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ちょっと体調を崩してしまっておりました、申し訳ありません。
短めですが更新再開しますー
俺はSFは詳しくないが、異世界がこの世界と地球以外に存在していないと考えるのもおかしな話だ。この世界とは別に魔王のいた第三の世界があり、そこからの転生者が魔王になってしまったという仮説は可能性の一つとして否定できない。
そして魔王が俺とは別の世界から来た転生者だったんじゃないか、という仮説には軽い恐怖を感じる。異質な技術を持ち込みすぎるとそれが暴走の方向に向かうんじゃないかという危惧に直結しているからだ。
「あの、ヴェルナー様」
「あ、ああ。すまん」
心配そうなリリーの声に意識を引き戻す。心配させるわけもいかない。大きく息を吐いて思考をリセット。
「悪かった。思考がちょっと悪い想像に偏り過ぎた」
「悪い想像?」
「あー」
どこまで口にするべきか、という事を一瞬考えたが、さっきあそこまで謎単語を乱発してしまったんだから今更か。それでも少し考えたのは解りやすく説明するのはどう表現すればいいか悩んだからだ。
「魔王とは何か、という事を考えた時にさ」
「はい……?」
マゼルの話から突然魔王の話になったんだから飛躍してるとは思う。思うんだが、とにかくまず説明してしまおう。
「貴族には貴族の、ギルドにはギルドの、民衆には民衆の知識や技術があり、ヴァイン王国と他の国にはそれぞれ別のルールやマナーがある」
「はい」
「魔法っていうのは、魔王が持ち込んだ技術なんじゃないかと思ったんだ」
そういうと驚いた顔をされたが、声に出すことはなかった。内容を理解しようと努力してくれているようだ。
「魔王と魔法って、音が似ているだろう? 少なくとも神と魔法よりは音が近い」
「確かにそうですね」
「で、古代王国時代末期に突然現れた魔王がどこから来たのか、と考えると、この世界じゃないと考えたほうが無理がないような気がするんだ」
「世界……?」
「とりあえず、この大陸以外と思ってくれればいいかな」
世界という概念も実は難しい。この世界、冒険者でもなければ世界イコールせいぜい自分の住んでいる国ぐらいの認識だろう。神の世界とかはあるかもしれないがそれはまた別の話だろうし、死後の世界から来たとかだと魔物だよなそれは。
なのでとりあえず世界に関しての説明は後回しだ。リリーも素直に頷いてくれた。
「つまり、魔王と呼ばれている相手は、古代王国時代にものすごい遠方からやって来た旅人で、その人が魔法を教えてくれたという事ですか?」
「人じゃなくてものすごく頭のいい魔物かもしれないし、古代王国の人達が教わったというより魔王の技術を奪ったという方が正しいかもしれない」
魔王がよい存在と思われても困るんで、そこはちょっと印象を誘導しておく。実際、どうやって人類側が魔法を身につけたのかはまだ謎だ。
ただ、少なくとも魔王が復活した途端、魔物が活発化して人を襲うようになったんだから、魔王は善性の存在ではないだろう。
「そこまでは理解できたと思います」
「で、どうも俺自身もそっち側に近いんじゃないかと思ってる」
「え?」
驚いた顔をされた。当然か。
「説明が難しいんだが、俺の頭の中にはこの世界と違う知識があるんだよ」
「違う知識、ですか?」
「時々他の人と違う発想をしたり、表現を使っているのは、そっちの知識が出てしまっているとき」
「……」
「ただ、その知識を使ってやりすぎてしまうと、何となくそれが魔王と近くなるんじゃないかと考えちゃってね」
世界の正体というか秘密を暴くという事がプラスになるのかマイナスになるのか、はっきりしない。ゲームなら魔王を斃しておめでとうで終わるだけだったはずが、いつの間にかそれよりも深い所に踏み込んでしまっている。
だが、それは必要な事なんだろうか。知ることで何かが変わったら逆に別のところに問題が起きるのではないか。もしかすると魔王を滅ぼすかわりに核兵器を生み出してしまうための扉を開くことになるのかもしれない。
ふと思い至ったのは“箱庭”という言葉だ。神だか創造主だか知らないが、この世界という箱庭の中に魔王を入れてみて、あまりうまくいかなかったから、追加でこの世界に俺を入れてみたんじゃないだろうかとさえ思える。
リリーは何とか理解しようとしているんだろう、考え込んでいるんでとりあえず俺も一杯茶を口に含む。ちょっと冷めてきてしまっていて申し訳ない。そんなことを思っていたらリリーがこっちに視線を向けてきて口を開いた。
「あの、そういうスキルがあるんですか?」
「え?」
斜め上の反応に一瞬呆けた反応を返した俺に対し、小首をかしげながらリリーが言葉を続ける。
「ええと、ですね。魔法も普通の人が使う技術とは違いますよね」
「ま、まあね」
「なので、そういう違う知識っていうのもスキルなのかなと。凄いスキルですよね」
え、そういう理解なの、と想像もしていなかった返答に対して、ちょっと反応に困った。しかし、ある面では正しいとも言えるのか。そういうスキルだと言われれば確かにそう思えなくもない。
そして、スキルという観点で考えれば、魔法だって人を殺すための凶器にもなる。魔王が魔法を使うからといって、魔法を使う人間すべてが危険なわけでもない。知識や技術が人を害するわけではないという事だ。
何よりそんなところまで考えても仕方ない事でもある。というか、俺が難しく考えすぎていたようだとようやく気が付いた。どうやらやることが多くなりすぎて、頭の中で優先順位が狂っていたらしい。
やることを整理して優先順位をつけよう、と思いながら大きく息を吐いた俺の横で、リリーがふんわりと笑った。
「よかった」
「え?」
「今日のヴェルナー様、硬い表情が多かったですから。いつものお顔に戻ってよかったです」
俺そんなに余裕のない顔していたのかね。なんかちょっと恥ずかしい。
「少し頭を休めることにするよ。悪いけど、紅茶淹れ直してくれる?」
「はい。それと、何か軽くつまめるものも持ってきますね」
「ありがとう」
そういうと嬉しそうに笑って一度部屋を出て行った。伸びをしてから椅子に座り直して少しリラックスしていると、さっきのやり取りの中でリリーが突然スキルの話に持って行った違和感にようやく気が付く。
「ひょっとして、わざとずれた反応をしてくれたんだろうか」
話の内容をリリーがどこまで理解していたのかはわからないが、俺がいっぱいいっぱいになっていた事には気が付いていたんだろう。意図的に話を軽い方に持って行ってくれたんじゃないだろうか。だとするとちょっと心配かけすぎてるなあ。
「お待たせしました」
「ありがとう、悪いね」
「お気になさらず。あの、ヴェルナー様。よろしければその違う知識の世界って言うのをお話してくださいませんか?」
「かまわないけど」
女の子が興味持ちそうな面白い話ってなんだろうか。あれ、これはこれで結構難題だぞ。俺前世でもそんなことに詳しくない。
内心で冷や汗をかきながら前世でのファッションの話から始めることにして口を開いた。




