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立ち話もなんなのでフェリも連れてツェアフェルト隊の陣幕に入る。マックスたちにも来てもらい全員で話を聴くことにした。バルケイはまだ未着か。しょうがない。
ノイラートとシュンツェルがやや厳しい顔をしてるのは貴族である俺を兄貴呼びしてるせいだろうな。まあ後でそのあたりは話をしておく必要があるか。今はフェリに話を聴く方が先だ。
「久しぶりだが何でお前がここにいるんだ?」
「マゼルの兄貴が『きっとヴェルナーならすぐにヴァレリッツに来る』って言ってさ。それでおいらがメッセンジャー任されたんだ」
「あの野郎」
思わず苦笑する。信用されるのか過大評価されてるのか判断に悩む。いろいろ言いたいことはあるがまあフェリに言っても仕方がない。
「んで、マゼルはどこにいるんだ」
「フィノイの大神殿にいるよ。相手の第一波を皆で撃退してからおいらだけ出てきたんだ」
「何っ!?」
異口同音に声を上げたのはマックスとノイラートとオーゲンだが俺は声も出せずに絶句していた。ちょっと待て、なんでマゼルがもうフィノイにいる?
ゲームではフィノイが事実上攻め落とされて、ラウラの目の前に魔軍三将軍の一人がいて危機一髪ってところに主人公が割って入るんだ。それが陥落前のフィノイにマゼルがいる? なぜそうなる。
「詳しく説明してくれ」
「いいよ、えーっとね……」
フェリの話をまとめるとこうなる。マゼルたち一行はグーベルクの街近郊でレベルアップ兼近隣にあるダンジョンの情報を集めていたところ、ヴァレリッツが襲撃された、と言う噂を聞いた。
そこですぐヴァレリッツに向かわなかったのは、ルゲンツの「時間差がある、今から行っても多分手遅れだ」と言う意見をマゼルが悩みながらも受け入れたためらしい。俺もその意見には賛成だがマゼルがよく納得したな。
と思ったらその時マゼルがふと気が付いたようにこんなことを言い出したことから事態が急転する。
「そういえばヴェルナーはフィノイを当面の目標にすればいいとか言っていた」
……いや言ったよ。確かに言ったけど。えー。ひょっとしてそのせいなの?
さらにそこでエリッヒが「フィノイなら行ったことがあります。すぐにでも行けますが」なんて言ったもんだからそのまますぐマゼルたちはフィノイに移動し、敵襲の危険性を伝えて回ったそうだ。
大神殿の連中は半信半疑だったらしいが、ラウラがマゼルの言うことを信じたらしい。そういやゲームと違ってもう顔見知りだったもんなあの二人。
そのラウラが念のためと言うことで自衛態勢を整えるように指示を出したため、神殿衛士の防衛準備が間一髪で間に合ったということになる。
いや確かに修道僧であるエリッヒならフィノイに行ったことがあってもおかしくないけどさ。それだったらゲームでも……ってあああ!
飛行靴か! そういえば飛行靴は星数えの塔の後に行く街から買えるようになるんだった。ゲームだとこの時点では勇者パーティーは誰も持ってないはずなんだ。
そして行ったことがある人間がいれば飛行靴でフィノイに一瞬で移動できる。エリッヒが使うことで結果的に魔軍を追い越して先に大神殿に入ったのか。マジかー。
「んでとりあえず相手の第一波を叩き返して誰かが状況を伝えに行こうってことになったんだよね」
「それでフェリがここにいるってわけか」
何とかそう応じたが状況が急転し過ぎてて頭の中が混乱してくる。確かなことはゲームと大幅に状況が変わってるってことだ。そもそもゲームでは壊滅している騎士団がフィノイに向かってるってだけでも状況変わってるのに。
これどうなるのかまったく想像つかん。
「つまり、フィノイは今のところ無事だということだな」
「うん」
「ヴェルナー様、これは……」
「ああ、オーゲン。済まないが第二騎士団に状況の報告に行ってくれ。フィノイはまだ無事だと」
「はっ、直ちに」
オーゲンが陣幕を飛び出していく。確かにこの情報は重要だがほかに考えることが多すぎて頭ん中がおもちゃ箱ひっくり返したみたいになってる。見送るのも忘れて思わず唸ってるとフェリが妙なことを言い出した。
「それとさ兄貴」
「兄貴はやめろ。何だ?」
「おいらの気のせいかもしれないけどさ、変な奴らがいたんだよ」
「……変?」
フェリの話によると、フィノイには巡礼者やその巡礼者相手の行商人団なんかも避難してきているらしい。その巡礼者の中に奇妙な一団がいたということだ。
「魔物の出没状況が変わってるのに変に軽装でさ。なんかこう、話をしてる時も顔は笑ってるんだけど目が笑ってないって言うか」
斥候のフェリだからこそ怪しさに気が付いたのかもしれない。そしてそいつらはマゼルたちの活躍で敵の第一波が追い返された後、しきりにマゼルたちの事を訊いて回っているように見えたんだそうだ。
「なんて言うかさ。こう、すごい人たちがいるって言う関心からの質問じゃないような気がしたんだよね」
マゼルにも相談したのだがマゼルも判断に悩んでいたらしい。ただルゲンツは警戒しておいた方がよさそうだと言っていたそうだ。むう。直接見ていないから何とも言えんな。
「それでそいつらは何を訊いて回ってたんだ?」
「あれは誰か、とか、どこの出身なのか、とか。あとマゼルの兄貴とお姫様との関係とかも訊いてたと思う」
頭の中で警報が鳴った気がした。まて。俺は何に気が付いた?
ゲームの状況を確認してみよう。ゲームではフィノイはすでに事実上制圧されていてダンジョン扱いだった。そして礼拝堂にいるラウラと三将軍の一人ベリウレスが対峙している状況に主人公が割り込む形になる。
その時にベリウレスは何と言っていた? 確か、抵抗するなら人質がどうとかラウラを脅していたはず。つまり“人質を取るような知恵が回る”事は確実。
同時に、ヴァレリッツでのあの殺戮をするような連中が人質を取るような判断をするか? と言う疑問。ここから想定される最悪の可能性は……
「トロイの木馬か!」
「うわっ!?」
俺が大声を上げたんでフェリが驚いた顔で俺を見る。いやマックスたちも驚いているが。傍から見れば突然謎発言をしたんだから当然か。トロイの木馬なんかこの世界で通じるはずもないものな。いやそれはいい。
先に大神殿に入り込んだそいつらは、おそらく内部で騒動を起こしつつ人質を確保するのが目的だったんだろう。ひょっとしたら大神殿の正門を内側から開けたりしたのかもしれない。
だが大神殿の門が簡単に破れないということを知ったらどうするか。防衛戦力の主力が勇者だと把握したら。その勇者の情報を手に入れたんだとしたら。アーレア村がマゼルの出身地だって事は別に秘密でもなんでもない。
最悪の可能性に気が付いた俺にとってはあらゆる面での優先順位がひっくり返った。
「フェリ、危険なことをやってもらいたいが頼めるか?」
「ヴェルナー様?」
ノイラートの声を無視して陣幕の隅にある棚から青い箱を取り出す。中にポーションのほか商隊で買い出して来た魔道具が入れてある。まだ実験してなかったんでひでえ博打になりそうだ。
中から薬瓶を二本と飛行靴を取り出す。飛行靴も残り二個しかないから残りは一個か。実験や補充する時間はあったのに手配しなかったのは俺のミスだ。
「何だい、それ」
「こいつは魔除け薬って言う代物らしい。一定時間魔物が寄り付かなくなるそうだ」
ゲーム的には寄り付かなくなくなるって言うか戦闘が発生しなくなるって言うか。ノイラートやシュンツェルが驚いた声を上げるがとりあえず無視。
問題なのはこの消費アイテムの効果はフィールドで魔物と遭遇しなくなるというものだが、理由がわからん。魔物がこっちの気配を感じられなくなるのか、加護的な何かで近づくことを躊躇するのか。相手が既に視認しているような状況だと効果がないかもしれない。だが大神殿内部にスパイがいる状況はどう考えてもやばい。そして俺だとどうにもならないというか、俺にはどうしても別にやることがある。
「こいつを振りかけてやるから飛行靴を使ってフィノイに戻ってくれ。もう一個分けてやるからフィノイに到着直後に周囲にばらまけば時間も稼げると思う」
フェリは真顔で俺の言うことを聞いている。マゼルもそうだがお前も人を疑うことを覚えろよ。いやこの状況で嘘を言う気はないが。
これは相当に危険性が高い。フィノイに飛行靴で戻るということは、フィノイの壁の外側に一人で移動するということだ。正門と言うか城門と言うか、とにかく扉が開くまでは魔軍の前に一人孤立することになる。
俺にはそんな危険な状況に飛び込む自信はない。だがフェリはあっさり頷いた。流石は勇者パーティーの一人、肝が据わってやがる。
「それで、戻ったらあの怪しい連中を捕まえておけばいいの?」
「ツェアフェルト家の名前を出して捕縛して牢に叩き込んでくれ。ただし一人でやるな。マゼルたちと一緒にやる事。抵抗したら力づくでいい」
「解った」
「敵の目的はおそらくラウラだ。ラウラの周囲に気を付けるようにマゼルには伝えてくれ」
「そっちも承知。兄貴は?」
「俺は緊急にやることができた」
俺の表情を見てフェリはこれ以上の会話をするのはやめたらしい。魔除け薬を頭から被ると「じゃ。フィノイへ」と短く言って飛行靴を使いその場から消えてしまった。マックスたちが茫然としている。
「ヴェルナー様、これは……」
「説明は後だ。マックス、部隊指揮を任せる。オーゲンを副将にして騎士団の指示に従え」
「ヴェルナー様?」
マックスだけでなくノイラートとシュンツェルまで怪訝な表情を浮かべている。だが説明のしようがない。
敵が魔軍三将軍の一人、ベリウレスであることを知っているのは現時点では俺だけだ。ましてベリウレスが人質を取るような狡猾さを持つことを知る人間などいるはずもない。
もし俺がそのことを知っているとなるとどこで知ったのかとか、ややこしいことになるだろう。この状況やこの先の危惧は説明したくてもできないんだ。
これはひょっとして孤独ってやつなんだろうかとか一瞬だけ考えたがそんなことはどうでもいい。
「ノイラート、シュンツェル。悪いが付き合ってもらうぞ。他に一〇騎選抜しろ。馬は二六頭必要だ。元気な奴から臨時に借り受ける。ポーションの準備も忘れるな」
「は……はっ」
「どうなさるのですか」
シュンツェルの当然の疑問に俺は短く答える。軍規違反になるがそんなこと知ったことか。マゼルがいるならしばらく大神殿は無事だろうからな。
「少数精鋭だけで急ぎアーレア村に向かう。マゼルの家族が危ない」




