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――11――

 本陣から合図の音が響き、その音と同時に目の前で戦っていた騎士団が向かって右手側、外周の方に向かって駆け出していく。この状況であそこまで統率されているのはすごいな。流石本職の騎士団。


 「突撃っ!」


 俺が指示を出すと急遽編成された本隊右翼二〇〇人強が姿を見せた敵に一斉に襲い掛かる。騎士団を追いかけ俺たちに側面を向けていた魔物軍は状況の変化に付いていけなかった。

 一体のゴブリンに三本とか四本の槍や剣が刺さり血しぶきをあげながらうめき声さえ出せず倒れる。俺も一体のコボルド(多分)の喉をぶっ刺して(たお)した。

 各小隊長が指示を飛ばすと刃物の塊が一斉に動いてその周囲の魔物を串刺しにしていく。ばたばたばたっと魔物の死体が量産された。


 「よし、後退!」


 中隊長に聞こえる様に俺が声を上げるとすぐ小隊長まで指示が伝達され、本隊右翼ことツェアフェルト隊が多少不揃いながらも素早く後退する。

 空いた隙間に本陣の魔法隊が魔法を叩き込み、更に数少ない弓兵の矢も飛ぶ。敵左翼の足は完全に止められた。


 「見事な指揮です」

 「いや、殿下の事前指示通りだから」


 謙遜じゃなく事実だ。先にやる事が解っているんでその通りに声を出しているだけ。生き残る事が最優先だからと目先の戦果に喜んでいないのが落ち着いて見えているのかもしれん。

 そんなことを話していると、右翼の更に右手側に抜けた第二騎士団の使者がこっちに向かって来た。驚いたような表情を浮かべている。


 「第二騎士団所属、バヒテルと申します」

 「ツェアフェルト伯爵家のヴェルナー・ファン・ツェアフェルトだ。バヒテル卿、ご苦労」

 「ツェアフェルト家の方でしたか。お若いと思いましたが」


 若くて悪いな。俺だって何で俺が指揮執ってんのかわかんねーよ。


 「右翼のこの後の動きについてご相談したく」

 「本隊からの指示は?」


 向こうの方が二〇歳は年上っぽいが戦場だし状況的にもこの言い方でいいだろう。バヒテル卿も文句はないようだ。


 「一撃を加えた後は協力して敵を追い返せと」

 「協力の仕方か」


 少し考えて確認する。


 「第二騎士団の疲労度はどの程度だ?」

 「万全とは言えませんがまだしばらくは問題ありません」


 さすがにタフな事で。ならむしろこっちは任せるべきだな。


 「解った。そのまま右翼に入って本隊側面を守備する位置にまわってくれるよう伝えてくれ。俺の隊は本隊中央の前衛支援に向かう」

 「……承知いたしました」


 現在本隊は相手に一撃を加える為とはいえ、王太子の近衛まで剣を抜いている状況だ。相手が中央突破を狙ってきたら数で近衛が圧倒される危険性もある。

 騎士団が左右に分かれた結果、本来なら本隊の前衛にいるはずの第一騎士団は全軍の左翼の更に外側に逃れて、再編成された左翼ノルポト侯の部隊と共闘しているはず。

 ちなみに左翼の状況は伯爵家隊が抜けた後の事はさっぱりわからん。教えてもらっても何もできないから知らぬが仏と言う事にしておく。この世界に仏様はいないが。


 微妙な沈黙の裏には騎士団にしてみれば近衛の前に立つのは自分たち騎士団であるべきだという考えもあるんだろうな。

 だが現状、最右翼と最左翼に騎士団が解れている以上、敵と味方の間を通り抜けないと本隊前には移動できない。

 そんなことをしたら他の部隊が混乱する以上、玉突き的に今現在本隊のすぐ右側にいる俺たちが本隊前に移動する方が早い。


 「ですが、伯爵家隊の方は疲労は大丈夫でしょうか」

 「あーまあ、きついはきついが」


 ついでに言えば本当はそんなあぶない事やりたくない。しかしここで大将でもある王太子が戦死でもしたら全軍瓦解して怪物の波に飲み込まれるのが落ちだ。

 何とか持ちこたえて小細工が有効なうちにマゼルが魔族を斃してくれるのを祈るしかない。

 ……死にたくはないから逃げる方法も考えておこうかとは思ったが、TPO的にそんなことをここで言うわけにもいかないだろうな、さすがに。

 

 「余裕ある部隊の方が存在していないだろう。ならできる奴がやるだけだ」

 「それは確かに……」


 そう言ってバヒテル卿が頭を下げた。


 「ツェアフェルト卿のご決断に感謝いたします。必ず右翼は我々が維持いたします」

 「うん?」


 そこまで頭下げられることか? と思ったがバヒテル卿は身を翻して走り去ってしまった。代わってマックスがそばに寄ってくる。返り血とかすごすぎて怖いぞ。


 「どういたしましたか?」

 「副将がわざわざ来るなよ……と言いたいがちょうどいい。ツェアフェルト隊は中央本隊の支援に向かう」


 俺の指示に驚きの表情を浮かべたマックスだが、急に納得したように頷いた。


 「なるほど。王太子殿下の盾になると……。騎士団の者があのように感動した表情を浮かべるわけですな」

 「……あー、そうなるの、か?」


 時間稼ぎはするがいざと言うときは逃げる気だったんで盾になるとか忠誠心とか自己犠牲精神と勘違いされるとむず痒い。

 だがこれ以上問答してる暇もない。


 「もう一度前に押し出して敵前面を突き崩す。そのまま足を止めずに中央に向かい本隊の前に出るぞ」

 「了解致しました!」


 マゼル、なるべく早く頼むぜ、ほんと。生き残ってたらメシぐらいおごるからさ。

 神様を信じない元日本人らしく、俺は神様より勇者に祈ると槍の具合を確かめなおした。

この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…


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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦場の空気を感じ取れてとても面白いです。 [気になる点] こういう戦争を描写している作品を読んでいると、軍隊の右翼や左翼と言う表現が大抵出てくるわけですが、私は頭の中で軍隊の位置が描けず、…
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