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――191――

いつも応援ありがとうございます!

ちょっとばたばたしていますが更新頑張るー!

 今日は久々に表の業務、と言ってもセイファート将爵との王都の防衛体制に関する打ち合わせだ。以前お願いした件の進捗の確認もあるんでちょうどいい。

 という事でノイラートとシュンツェルだけを連れて王城に出仕したが、入ってすぐに廊下に人待ちの様子で佇んでいる人影を発見した。その人影がまっすぐ俺の方に向かってくるのを確認し、ノイラートとシュンツェルが微妙に警戒感をにじませる。


 「王城だ、とりあえず落ち着け」

 「は……」


 とは言うものの俺もちょっと面識というか記憶がない。身のこなしから見て武人っぽいし背も高い。並んで歩いていたら向こうの方が目立つのは避けられないなと思う。単独で護衛とかが周囲にいないのは自分に自信があるからだろうか。

 その男が質問というより確認の口調で俺に話しかけてきた。


 「卿がヴェルナー・ファン・ツェアフェルト子爵殿か」

 「そうですが、どちら様でしょうか」

 「失礼した。私はアンスヘルム・ジーグル・イェーリングという」

 「伯爵閣下であらせられましたか。失礼いたしました」


 こいつが代替わりした新イェーリング伯爵か。冷たい感じのハンサムであれだ、アニメだとクール系の声優さんが声を当てているような感じ。俺より十歳前後は年上だろうか。

 相手の方が格上なのでとりあえず一礼。


 「卿とは一度話をしてみたくてな」

 「恐縮です」


 待ち伏せしていて何を言い出すやら。


 「端的に聞くが、私と組む気はないか」

 「は?」


 どういうことだ、と顔に浮かべてしまう。イェーリング伯爵の方はむしろ真面目そのものだ。


 「私は今後、卿にはぜひ私の片腕になってもらいたいと思っている。卿の年でその才幹力量は優秀と評するよりほかにない」

 「……」


 俺が絶句したのは悪くないと思う。いや、いっそこのぐらいぬけぬけとしていないと貴族社会では生きていけないのだろうか。

 それにしたってここまでやっていて手のひらくるーりで俺をスカウトしますかね。


 「閣下にはコルトレツィス侯爵家との縁がおありだったと思いましたが」

 「腐った馬車に乗り続ける理由もない」


 うわあ。腐った馬車ってこの世界での泥船というような意味だが、それにしても言い切ったよこの人。ノイラートとシュンツェルも軽く引いているような気がする。


 「それでいいんですか」

 「派閥より家だ。おだてれば資金を出してくれるのはありがたいが、ここまで追い込まれると今後の将来性は乏しい」


 金の切れ目が縁の切れ目って奴ですかね。というか、今までコルトレツィス侯爵家に寄生してたのかよ。随分とストレートに断言しやがったな。


 「私は卿を評価している。同じ組むのであれば先のある人間を選ぶのは当然だろう」

 「それは理解できますが」


 その点だけは同感だ。だがそれはこっちも同じで、俺の方はあんたに将来性を感じないんだが。

 というかあれか、コルトレツィス侯爵の派閥から離れた結果、独自の派閥を作る必要を感じているわけか。そこで文官系のツェアフェルトにまず目をつけたわけだな。


 「魔王討伐後には卿も忙しくなるだろうからな」

 「……どういう意味ですか」

 「卿と手を組めば勇者殿がついてくる。勇者殿を先頭に立てれば敵国との戦いは圧倒的に有利だ。今後、卿は各方面の前線に派遣されるだろうから武勲を立て放題だろう」


 リリーがこの場にいなくてよかった。ナチュラルにマゼルを兵器扱いしている相手に対し、ポーカーフェイスに失敗して視線がきつくなったことを自分でも自覚してしまう。

 俺のその視線に気が付いたのだろうが、イェーリング伯爵殿は軽く肩を竦めただけだ。


 「わが国があそこまで配慮しているのだ。平民の勇者殿は我が国のために働く義務があるのは当然だろう。卿も平民に肩入れしすぎない方が身のためだと思うぞ」

 「ご忠告感謝いたします」


 この世界の貴族的発想としては一面の事実だろう。だがお前さんはヴァイン王国と自分とを同一視していないか。それに、仮にマゼルが魔王討伐後に戦う事になるとしても、それはお前のためでもないし、俺のためでさえない。

 そもそもヴァイン王国が他国への侵略を前提にしているような思考法……ってあれか、前世でもたまにいたな、こういう軍人や政治家。自国は大国なんだから自分たちに従うのが当然理論か。ローマ帝国や中華帝国、大英帝国でさえもしばしばこういう発想の持ち主が出てきていた。

 そして近現代のアメリカでさえその思考法を基準にして他国に手を出したときは失敗しているんだが、どういうわけかこの思考法を持つ人物は歴史を繰り返しがちになる。


 「罪人にも救いの手を差し伸べる卿の気質は理解している。ああ、誤解しないでくれ。勇者殿の妹に手を出す気はない。卿も貴族、妾の一人や二人いても当然だ。むしろよい手だと思う」


 俺がリリーを利用してるとしか思っていないらしい。こいつを敵認定することを決めた。むしろこれで喧嘩を売ってきているわけではないことに驚くわ。

 だが、クララの事まで知っている事を考えるとここで暴発はできない。父に感情のまま怒るなと言われていてよかったよ。


 「私は魔王が斃れた後はしばらく領政に関わるつもりですので、ご期待にはおこたえいたしかねます」

 「武勲を立てる機会を捨てるのか」


 心底不思議そうに聞いてきやがった。この脳筋軍事思考め。性質が悪いことにこういう人間って一定数いるんだよなあ。


 「ツェアフェルトは繰り返し出兵できるほど豊かでもありませんので。失礼いたします」


 どけこの野郎と言わなかっただけ自分の自制心を誇りたい。


 


 その後、執務室で俺の話を聞いて、将爵はむしろ面白そうに笑ってくださいましてございます。


 「イェーリング伯爵も当てが外れたという所であろうの」

 「どういう意味ですか」


 やや口調がきつくなってしまう事を自覚し、そこで一旦クールダウン。まだ将爵は目で笑っている。


 「彼は卿をライバル視しておっての。口論をしているさまを周囲に見せつけておけば、卿と政治的に遠い所にいる貴族たちが接触してきたはずじゃからな」

 「はあ」

 「いまだに卿がラウラ殿下の婿候補筆頭であると考えておるものもおる。そのため、卿の欠点を探して回るものも多いぞ」


 もっとも卿を片腕にしたいと考えていたことも本心だろうが、と追加。

 要するにイェーリング伯爵としては、最初に自分の派閥入りに同意してくれれば片腕として友好的に接し、駄目であればあからさまに敵対して俺に反発している人間を集める意図があったと、こういう事らしい。


 「ああいう輩には素通りされるのが一番堪えるのじゃよ。挑発に乗らなんだのは正しい態度と言ってよい」

 「合格点ありがとうございます。つまりあれは演技だったと?」

 「マゼル君を戦場に連れ出すという所は本心かもしれぬがの」


 ここ数日、国の上層部はその問題に掛かり切りになっていたと聞いて驚いた。全く知らなかった、と言うとすました顔で応じられる。


 「卿にそこまで国家中枢の話を聞かせる方がおかしいじゃろう」

 「ごもっともです」


 うん、学生の年齢だもんね、俺。地位でも前世の企業で言えば良くて課長とか部長クラスだ。年齢で言えば出世しすぎているぐらいで、経営会議の情報を直接聞けるような立場じゃない。

 それにしても随分胡散臭い話が出ていたんだな。


 「マゼル君を国が抱え込む形になったことでイェーリング伯爵のような考え方を持つようになったものも多い」

 「そんなことをすれば逆に恐れられたり警戒されるだけでは」

 「その通りじゃ。陛下や殿下は勇者を一戦場に連れ出すとそれ以外の全ての国から警戒されることを考慮しておる。じゃが目の前の利益に目が眩む人間が出てくるのも当然でな」


 そういった貴族たちへの配慮や説得などで手が回らなくなるほどであったと言い、やれやれという表情で将爵が肩を竦める。さらに別の問題も発生しているのだという。


 「デリッツダムの一部貴族が密使を送り込んで来ておっての」

 「デリッツダムの?」

 「ラウラ殿下をデリッツダムの女王として迎え入れたいというのじゃ」

 「はあ?」


 お前は何を言っているんだ、と思わず言いそうになったが、説明を聞いてみると事態は俺が思っていたより深刻だった。


 「要するにデリッツダムの王族が馬鹿ばっかりだと」

 「今日の卿は相当に機嫌が悪いのお」


 すみません、ついうっかり本心が。とは言え将爵も否定はしなかったですよね。


 「誰が次代の王になっても混乱するので、いっそ外から迎え入れたいというのですか」

 「ついでに、勇者一行に同行していた殿下に惚れ込んだ貴族もいたようでな」


 色ボケしてるなよ。頭痛い。でもそうか、考えてみれば当然ラウラも人目に触れまくっているわけだもんな。うっかりしていたがマゼルだけが狙われるわけでもない。

 何となく排除する奴ばかりになるんじゃないかと思いがちだが、取り込んで利用しようという考えの人間がいるのも当然と言えば当然か。その挙句がヴァイン王国の力を借りてのクーデター未遂かあ。


 「わが国に睨まれていると警戒したデリッツダムの一部貴族がヴァイン王国に媚を売ってきたというわけじゃ。殿下が王位につけばヴァイン王国の兄弟国という立場になれるからの」

 「それでまとまるんですか」

 「少なくともわが国では誰もまとまると思っておらぬ。他国から見てもヴァイン王国がデリッツダムを吸収したようにしか見えぬしな。そんな事になったら外交問題が深刻化するだけじゃよ」


 ゲームでそんな描写はなかったんで俺も詳しいわけではないが、デリッツダムはヴァイン王国よりも王家の力が弱く貴族の力が強いらしい。そのため、ますます今後の政治情勢が読めなくなっているんだそうだ。


 「じゃが一方で、隣国が団結しすぎるのも困るが、混乱しすぎるのも困る」

 「それは解ります」


 国が二つに割れたりしたら類焼しかねないんだよな。魔軍に付け込まれてまた難民発生、我が国に流入なんて事態になったらいくらヴァイン王国が大国でも財政面での負担が馬鹿にならない。

 相手の国内情勢を確認したり、どういう形で対応するか、対応するにしてもその手配をしたりで陛下を中心に上層部は相当慌ただしく動いていたようだ。まったく気が付きませんでしたよ。


 「優先順位という問題があったが、卿にも負担をかけておるの」

 「いえ」


 国の政治という観点で見ればそっちが優先されるのは仕方がないのか。早めに決着がついてくれることを祈ろう。


 「次に、卿が対応していた問題の件じゃがな」

 「はい」


 外交問題とかはどうにもならんとして、俺に直接関係がある俺が知らない情報ください。

いまいち話の切りがよくないのですがここで切りますー

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― 新着の感想 ―
今のヴェルナーだったら「消えろカス」くらい面と向かって吐いても、周りが許すだろうね。 変わりにまたしても無理難題な仕事が一個積み上がったかもしれないが(笑)
[一言] イェーリング新伯爵って銀英伝に出てきそうなイメージでしたw
[良い点] 内実はどうあれ、勇者とは謂えども平民であるマゼル一個人を国が擁護すると公式表明した効果が、良くも悪くも表面化したこと。 [気になる点] 国内の敵性派閥も絞れて来た雰囲気ですけど、国が未だに…
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