違と言えるかもしれない。
「いずれ国内の遺跡の再調査なども必要となるであろうが、先の話だな」
「その際はヴェルナー卿にもぜひ参加していただきたいものです」
王太子がちらりとセイファート将爵を見てから口を開き、遺跡管理も業務に入るラーデマッハーが応じる。工部大臣であるラーデマッハーは水道橋建設の一件でヴェルナーの名を意識したのだが、その後の工事現場の巡邏手順書を見て驚いたのである。工事そのものの準備を、手順書のような形で落とし込むことができれば、労働者の管理や資材運搬の手順などが容易になることに気が付かないほどラーデマッハーは鈍くなかった。
また内務大臣であるアウデンリートも国債と言う案や貧民窟の治安維持と逃亡監視態勢として打診された五戸制と言う名の五人組制に驚かされた側である。民衆に民衆を相互監視させるという発想はこの世界ではあまりにも突飛であり、なれ合いが発生するまでの短期間しか有効ではないという条件を付けてきた点も含め、民政家としての手腕を認めていた。
どちらも前世の知識から引っ張り出してきただけのヴェルナーからすれば過大評価だと悲鳴を上げたかもしれない。事実、中途半端な記憶から出した案を実務に落とし込んでいる時点で各大臣やその下の担当者たちは極めて優秀である。
ただ、ヴェルナー自身の評価に関する点は、実は新装備購入の際に王太子に提出した提案書から始まっている。提案書という形で提出されれば、国の上層部なら誰でも目にすることができる。そして貴族家の嫡子とは言え、普通、学生の年齢ではわざわざ提案書を作成して国の上層部に提出するような真似はしないのだ。
ヴェルナー自身は提案するなら当然のことだと思いながら作成した書類なのだが、本当に提案書として提出されれば同年代の中ではどうしても目立つことは避けられない。そして提案に基づき実績を出した事により自然と周囲の目が向けられ、その後の動向はそれとなくにしても繰り返し評価判断されることになる。ヴェルナー自身は目的が先にあったため、行動の結果にまでは頭が回っていなかった。学生としてではなく、前世の会社員としての知識で動いたヴェルナーの認識のずれと言えるかもしれない。
更に誰かが口を開こうとした時、大会議室に小さく、だがはっきりとした振動が響いた。皆が沈黙する。やがてしばらくしてから駆け込んできた騎士が声を上げた。
「申し上げます! 魔術師隊の研究棟で戦闘が勃発! ただの魔族ではありません!」
「落ち着け。そこで戦闘が起きることも想定済みだ。フィルスマイアーに指示を出し騎士団と魔術師隊を動員せよ」
「はっ」
インゴとグリュンディング公爵が話をしているのを横目に見つつ、ヒュベルが冷静に指示を出す。念のため王城中枢に被害が出ないように二重三重に手は打ってある。ヒュベルの頭の中では既に掃討戦終了後の政治問題に思考が移っていた。
古いRPGだとフィールド移動用やワープアイテムって
なぜかスタート地点のお城や近辺で売ってないことがあるんですよねえ…
一番使う人が多そうなところなのに(^^;)




