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――134――

感想、評価、ブクマ等いつもありがとうございます!

図の方も見難いと言われずにほっとしています…

応援された分、更新を頑張りますよー!

 はっきり言えば魔軍は強い。兵の質で考えても数で見ても現時点では相手の方が有利だろう。少なくとも正面から戦って勝てると考えるほどお気楽にはなれない。集団というか軍の中にいる魔将を斃すなんて真似ができるのはそれこそマゼルたち勇者パーティーだけだ。

 したがって旧トライオットでの野戦をする気はなく、城壁を生かす戦いに持ち込む事を主題とする。ただそれだけではいろいろ駄目だったりするんだよなあ。


 「第一段階はこっちから部隊単位で旧トライオットに入り込んでせいぜい相手を挑発する。第二段階は敵をアンハイム領内に引き摺り込んでその上で城壁を挟んでの防衛戦を行うことになる。そこで」


 もう一度地図を指さす。全員の視線が俺の指を追った。


 「まずここ」


 アンハイムから少し離れた川岸にマークを置く。


 「ここに砦を作る。基本的な襲撃そのものはその時々で指示を出すが、機動戦力はすべてこの川岸の砦を拠点とする。この砦を敵に攻めさせるわけだ」

 「攻めさせる、というのは」

 「さっき言ったとおりだ。魔将を怒らせる。だが怒った魔将にいきなりアンハイムを襲撃されると南門をめぐる戦いになるからな。そこで、この川岸の砦だ」


 表向き、というか見た目としてはむしろ本城・支城制の支城に近い形になる。この場合は本城が攻められた際に敵の側面や背面を襲撃するための兵力を詰めておくための施設だ。

ただし主戦場と言うか、最初の戦場はこっちになるように誘導することになるわけだが。


 「拠点、と申しますと」

 「私が普段からそこで寝泊まりするのさ。アンハイムに戻らずにな」


 ノイラートやシュンツェルの疑問に答えていたら全員がぎょっとした表情になった。いや他に魔将が襲う目標(ターゲット)になる相手はいないだろう。それこそマゼルでもいりゃともかく。


 「あ、あの、子爵」

 「ああ、急造の砦でずっと防衛戦をする気はないぞ」


 ベーンケ卿の発言にかぶせるようにしながらさらに二か所、地図にマークを置いていく。三か所をたどれば川岸から大きく半円を描くようにして最終的にはアンハイムの北側に誘導するような形だ。

挿絵(By みてみん)

 ちなみに二番目の砦はアイクシュテット卿たちが立てこもっていたあの平地の真ん中に盛り上がっている丘の場所になる。


 「この三か所にそれぞれ砦を作る。そこを順番に相手に攻めさせればアンハイムの北門に相手を引っ張り出せる」

 「そう簡単にいきますか」

 「敵が一番の砦を襲撃してくれば成功させる自信がある」


 相手をおちょくるのは得意だからな。この点だけならマゼルに勝てる。いやそんなことで勝ってもしょうがないんだが。

 敵は人間を甘く見ている以上、アンハイムと川岸に作る砦ぐらいしか把握しないはずだ。内側に作る砦の事なんか把握さえしないかもしれない。そもそも第一の砦で俺を殺せると思ってるかもしれんしな。

 だがそんな魔軍でもさすがに城壁を攻めるのは面倒だろう。だからこそ俺自身が砦にこもる価値がある。


 「私が敵に追われながら、この順に移動すれば向こうから私を追ってくるだろう。私自身が餌になるためには敵をせいぜい怒らせる必要があるわけだが」


 ケステン卿の疑問にはそう応じる。彼が難しい表情を浮かべているのは、その間のアンハイム守備を自分がやることを理解してるんだろう。いや押し付けてるわけじゃないぞ。

 支援隊を任せていたのは俺がアンハイムに戻るまでの間、万一に備えての守備を任せるためだ。内部の問題も含めてな。

 アイクシュテット卿がこっちに視線を向けてきた。


 「この三番目の砦は危険ではありませんか。一番は川が堀になりますし、二番は高地にあって地形が味方をします。ですが三番目の砦は場所も草原で平地ですし、アンハイムとの間に敵が入れば分断される恐れも」

 「そこは考えてある。任せてくれ」


 はっきり言ってくれてありがとう。ホルツデッペ卿やケステン卿も気が付いていたみたいだけど。とは言え三番砦まで誘導しないと東門に向かわれる危険性がある。北門まで敵を引っ張れればアンハイムの街そのものが敵を包囲するための壁になるんだ。

 魔将にトライオットの奥地に引き籠られると困るんだからそこはもう徹底するしかない。


 「まず敵を怒らせるために攻め込む。それも相手の縄張り(トライオット)のあちこちにだ。二〇から三〇人の兵力で川の向こうに入り込み、魔物数匹を屠ったらすぐ一番の砦に戻ってきてもらう。無理な戦闘は不要だ」


 各部隊がトライオットにいる日数は短ければ二日、長くても三日程度。極論を言えば日帰り遠足でもいい。要するに嫌がらせのためだけに相手の縄張りの中で傍若無人に振る舞い、引っ掻き回す。

 奴らが動物的な感覚に縛られているのであれば、最初は縄張りに入ってきた侵入者を叩こうとするだろうが、いずれしびれを切らして砦に攻め寄せてくるはず。

 動物的な本能から怒りの感情までの移行期間がどの程度あるかは今のところ謎だが、侵攻部隊、実際は挑発部隊が敵の目を引き付けている間に砦もどきをさっさと作成してしまおう。そのためには。


 「アイクシュテット卿。卿にはトライオット領への連続侵攻作戦の案を作ってもらいたい」

 「は?」

 「卿の母国を滅ぼした魔軍相手の作戦立案だ。やりがいがあるのではないか?」


 何か言いたげな何人かを目で制した。実のところ亡命貴族とかヴァイン王国の外交官とかからある程度は地理情報を得て基本計画は考えてある。

 このアンハイムの町にいる商人たちにラフェドが聞き取りさせたから最新に近い情報にはなっているはずだし。なので、もしアイクシュテット卿の作戦案に問題があるようなら不採用にすればいい。

 それでも彼に任せたのは、大切な人を失い、復讐を終えて生きる意欲をなくしている彼を何となく放っておけなかったからだ。俺の自己満足でしかないが、できれば立ち直ってほしい。


 「条件としては小さな襲撃を繰り返す、連続して攻め込む計画であること。各侵攻部隊単位で見るとトライオットにいる時間は決して長くない事。川を渡る場所も複数ある事ぐらいか。後は卿の判断で考えてくれていい」

 「川もですか」

 「渡ったところで待ち伏せ、が一番相手にとって楽だからな」


 実のところ、ある程度の完成度に達していれば俺の計画と併用して使うことを視野に入れている。

 俺の作った計画には、俺自身が気が付いていない癖がどこかにあるはず。その癖を見抜かれ、待ち伏せをされたら侵攻部隊が大きな被害を被ることになる。

 だが、途中で計画を立てる人そのものが変われば、突然作戦の癖が変化することになる。そうなると魔軍はついてこれないだろう。相手を翻弄するのにちょうどいい。

 そのためには俺と考え方が全く異なる人物の方が有り難いし、変に俺の癖を見慣れていない方がいい。その上、旧トライオットの地理に詳しいという点も含めるとアイクシュテット卿が適任だ。


 「計画はアイクシュテット卿に任せるとして、侵攻部隊はホルツデッペ卿、ゲッケ卿、それにノイラートとシュンツェルにも今回は部隊指揮官として働いてもらうぞ」

 「我々もですか」

 「ああそうだ。期待している」


 二人も無茶な戦いをするタイプじゃないから、無駄な被害を出したりはしないはずだ。実際問題、俺の他にホルツデッペ卿とゲッケ卿だけだと多方面に連続で侵攻というのは難しい。俺は相手を挑発するため、仕込みの方も確認しなきゃならないし。やること多くて胃が痛くなりそう。

 そうなると前線部隊の指揮官が足りないんで二人にも頑張ってもらわないとならない。と同時に、これは強く言っておく必要があるんで、厳しい声を作る。


 「全員に言っておく。当然のことだが、この戦いには敵がいる。ヴァレオと同じだ。敵だって頭があって行動をしてくる以上、最初から最後までこっちの予定通り、とはいかないだろう」


 ヴァレオってのはこの世界のチェスみたいなゲーム。この世界らしいというか何というか、騎士(ナイト)の横に女騎士(レディナイト)とか言う駒があるんで最初は混乱した。まあそれはいい。


 「この作戦の最終目的は魔将退治だ。だが、目的を達成するための途中経過はいくらでも変更を利かせることができる。状況変化の情報、相手の動きに応じた意見があれば遠慮なく言いに来い」


 状況は常に変化するんだから、その点を忘れてはどうにもならん。逆に言えば途中経過にはいくらでも修正の余地はある。登山に例えれば、山頂に到着さえできれば途中のルートは変えてもいいんだ。

 自分の計画が完璧だと思えるほど俺は自信過剰になれんしなあ。


 「目の前の戦況に拘泥するな。当初の作戦計画だけに従うな。最終目的を見失うな。目的である魔将を誘導するため、最善の選択肢を選んで行動してもらいたい」

 「ははっ」


 いい返事だ。全員が頷いたのを確認して最後に締める。


 「細部に異論はあるかもしれんが全体の方向性はこれで行く。卿らの働きに期待している」


 大手小手より先手が怖い、だ。魔将(ゲザリウス)を引き摺り回してやる。

こっちの誘導図の方が先だったのは今だから言える話…


大陸図の方はこれよりも大雑把になると思いますが

もう少しお待ちを(><)

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― 新着の感想 ―
兵書兵法三十六計 第十五計 調虎離山
[一言] 図表ありがとうございます 大変と思いますけど頑張ってください
[良い点] やはり図面、挿絵があると理解の大きな助けになりますね! ありがとうございます♪
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