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――219(●)――

評価やブクマでの応援、本当にありがとうございます!

今回も書籍購入報告をいただいています。嬉しいです!

ですが、まだ手に入らないという方はご無理なさいませんようにお願いします。

(最近体壊した身ですので説得力が怪しいですが…)

まだ手に入らない方にも楽しんでいただけるよう更新も頑張りますっ!

 「西方国境とその近辺の村落への補償問題に関しては以上になります」

 「よし。国境警備隊に関してはどうか」

 「一時の混乱はありましたが、安定の方向に向かっているかと思われます」

 「現場からの報告だけを当てにするな。誰か調査に向かわせよ。シャンデール伯爵に調査を命じればよかろう」

 「はっ」


 王や王太子を前にした御前会議の場では、先日の魔軍四天王襲撃問題に関する事後処理が主要議題となっていた。


 魔軍四天王の襲撃に備えての手配はおおよそ成功していたが、やはり問題が皆無というわけにはいかないし、現場での混乱もある。また魔軍の一団が通過した地域の損害は放置してもおけない。

 王都の損害からの復興は既に下部組織にゆだね、国上層部の役目はそれらよりも大きな面での対応へと移っている。


 「兵士たちに復興作業を手伝わせるという件に関してはどうか」

 「いくつかの予想をしていた計画を前倒しして進めております。とは言え、現場での調整に頼る所はあるでしょう」

 「調整した部分を報告書としてあげるように命じよ。貴重な記録となるだろう」


 王太子の命に承知いたしました、と内務大臣アウデンリートと軍務大臣のシュンドラーが頭を下げる。これも元々発案はヴェルナーの屯田兵をイメージした計画の案である。

 何もない所に導入することは抵抗もあっただろうが、魔軍の損害復興という名目であれば兵士たちも協力することに抵抗は少ない。そうして実例と既成事実を積み上げていこうという意図が国の側にないとは言えないだろう。


 「ツェアフェルト伯爵、伯の領からこれらの被害地に豆類を回してもらいたい」

 「御意」


 ヴェルナーの父であるインゴが王の下命に頭を下げる。輸送能力と保存技術の問題もあり、豆類はこのような場合の非常食としても有効である。そのため王室としてツェアフェルトにその面での支援を命じた。

 と同時に、ヴェルナーの無欲さを穴埋めするのにも都合がよい一面はある。その分の報酬も上乗せする形でツェアフェルトへの信任を内外に強調させることができるからだ。それが解っているためインゴも嫌な表情一つ浮かべることなく応じる。


 「被害地域の住人には物資の運搬輸送に協力すれば代金を支払うように命じよ」

 「予算はどこから捻出いたしましょう」

 「そのあたりは教会側に協力を仰ごうか」


 王太子の発言に周囲の貴族たちも笑う。もともと神殿には地方での金融業的な活動をしてる一面がある。民衆への支援という形になれば神殿側も拒否し難い。

 事実、レッペ大神官が王都襲撃に加担していたのは確かなので、国側はせいぜい協力してもらうという形で接することに抵抗はなかった。

 その件はそこまでという事で議題が変わる。


 「王都の外交官たちは」

 「一部の者たちが急病と称して国に戻っているほか、書状を携えているであろう使者も出入りしております」

 「その程度であれば咎める理由もないな」


 本来、王都が襲撃を受けたなどという話は大事件である。だがそれ以上に問題なのは、王都が襲撃され、大きな被害が出たというような流言が流布してしまう事だ。周辺国からすれば侵攻の機会ととらえる国が出てくる可能性もあるからである。

 どこの国にも都合よく情報を受け取る者がいる。間違った情報であってもそれを信じて国境でちょっかいを出すようなことをされてしまうのはヴァイン王国側も避けたい。それゆえ、各国の外交担当者が王都を離れる、あるいは使者を出すことを容認しているのだ。


 「ファルリッツはどう反応するか」

 「調査を進める事に致します」


 王の疑問に何人かが頭を下げる。隣国であるファルリッツとコルトレツィス侯爵家に何らかの関係があることは既に把握されているが、ファルリッツ側がどの程度手を出して来るかは予断を許さない。

 コルトレツィス侯爵家が土地も立場も捨てて一族を上げて亡命する程度なら黙殺してもよいのだが、逆にファルリッツの兵を引き込んでの反乱となれば早急に対応をする必要が生じてくる。

 皮肉なことだが、コルトレツィス侯爵家は理性よりも感情で動いているのでヴァイン王国首脳部から見ても読み切れないところがあるのだ。


 「教会側への手配も続けておくように」

 「承知しております」


 先の一件は教会の立場を著しく悪化させている。そのため、現在王都の損害を受けた地域への復興作業にも積極的な協力を求めているほか、コルトレツィス領における情報収集や逆に情報拡散にも協力を要請していた。


 民衆の支持のない反乱が成功することなどほとんどない。例外があるとすれば鎮圧する側も民衆の支持がない場合ぐらいであろう。

 現在のヴァイン王国は不満がないわけではなくても失政は少なく、コルトレツィス侯爵側が一方的に王国側に不満を募らせているだけである。事実をコルトレツィス領に広めればよいので、教会側としても協力がしやすい事は確かだ。


 無論というか教会側にも思惑はある。教会関係者が魔軍に加担していたという事実は避けられないにしても、大神官が主犯であったとするより主犯はコルトレツィス侯爵の長男だったという方が都合がいいのである。

 既に勇者(マゼル)聖女(ラウラ)に対する裁判の一件があり、その上、大神官が魔軍に加担したなどという事になれば、ヴァイン王国以外での神殿の立場まで危ぶまれる。そのため、悪いのはコルトレツィスだという情報操作を兼ねて積極的に動いているというのが実情であった。

 ヴェルナーがそんな教会側の思考を知る機会があれば、「組織は組織を守ることを最優先にする生き物である」と前世での警句を口にしたかもしれない。


 「そう言えば、いくつかの周辺国ではヴェルナー卿に『魔将殺し』の異名が定着しつつあるそうです」

 「その表現を聞いたときの本人の顔を見てみたいものだ」


 エクヴォルト外務大臣の発言にヒンデルマン第二騎士団長が応じ、何人かから笑い声が上がる。もしヴェルナー本人が聞いても誰の事だか理解できないかもしれないが。

 だがフィノイ大神殿といういわば信仰上の情報集積拠点での働きと、アンハイムでの活躍は近隣国でも耳ざとい者たちの中では既に広まりつつある。今回の襲撃と撃退はその評判を補強するものになるかもしれない。


 「ヴェルナー卿もコルトレツィスへの出兵に参加させる方向に異論はないな」

 「異論はございませんが、手綱には注意するべきかと」


 第一騎士団長のフィルスマイアーがそう応じる。これはヴェルナーのここまでの行動がやや悪い方に影響している一面もあっただろう。

 この世界でのヴェルナーはどちらかといえば前世における近世以降の損害を与える戦い方を行っているが、魔軍相手にはそれが許されても対人戦争でそれを行えば大量殺戮者という評判を受けかねない。

 もしそのような作戦を提案してきた場合には却下する必要もある、と先に断った格好である。王太子(ヒュベル)もそれに軽くうなずいたが、表情を変えることはしなかった。そのまま視線を動かす。


 「ツェアフェルト伯には地位の面でも面倒をかける」

 「臣下の身なれば当然の事でございます」


 王太子のその発言にインゴが顔色ひとつ変えずに頭を下げ、周囲の何人かが苦笑を浮かべる。実のところ、ツェアフェルト伯爵家が伯爵家のまま留め置かれているのは、むしろ外交面を考慮しての事であった。


 大国であるヴァイン王国の侯爵ともなれば他国の公爵級の扱いを受けてもおかしくない。そして“侯爵の嫡子”になら他国であっても王族血縁者による婚約の申し込みなどがあってもおかしくはないのだ。

 皮肉なことだがヴァイン王国内で未婚の王族は第二王女(ラウラ)のみであり、しかも聖女と呼ばれる立場である。ヴァイン王国の王族との婚姻が難しいなら有力貴族と関係を持とうと考える国があるのも自然であっただろう。既にヴェルナーにはそれだけの価値が生じつつある。


 だがひとたびそのような申し込みが来れば外交面からの考慮が生じることも避けられない。そしてこの点では恐らくこの場のほぼ全員が苦笑を浮かべるだろうが、そんな面倒ごとがあればヴェルナーはさっさと地位を降りてしまいかねない危険性があった。

 これは貴族としては失格なのだが、もはやその点に関しては誰も指摘しない。というよりも、ここまでの能力と功績が無視できないうえ、王太子(ヒュベル)やセイファート将爵といった有力者がどこかそれを面白がっている風なので、他の大臣たちもしょうがないと諦めている一面がある。


 そして、“魔王退治”の勇者の妹なら貴族の血縁より評価を高く見積もることもできるが、ただ勇者の妹というだけではそれもできない。国家間の視点で見れば優秀な平民の娘という程度の見方をされてしまうのは避けられなかった。

 結果として、現時点では伯爵家嫡子には貴国の王族など不釣り合いでございます、と地位の低さを理由にして逃げているという方が実情に近かったであろう。一番諦めの境地なのはインゴであったかもしれない。


 「周辺国ではヴェルナー卿に第二王女(ラウラ)殿下が降嫁するのではないかという噂が広まっておりますな」

 「ぜひ広がってもらいたいものだ」


 今後のためにもですな、と何人かが笑う。年齢的にはちょうどよく、伯爵家なら降嫁してもおかしくなく、その嫡子は武勲という意味でも異論はでにくい。本人の意向はともかくである。

 グリュンディング公爵が複雑な表情を浮かべて腕を組んでいるのは貴族としては減点であろうが、公爵が孫娘を可愛がっているのもよく知られているので、この場でのちょっとした笑い話で済む問題であった。


 「そう言えば例の件は進んでおるか」

 「は。デリッツダムが反対しなくなったことは大きいかと」

 「引き続き慎重に進めておくように」


 その後騎士団の損害をどう埋めるかといった話題や王都水路および発見された遺跡の緊急調査など、複数の問題が議題に上る。

 この間、各大臣の補佐役は本来大臣が行う仕事を代行しており、その中には典礼大臣補佐として、当主交代の結果発生した貴族間のバランス見直しに忙殺されていたヴェルナーの姿もあった。

特設ページに第1巻発売記念SSもアップされていましたー

ちょっと雰囲気違うお話ですが(Web版とも設定が少し違っています)

お時間に余裕がある時に読んでいただけると嬉しいです。

https://over-lap.co.jp/narou/824001276/

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― 新着の感想 ―
[一言] ヴェルナー君、無茶振りされてるなりにフォローをされてるなあ ヴェルナー君本人が自覚してる以上に、色んな偉い人たちが彼のために手を回してる
[一言] 実績のない伯爵家ならわかるけど、実績も話題性も抜群の伯爵家なら他国の王侯貴族からの結婚の断り方おかしいでしょ。
[一言] むしろグリュンディング公爵は誰に嫁がせたいのか。 あるいは嫁に行かないでもいい!と思うのか。 今の段階では魔王を倒してないマゼルとヴェルナーならヴェルナーが候補に上がるだろう。 決闘裁判で全…
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