――160――
いつも評価、感想、誤字脱字のご指摘等ありがとうございます!
今日は私事でちょっと短めです、ごめんなさい
翌日、まずは特別書庫とやらの入室許可証を受け取るため早朝からリリー同伴で王城に出仕。緊張してなんかぎくしゃくしていたリリーをフォローしながら許可証を受け取る。書面のほかにメダルのようなものも一緒だ。
マゼルの奴は陛下の前とかでも平然としていたが、リリーみたいになるのが普通だよなあ。俺も基準がずれてたのかもしれない。それでもちゃんと作法を守れていたのはよかったと思う。あと王太子殿下が楽しそうだったのは何ですかね。
その後、宰相閣下直属の部下に案内されて王城の奥まった場所に移動。今日は下見、という事で俺もリリーも何も準備していなかったんだが、魔道ランプを途中で受け取った。そのまま地下に降りて暗い道を歩く。どうでもいいがこの人アンハイムで俺の部下だったベーンケ卿にちょっと似てる気がする。
それにしても、石壁の地下通路とかちょっとしたお化け屋敷だな。もっとも、こんなところに出てくることは……いや逆か。暗殺された貴族の幽霊と言うか亡霊ぐらい出てきてもおかしくないかもしれない。むしろありそうな話でもある。
そんなしょうもないことを考えていたら重たそうな扉の前に到着。閂が三本もあり、一見すると普通に見えるが、何か妙な感覚の扉だ。
「ここの扉には鍵はかかっておりませんが、この順で閂を動かしてください。間違えないようにお気を付けくださいね」
案内をしてくれた人がそう説明をしながら下、上、真ん中の順に動かしてから扉を開いた。内側はパズルになっているのかもしれない。こういう細工は嫌いじゃない。
中は地下に向かう螺旋階段になっているんだが、灯りが全くない真っ暗で、準備がないと何も見えそうもないな。ここに来るときは魔道ランプを忘れないようにしないと。
「リリー、手を貸して」
「は、はい」
この西洋世界によくある石作りの螺旋階段って実は結構曲者だ。周囲の圧迫感が凄いし、階段も狭くて回転半径が意外ときつい。アニメなんかでよく石作りの塔にある螺旋階段を駆け上がったりする描写があるが、うかつにあれをやると目を回して酔ったようになり、三半規管が弱い人だと階段を転げ落ちたりもするんでお勧めできない。急がないのが重要だ。
慣れていないだろうリリーを支えながらゆっくり降りる。
「深いですね」
「想像したよりも深いな。けど不思議と湿っぽくない」
そんなことを言いながらしばらく足を動かす。なんか地下牢に向かってる気分だったが、しばらく進むと底に到着。また重たそうな扉があった。ここはノックして中から開けてもらうようになっているのか。
「ツェアフェルト子爵と助手の方をお連れしました」
「ご苦労」
中は結構広い部屋だ。何となくだが重役秘書室って感じで、ここを通らないとさらに奥の扉に向かうことができないようになっている。ここにいるのは近衛の服装の人が四人。鎧こそ着ていないが帯剣していて身のこなしだけでかなりの腕利きだと解る。
俺の方はちらっと見ただけだがリリーの方には礼儀を守りつつ興味深そうな視線だ。役職的にも前例もなかったし、こう言っちゃなんだがここに来た王族以外の女性ってほとんど例がないんじゃないだろうか。まじまじと見ていないからまあいいか。
「こちらで手を洗っていただきます」
「解りました」
手を洗う所があるのは驚いたが、貴重な本を収めている書庫ならそれも当然だろうか。足でペダルを踏むと蛇口から水が出て来るようになっていてなんか妙に近代的だ。
「それでは、こちらにどうぞ」
俺とリリーが手を洗ったことを確認してから騎士の一人が扉を開けてくれる。一瞬違和感に足を止め、すぐに理由に気が付いた。天井の石が光っている。電灯みたいだ。
「魔法の光ですか」
「私はあまり詳しくないのですが、そうらしいですね」
案内人さんは文官ではあるけど魔法使いっぽくはないから、詳しく知らなくても仕方がないか。正面には何というか奇妙な模様の両開きの扉があり、途中で左右に向かう道もある。脇道のところまで進むと、正面は奇妙な模様の両開き扉、右通路の行き止まりには豪奢な扉があり、左通路の行き止まりは丈夫そうな扉だ。
十字路の中心に立つと後ろが俺たちが来た衛兵室、正面が両開きで左右それぞれに雰囲気が違う扉がある。なんだかゲームのダンジョンっぽいな。そう言えば正面の扉はゲームでイベントがないと開かなかった扉の模様にちょっと似てる気もする。
「あの扉も内側から開けるようになっておりますので、お二人で来られた時も部屋の内側から開けてもらってください」
「解りました」
「この先、全部が書庫なのでしょうか」
「いえ、書庫は左扉の奥になっております。右扉は王室の宝物庫ですね。正面は……」
両開きの扉を見ながら俺にとっては爆弾発言。
「魔動管理室と呼ばれておりますが、結界を維持している結界柱と魔法陣があるとか」
え、ここで魔物除けの結界を維持してるのか。ひょっとしてここは王城のほぼ中心地になるんじゃなかろうか。顔に出さないようにするのが大変だった。
「そんなに重要な場所だったのですか」
「普通の方はここに来れませんから。王室関係者と、宰相、魔術師隊隊長など、ここまで来られるのはごく一部ですよ」
こんなところに俺やリリーを入れていいのか? ますます王太子殿下の考えが解らん。とは言え案内人さんにうかつなことを聞くと変な疑いを持たれそうで怖いな。今日は書庫だけを意識することにしよう。そう思いながら書庫の方に足を向けた。
「リリー?」
「あっ、すみません」
首をかしげながら宝物庫の方を見ていたリリーを呼ぶ。まあ気になるのは理解できる。と言うか何も知らなきゃそれが普通か。俺だって何もなきゃそっちを気にしていたかもしれない。
三人で書庫の扉の前に進むと鍵穴も何もない。不思議そうな表情を浮かべていると、案内人さんが扉の脇にある色違いの石板を指さした。
「メダルをこの壁面にある部分に触れてください。お二人とも必ずお願いします」
「こうですか」
メダルを扉の横のパネルに近づけると、パネルが光って扉が開いた。魔法による非接触式鍵ってわけだな。一人ずつやらなきゃいけないってのは何かのセキュリティがあるのかもしれん。
「私はメダルを持っておりませんのでここまでです。中をご覧になりますか」
「そう……ですね。中も見てきます」
「解りました。では私は守衛たちの部屋でお待ちしております」
そう言って案内人さんが背を向ける。俺とリリーは顔を見合わせてから入室した。ぱっと天井から明かりが降り注ぎ、室内が明るくなる。そして思わず二人してその場で立ち尽くした。
いやね、一〇〇冊を二人で調べるなら五〇冊ずつになるんでかなり楽だよ。一〇〇〇冊が五〇〇冊でも、まあましかもしれない。
「あの、ヴェルナー様、これ何冊ぐらいあるんでしょう……?」
「うん、俺も今それを考えてた」
どう見ても万は超えてるよなあ、この部屋の本の数。




