表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

202/249

――198――

ブクマ、評価や感想などで応援、いつもありがとうございます! 元気を頂けています!

更新も頑張りますよ!

 思い出して俺がしまおうとしたさっきの本の最初の方を見てみると確かに美の神とか書いてある。しょせん伝説だろうと読み飛ばしてた。どういう事だ。

 少なくとも俺の記憶ではこの世界は一神教だ。この記憶にどこまで頼れるかは別にして、ゲームでも同じで、どの神殿でも同じシンボルの一神教だった。となると、そもそも論になるがなぜ一神教なのか、と言う点から考え直す必要があるのだろうか。


 前世の知識を基準にすると、多神教というのは自然信仰から始まる。自然に対する畏怖や憧憬を神という人の力の及ばないものに例えているわけだ。昼があって夜があるんだから昼の神と夜の神が想像されるのはむしろ自然だろう。

 一方の一神教だが、大体創始者がいる。多神教は自然から生まれ、一神教は教祖から生まれると言われるように、教祖とか開祖とか表現というか呼び名はいろいろだが、誰かが最初に神は唯一だと言い出してそれが広まることになる。

 この場合、神という概念が先に存在している必要があるので、文明史的には自然信仰から多神教の神の概念が生まれ、そこから一神教が発生するのが基本パターンだ。


 とは言えこの世界でもそれが同じだとは限らない。なにせ神の奇跡というか、魔法が実際にあるんだから、神様が直接ご降臨あそばして人に力を授けるという事があってもおかしなことじゃない。そこはもうファンタジーだねで割り切るしかないところだ。

 むしろそういう世界だからこそ、多神教をすっ飛ばしていきなり一神教が発生していると考えていて、そこに疑問を感じていなかった。


 にもかかわらず、多神教の思想があった。これはどういう……ふと棚を見やり、あることに気が付いた。もしこの棚がゼルムンベックと言う国に関係した書物を収めている棚だとしたら、その辺の回答もこの棚のどこかにあるのか知れない。

 魔法の記録がないゼルムンベックと、同じ棚に収められていた書物にある多神教の存在を示す神話。前世でギリシャ・ローマの多神教がキリスト教に駆逐されたようなことがこの世界でもあったのだろうか。前世では権力者が統治に便利だからというのが大きな理由の一つだったが、この世界ではそれが神が魔法を教えた影響だとしたら。


 「あの……ヴェルナー様?」

 「ああ、ごめん」


 黙って考え込んでいたら不安がらせてしまった。とりあえずこのことは言っておく必要がありそうだ。


 「リリー、その本を読むのはいいけど、内容は外で口にしないでくれ」

 「え、あ、はい」

 「頼んだよ」

 「はい」


 断言してくれたんで後は信じるしかない。書庫の存在そのものもほとんどの人には秘密だが、一神教世界で多神教思想はそれとは別に危険な香りがする。異端審問なんてのはこの世界にないと思ったが、絶対にないと言い切る自信もない。

 決闘裁判自体が二〇年ぶりぐらいに開かれたんだから、異端審問だってそのぐらいの期間が空いていれば俺だって知らない可能性も十分にある。今度調べておこう。


 とりあえず異端審問に関する心配は一旦措く。今はこのゼルムンベック関係の資料と多神教の情報とが繋がるかどうかだ。単に別々の情報が偶然この棚に集まっていただけという可能性もある。整理されていない書庫ってのは本当に面倒で厄介だな。


 「しばらくはこの書棚を中心に調べることになりそうだなあ」

 「あの、ヴェルナー様。それでしたら何冊か持って行って座って読まれた方が」

 「そうだね。ついでに一休みしようか」

 「はいっ」


 休憩も兼ねてさっきの机と椅子が置いてある所に移動。続刊らしい本も持ってきたが、結局さっきの本も持って戻って来た。いっそ家まで持ち帰りたいなあ。


 さすがに地下の書棚で弁当という訳にはいかないが、半日何も口に入れないと今度はカロリーやらなんやらが気になってくる。この世界にまだカロリーって概念はないから、気分転換しないと集中力が落ちるとかいろいろ理屈はつけて、軽くつまめるものは用意した。本が貴重だから汚さないように気をつけつつ、この程度の悪い事には目を瞑ってもらおう。


 という訳でおやつに焼いた木の実をつまみながらリリーとちょっとした世間話をする。この実が成るホルーアルとか言う木は比較的あちこちの村で育てられている、成長しても前世で言えば三メートル程度の高さにしかならない低木だ。この世界限定の植物で、実の味は栗とカシューナッツを足して二で割ったような、ちょっと説明の難しい味がする。わずかな渋みが逆に癖になるんだよなこれ。

 実の貯蔵性が高く、木そのものの高さも低いこともあり、子供がおやつ代わりにこの木の実を集めることが多い。親に言われて集めても、少し自室に隠しておいてこっそり食べるのはお約束のような感じだ。マゼルとリリーもアーレア村ではよく集めていたらしい。


 「子供の頃はどちらが多く集められるかって、よく競争していました」

 「意外な一面」


 木登りしている子供のマゼルやリリーとか、想像したらほっこりしてしまう。ふと思いついてマゼルの奴はわざと負けていたんじゃないかという気がする、と言ったら苦笑しながら頷かれた。妹に勝たせてあげているあたり何というかマゼルらしいな。

 ちなみにマゼルの実家である宿では酒のつまみとして焼いた実に塩を振って出していたそうだ。想像したらワインより日本酒が欲しくなりそう。


 「ヴェルナー様の子供の頃ってどのような感じだったのですか?」

 「俺? そうだなあ」


 基本的には家庭教師の授業が午前中にあって、午後は運動や訓練に当てるものだが、そこそこに遊ぶ時間もある。

 金属製の鏃がない弓矢やブランコあたりが普通だが、騎士たちがやる馬のレースを見物したり、楽器の練習をしたり、この世界のチェスのようなヴァレオやその変形ゲームなんかもよくやっていた記憶があるな。


 「変形ゲーム?」

 「ヴァレオは駒ごとに動きが決まっているんだけど」


 そのあたりは将棋やチェスと同じで、取った駒が使えないのはチェス同様。ふと思ったが将棋のように取った駒を使えるゲームってこの世界でも結構人気が出るんじゃなかろうか。今度考えてみよう。

 それはそれとして。


 「八面のサイコロを使って駒を動かすやり方もあるんだ」


 初期配置に変化はないのだが、動かせる駒がランダムで決められる。このルールだとチェックメイトはなく、王を直接取った方が勝ち。前世のチェスと駒数が違うので八面サイコロが必要になる。

 一手ごとサイコロを振り、サイコロの目の数によってどの駒を動かせるかが決定する。1が(ポーン)、2が騎士(ナイト)、3だと女騎士(レディナイト)、4が魔術師(マジシャン)で5が僧正(ビショップ)、6が女王(クイーン)で、7が(キング)。8は振り直しだが二回連続8だと一手パスになり相手の手順になる。駒の動きとかは省略しておこう。

 動かしたい駒を指定するサイコロの目が出ないと動かせないんで、2が出れば王を直接狙えるのに1と3しか出ないとか、そういうややこしいことが起きる。相手の駒を削りながら運にも頼らなきゃいけないという結構面倒なゲームだ。


 「細かい点は他にもあるけどね。今度やってみる?」

 「はい、やってみたいです」


 ゲームのルールって口で説明するの難しいからやってみるのが一番早いか。そう思いながらワインを一口含む。


 ここに持ち込んだ水筒は哭鹿(クライディアー)と呼ばれる、背中にも角というか棘というか、ともかく尖ったものが生えている魔物から作られている。

 鹿が鳴くのは普通だが、こいつは前世の非常ベルが可愛く思えるような大音量で“轟音を響かせる”という方が近い。その音で襲撃者をひるませている間に逃げるなり反撃なりをしてくる。

 轟音を出すための空気袋がやたら丈夫なうえ、中に入れた液体に妙な味や臭いが付かないんで水筒に使われる。肉も美味なんだが、なんせそういう魔物だから狩るのは大変で、肉同様にこの袋も高級品だ。このあたりは貴族ですからと言うしかない。


 「そう言えばその本には他にどんなことが書いてあった?」

 「ええと、このシリーズの一巻には創世神話、と言うのでしょうか? 世界の成り立ちとかから書いてありました」

 「へえ……どんな話?」


 俺は教会で説教される神様のありがたいお話とかにはあまり興味はないんだが、一神教のはずのこの世界で多神教の話というのは多少気になる。

 それに、知ったことを誰かに話したくなるのが人間だ。口外しないようにと言ってしまったので、他の人には話すこともできないからストレスもたまるだろう。ここは聞き役に徹しよう。


 「まず最初に一番偉い神様が、たくさんの世界を作ったんだそうです」

 「ふむふむ」


 言い回しがちょっと子供っぽくなるのはきちんとした勉強をしている最中だから仕方がないか。絵本を読み上げてもらっているみたいになってるけど気にしない。

 それにしても複数の世界ねえ。やっぱりそこには魔界とかの概念があったり、もしかしたら前世の世界もどこかにあったりするのだろうか。そんな妄想をしてしまう。


 「それで、その一番偉い神様は、たくさん作った世界をそれぞれ自分の子供の神様に預けることにしたそうです。それぞれの世界を一人ずつ、子供に預けて任せることにしたのだとか」


 おい神、作るだけ作って投げだすなよ。


 「当たりの世界とかハズレの世界とかありそうだな」

 「それはないと思いますけど」


 冗談めかして口にしたらリリーが笑い出した。世界ガチャとか嫌すぎるなとか馬鹿なことを考えているうちに話が再開する。


 「でも、それぞれ違う世界らしいですよ。何が違うのかとかは書いてありませんでしたけど、最初の神様はいろいろな世界を作られたのだとか」


 なんか実験でもしてたんですかねその神様。そのあげく子供に丸投げしたと考えると手抜き感がすごいな。いや、案外スローライフを満喫中の神様なのかもしれない。そう思ったら急に羨ましくなってきた。


 「いろいろな世界か。この世界もそうやって作られた一つという事なんだろうなあ」

 「そうみたいですね」


 確かに前世と比べると魔法があるだけで違う世界だ、としか言えないところはある。そういう意味ではいろいろな世界があるという事を頭で理解することはできるな。ん? あれ、なんか引っかかったぞ。

 というかこれは意外と重要な情報が一部に隠れていたりしないだろうか。前世の記憶で言えば神話なんか作り話の方が多いが、この世界は神が実在しているんだ。ただの神話じゃないかもしれない。


 「それぞれの世界はお互いに全く関係がない事になって、この世界を預かった神様は、自分の分身をたくさん作られて、その分身にご自分のお力をそれぞれに分けられたのだとか」

 「分身かあ。みんな同じ顔だったら怖いな」

 「それは確かに怖いですね」


 くすくすリリーが笑っている。しかしちょっと珍しいな。子供に担当を割り振るとか分け与えるとかはなくもないが、自分を分裂して力も分けるというのは前世でもあんまり聞いた記憶がない。公平、と言えば公平になるんだろうか。

 あれ、この場合一神教になるのか多神教になるのか、どっちなんだろう。分身を別の神と考えるか同じ神と考えるか、受け取り方でどっちともとれる。ややこしいことになりそうだからとりあえずリリーには黙っていてもらった方がいいのは間違いないか。


 「この世界の神様が力を分ける、そこからこの世界が始まった、と言う事になっていました。その後はそれぞれの神様がどうやって人にふれあってきたのかという話になっています」

 「なるほどね。興味深いな」


 とはいえそれが真実なのかどうかという点はまた別だが。幻想世界(ファンタジー)だから神から直接事情を聴いたとしても、その書いた人間が間違えて書き残した可能性とかもあるんだしな。

 だが奇妙にいくつか引っかかる。引っかかるんだが何が引っかかったのか俺の中でもはっきりしない。情報が足りないんだろうと思う。ひとまず記憶しておこう。

ヴァレオの変形ルールは半分ぐらいチャトラジというゲームのルールを利用して考えてあります。

異世界でもこういうゲームはあっていいかなーとか。

リアル中世だと男の子も人形遊びをしていたらしい(礼儀作法ごっこみたいな感じでしょうか)のですが、そこまで説明を書くと余談の方が長くなりすぎるのでカットしました。

ヴェルナーが人形遊びってイメージできなかったというのもあります(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ガンプラとか特撮ヒーローって男の子の人形遊びだと思うけど、ヴェルナーが人形遊びってイメージできなかったってのも不思議。 実はヴェルナーの前世ってなろう読者のいる日本とは違う世界?
[一言] マンガ、孔雀王によると、全ての神は大日如来の影=分身になるらしい。
[気になる点] >創世神話 神が複数の世界を作りそれぞれに子供を配して任せた、か。 神がゲームメーカーで世界がそれぞれゲームタイトル、神の子供がそれぞれのゲームをつかさどるゲームマスターとか。 それぞ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ