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皆様、いつも感想、ご指摘、評価、ありがとうございますー!
リリーの出番不足を残念に思っていただいているのが
申し訳ない反面嬉しいです
着任当日の宴では対応が見事に分かれていて面白いぐらいだった。大きく分けると腐っても伯爵家の息子だし顔を繋いでおこう派、王都にさっさと戻ってくれないかな派、若造を今のうちに利用してやろう派だ。
最後の派には「伯爵家嫡子に娘が手籠めにされた」という形式を作ろうとした奴もいて、父親がやたらと俺に酒を勧め、宴が開催されている間に娘が代官館の俺の寝室に忍び込もうとしていた。予想していたんでケステン卿に俺の寝室に待機していてもらい、宴が終わる前の時間にその場で捕縛してもらったが。
代官館への無断侵入の現行犯になるんで、若い女の子でも躊躇なく牢獄に叩き込むよう指示を出した。そうしたら翌日父親がのこのこ“娘の暴走”を謝罪に来たんで、俺が最初にアンハイムで出した指示を知っているか、と聞いたら蒼白になっていた。なんせ最初に出したのは山賊の処刑命令だからな。
その日は罪は罪だ、と父親を追い返し、山賊どもの絞首刑が終わってから、侵入は罪だが被害者はいなかった、という事で罰金刑にした。とは言え結構な金額だった上、法的には罪人となった娘が嫁ぐ先を探すのは大変だろうが俺は知らん。
ちなみにその罰金は全額酒に換えて着任した代官からの贈り物として町中に配った。
その後にも町の顔役の一人が難民の女性に乱暴を働いていた事を確認したんで、そいつの住居にノイラートとシュンツェル、ゲッケさんたちの傭兵団を率いて突入するようなこともした。乱暴犯本人はその場で切り捨て、生き残っていた取り巻きどもは全員トライオット方面に追放。
何人かの誓約人が寛大な処置を求めてきたが容赦する気はない。なんでも誓約人の弟が取り巻きにいたらしいが、だからと言って妥協はできない。ちなみにこれをやったら代官付きの騎士や兵まで大人しくなった。お前らなあ。
一方で民政の方は半分以上ベーンケ卿に丸投げしているが、治安維持と食料品の確保だけはとにかく最優先で行ってもらっている。魔軍が攻めてきてから食料品を買い集めるのは難しいんで、今のうちから少しずつ備蓄を増やしていかないと。
それと並行して行っているのは衛生面だ。難民に日当を出し町の警備隊と協力させつつ街路掃除などを行わせ衛生面を確保している。よく言われることだが中世の町は決して綺麗じゃないが、それはこの世界の地方都市でも同様。
理由の一つは家畜だ。町中で豚とか牛とか飼っているんだが、焼き印が押されているだけで放し飼いになっていたりするんだよ。普通の家には冷蔵庫はないし塩だって安くない。という訳で家畜を生かしておくのが肉の新鮮さを維持する最良の方法だ。それが町中であっても。
それはいいというか仕方がないんだが、所有者はもっとちゃんと管理しろ。前世で犬の糞が道路に転がっていたように、豚とか牛とかの糞が道で無造作に放置されているのは流石に耐えられん。籠城戦の最中に家畜の糞から疫病発生とか、嫌だぞ俺は。
結局、町全体の掃除をさせることと、家畜の管理をおろそかにしている家には罰金を設けることに。衛生面の重要性はこの世界でもまだ一般的じゃないからその辺の周知が課題だな。
館で働く人間は難民と町の住人から半々ぐらい雇ったが、使用人に関しては面倒なんで高齢の男女ばかりにした。年齢が若いなら町での労働力としても働けるだろうし、なにより若い女に色仕掛けとかされる手間は省きたい。
そうしたらなんか知らんが「代官殿には王都に婚約者がいるらしい、だから若い女性に興味を持たない」とか謎の噂が流れていた。そんな事実はないんだが面倒なんで放置してある。誤解でもなんでも変なのが寄ってこないのはありがたいし。
ちなみに前世中世だと貴族には早くから婚約者がいるイメージがあるが、この世界ではそうでもなく、学生の頃に相手を見つけることも多い。幼いころの婚約は大体が親とか家の都合だ。いや前世でもそうなんだが前世の方は理由が深刻。
なにせ前世の中世、死亡率が高い。中世と言うと範囲が広すぎるが、中世中期ごろの統計例で言うと、貴族家当主が死亡した際に跡継ぎの子供がいなかった家が二割もある。しかもこれは子供がいない家だけだ。女児しかいなかった家がさらに二割。その上、この数字はあくまでも子供がいたという話限定。中には当主の病没時に奥方も既に死亡していて、月齢三か月の乳幼児しかいなかったなんて事さえある。
その結果どうなるかというと、一三〇〇年にイングランドの伯爵家は十七家あったが、一四〇〇年まで存続していた伯爵家はそのうち僅か三家しかない。断絶して別の貴族家が伯爵家としてその領地を支配するようになったとか、当主がいなくなったから他家に領地を吸収されたとかの方が圧倒的に多いんだ。
結果、守るべきは個人より家が重視されるし、現当主からすればそのためにも孫は多い方がいい。その観点での婚約なんで幼い頃に相手は決まるし、子供が孫を産めるようになった途端、監視付きで当主から強制的にベッドインさせられた例まである。
そんなことしたらかえって母体を痛めそうな気もするんだが、その辺も含めて医学が未熟だったということになるんだろう。
ところがこの世界、ポーションやら魔法やらという、前世から見れば謎の存在がある。急死してしまった場合はまた別にして、前世で言えばインフルエンザの発熱ぐらいじゃ死なない。魔法恐るべし。大金の治療費を払える貴族の乳幼児死亡率も前世と比べればかなり低くなる。
という訳で早いうちから孫を目的とした婚約をする必要もなく、家の格に問題がなければ学生になってから相手を見つければいい、という考えが珍しくない。俺の兄には婚約者がいたがこれは相手の家の都合だったはず。
むしろ貴族家間では子世代の恋愛は駆け引きの材料にさえなる。露骨な表現をすると「お宅の息子さんがうちの娘に惚れ込んで婚約を申し込んできたんですよねぇ。婚約してもいいですけど、見返りは?」という訳だ。うーん黒い。
そんなわけで特に婚約を急ぐ理由もなかったこともあり、俺には婚約者とかはいないんだが、そんなことよりもそもそも学生を続けられるんだろうか。非常に難しい気がする。今考えてもしょうがないか。現実逃避じゃないぞ。
それはともかく、着任から半月ほどの間にいくつか手も打った。王都に使者を出して予算と物資を借用する依頼も出した。賊の方はホルツデッペ卿に命じて当面は他の地方との流通だけは維持させている。
徐々にではあるが支援隊も形になってきているし、周辺村落の備蓄なども把握できた。これで地図とあわせれば兵を動かす際の補給線を確保できる。
「ケステン卿、支援隊はどうだ」
「集団行動にはだいぶ慣れてきましたが、まだ実戦に出せるほどではありませぬな」
「警備隊との関係はどうだ」
「縄張り争いみたいなものはありますが、それはお任せを」
「わかった、任せる。当面は弩弓や投石紐の訓練を中心に続けさせてくれ」
「はっ」
現状で志願兵になるような人たちは、食いっぱぐれていた奴がいる一方で、家族が殺されていたりする人もいる。戦意の高すぎる人と、とりあえず兵になりましたって人が混在している状態だ。まだ無理はさせられないか。
とりあえず魔物相手でも怯えることなく城壁上から弩弓を打てるぐらいにはなってほしい。
「ベーンケ卿、書類の方はどうだ」
「役人たちが見やすくなったと喜んでおります」
「だろうな」
王都でもそうだったが地方の俺様ルールの酷い事。代官に陳情する書状を例にすると、Aギルドからの場合は「陳情者名、本文、確認者名、ギルド長名」の順で書かれていた。
確認者って言うのは陳情者が他人の名を騙って書いたものじゃないという証人、ギルド長署名はギルドで出すことを認めた証拠のこと。もし文字の書けない人間が陳情するときはさらに代筆者名がある。
ところがこれがBギルドからの書類は「ギルド長名、本文、陳情者名、確認者名」の順番。Cギルドだと「本文、ギルド長名、陳情者名、確認者名」の順という具合でばらばら。要するにギルド内の書式が優先されていた。
なのでアンハイムでは今後必ずこの順番で書け、と書式を統一するように指示。その書式で書いていないものは自動的に差し戻しだ。不満も随分出たが放置。慣れればそのうち落ち着くだろう。
「賊の動向は?」
「最初に躊躇せず死刑としたため、賊が集合しつつあるようです」
「その方がありがたい。一〇人、二〇人とかの小集団をあちこちで追いかけまわす方が糧食への負担が大きい」
ノイラートの報告に頷いて答える。わざとそのために賊が集結する時間を与えているとさえいえる。他の地方を治める代官のグレルマン子爵とツァーベル男爵には賊を追い返してくれればそれでいいと依頼してあるし。
とはいえこの世界なんで、あの人たちも遠慮なく討伐してるんじゃないかという気もするけど。治安回復につながるならどっちでもいい。
地図の上にコマを置いて全体を見ていると、他の集団はいいとして、一個だけ面倒なのがある。ここは平地の中でぽかっと高くなっている丘だ。ありていに言えば俺だって野戦陣を張るならここを拠点にするって場所。嫌なところに居座られているな。
「国境、敵の動きは?」
「こちら側から対岸を見た限り、目立った動きはありませんでした」
国境偵察の責任者はシュンツェルだ。トライオットとの国境には橋のない川が横たわっている。そういえばゲームではトライオット方面には川があるだけで直接移動できなかった。この辺はシナリオ上の都合かね。
だが現実ではそうもいかない。難民だって必死になれば渡って来れる川だ。魔物の身体能力ならどこでも渡って来れそうだしなあ。川を防衛線にする選択肢は難しい。
相手が魔軍だとよくある川をせき止めておいてタイミングを見て押し流すってのも使えそうもないな。うーん。
「ヴェルナー様、王都から来客です」
「俺に?」
門番からの連絡を取り次いだフレンセンがそんなことを言ってきて、うっかり俺とか口走ってしまった。客が来るとは聞いてないんだが。
「はい。王都からの物資護衛に同行して到着した鋼鉄の鎚がお会いしたいと」
出てきた名前にちょっと驚いた。いやまあ冒険者ならどこにいても驚くことじゃないが、また妙なところでその名を聞いたな。
物資受け取りの件もあるし、気分転換も兼ねて会いに行くか。ついでに確認しておきたいこともあるし。
昼間の暑さにやられているのかクーラー病なのかどうも体調がよくありません
皆様もお体にはご注意くださいませ
★繰り返しになりますが、重ねてのお願い★
いつもお読みいただきありがとうございます。
皆様の応援や評価、感想があってこそ更新が続けられておりまして、
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つまり、括弧書きで修正意図とかが書き込まれていると、
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作者にはどうすることもできません。
報告そのものを削除するしかないのです。
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