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――215――

しばらく急なお休みをしてしまい、失礼いたしました。

応援、感想等、いつもありがとうございます!

休んでしまった分、更新頑張ります!

 その後、ことさらに話を切り替えて被害者への救済問題や呪いの武器(カースドウェポン)なんかに対する対応等を口にしていた陛下や王太子殿下だったが、そのあたりをぶった切ったのはウーヴェ爺さんだ。


 「それはそれとしてヴェルナー卿。調べ物の件はどうなっておるか」

 「ええと、そうですね。影に追いついて尾の鱗が見えるぐらいにはなって来たでしょうか」


 それはそれとしてで陛下や殿下の話に割り込んでくるこの爺さんの度胸の良さには呆れを通り越して感心してしまう。しかも陛下や殿下でさえ咎めないのがある意味すげえ。

 もっとも重要な話が終わった後であることが大きいのは確かで、大きな問題を話題にしている時はさすがにそんなことはしてこない。何というかこうあれだ、会社の経営方針の方向性だけ決めて後は現場に任せる創業者とかのイメージ。

 いやいちおうウーヴェ爺はいわゆる賢者とかそっちの人のはずなんだけどね。この傍若無人さはどっかそういう人を思い出すのよ。たまに指摘してくる部分が的を射ているだけに無視もできないあたりも含めて。


 ちなみに「影も形もない」という言い回しはこの世界にもあるが、この世界だとその言葉の由来がドラゴンってのが笑えない。ドラゴンに人も町も全部吹き飛ばされて建物の影もドラゴンの姿もない荒野に立った人物の発言がもとになっているとされている。

 なんせこの世界だとドラゴンは本物の災厄クラスで誇張抜きに一匹で町ひとつぐらいなら壊滅させられる。ゲームでも中ボスクラスで登場するだけで恐ろしく強い。インフレ前のゲーム世界だなというのはちょっと皮肉な感想だろうか。


 「ここで話しますか」

 「確かに話が混同しても困るか。陛下、ヴェルナー卿を借りて行きますぞ」

 「うむ。ツェアフェルト、ハルティング兄妹、ご苦労であった。セイファートも下がってよい」


 陛下がそう了承した横で王太子殿下とファルケンシュタイン宰相閣下が微妙に苦笑を隠しきれていない表情で頷いている。実は殿下や宰相閣下もウーヴェ爺さんには結構困らされているんじゃなかろうか。実際このマイペースっぷりは凄いものがあるけど。

 とにかく一礼して陛下と殿下、それに宰相のみを残して退出、別室に移動。こっちにラウラが付いて来たのは今後の事もあるからだろう。セイファート将爵は仕事があるからとここで分かれた。


 「ヴェルナー、さっきの話だけど」

 「ああ……」


 一応使用人が茶を用意して退出するなりマゼルが口を開く。そう心配そうな顔で見るなって。

 間接的にであってもラウラの姉にとどめを刺したのは俺と言えなくもないだけに複雑な気分なのは確かだが、だからと言って相手に殺されてやる理由があったわけでもない。だが、仕方がなかったで済ませる気ももちろんない。

 それに何より、マゼル(おまえ)の手がそういう血で汚れなかったのならむしろ良かったとさえ思う。


 「前も言っただろうが」

 「え?」

 「面倒なのは俺の役目だ」


 本心から言える。俺は俺の問題があるとはいえ、あの歩くマンションサイズの四天王とも正面から少人数でやり合っているマゼルにこれ以上余計な負担や問題を抱え込ませるつもりはない。戦闘以外の場所でなら俺にできることがあるからな。

 そう応じた俺とマゼルに対しラウラが深刻な表情で口を開く。あ、ちょっとまずい。


 「私自身、第二王女と呼ばれていながら今の今まで姉の存在に思いを致さなかった事もあります。なので……」

 「そこまで」


 非礼ではあると思うが強く割り込み、マゼルやリリーが驚いている。本当は王族相手にやっちゃ駄目だぞこういうことは。

 それは後の話として、そこから先を口にさせるのはまずい。言霊(ことだま)じゃないが口にすることで強く自覚してしまうという事も確かにあるからだ。自分にも責任があるなんて言わせるわけにはいかない。


 「魔王は心の傷から相手を染めていくとか。それ以上を口にしてはなりません」


 魔王討伐チームの一人が心に傷を作るのは問題が起きる可能性が高いだろう。むしろ姉殺しとして俺を恨んでくれた方がましなぐらいだが、それができるようなラウラじゃないのもわかってる。マゼルもそうだがラウラも主人公気質だ。

 だが魔王の口から直接説明されると今度はショックの方が大きくなったかもしれない。名前も出てこないんだからラウラと姉の人間関係も俺には分からなかったからだ。仲が悪けりゃさっきみたいな事は言い出さないだろうから結果論的に正解だったようだな。

 肝心の魔王戦で動揺しないためにも、先に事情を知っておいてもらってその上でこれからの旅も続けてもらう必要がある。だからあの場で話したんだし、この点ははっきりしておかなきゃならない。


 「問題だと思うならさっさと魔王を叩き殺して来ていただければと思いますよ。マゼル、お前さんもな」


 冗談めかしてそう続ける。けど本心でもあるんだよな。悪いのは魔王でこっちが罪の意識を感じる必要はないとはっきり心の中で割り切ってもらう必要がある。

 それにこんな面倒くさい(まおう)、このままだとどんな悪足掻きをしてくるかわからない。早く倒して来てくださいお願いしますと言いたいぐらいだ。

 リリーがラウラに何か声をかけようとして口をつぐんでしまったのは、下手に慰めの言葉を口にしたらラウラの心に負担をかけてしまうという事が解ったからだろう。


 ふと思ったのはゲームだと第一王女はあの王都襲撃で死亡したことになっていたんだろうかという事だ。確かにそれなら罪の意識は感じないで済む。それに比べて現実の面倒くさい事。はあ。


 「だから頼むぜ、マゼル」

 「解った」


 ラウラのケアもな、という副音声付きだがそのあたりを理解できないほどマゼルは鈍くない。多分マゼルが一番鈍いのはマゼル本人に対する相手からの好意だ。そのあたりも昔のゲームの主人公気質だよなあ。


 「さて、それでは調査の結果についてじゃが」


 再びウーヴェ爺さんがざっくり。この話が続くとややこしい事になるから話を変えてくれたのはありがたいんだけど、ぶれないね爺さん。いや案外これでも気を使っているのかもしれない。


 「話を聞いた限りでは四天王が傷ついているらしい今、追撃を仕掛けたいところじゃが確認しておかねばならぬこともあるでな」

 「そうですね。とはいってもどう説明していいのか」


 なんせこの世界にはない概念だ。少し考えてから口を開く。


 「大本(おおもと)は同じ物なんだと思います」

 「大本?」

 「この世界を突き詰めていくと全部それでできているといいますか」


 前世で言えば素粒子物理学になるんだろうか。正直俺は物理学とかそのあたり詳しくない。それに、むしろ錬金術の第一質料(プリマ・マテリア)の方が多分この世界では正しいんだろう。だからと言って俺が錬金術に詳しいわけじゃないのがネックだ。


 動物も植物も宇宙もすべてが同じ原資から作られた、というのが錬金術における第一質料(プリマ・マテリア)の概念になる。言い方を変えると第一質料(プリマ・マテリア)がその姿を変え、存在を定義されることでその存在になるとされていた。

 この概念の元でなら粘土を猫の形にして「お前は猫だ」と定義すると「にゃーお」と鳴いて歩き出してくれるわけだ。ホムンクルスなんかの発想の源はこれになっているはず。

 もちろん前世ではこんなことはできなかったわけだが。


 「ものすごく比喩的に説明しますと、まず貯水池に水があります」

 「ふむ」

 「この水を丸い器に入れると水は丸くなりますし、四角い器に入れれば水は四角くなります」


 我ながら荒っぽい説明だと思うがちょっと他に例える方法が見つからんのだよなあ。ともかく頷いてくれているうちに話を進める。


 「この器の素材にも種類があります。木の器であれば当分の間は水はその形を維持できますが、仮に塩で作った器であれば溶けてしまうでしょう」


 “器”がなければ“とける”というのはユリアーネを自称していた相手の発言からのものだ。要するに何らかの器がないとその状態というか存在を維持できない。

 逆に言えば魔物とかでさえ本質的にはこの世界の第一質料(プリマ・マテリア)から成り立っているのだろう。

 魔物の死体を吸収してから魔石を作ったムブリアルの行動は、死体を第一質料(プリマ・マテリア)に戻して新しい魔石に作り替えていたのかもしれない。どうやったらそんな事ができるのやらという疑問はともかく。


 「魔法の炎が長時間続かないのは世界に溶けてしまうからという事か」

 「世界に戻るというべきなのかもしれませんが、だいたいそういう事です」


 恐らく、この世界に本来ある器、人間もそうだし鉱物なんかもそうだろうがともかくそういう器は長持ちする。それに対して呪文という言葉で器を作り第一質料(プリマ・マテリア)を流し込んでその形にした場合は長持ちしない。

 魔石や魔道具という器に入れると魔法を唱えるよりは長持ちする、そういうことになるんじゃないかと思う。

 想像だがこの世界の寿命とかはこの器の限界を意味するのだろう。器についた傷は直せるが耐久時間の限界に達した器は直せない。それがこの世界のルールであり、老衰に回復魔法が効かない理由だ。そう説明するとリリーが首をかしげて口を開いた。


 「魔法で作った水とかは消えませんけど、どうなるんでしょう?」

 「現状では調べようもないんだが、最初はよく似た別の物が作られているんだと思うんだよ」

 「え、でも」

 「どう言えばいいのかな……鉄のナイフを長時間放置しておくと錆びて、それでも放置しておくとボロボロになりやがて崩れてしまう。そういう形でよく似た別の物が実はだんだん変化しているんじゃないかと思うんだ」


 風の魔道具で作られた一〇〇%大気はその時点では一〇〇%大気だが、徐々に『大気とはこうあるべきだ』というこの世界のルールに乗っ取られて変化していく。一方、水に関しては水に似た別の物でも一〇〇%水でも味覚上では不味く感じてもおかしくない。

 土も最初は一〇〇%土なのかもしれないが、徐々に周囲の土壌と一体化しているんじゃなかろうかと思う。土ならこの世界に顕微鏡があれば実験ができたんだろうがこの世界で顕微鏡を見たことがない。

 ともかく、存在することに関する限り、この世界のルールが最優先されているという事になる。あのユリアーネを自称した存在ですらこの世界に溶けてしまったように。


 「呪文という言葉で作られた器に入れられたものは溶けて消える、魔道具で作られた器に入れられたものは吸収され変化していく、大筋ではそういう区分ができるのかもしれない」


 ゲームだと戦闘画面で魔法使ったとしても戦闘が終われば吹雪だろうが隕石だろうが消えてなくなるしな。呪文で存在を変えられた第一質料(プリマ・マテリア)はごく狭い範囲にしか影響が与えられないんだろう。目標物だけとか。


 「塩の器の形が変わって行って、やがて器ごと貯水池に消えてしまうという事になるのかもしれません」

 「なるほど。疑問点もあるが言いたいことは解らなくもない」


 ウーヴェ爺さんが考えながら頷いている。


 「つまり卿はこういいたいわけじゃな。古代王国時代には魔王由来の原魔力がなかったのは、魔王が原魔力そのものを直接操っているのではないかと」

 「そうなりますかね」


 さらっと原魔力の単語を持ち出さんで欲しい。こっちは今まで使わないように努力していたのに。そこまで考えが回っていないのか、それとも隠す気がなくなって来たんだろうか。


 ともかく、俺の頭の中では原魔力イコール第一質料(プリマ・マテリア)で、それを短時間だが強力に使うのが魔法、比較的長時間、かつほどほどのパワーで使うのが魔道具。そしてそれは呪文詠唱とか魔法陣とかでコントロールできていた代物なんじゃないだろうかというのが現状の仮説になる。

 だが同時に、魔法陣やら魔法詠唱はこの世界の基本ルールではなかった。だからそれらは最終的にこの世界のルールに飲み込まれてしまう。アップデートされた部分というかアプリの部分なのかもしれないが、基本のOSを書き換えられるわけじゃないという感じか。


 現状、唯一の打開策は変化したそれに外部の原魔力というか第一質料(プリマ・マテリア)を吸収させ維持し続けること。そう考えると魔王は恐らく存在している限り魔王由来の原魔力を作り出し、まき散らし続けているのだろう。まるで公害物質を垂れ流す工場だな。

 経験値(EXP)を吸収すると強くなるというのは、原魔力が筋肉とかを作るのにも役に立っているからなんだろう。実際は原魔力を吸収しているようなものなのかもしれない。そしてその原魔力に公害物質が紛れ込んでいるんで徐々に体内にそれが蓄積されていく、というのが現時点での想像だ。細かい点に説明がつけられていない部分があるが、大筋では間違っていない気がする。


 実のところ、これはリリーが見つけてくれた「神が分裂してそれぞれの担当になった」という神話の情報がなければこの発想には至らなかった。あの神話は元々が全部同じ何かだという事を表現していたんじゃないだろうかと思う。

 しかしこの想像が正しいとすると古代王国時代には魔法で原子物理学が行われていたのかもしれない。そう考えると魔法もすげえな。そういった資料とかごっそり失われているのがもったいない。


 「いろいろ確認したいところだが」

 「ウーヴェ、さすがにそろそろ」

 「仕方がないのぉ」


 マゼルにそう言われてしぶしぶ立ち上がったが、心底から言ってやがるよこの爺さん。謎解きが終わるまで王城に居座るんじゃないかと一瞬本気で心配したぞ。


 「正直な所、これ以上は研究職の人間に任せてほしいんですが」

 「お主はやる気にならんのか」

 「無理です」


 断言しておく。魔法陣の違いとか全然分からんし。多分、リリーの方が魔法陣の種類が違うとかに気が付くぞ。


 「研究者をやるぐらいなら普通に貴族やる方が多分ましです。騎士と言えるかどうかは難しいですが」


 戦闘力という意味ではなあ。なにせマゼルたちを見ていると足元にも及ばんのじゃないかと思う。そう思ったがウーヴェ爺さんに軽く睨まれた。


 「愚かなことを言うでない」

 「愚かですかね」

 「愚かじゃな」


 身も蓋もない言い方にマゼルやラウラも苦笑してる。というか俺も苦笑したい。


 「お主は魔軍の幹部を斃したわけではないが、お主のいる戦場で勇者(マゼル)と戦いたくないと相手に思わせ、結果撤退にまで追い込んでおる。斃してはおらぬが勝ったことは間違いない。そんなこと、他の国で何人の人間ができると思う」


 そう言われてしまうと困る。確かに基準はマゼルになっているけどさ。


 「己の力を理解して工夫できる一人の存在は百人の騎士を超えることもある。お主は騎士ではないかもしれぬが騎士の上に立てるのじゃ。その価値を見直しておくがいい」


 あれひょっとして俺ってばなんか説教されてる?

 と思ったらなぜかラウラまで頷いている。ひょっとしてなんかあるんだろうか。


 「妙な謙遜や勘違いで目の前の機会を失うでないぞ」

 「わ、わかりました」


 なんかものすごく嫌な予感がするのは何でしょうねえ。

明日発売の書籍版ですが、色々な書店様に自分の作品が並んでいる写真がアップされている……

なんかすごい緊張してきました……(汗)


コロナでなく風邪だったようですが、今年の風邪はちょっと性質が悪いです。

久々の39度越え発熱は結構きました(汗)。

皆様もお気をつけて。

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― 新着の感想 ―
漫画から来たのですが、原作もすごい面白いです。小説も明屋あたりで購入しようと思います。(Amazonならすぐにポチッとできますが、本屋が潰れるのは嫌なので) 最新話がしばらく更新されていないらしいのが…
こういう時は「ぜんぶ魔王が悪い!」って声に出すのが良いですよ。 魔王なんかのせいで心に傷なんか負ってやるかよ!と叫べば、それこそ言霊効果で心を守れそうです。
[一言] 研究者としてどころか、騎士としての自分まで卑下するようなことを言ったら、そりゃあ「馬鹿なことを言うな」って反応されるよ そこまでいくと謙遜じゃなくて自己の過小評価だからね
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