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ちょっとリアルがばたばたしていて文量少なめです、申し訳ありません。
「結論から先に申し上げますと、今回は魔軍も二段構えで来ていると考えております」
「二段構え?」
「はい。敵もこちらが飛行靴を使っている事はそろそろ気が付いているでしょうから」
「なるほどな」
王太子殿下がそういう判断をする人かどうかは別にして、炎上するコルトスから首脳部だけが飛行靴で脱出する可能性は十分にある。だがそうなれば大魚を逸するのは敵の方だ。いい加減向こうも作戦が失敗した時の対策ぐらいは考えてあるだろう。
「もう一つは、魔軍の側もそろそろ本気で腹を立てているのではないかと思うのです」
連中は基本的に人を見下している。にもかかわらず、魔物暴走の時の失敗ぐらいならまだしも、フィノイでの攻防戦後に王都内に潜入していた魔族も壊滅させられたし、風の四天王の王都襲撃前には王都の結界破壊を阻止されて襲撃そのものも失敗した。しかも王都結界の破壊工作員だった魔巫女も失っている。
魔王にしてみれば四天王とかが勇者に負けるだけではなく、勇者のいない所でも負け続きだ。腹を立てていない方がおかしい気がする。
「トライオット王国を滅亡させた段階では魔軍恐るべしという空気があったのですが、その後はうまくいっておりません。敵もそのような空気を払拭したいと考えているようにも思えます」
「そうなると判断が難しいな。人間の戦いでヴァイン王国軍が壊滅すれば人間同士の争いは激化する。魔軍の手によりわが軍が敗れれば魔軍の恐ろしさを人間たちに伝えることができる」
殿下の発言に俺も頷く。魔軍の側にしてみれば両方できればベストなんだろうが、状況がこうなるとそれも難しい。そうなるとどちらを選択するか。
「人間同士の戦いの結果という計画が失敗した時には魔軍側の攻撃が来るという事か」
「恐らくですが、そうなると思われます。人間側が魔軍の恐ろしさを再認識すれば人間の国々が協力で一致する可能性がありますので」
ただその場合、魔王討伐の連合軍を誰が統率できるかという点に関しては疑問があるが。いや目の前の王太子殿下ならやれそうだけどね。他にできそうな人がちょっと思いつかないんだよな。
「なるほど、私が敵でもそうするだろうな。だがそうなるとコルトレツィスの魔女はどう動く」
うーん。具体的な方法に関しては判断が難しいというか、あんまり想像したくないというか。特に変な評判が広がっているからなあ。
「恐らく、どちらであっても王都に戻ろうとするでしょう」
「ほう、なぜだ」
「敵の狙いの一つが第二王女殿下の身柄であるからです」
フィノイの時もそうだったし、敵がラウラを狙っていたのは確かだ。例の決闘裁判の時もラウラだけをマゼルたち勇者パーティーから引き離そうとしていた節がある。まだ敵がラウラを狙っていることを想定しておくべきだ。
単純に考えても勇者パーティーから回復役のラウラがいなくなれば冒険の旅を続けることそのものが困難になるし、魔王と直接戦う際にも著しく不利になる。魔王側がなぜラウラを狙っているのかの理由には不明な部分もあるが、純粋に戦力という観点で見てもラウラが狙われていてもおかしくはない。
仮にこのコルトレツィス領で王太子殿下が行方不明、あるいは王国軍の主力が壊滅と言う事態になれば、ラウラの事だから一度は王都に戻ろうとするだろう。
王都までならマゼルたちが同行するだろうが、王都でならラウラが一人になるような状況を作り出すこともできるはず。その前提を基にここまで発言したら、俺が何を考えていたのかを理解したんだろう、王太子殿下が笑い出した。
「その時には卿の姿に化けるのが一番だな」
「おっしゃる通りです……」
何かしらんがラウラの婚約者候補って事になっているからなあ、俺。俺がラウラだけに極秘で相談したいと言い出してもおかしくない、と相手側は思うだろう。実際はおかしいんだけど、相手がそこまで考えているかというと多分考えていない。
黒幕の魔女がそれをおかしいと考えているのであれば、この内戦でコルトレツィス侯爵側がマゼルとリリーの身柄をよこせとか馬鹿な条件は付けてこないだろう。どうもこの婚約者候補の噂、妙な大物というか外道まで釣れているような気配がある。さすがにそこまでは狙っていたとは思わんけど。
俺がそう考えていたら殿下が笑いを収め、真顔で口を開く。
「つまり卿はアンハイムの時と同様、卿の身柄そのものが囮になる、とこう言いたいわけか」
「御意」
非常に不本意ですがそれが多分正解でございます。というより、コルトレツィスの魔女を斃すにはそれがベストに近い気がする。
あの決闘裁判、敵方の思惑通りに進んでマゼルが被告人になって動けなくなり、ラウラが単独で動かざるをえなくなったとする。その時に誰がラウラの動きを実働部隊に伝えるか、と考えるとこのコルトレツィスの魔女がその役を担っていた可能性が高い。
大神官だったレッペはラウラに対する神託を信じ込んでいた以上、ラウラの身柄を魔軍におさえられるような情報を敵に流すはずはない。となると、コルトレツィスの魔女が魔巫女に伝える予定だったと考える方が自然だ。
つまり、このコルトレツィスの魔女は魔軍側の諜報担当官とでも言うような立場である可能性が高い。それどころかもしかすると四天王や魔将軍を失った魔軍側に残された数少ない幹部の可能性さえある。
ここでこいつを斃せば魔軍側の目と耳を奪う事になり、相手の動きを著しく阻害できる可能性が高い。これ以上内側から引っ掻き回されてもたまらないし、放置しておけば人間側の被害が拡大しかねないしな。そのためなら囮でもなんでもやるしかない。
そう考えての発言だったんだが、王太子殿下は何やら考え込んでいる。王都の女性陣が見たら見惚れそうなシリアス顔だ。ハンサムは得だなあとか阿呆なことを考えていたら殿下が一つ頷いた。
「卿の言いたいことは解った。この一件、私に任せてもらおう」
「は」
いえ、あなたが総大将ですからそう言われたら頷くしかないんですが。何をお考えなんでしょうか。
「フォーグラー伯爵の仕込みもある。計画を変更して使う事にしよう。準備に少々時間が必要だな。王都に飛行靴で手配の為に使者を出しておくとして、卿にはしばらくこのフォアンで補給の整備を任せたい」
「かしこまりました」
こちらを油断させて王国軍と王太子殿下をコルトレツィスの領都コルトスに引きずり込もうとしている状況、敵の方から何か仕掛けてくることはないと思う。しかし、この状況でこっちから何を仕掛けるつもりなのか。
そう思っていたら殿下が作戦案を説明してくださいました。……うん、その可能性は確かに高いわ。けどそれやるんですか。しかもそれ、殿下の方も結構危なくないですか。
「せっかくこのような事態になったのだ。この状況を利用せずにどうする?」
「……御意」
俺の視線を受けて殿下がそう応じてきた。そう言えば殿下はあの魔物暴走でも近衛を率いて自分が退却戦の殿をする気だった人だったな。ここで一石二鳥を狙いに行くか。大胆なことを考えるなあ。
ただその配置は俺自身、命の危険性はあるにしても好都合なのは否定できない。上手くいけば疑問点に答え合わせができるかもしれないし。ひょっとしてそこまで考えて俺にそれをやらせるつもりだろうか。
「今はまだ極秘だ。そのつもりで準備を進めてくれ」
「御意」
作戦には納得して頷いたけど、その作戦案で俺自身の準備を進めつつ補給線の整備もやるって結構な激務のような気がするんですが気のせいですかね?
内心で溜息をつきつつ殿下の前を退いて宿に足を向けた。あー、これから数日、やることの多さを考えると気が滅入る。美味しいお茶とか美味い酒とか飲みたいなあとかちょっと現実逃避してしまった。




