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――193――

いつも評価やブクマでの応援、感想とか誤字報告とかありがとうございます!

応援していただいている分、更新も頑張ります!

 とりあえずまず一礼。その後でフェリがひらひら手を振ってくるのに軽く振り返す。


 「ノイラート、シュンツェル、二人も向こうの部屋で休んでくれて構わないぞ」


 こういう高級店のさらに貴族が密談にも使うような部屋には、使用人たちが待機するために隣接する部屋があるんで、そっちで休んでくれていて構わないと指示をする。

 二人を信用していないわけでもないが、面子が面子なんで二人の方が落ち着かないだろうからここにいなくてもいいぞ。


 「よろしいのですか」

 「言っちゃなんだがマゼルたちにそこらの賊が相手になると思うか」


 恐らくこの店を選んだのはラウラだろうから、盗み聞きの防止もされているだろう。万が一何者かが襲撃してきたとしても、マゼルとルゲンツだけで俺が二十人いるよりも強い。そう思いながらもう一度促すと二人も納得したように席を外した。

 それを見て俺も改めて一礼。これはラウラに対してだが、ラウラの方も楽にして下さいと言ってきたんで遠慮なくそうさせてもらう。


 「珍しくこんなところにいるんだな」

 「王都で目立つのは逆に問題がありそうだと思ってね」


 そのマゼルの返答に納得。確かに今の段階でうち(ツェアフェルト)に足を運んだりしたら、王宮やら貴族やらのお誘い使者が深夜でも押しかけて来るだろうな。その点、こういう高級店は客の情報は守るか。


 ちなみに前世の中世と同様、宿屋の主やこういう店の店主は店内限定の逮捕権を有している。犯罪者が隠れて泊まりそうな宿なんかでもそうだが、外国の間者(スパイ)なんかがいた場合はその場で捕縛して衛兵につきだせるように、国とギルドが協力しているからだ。

 なのでこういう店だと、意外とセキュリティがしっかりしている。町の宿屋とかはともかく、高級な店には警備員的な人間がいることも珍しくはない。

 とはいえ、その逮捕権が一番行使されるのは酔っ払い相手だという笑い話もあったりするけど。冒険者の泊まる宿とかは酔って暴れる程度だといちいち逮捕して突きだしたりはしないようだしな。


 席について一息ついたところでマゼルが頭を下げてきた。


 「ごめん、ヴェルナー。今回は随分」

 「迷惑なんぞかかってないぞ」


 謝られても困るんだっての。あの決闘裁判は俺のやりたいようにやっただけだ。国の手のひらの上だった件は忘れておく。


 「第一、俺の方が我慢ならんわ。あんな下らん噂」

 「なら、こう言わせてもらう。ありがとう」

 「その言い回しなら受け入れておくよ」


 本当ならそれも要らんのだが、こいつ(マゼル)相手の場合、適当なところで妥協しないと堂々巡りにしかならない。ラウラたちが笑っているのはスルー。そういえば思わず王族(ラウラ)の前で俺とか言っちゃったが今更か。


 「わざわざそれを言いに戻って来たのか?」

 「必ずしもそればっかりじゃないけど、僕の目的はそれかな」

 「真面目過ぎだろ」


 素で突っ込んでしまった。咳払いして仕切り直しをしよう。


 「それで、そっちは今どういう状態なんだ?」

 「デリッツダムを出て、旧トライオットを経由してザルツナッハ国のスブルリッツ近くにあるフォアムで一度宿泊しているね」


 ザルツナッハってのはヴァイン王国の西側にある国だ。スブルリッツって言うのは最初に魔軍に滅ぼされた町で、中の廃墟でイベントのある町だが、フォアムってのは聞いたこともないな。少なくとも俺の記憶の中には出てこない。

 ゲームではうち(ツェアフェルト)の本拠も出てこないからイベントのない町だと思っておこう。


 「ヴェルナーはいろいろ詳しいらしいから、ザルツナッハでの情報を何か貰えないかと思ってさ」

 「あー」


 ウーヴェ爺さんの方を見たら平然と無視して茶なんぞ飲んでやがる。余計なこと言いやがってこのジジイ。だいたい、ゲームの記憶が正しいのかどうかさえ確証はなくなっているっていうのに。とりあえず記憶を引っ張りだす。


 「確か、ザルツナッハにいるのは炎の四天王だったと思う。多分だが、火系の攻撃で傷が回復するから使わない方が無難だと思うぞ」

 「そうなのか」


 ルゲンツが口を挟む。ああそうか、デリッツダムのダンジョンで炎の魔剣を手に入れたばっかりなのか。ボス戦前までは頼りになるんだけどね。


 「想像だけどな。後、ザルツナッハの王都は多分安全だと思うが、王都に向かう途中の森が迷路みたいになっているらしいから油断するなよ」

 「解った。そのあたりは途中で道案内を雇う事にするよ」


 そういう事ができるのがゲームとの乖離だよなあ。うーむ。その他いくつか注意点を説明しておく。彷徨う魔物ワンダリングモンスターの面倒な奴とか。とは言え、細かく覚えているわけでもないんでそれっぽい助言しかできないわけだが。

 なんか最近記憶力が低下しているような気がするのはやることが多すぎるせいだろうか。


 「いろいろありがとう。気を付けるよ。それと、問題なのはこれなんだけど」


 俺の話が一段落した時点でそう言ってマゼルが何か箱のようなものを持ち出して来た。箱を開くと中には黒い水晶が入っている。何というか、いつぞやの魔将の核を見た時のような得体のしれない不気味さがあるな。


 「これは?」

 「覚えてるかな、魔物暴走(スタンピード)の時、僕が魔族を斃したの」

 「忘れるわけがないだろ」

 「あの時、魔族が持っていた水晶によく似てるんだ」


 思わずマゼルの顔に視線が向く。冗談とかじゃないようだし、マゼルの記憶力に関しては今更何か言う事もない。つまり間違いなく、それと同系統のものだという事だ。


 「俺もあの時見ているから間違いない。あの時のは砕けていたが、雰囲気までよく似ている」

 「ルゲンツも同じようなものだと、そう思っているわけか。どこにこれが?」

 「スブルリッツの町中。ウーヴェがこれに関してヴェルナーに言いたいことがあるって」


 マゼルのその台詞にウーヴェ爺さんの方を見ると黙って頷いた。


 「ワシはこれとよく似た形のものを見ておる。まず箱の方じゃが」

 「箱?」

 「この箱は魔物除けの結界を作っておるのじゃ。町に魔物が侵入されることを防ぐ魔道具、厳密に言えば箱に描かれた魔法陣が、じゃがの」


 中の水晶はその動力源なのだという。その動力源が別の物になっているという事か。いや違うな。


 「この黒水晶により、逆転現象が起きている?」

 「恐らく。この黒水晶が魔物を操るものだとすると、魔物を遠ざけるのではなく近づける事になるのじゃろう」

 「……よく似た形の物を見ている、と申されましたが、それはつまり」

 「そうじゃ。この水晶の本来の姿をしている物を巨大化させると王都地下にある結界になる」


 まじまじと黒水晶を見てしまう。そして以前の情報とワンセットにすると。


 「魔除けの結界も古代王国の遺産なのですか」

 「その通りじゃ。少なくともこのタイプの物はな」

 「違う物もあるのですか」

 「今の技術で疑似的に結界を構築しておるものもある。効率も範囲も古代王国の物に比べると劣るがな。現在はほとんどの人間がそれしか知らぬであろう」


 なるほど。だんだん繋がって来たな。証拠は何もない仮説だがぼんやりと見えてきた。


 「私は王都のそれを見たことがないのですが、王都地下にある魔除けの結界を改造して、魔物を操るこの黒水晶を作るとどうなりますか」

 「恐らく、すべてのとまでは言えぬが、かなり大多数の魔物を手足のように操る事ができるじゃろうな」


 ふむ。どうやら魔王と言えども王都サイズの水晶は作り出すことができないか、最低でも困難なのだろう。そして魔軍は記石の技術を魔将の核として利用していることが想像できるように、この本来なら魔除けが目的の水晶を別の手段に利用する方法も知っているのではないか。

 奴らの目的はリサイクルというか、強奪再利用か。もっともこっち(プレイヤー)側も魔物の装備とか強奪しているからお互い様と言えなくもない。


 魔王が王都のそれを必要としている理由まではまだはっきりとはわからん、と言いたいところだが、それも何となく想像がつく。どうやら魔物を軍として統率するのには、中級指揮官が必要なんだろう。

 魔将や四天王がばたばた倒れている今、その中級指揮官が不足しつつある。魔王にとって指揮系統を再編するための窮余の一策がヴァイン王国の結界なんだな。


 魔呼びの笛なんてものがあるぐらいだ。古代王国は魔物を集める方法も知っていたはず。となると魔軍の方が古代王国の知識や技術に詳しい可能性がまた一つ増えたな。


 そしてセイファート将爵が王都襲撃を予想していた理由もわかった。将爵なら魔除けの結界を作る水晶も知っているはずだ。マゼルが回収してきた水晶との類似にも気が付いていただろう。王都襲撃は結界そのものが目的だったという事か。

 仮にこの仮説が事実なら確かに俺に伝える理由はない。そもそも機密に近い話だと思うが、王都そのものを守り切ればそれでいいんだし、これを囮に使うとかも無理。俺が知ってもどうなる物でもないから伝える必要性もない。俺だって他人に伝える気にならんし。


 しかしそうするとヴァイン王国の王都って……ってそうだった。今ここで言うのはどうかと一瞬思ったが、マゼルたちなら問題はないだろう。


 「実はですね、その王都の地下に隠し部屋がありまして」

 「え?」

 「何じゃと?」


 マゼルやラウラはもちろんウーヴェ爺さんまでびっくりしている。実は結構レアな顔じゃなかろうか。


 「他言無用にお願いしたいのですが。順を追って説明しますと」


 隠し通路の存在とその先に墓らしい何かがあるのではないかという予想。天井が崩れていて先は調べられていないことまで話す。


 「ではその先は誰も調べておらぬという事じゃな」

 「調べようがないと言いますか。何か方法はありませんか」

 「ワシなら魔法で吹き飛ばして先に進むが」


 もっと崩れてきたらどうするんだよ。ウーヴェ爺さんの台詞に頭を抱える。この爺さん、そういえば普段から過激だったわ。頭痛を覚えていたらラウラが首を傾げつつ口を開いた。


 「隠し通路、ですか。そう言われてみれば、あの宝物庫も不自然でしたね」

 「不自然?」

 「私は一度しか入ったことはないのですけど、何といいますか、乱雑で元は宝物庫ではなかったような……倉庫に棚を並べてそこに宝物を置いてあると言いますか。他に場所がなくなったのであそこにとりあえず入れているように思えたんですね」


 あれ。書庫もそんな感じじゃなかったっけ。

来週は更新できないかもしれません(リアル事情です)

多分、明日に続報をいたします

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― 新着の感想 ―
[良い点] じじい、この世界には脳筋が不自然に多いとか言ってたくせに自分が脳筋的魔法使いなの草 外観の元ネタと思しきガンダルフとは大違いだなあ
[一言] すごく面白かったです‼ 私も先生のような作品を書けるようになりたいです。 今後も期待してますので、お互いに頑張りましょう‼
2022/01/15 17:23 退会済み
管理
[一言] チームマゼルとヴェルナーは目標がブレてない同士だけに情報共有でも互いの信頼が見えて気持ちがいい。 連携できるってステキ。
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