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――133――

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評価累計が151,000ptを超えていました、皆様本当にありがとうございますっ!

 俺の発言が終わると部屋に沈黙が下りた。俺が何を言っているのか脳内で吟味していたんだろう。まず一番の常識人であるフレンセンが口を開く。


 「ヴェルナー様、今何と?」

 「こちらからトライオットに侵攻する」


 もう一度繰り返す。紅茶かコーヒーが飲みたいなあ。コーヒー豆どっかにないかなとか思ったのは現実逃避だろうか。いや豆があっても多分淹れられないけど。前世じゃインスタントか缶コーヒーしか飲んだことないし。豆からの淹れ方なんぞ知らん。

 しょうもないことを考えていたら今度はベーンケ卿が決意を込めた表情で俺に向き直った。自分が言わなければとでも思ったのか知れない。


 「不可能です。そのような……」

 「慌てるな。私は侵攻する、と言ったんだ。占領する気はない」


 軽く手を挙げて相手の発言を制しながら応じる。かなり複雑なことを言うのは解ってたんでまず俺の方から説明しないといけないんだが、どの順番で説明すればいいのか悩んでるんだよ。

 とりあえず共通認識を纏めておこう。


 「まず確認しておきたいことは、旧トライオットはヴァイン王国ほどではないにしてもれっきとした国だったという事だ。一方、私の方は大貴族でもない一代官。トライオットを制圧維持するには戦力が二桁足りない。補給線も維持できないしな」


 現状、魔物が闊歩している状況だから二桁じゃなく三桁足りないかもしれない。とにかく圧倒的に足りないのは確かだ。なので制圧とかは最初から考えていない。説明の順番をちょっと考えてから口を開く。


 「もう滅びた国だからという訳でもないが、とりあえずこっちから攻め込んでも文句を言ってくる相手はいない。占領するわけでもないから犯人を追うという口実も成り立つ」

 「犯人?」

 「書類上な」


 苦笑いを浮かべたのはゲッケ卿だ。勘のいい人だなあ。


 「なるほど。アンハイムに到着した直後のあれはそのためでしたか」

 「それだけでもないけどね」


 女性に暴行していた町の顔役はその場で叩き切ったが、取り巻きどもはトライオット方面に追放しただけで済ませた。その後、調査を進めたら別件で捕縛する必要が新たに生じただけだ。書類上はそういうことになる。追放したトライオット方面を捜索する途中で魔物と交戦することも当然ありえる事だよな、うん。


 「もう一つ確認しておきたい事は、この地での最終目的だ。魔将を引きずり出して袋叩きにする」

 「魔将、ですか」


 と驚いたように口にしたのはアイクシュテット卿だ。その辺の情報交換も後で個別にしておく必要があるな。とりあえず話を進める。


 「だが、ここで地形が問題になる。このアンハイムはもともとトライオットとの国境警戒のために作られた都市だ。南側に川が流れている」


 図を取り出し、北側の川岸にあるアンハイムを指し示す。


挿絵(By みてみん)


 「相手が人間の軍ならこれでいい。南側の川がそのまま防衛戦の堀として活用できる。だが相手は人間よりもはるかに身体能力に優れている魔軍だ」

 「意味がない、と?」

 「まったく意味がないとまでは思わないが、さほど期待もできない。簡単に渡って来られるだろうからな。だがそれ以上に問題なのは、相手が常に対岸から攻めてくるような状況になった場合だ」


挿絵(By みてみん)


 ベーンケ卿の問いにそう答える。軍に関してはこの人はあまり詳しくないようだ。フレンセンも実戦には詳しくないだろうし、詳しく説明することにする。


 こっちが袋叩きにしようにも、敵が川の向こうにいるのでは、王国軍が川を渡る際に敵の襲撃を許すことになる。つまり本来町を守るための川が敵にも利用できる状況になってしまう。むしろ身体能力的に王国軍の方が不利とさえ言えるだろう。

 騎士団がなんとか川を渡れたとしても、魔将を包囲する前に魔軍が一時後退し、トライオットのどこかに姿を消してしまうという形になってしまうかもしれない。


 「王国軍はトライオットの奥深くまで追うことはできない。するとまた敵が襲撃してくるまで何もできない、という事態になったらこっちがじり貧だ。魔物に至っちゃどっからともなく湧いて出て来るし」

 「確かにそうですな」


 思わず砕けた口調になったが、応じたホルツデッペ卿も含め誰も気にしていないようだ。状況の把握に努めてくれているんだろう。


 「だから敵をどうしても川のこっち側、可能なら北側の城門前まで誘導したい。そうすれば王都からの援軍による包囲も容易になる」

 「そこまでは解りましたが、それとトライオットへの侵攻と言うのがよくわかりません」


 今度はアイクシュテット卿がそう聞いて来た。お、目にちょっと光が戻ってきているな。相手が魔軍だということが目的意識と言うか意欲に繋がっているのかもしれない。


 「魔軍の生態、ってのも妙な表現だが生態について考えていたことがある。まず連中、基本的に人間を恐れることはない」


 勇者(マゼル)あたりは別のようだが、あれはむしろマゼルの方が例外なんだろう。特に魔王復活後はこっちが一〇〇人超えていても向かってくるしな。ヴェリーザ砦の時とか水道橋巡邏の際に嫌というほど実感した。


 「それと、魔物とかは基本的に特定の範囲から出てこない。おそらく、縄張りと言うか何かそういうものがある。例外は魔将のような指揮官が率いている場合だ」

 「確かに」


 実際、ゲームだと橋一つ渡るだけで出現する敵が激変することもあるし。ゲームの場合はシステム的なもんだけど。俺はこれを縄張りと表現したが、他に説明する言葉が思いつかなかったからだ。


 もし魔物が自然災害なのだとしたら、通常出没する魔獣とかはむしろその地域での小さな地震のようなものなんじゃないかと思い始めている。逆の言い方をするなら、自然災害の少ない地域に大都市を作るのは人間心理としてよくわかる。

 だから王都周辺には強い魔物も現れないし、魔王城の近くの敵が最も手ごわいのは自然環境が厳しすぎて人が住めない地域という事の擬人化……擬魔化とでもいうのか、そういうものなんじゃないかと。スタート地点の敵が弱いのは舐めプじゃなくて半ば必然だった可能性があるわけだ。


 思い返してみるとフィールドマップでも敵が強い魔王城とかのあたりって大体において通行不能な山とかだらけだしな。この世界だと火山が魔王城のすぐ隣にあるし。仮に魔物とかいなくてもあんな山ばっかりで迷路みたいになってるとこ確かに住みたくない。まあ魔王城とかの事はひとまず置いておく。


 そして、もし自然災害と魔物が同じような役回りの存在なのだとすると、前世の日本も含む多神教国家では自然災害は時に神の管轄だった。日本での風神雷神なんかも自然災害の象徴みたいなものだし。

 ナマズが地震の象徴になったのは正直よくわからんが、まあそれでも災害を別の(かたち)で表したものだ。そういう、自然災害という概念が何らかの形で実体化したが、どこかに生物の影響を受けてしまっているのではないかという仮説を立てたわけだ。


 自然災害だとすると川一本でばっさり環境が変わるのはおかしいんだが、擬魔化して生き物としての感覚や思考を得たことにより、縄張りとかそういう考え方に引きずられるようになっていると考えると理屈が成り立つ。


 だがこの世界、自然災害という言葉がまず見当たらない。それに一神教だからそういう自然を擬人化するとかの概念もない。両方説明しようとすると二重に複雑になってしまう。理解してもらえればいいんだから縄張りとかの動物に例えて説明した方が早い。

 そう考えると魔将とか四天王ってのは広範囲に被害を出す広域災害の擬魔化なのかもしれんなあ。その辺もひとまず置いておこう。優先順位はまず魔将(ゲザリウス)退治だ。


 「実のところ怖かったのは、私がこれからやることを逆に敵にやられていた場合だった。つまり、少数の部隊で相手の領内を逆に襲撃する。それも連続してだ」


 人狼(ワーウルフ)クラスの魔物が数体いれば村辺りなら全滅させられかねない。繰り返されていれば被害は無視できないものになっていただろう。だが連中、それをやってこなかった。いつでも倒せると甘く見られているのがあるだろう。

 もっとも、一番怖かったのはもう一度王都に潜入されることだ。だから魔除け薬はほぼすべて王都で使ってもらっている。王都からは何も言ってこないし、その点は王太子殿下やその周囲にいる人たちを信頼するしかない。

 あれ獣化人(ライカンスロープ)って体じゃなくて人で数えるのか、それとも匹か?


 「多かれ少なかれ、指導者には立場ってものがある。魔将にもな」

 「魔将がですか」

 「強さだけがすべての魔軍で、逆に甘く見ていた人間から縄張りに攻め込まれているとかになったら大恥だろうよ」


 ホルツデッペ卿の疑問にそう応じる。実際、アーレア村で取引をしてやるという態度をとってきた蜥蜴魔術師(リザードマジシャン)とのやり取りの印象は強い。人間を見下している事と、稚拙でも駆け引きをすることがあるという点において。

 だからこそ敵を引っ張り出すことができるはず、という結論にたどり着いた。


 「まずは相手に恥をかかせるためにこちらから相手の縄張りに攻め込む。魔将を怒らせるために、だ」

長いのでもう一回分けます、ごめんなさい。


図を入れてみましたが、うーん……

我ながらもうちょっとわかりやすい図にならないかな(^^;)

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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろい! この図でもわかりやすいですよ!
[気になる点] この話でやっと自然災害と魔物についての考察がつかめた気がします。ヴェルナーが言いたかったのは、この世界ではゲーム的な表現として、魔物は自然災害の擬魔化として製作者(あるいは神?魔王?)…
[気になる点] 図は十分わかりやすいですよ。 それと同程度でいいので世界地図、とまではいかずとも簡単な各都市各地域の位置関係は見たいかも… [一言] ゲームでのモンスターの分布を、自然災害に例えて定義…
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