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――197――

感想で教えていただいて気が付きました、200話超えていました。

ここまでお読みいただき、また応援してくださいまして、本当にありがとうございます!

これからも頑張ります!

 翌日から数日の間は地下書庫での調査作業。先日の実験と仮説を補強しそうな情報や古代王国関連の情報を探しているが、今の所進展はない。

 というか、ここまで情報が少ないのはやはり何らかの隠蔽工作があったんじゃないだろうかという疑いを隠し切れないレベルだ。


 地上での方はいろいろ進んではいる。ケンペル司祭の死因は水死だったらしい。大貯水池は飲用水を溜めておくための施設ではないが、死体が浮いていたとなるとやはり調査しないわけにもいかないので全部水を抜いて底を調べることになったそうだ。水不足だってのに余計なことをさせられているなあ。

 他殺か自殺かは現時点では一応不明との事。というのも、その前日あたりからやたらと自分の行動を後悔するような発言を繰り返していたそうだ。多分だが、マゼルの裁判を利用しようとしたことだろうと思う。あれが外に漏れた事で神殿そのものが責められるきっかけになったからな。

 だが、そう聞くと何とも言えない。黒幕に処分されたという線も捨てきれないが、事実、自ら命を絶ったという可能性もあるからだ。どっちにしても死人に口なしなのは確かだが、これもまた神殿の評判に関わるんで例の終末思想集団がネタにしそうな気はする。


 先日マゼルと会った日の翌日には俺に対する訴えというか陰口もあった。俺が町中で傷害事件を起こしたらしいと。噂じゃなくて事実、でもないか。むしろ殺人事件だなと俺の方が思わず苦笑してしまう。

 とは言えその件に関してはその日のうちに報告を上げてあったのと、翌日には相手方が持っていた武器も提出済み。また、マゼル側もラウラが自分の祖父でもあるグリュンディング公爵を経由して自分たちが王都に戻ってきたことも連絡してあったらしく、国の側は聞き流したとの事。その程度ならむしろ泳がせておく方が正解だろうから俺も特にいう事はない。


 コルトレツィス侯爵の長男は依然として行方不明、という事になっている。事実かどうかはわからん。犯罪捜査は俺の担当じゃないし、そういう捜査は前世でもこの世界でも外に漏れないようにするものだからしょうがない。

 何より俺の方も手を広げ過ぎていた自覚を持ったんで、ひとまずは書庫の調査に集中。とは言え細かい字をずっと見ていると目が疲れるわー。この世界、ガラスが高価でレンズとかはないから、目が悪くならないように気をつけたいんだけど。


 「あの、ヴェルナー様。この本なんですけど」

 「ん」


 ぱらぱらと魔法関連の本を流し読みしていたところで、新しくリリーが持ってきたのは結構分厚い本だ。全集みたいな感じだな。なんだか説明に困っているようだが。


 「これ、地図だと思うんですけど、違うといいますか」

 「どれどれ」


 なんのこっちゃ。図法が違ってるのかなとか思いながらリリーの開いたページを見て……なんだこれ。そこに描かれている図の“半分”は俺も見覚えがある。リリーの困惑の意味がよく分かった。


 「ここがフィノイか?」

 「だと思うのですが……」


 そう、俺の知っている大陸地図はこの図の“下側”でしかない。多分だが、この大陸のほぼ中央にあるのがフィノイ神殿のある山だろう。そしてその北側、俺の知識では海になっている部分にも大地が広がっている。面積で言えばトライオットとデリッツダム両国を合わせたよりも広そうな感じだ。

 もう一度言う。なんだこれ。

 書名を確認する。ゼルムンベック興国記……ゼルムンベック? そんな名前の国は知らないぞ、ってちょっと待て。背筋に寒気が走った。


 「古代王国は知ってるよね」

 「え? は、はい。昔、魔王に滅ぼされたっていう、凄い技術があった国ですよね」

 「その国の名前、知ってる?」

 「ええと、すみません、知りません」


 思わずリリーに聞いてしまったが、そうだろうなと思う。俺も知らない。家庭教師からも学園でも習った記憶はない。それどころか今まで一度も聞いた記憶がない。今までただ『古代王国』で済ませていた事に初めて気が付いた。

 その国の名前を知ろうとしなかったのはウーヴェ爺さんの言う原魔力の悪影響なのだろうか。だが国名に興味を持たなかった事は偶然なのか。原魔力の悪影響が魔王由来だとすると、古代王国について調べられると困る何かがあるのかもしれない。

 もしそうだとすれば、今まで話題に上ったことがないこのゼルムンベックって名前の国が古代王国そのものか、あるいはその前身あたりの国である可能性は高いだろう。今の段階では古代王国だと断定もできないんで、仮に古代王国前史とでもしておこうか。


 「これ、どこにあった?」

 「こちらの奥の棚です」


 リリー謹製の書庫図で指さしたあたりは、別に隠してあるわけでもないが、入り口からだと奥まっていて影になるような棚だ。しらみつぶしに探すことでもなきゃまず見ない場所だといってもいい。この書庫の中でも廃棄処分にはできないがあまり目にしてほしくない本ではあるようだ。


 「リリー、今日はもう自由に本を読んでいていいよ。俺はこの本を読むことにする」

 「解りました。こちらの魔法に関する本は片付けておきますね」

 「頼む」


 うわの空で返答しながら本を最初から開く。最初の方はよくある建国神話だ。美の神の寵愛を受けたカリスマ性のある初代国王が彼を慕う者たちと国を作ったとか、周辺の国、と書いてあるが多分集落レベルだろうが、ともかくそれらと戦いながら領土を広げていったとかだな。その辺は飛ばして読む。

 何世代もの間、内乱があったり周辺国との戦争があったりと、そのあたりはどこの世界でも変わらんなあと思いながら読み進めていくと、全土の統一直前には文字通りの意味で南北朝状態になった事が解る。ちょうどフィノイ辺りから南北で国が並立していたようだ。

 はてこんなところに国境になるような、地図に記されるようなでかい川はあっただろうか。俺の記憶には全くないんだが。疑問は疑問としてとりあえず先に進む。


 そしてゼルムンベックという国は大陸北側にあり、その視点で書いてあるこの本では、南朝側ヴァルバッハの王は偽王扱い。残忍で好色な悪王として書かれているがそのあたりは話半分でいいだろう。とりあえず人間の国であり魔王と書かれていないのは確かだ。

 という事は、このゼルムンベックという国がもともとあった地域は今現在、大部分が海の中という事になる。これって遺跡探索(トレジャーハンター)系の冒険者が大騒ぎするんじゃないか。海中探索の手段があればだけど。

 そして、俺の知る現在の大陸は南朝方ヴァルバッハの領土であったという事だ。もちろん細かい所は南朝側の領土だけが現存しているわけではないと思うが、これにはどういう意味があるのだろう。


 ひとまずその点も措いておく。ここまで読み込んでいて大きく気になったのは魔法に関する記述がない事だ。

 もし魔法が発明、発明と言う表現でいいのかどうかよくわからんが、とにかく魔法と言う技術を人間が手に入れたのであれば、それは発明者の名前も含めて特記される内容になるはずだ。この本にはそれがない。

 という事は、この世界の人類は最初から魔法が使えたので特記することもなかったのか、それともこの古代王国以前と思われる統一過程の時代には魔法はなかったのかのどちらかだ。このあたり、やはり魔法とは何ぞやという疑問につながるな。


 もう一つは災害のような記述がちらほら見えることだ。だが記述ばかりで、規模がよくわからないし、理由についても詳しく書かれてはいない。

 これはよくある事なんだが、王朝統一までの記録には戦争の記録は書かれるが、災害記録はよほど規模が大きくないと書かれないものだ。戦争の記述だけでページが埋まってしまうので余計なことは記せない、というと露骨だろうか。

 ただ、極端にいえば戦火のせいで不作や飢饉になる事だってあるだろうから、これが自然災害なのかどうか。この時代についてもっと詳しく書いてある本があれば解るかもしれないんだが。あるいはこの時代の貴族の日記とかないかなあ。


 後、気になるのはこの“フィノイ城塞”という表記だ。この頃、フィノイは城塞だったのか。だとすると大神殿と呼ばれる事になった理由があるはずだ。そのあたりをもう少し調べておく必要がありそうだが、この本はここまでか。

 これを読むとは言ったが、もっと欲しい情報はこの本にはなさそうだ。二巻以降があるのかな。


 顔を上げると机の上の本がきれいになくなっていてリリーもいなかった。集中しているうちに全部片づけてくれたらしい。とりあえずこの本の続きを探しに行くことにして奥の棚の方に向かう。このあたりは照明が届きにくいせいか全体として暗いな。

 目的の棚の所にリリーもいた、のはいいんだが。


 「リリー」

 「あ、はいっ。何かありましたか」

 「いや、えーと、この本、あの上の方のスペースだよな。脚立いいか」


 うん、脚立の上に座って本を読むのは止めようね。この辺暗いし危ないから。

 リリーが本を持ったまま、すみませんと赤くなって降りて来る。ドジっ子ではないのでラッキースケベはおきませんでした。いやそれはどうでもいい。


 「何を読んでたんだ?」

 「ええと、綺麗な絵で御伽噺が書かれた本です。村の神官様から伺ったことのないお話ばっかりで」

 「へえ」


 どっちかというと絵本じゃないのかそれ、と思ったがそもそも絵本なんてものも村にはないのが普通だ。村の神官からって言い方をしたという事は宗教関連の本だろうか。そういえば宗教系の本も探してもらっていたな。

 こういうとなんだが、村に配属されているような神官とかは玉石混交だろうから、通り一遍の話しかしていなくても不思議ではない。そのあたりは前世でもそうだが、同じ教科書でも教える方の力量にどうしても影響されてしまう。

 それにしても興味がなかったせいで宗教系は我ながら記憶があやふやだ。神殿での話ってどんなありがたいお話だったっけかねえ。脚立を移動させながら話の継ぎ穂として口を開く。


 「どんなことが書いてあった?」

 「今読んでいたところは、昔、花の神様がいた頃っていうお話で、薬草を狩人に教えている所で……」

 「え、ちょっと待った。花の神様?」

 「はい」


 そんな神様、今まで聞いたことがない。というかそもそもこの世界、一神教のはずなんだけど。

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― 新着の感想 ―
死人に口なし。魔法がある世界なら、死人に口寄せ・降霊魔法とかないんだろうか。 無いんだろうなー(´・ω・`)。
[一言] 『殺害か自殺』の部分ですが、『他殺か自殺』或いは『事件か事故』が良いと思われます。
[一言] 大陸の北側がごっそりなくなってるのか 魔法的な何かで沈んだというより、魔法的もしくは自然的な地殻変動でこいつが離れて魔大陸だっけ?になったっぽい気がするな
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