表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/249

――52(●)――

日間異世界で、ランキング一位…挙動不審になっています(><)

ブクマ1,400件超え、評価してくださった方も400人超え、総合評価も6,900pt超え…

ブクマの数とかが数日分増えているので本当に驚いています。

応援してくださった方、評価、支持してくださった方、本当にありがとうございます!

 これはいったいなんだ。何が起きている?


 魔導士ベリスは現状が理解できなかった。


 王太子ヒュベルトゥスが素人と評したように、ベリスには軍指揮官の経験がない。それでも問題はないはずであった。基本的に正面と正面からのぶつかり合いが主流である魔族の戦い方では、純粋に力の強い方が勝つ。

 個々の戦闘力でいえば動く死体や骸骨兵は人間の兵士に腕力と耐久力で勝り、持久力では比べ物にならない。そのうえ数で勝っている死霊軍が負ける事などないはずであった。


 それが王国軍騎兵が左右両翼を切り崩すと、そのまま側面を逆走し後方に回り込んでいったあたりからベリスの状況理解力を超え、理解しようとする暇もなく状況が次々と変化していく。

 気が付けば数の多いはずの死霊軍が逆に敵に包囲され、周囲から押し込まれる格好になった結果、ベリスには何をどう指揮をしてよいのかすらわからない。

 指示を得られないままとりあえず近くの生者に襲い掛かろうとした死霊兵は、複数の兵士からの攻撃を避けるスペースもないまま次々と倒されていく。


 「お、おのれ……! ≪炎嵐(フレイムストーム)≫!」


 ベリスは周囲の死霊兵を初めて邪魔だと感じながらも呪文を唱え、正面の王国軍に範囲魔法を打ち込む。魔法が爆発した地点から悲鳴と苦痛のうめき声が漏れた。


 「魔術師発見!」

 「あそこにいるぞ!」

 「弓箭兵前に、撃てっ!」


 ヴェリーザ砦での情報はすでに全軍に伝達されており、範囲魔法に関する危険性は把握できていたため、少なくとも範囲魔法を使われただけで逃げ出すような兵はいない。損害が減らせなかったのは王国軍にとっては痛い問題ではあるが、今この場では魔術師を倒す事が優先である。王国軍前線指揮官たちはそのことを理解していた。

 中央隊のクフェルナーゲル男爵が兵の声を受けて魔術師のいる近辺に多数の矢を放たせる。一本や二本の矢が当たろうとベリスには致命傷にはならないが、だからと言って飛んでくる矢を無視することもできない。

 何より矢が飛んでくることで周囲の動く死体らが倒れると、別の死霊兵がそこに入り込んでは隊列が乱れるため、ベリス自身にとっても動きの邪魔となる。

 もともと指揮をするという能力を持たなかったベリスであるが、飛んでくる矢の音や物理的なダメージもあり、自分の周囲しか把握できなくなるのが避けられなかった。




 一方、左右両翼後方から突入した傭兵と冒険者の一団であるが、その中でも特に目立つ一団の存在はすぐに周囲から注目の的になりつつある。


 「ふっ!」


 マゼルが剣を一閃するだけで動く死体の首が飛ぶ。そのままマゼルはすぐ次の骸骨兵に向かった。その横ではルゲンツがこれも一撃で、巨大な剣を振り下ろし動く死体を両断した。


 「この剣よく切れるな」

 「本当ですね」


 ルゲンツが戦いながら感心したように口を開き、マゼルがその発言に敵を倒しながら応じる。ヴェルナーが借りて行けと言ったのが今ではよくわかるし、むしろよく貸してくれたと感謝半分呆れ半分という所だ。

 少し離れたところではフェリも骸骨兵の頭蓋骨を輪切りにしていた。周囲の大人たちが驚いてその様子に目を見張る。驚いていないのはマゼルらだけだったろう。


 「なるほど、なかなか大したものです」

 「おっちゃんもな」


 フェリにおっちゃんと言われて苦笑いを浮かべたエリッヒだが、反論はせず動く死体を蹴り飛ばしてそのまま動きを止めさせた。

 修道僧としてのエリッヒは十分以上に実力があり、四人の中では唯一ツェアフェルト家から武器を借りてはいないが、決して戦果は劣るものではない。拳と蹴打だけで次々と死霊兵を再び動かぬ死体へと変えていた。


 ヴェルナーがもしここにいればまあこんなものだろうと言ったかもしれない。本来、マゼルらが装備している武器はゲーム中盤あたりで手にいれる装備である。スタート地点や序盤のダンジョンで装備するには過剰ともいえるだろう。

 だがこのような状況で、一振りで一体の敵を必ず倒していくこの一団は否応もなく目立つ存在であった。


 この四人を先鋒として大きく敵が切り崩され、ゲッケの率いる傭兵団が巧みな動きで死霊軍の亀裂を拡大させる。後方から突入した騎士団は集団戦を展開し、みるみるうちに死霊軍の数を減らし損害を増大させていく。挟み撃ちになった格好の死霊兵たちの列が瞬く間に崩壊していった。

 死霊に恐怖と言う概念はないはずであったが、後方の一角が崩れ始めると死霊軍全体が大きく乱れ始める。その直後、マゼルらのいるあたりからは遠くで爆発音がしたと思うと、本隊から無数の矢が敵の一角に集中して降り注ぐ。


 「矢が集まっているあたりに敵の指揮者がいる! 狙え!」

 「おうっ!」

 「手柄を逃がすな!」


 何人かの声に応じて皆が向きを変えるとその先にいた死霊たちが吹き飛ばされるように消滅していく。勢いというものは確かにあり、死霊兵に対して恐怖感を持っていた兵もいたはずだが、もはやそのようなそぶりを示す者はいない。

 怒涛のようにと言う表現がふさわしく、王国軍の兵と言わず傭兵や冒険者と言わず、腕に自信のある者たちが矢の降り注いでいた地点に武器と足を向けた。



 「お……おのれ……なぜこのような……」

 「あれがボスらしいな」

 「みたいだね」


 死霊兵の頑丈さが裏目に出ていたと言える。矢が刺さったまま動き回る死霊兵は目印を付けて動き回っているようなものである。その中心でローブ姿のベリスはあまりにも目立った。

 他の王国軍兵士もベリスの周囲に群がりつつある中、頭一つ抜け出したマゼルとルゲンツが立ちふさがろうとする死霊たちを切り倒しながら、一〇を数えるほどの短い時間にベリスのすぐ近くにまで迫ってくる。


 「なぜだ! なぜこうなった! な……」


 逃げようとしても周囲は彼の死霊兵が集まっており逃げようもない。せめてもの抵抗をしようにも周囲で何が起きているのか正確には把握できず、現状を理解することもできていない。

 ベリスの最後の叫びはマゼルの一閃であっさりと断ち切られた。


 「敵指揮官が死んだぞ!」

 「冒険者が魔導士を打ち取った!」


 「死霊兵など一体たりとも残す必要はない。必ず殲滅せよ」

 「はっ」


 敵魔術師戦死の声を聴いて王太子が躊躇なく攻撃強化を指示し、兵士たちが喊声を上げて殲滅戦に移行する。その後、すべての死霊が動きを止めたころ、戦場は美しい夕焼けに染め上げられた。


 苦戦も危惧されていたヒルデア平原の戦いは王国軍の圧勝で幕を閉じる。勝利を祝い王太子ヒュベルトゥスを称える声が夕日を圧倒するように戦場に響き渡った。




 そのころ、異世界において伝説的包囲戦であるカンナエの戦いを再現させた主原因であるヴェルナーはというと。


 「ああ、どうやら無事に帰還できたか」

 「はい。父君も商隊が運んできた武具に瞠目しておいででした」


 実家に送った使者が王都から持ち帰った、商隊無事帰還の報告を聞いて胸をなでおろしていた。


 使者から怪我人程度は出たが死者はなしとの情報を受け、成功分の報酬が支払われたことを確認する。同時に王都の情報を聞いたヴェルナーは必要な質問に回答を得ると、一旦商隊からの報告書を横に置いて、今度は難民対策の業務に戻り斥候たちの情報を聞きながら今夜に備えた周辺警戒の指示を出していく。

 ヒルデア平原の戦いを知ることもなく、ヴェルナーは自分の仕事に追われていた。商隊の報告書に目をやることができたのは深夜になってからである。

この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…

作品・続きにご興味をお持ちいただけたのでしたら下の★をクリックしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 序盤で中盤の武器は強いですね。 ドラ○エなら破邪の剣くらいかなー。
[一言] 休学明けに授業についていけるかどうか不安になってきた ↑ 心配ない 戦時中は指揮官としてこき使われるだろうし 戦後は功労者としてそのまま役職につくはず 学校行ってる暇なさそう…
[良い点] めちゃくちゃ面白い。 [気になる点] 『その後、すべての死霊が動きを止めたころ、戦場は美しい夕焼けに染め上げられた。』の文末を、『〜染め上げられていた』にした方が自然な気がする。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ