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誤字報告は…うーん…
今後もコメントが書き込まれるのが続くなら考えるかもです…
鋼鉄の鎚の面子から他にもここに来るまでの状況や王都での噂なんかを耳に入れる。それから寄るところがあると席を立った彼らが退出すると、俺も荷物の確認だ。
まずはマゼルから贈られた槍を確認する。今まで使っていた奴よりちょっと重いが、その分しっかりしている。少し慣らさないといけなそうだが確かにいい槍だ。今までの槍も使い慣れているとはいえ、さすがに少々くたびれてきているからな。
魔将が攻めてくる前に少し実戦慣れしておきたい。
それ以外の荷物は、と思って見てみると別の小さな荷がある。何だろうと思って開いてみたら手紙とハンカチ、それに絵だった。これは全部リリーからのか。
ハンカチにはツェアフェルトの家紋と花が一緒に刺繍されている。刺繍なんかも練習してるのか。絵心があるからなのか、全体のデザインセンスはいい。前世でも売れそうなレベルだ。
絵の方は決して大きくはない。前世で言うと縦四〇センチ、横三〇センチぐらいか。額や画材はいいものを使ってるな。この辺は父か母の手が入ってるかもしれない。絵は俺の部屋にあった花瓶と、そこに飾られたバラの花束。
サイズ的に小さいんで客間にとはいかないが、俺の部屋に飾るぐらいならちょうどいいだろう。正直、俺に花が似合うとは思えないんだが貴族の館に飾っておいても恥ずかしくない完成度なのはさすがだ。
実際の所、この世界でもそうだし前世中世でもそうだが、生花を飾るのは金と手間がかかる。全部手作業だし温室とかある方が珍しいからそれも当然か。だから貴族の館でも普段は花の絵をかわりに飾っていた。生花を飾るのはパーティーの時とかだけって家も意外と多い。そのせいで前世の美術館にはやたら花の絵が残ってるんだよな。
手紙の方はマゼルと会ったこととか近況報告、おや、あの護衛を任せた女性騎士さんと仲良くなったのか。それ以外は俺に対して体の心配ぐらい。王都での悪い噂とかは一切書いてない。気をつかわせてるかもしれないな。これから俺がやることを知ったらもっと気を遣わせそうだ。
この町、なんかリリーに贈れるようなものあったかな。確かトライオットとは銀製品とかを交易していたはず。トライオットとの流通は途切れているが市場には何か残っているかもしれないな。後で探しに行ってみよう。
続いてマゼルの手紙に目を通す。ふむ、やはり四天王一人目はゲームと同じか。とするとこれからの流れもゲームと同じでいいんだろう。マップも同じだったかどうか知りたい気もしなくもないがまあ贅沢は言うまい。家族に対する礼は流しておく。というか実質俺は何もしてないし。
それにしても、何気ない話にヒントがあったりするかもしれないが、やはり手紙だと情報量に限界はあるな。一度会いたいんだがこればっかりは難しいだろう。
……待てよ? 敵の配置がゲームと同じだとすると、王都を襲撃してくる四天王最後の一人のいるダンジョンは王都から見て西側にある。ひょっとしてこれは王都襲撃の防御を厚くする方向が限定できるって事にならないだろうか。少なくとも西門側に罠を仕掛けて置くってのは効果的なような気がする。これはちょっとチェックしておく必要がありそうだな。
それにしても王都でやりたい事ばっかりが増えていくなあ。そのためにもやることをやるか。はあ、胃が痛い。
ノイラートとシュンツェルを呼び地下牢に向かう。最初に討伐した賊は死刑にして、泥棒娘は罰金と引き換えに開放したから今日入った奴がいるだけのはずだ。
二人が不愉快そうについて来る。いや俺も不愉快ではあるんだけどね。内心苦笑いしながら人影のあるその牢の前に立った。中の男がこっちを見て驚いた顔をしている。
「まさか貴方様だとは思いませんでしたよ」
「お互い見たくない顔だろうからな。気分はどうだ、ラフェド」
レスラトガの工作員だった時はもうちょっと皮膚がたるんでいた記憶もあるが、少しはダイエットできたようで。皮肉っぽくそんなことを思いながらラフェドを見下ろす。どうやら奴はなぜ俺がいるのか理解できないらしい。探るような表情で口を開いた。
「はて、貴方様が死刑執行人という事ですかな」
「それが望みならそうしてやってもいいが、その前に少し働いてもらう」
ラフェドが目を瞬かせた。背中に目はないけどノイラートとシュンツェルが憮然とした空気を纏っているのがわかるが、我慢してほしい。
「先に言っておくが、リリーたちに手を出そうとしたお前を信用してない」
「……はっきりとおっしゃいますなあ」
「お前が断ったら、実際に死刑執行人になるだけだという意味でもある」
座り込んだまま繋がれた鎖の音をさせてラフェドが見上げて来る。どうせ上目使いで見られるなら美人にお願いしたい。中年親父にやられても嬉しくない。
「ここは最前線だ。魔軍が襲撃してくる危険性も高い。俺に協力しなければ俺が殺すが、俺が魔軍に負ければこの町も蹂躙されるだろうから当然お前も死ぬ」
「魔軍には内通もできませんからな。しても私が食われるだけでしょう」
「城外の治安もお世辞にもよくはない。一人で逃げだしても無事で済む保証はないだろう」
「なるほど、貴方様に協力する事だけが私の命を繋ぐ方法だという事ですか」
ラフェドが一つ溜息をつく。わざとらしさは感じるがまあいいだろう。頭の回転は悪くないというか、一国の王族から工作員を命じられていたぐらいだから状況判断力はあるはずだ。
そして第二王子派だったこいつは第一王子派が固めた国には戻るのは難しかろう。どれほど不本意でもしばらくは身の置き所を考えるはず。
少し考えていたらしいラフェドが口を開いた。
「子爵様にご協力すれば命は助けていただけるので?」
「保証する。その後も敵対するなという条件はつけるが」
これは嘘じゃない。というよりさすがに嘘をつく気はない。
「何をすればよろしいので?」
「その前に確認するが、商人で毒物にもある程度詳しい。それは事実か」
「事実です」
ならばよし。勝つためにこいつの知識は役に立つはずだ。戦国時代の武田信玄も“人を使うのではなく、その才能を使う”と言っている。せいぜい働いてもらうことにしよう。
「文官として数字を扱ってもらうのもあるが、お前の知識を使ってもらう。まず……」
説明を進めると最初は怪訝な表情をしていたが、だんだん顔が引きつってきやがった。確かに正攻法の戦い方ではない。とは言え、正攻法の戦いをやる気もないんでね。
「そこまでするような必要があるという事ですな」
「そうなる。お前の生活費や必要予算は俺が出す。ああ、行動は制限しないが見張りはつけておくぞ」
「承知いたしました。こうなったら私も覚悟を決めますよ」
万一逃げたら逃げたでどうにかするが、奴もまずは町の状況や周辺情報を集めようとするはず。何か企んでいたとしてもしばらくは大人しくしているだろう。
まず全員にラフェドの顔合わせをしておいて、ついでにノイラートとシュンツェルのストレス解消も含めて、運動がてら槍をちょっと慣らすか。新しい重さに慣れておかないとミスをするかもしれん。忙しくなる前に勘を掴みたいな。




