――188(●)――
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「……そのように進めるとするか。ではこの件はここまでとする」
「はっ」
国王の決定を受けてその場にいた王太子や大臣らが頭を下げる。
勇者一行がデリッツダムを離れたことを確認し、外交的な対応も行った。今後の外交政策に関しての方向性も確認し、ようやく一息である。
国王がやや砕けた調子で王太子に話しかけた。
「ツェアフェルト子爵の件はどうなっておるか」
「まずまずという所でしょうか」
現時点での国際状況はあくまでも共通の敵である魔王を相手にしての不可侵同盟という所である。連合軍を組んで魔王と戦う、という発想はどこの国にもなかった。
それぞれの国の事情もあるし、魔物がどこからともなく湧いて出てくる状態では、防衛のための兵力を最優先にせざるを得ないという事実もあっただろう。
そのような状況下にあって、勇者という存在はどうしても目立つ。既に魔将や四天王を何体も斃している事から評価は上がる一方だ。取り込みたいと考える国も当然出てくるし、今回の騒動も既にデリッツダムが露骨に動いた結果であるとも言える。
もともとヴァイン王国は魔王復活以前から大国として存在していたが、それだけに時として他国から疑われたり、睨まれ狙われることも多かった。
その上、王国騎士団の評価はこの一年で大きく上昇している。最終的に魔将を打ち取ったのは勇者であると言っても、フィノイ攻防戦とアンハイムで魔軍と互角以上に戦いを展開したことにより、数も多く精強であるとの評判が否応なく高くなっているのだ。
そのヴァイン王国が勇者を公然と手中に収めることを宣言したことにより、潜在的にはヴァイン王国に対し脅威を覚える国も多くなっただろう。ヴァイン王国の側に侵略の意志がなくても、周辺国はいつか攻め込まれるのではないかという恐怖を持つのも避けられない。感情論や自棄になった相手の側から戦争を仕掛けてくる可能性さえ捨てきれないのである。
それらに対し、ヴァイン王国の側も自衛策を練らねばならない。実のところ、ヴァイン王国内部も各地で魔物の被害を受けているし、一連の貴族による騒動もある。国の上層部から見れば驕れるほど安定しているとも、外から見るほど堅牢だとも思っていない。
だからこそ潜在的な敵に対して、牽制と最初から交戦という選択肢を挑ませない方法を模索しており、そのためにもヴェルナーを利用する方向に舵を切っていた。
国側から見るとヴェルナー自身が奇妙なほど無欲なため、アンハイムでの勲功に対して周辺国でも評判になるほど目立つ報酬を与えることはできていない。そのため、決闘裁判という場を利用し、ヴェルナーの存在を表に出したのである。
アンハイムでの魔将討伐の戦功はあくまでも勇者と騎士団、というのが表向きの事実だ。国内でさえそのように見ている向きがある。だが、あの決闘裁判で勇者側の代理人となったことで、自然と周辺国がヴェルナーという人間はどのような人物かを調べ始めている。
その結果耳に入るのは、アンハイム攻防戦の前半戦において魔将を振り回し罠にはめた“若き軍略家”の存在だ。しかも勇者の友人という情報も自然と耳に入る。どちらも事実なのだからヴァイン王国がわざわざ噂を流すまでもない。
そうなれば当然、その事実がもたらす意味を周辺国としては考えざるを得ない。デリッツダムが一転して勇者一行に行動の自由を認めたのも“友人である勇者救出のため”にヴァイン王国の騎士団が攻め込んでくることを警戒した面がある。
“勇者”に“精強な騎士団”と“魔軍を手玉に取る優秀な実戦指揮官”が並んでいるとなると、脅威ではあるが、まともに戦えば勝っても損害が大きくなる以上、敵対されないようにする、あるいは戦わないような選択肢を取らざるを得ない。
ヴェルナー自身が聴けばそんなものは誤解だと声を上げたであろうが、仮に虚名であったとしても牽制には有効なのである。
「浪費子爵の評判も有効ですな」
外務大臣エクヴォルトが面白そうに笑った。
これもヴェルナーの知らぬところでの話だが、その評判を知った近隣国の一部は勇者への取次を頼む、あるいは引き抜きを目的として、金銭に弱いと誤解されるヴェルナーを狙うためにツェアフェルト伯爵家に賄賂を持ち込んでいた。
無論、それらはツェアフェルト伯爵家当主であるインゴの手によりすべて王国側に提出されている。
「相手の外交や陰謀担当の顔ぶれを向こうから教えてくれるのですからありがたいですな」
「子爵本人は金銭や財宝などいらぬというであろうがな」
王太子が口にした発言に一同が笑う。あまりに欲がなさすぎると逆に疑いたくなるのであるが、ヴェルナーに関してはあまりそういう印象がない。というよりも「あれはどこか抜けているだけだ」というのが全体の評価である。
「次男だったせいですかの」
「そうかもしれませんな」
事実、貴族の後継者である長男は別として、長男に何の問題もなければ次男より下は変な欲を出すと当主に寄生して遊んで過ごすことしかできなくなるような事さえ起きる。その結果、次男三男あたりになると騎士になれるだけでも十分、どこかの貴族家に養子に入れたら十分に成功した人生になるのだ。
一方で次期当主という立場となると、家を繁栄させることが目的ではあるが、維持し次代に継ぐだけでも十分な功績である。ヴェルナーの無欲さは身の程を知っているというか、そういう意識で育ってきたせいであろう、というのが彼らの結論であった。
「そのあたりは今後治っていくでしょう」
「であろうな」
ヴェルナーは対外的にはまだ学生の年齢である。本人が今の段階でその先まで考える必要性を感じていないであろうと考えられるのも当然であった。むしろあの年齢でここまでの結果を出している事の方が異常なのである。
「セイファートが以前言っておったの。彼は野心家ではなく、目的を遂行する能力に長けていると」
「なるほど」
国王のその発言に何人かが納得したように頷く。と同時に、その発言の裏を理解できないものもこの場にはいない。
野心や過剰な欲望を持たないヴェルナーに与えてはいけない目的は『ヴァイン王国と敵対する理由』であると。
このセイファートの評価は的を射ている。もしヴァイン王国側がヴェルナー自身の安全、もしくはマゼルやリリーを害するような事を考えれば、ヴェルナーはヴァイン王国を打倒するという目的をもってそれに向かって行動していく事になるだろう。
国が負けるとも思えないが、そうなれば損害が大きくなることも避けられない。逆に言えば、そのような部分に触れない国内外の問題の解決を目的として与え続けていれば、ヴェルナーを敵に回すことはなくその才能だけを使い続ける事ができるのである。
権力者から見ると扱いやすいともやりにくいとも言える性格であるが、その程度の臣下を扱えずに王や大臣に名を連ねることもできない。
「そう言えばボーゲル子爵の件、その後はどうなっているのか」
「気にするまでもあるまい。我らが何もせずとも伯爵が動くであろうよ」
あえて言うのであれば、コルトレツィスは無役でツェアフェルトは大臣である。才幹力量を評価されていなければ伯爵家でも大臣職は与えられていない。この件も上手く利用するであろうことは疑いなかった。
「子爵で思い出したが、上水道の問題は」
「地下上水道の枯渇が深刻化しておりますが、水道橋の方がありますので問題は発生しておりません」
「ならばひとまずはよい。水道の調査は早めに行うように。次にコルトレツィスの件であるが」
「はっ、その件につきましては」
弛緩していた空気が引きしまる。機を見るに敏な貴族家が動いたことで事態が次のステージに入った事は全員が理解している。教会側の問題もあり、この問題への対応には注意を払うしかない部分もあった。
「まず、一部の者が逃げた件についてですが」
「うむ」
情報の共有化が行われ、提案と異論が飛び交う。この後、税収に関する議題があり、そののちに魔軍の王都襲撃に対する備えの問題が提起される。この日の会議も深夜にまで及んでいた。
そうなんですよねえ、移動させると話数で管理されているだろう感想がどうなるのか…
確認が取れるまでとりあえずあの場所に置いておきます。
ご助言ありがとうございます。




