手がかりを求めて
影人が同じ魔法使いだと判明した翌日、落ち着ける場所、放課後の誰もいない図書室の一角で今後について話し込んでいた。
机の下にはサラマンダとエクリプスも顕現して会話に加わっている。
『問題はどうやって精神世界の穴を探すかだ』
魔法使いが魔物を倒すのは対症療法的な物でしかない。
精神世界の穴が開いている限り魔物はどうしたって生まれ続けるし、ここ最近は頻度も規模も上がってきている。
『穴が広がっている可能性も考慮せねばなるまい』
当然、開いた穴の大きさによって願いの叶う力が漏れだす量も大幅に変化する。
穴が大きくなればなるほど人から溢れた負の感情は形になりやすく、また強力になってしまうのだ。
「といってもな、どうやって探せばいいんだか」
とてつもなく大きな穴であれば精霊が察知することは難しくないが、そこまで規模が大きくなってしまえば手遅れだ。
だがせいぜいが握り拳程度の大きさの穴を当てもなく探すのは砂漠から針を見つける行為に等しい。
この町のどこか、という限定的な範囲ではあるがそれにしたって嫌気が差すほど広い。
光輝は3年間ずっと探し続けてきたのだがその片鱗はおろか、手がかりすら見つけられなかったのだ。
ましてどこかの家の屋根裏に出来ていた、なんてことになったら見つけようがない。
しかし影人とエクリプスの合流によってこの問題に一定の手掛かりが見つかった。
『誰かが穴を悪用しているのは確かだ』
エクリプスが低い声で言う。
精神世界の穴はこの町のどこかに開いているというのは精霊にとって共通の見解だ。
そして精神世界の穴がある場所にしか魔物は生まれない。
にも拘らず、影人はここに来る以前に住んでいた場所でも、頻度は低いながら魔物を討伐していた。
この町で発生した魔物が移動した可能性も否定できないがそれにしては頻度が高い。
何者かが人為的に魔物を遠くの街へ運んだとしか思えなかった。
「魔物を撒いて何か意味があるのか?」
先ほどからその行為の意味にずっと頭を悩ませていたのだが、光輝には慣れない作業で疲れたらしい。
げんなりと机に突っ伏して降参とばかりに手を上げる。
「解せんのは闇の化身たる俺がいる街にしか出現していない事だ」
過去の新聞を幾ら漁っても魔物に襲われた、などという記事は見つからない。
魔物は非常識な存在ではあるが、幽霊ではない。実体を持っているから掻き消える事なんてできないし、ただでさえ目立つのだ。
そんな魔物がもし本当に色々な町に撒かれているのならもう少し目撃情報があってもいいはずだ。
「誰かが、影人を狙ったってこと?」
『可能性は高い。……だからこそ、お前を試さずにはいられなかった』
エクリプスが机の下で神妙にそう言った。
『何か糸口でも見つかるかと思ったが、あの変態との契約なら……納得はできる』
精霊によって絶対に必要な契約条件とはいかないまでも、求める条件はあるのだという。
その一つが契約者の悪意の総量だ。
魔法はそれだけで圧倒的な力を術者に与えてしまうが故に、悪用されて世界の均衡が崩されるのは精霊の目的に反する。
だからこそ契約の前に契約者の悪意の量を観測することになっている。
『アウローラの契約条件、純然たる乙女であること、は平たく言えばその明文化なのだ』
『だからといって身体を作り変えるなど、変態、悪趣味の一言に尽きるがな』
エクリプスが再び跳ねると、今度は優衣の足にそっと触れる。
『そしてこの異常な適正と魔力……。何か手がかりがあるかと思ったのだが、的が外れた』
精霊は触れることによってその人物の魔力や適性が判断できるらしい。今までもそうやって契約者を探してきたのだという。
がっくりと肩(?)を落とす青い兎に優衣はおずおずと手を伸ばした。
その指先が毛並みにふれると、細く柔らかでいて適度な弾力を持つ極上の毛並みに思わずため息を漏らす。
『どうした?』
机の下にいるエクリプスは優衣の蕩ける様な表情が見えておらず怪訝な声を漏らした。
直後、伸びてきたもう一本の腕によって小さな体ががっちりと抑えられ胸元へと吸い寄せられる。
「これは癖になるさわり心地……」
『やめんか! は、離せ!』
もふもふと体中を撫でられ頬ずりされたエクリプスが抗議の声を上げるが優衣には全く届いておらず幸せそうな表情で抱きしめて離そうとしない。
それもそのはずで、優衣は毛のもこもこした小動物が大好きだった。
腕の中で暴れるが精霊の物理的な力は大して強い物じゃない。ましてその憑代が兎となればなおさらだ。
『影人! 助けろ!』
自分では脱出できないと踏んだエクリプスが、彼の尊大な口調と正反対の円らな瞳を影人に向ける。
「無様だな。罪滅ぼしの為にアイアンメイデンに抱かれるのも仕方あるまい?」
だが影人から帰ってきたのは、この間悪いことしたし少しは好きにさせてやれと言う優衣寄りの意見だった。
返す言葉もなく唸り声を上げるが、確かに策を提案したのは自分だが実行したのは影人だと開き直る。
一瞬だけ束縛の力が弱まったのを見計らってどうにか腕から逃れると優衣の真正面に構えて言った。
『娘、条件がある』
逃すまいと再び伸ばされた優衣の腕がエクリプスの声によって停止する。
「条件?」
『そうだ。我を抱えるというのであれば、同じ時間だけあれを抱きしめろ』
そういって小さな前足でびしりと影人を指さした。とんでもない提案に影人が呆れたように口を開く。
「馬鹿か、そんな条件飲まなくとも」
幾らでも勝手に触ればいいと優衣に告げようとして目線を合わせると、瞳には両者を見比べ真剣に熟考している姿があった。
「悩むな!」
影人の一世一代のツッコミに、しかし優衣はどうしてとばかりに首をかしげる。
「エクリプスの甘言に惑わされるな。別に条件など不要だ。俺が許す、好きなだけ構ってやれ」
『っく! 娘、暴れる我とそこはかとなく擦り寄る我、求めるのが後者であれば条件を忘れるな。一度でも条件を違えば後者は二度と訪れぬことを精霊の名を以って宣言する!』
逃げ出そうと必死に暴れる小動物もそれはそれで魅力があるものの、懐いて擦り寄ってくる魅力には遠く及ばない。
ますます真剣さを増していく優衣だったが、机の下から何をしているんだと窘めるサラマンダの声によって現実に引き戻された。
『そろそろ本題に戻れ』
優衣は名残惜しそうにエクリプスから視線を戻すと、そもそも何を話していたのかたっぷり3秒をかけて思い出す。
それから話を整理して思った事を話し始めた。
「ボクは魔物を運んだ線はないって思う」
『何故だ?』
「多分それよりもっと簡単な方法があると思う。ねぇ、開いてる穴が大きくなってるかもしれないんだよね?」
サラマンダとエクリプスはその問いに大きく頷いて見せた。
「どうして大きくなったの? そもそもどうして穴は開いたの?」
だが次に発せられた疑問に関しては答えることが出来ない。彼らにもそれは分からないからだ。
「もう一度確認したいんだけど、穴が初めて開いたのは15年前でいいんだよね。そして、2年後に閉じた」
『そうだ。間違いない』
それを聞いた優衣は一度席を立って、学校の図書室に併設されている資料室へと消えていく。
10分くらいだろうか、戻ってこない優衣に痺れを切らした二人が様子を見に行こうと立ち上がりかけた時、資料室から数冊の本を持って戻ってきた。
所々埃で汚れているそれは、長い間誰も触れていない事を意味している。
元々資料室の中でも特に人気がない、この町の歴史をまとめ上げた物だから仕方ないと言えば仕方のない事なのだが。
その内の1冊を開きながら優衣は言う。
「これはボクの想像だけど……穴は偶々開いたんじゃなくて、誰かが故意に開けたんだと思う」
『馬鹿な……。そんなことが出来る筈が』
ありえない、といった口調で否定する精霊の前に、あった、という声がして本の一ページを指し示した。
「昔お父さんが調べてた事件があるんだ。光輝も知ってると思うけど、15年前、魔術結社っていう組織が大きな誘拐事件を起こした」
事件の切り抜きと概要が貼られたファイルには「連続誘拐事件!? 怪しげな組織の全貌を追う」という煽り文句と一緒に細かな文字でもって当時の事件の詳細を綴っていた。
魔術結社が何をやっていた組織なのかは未だ全容が掴めていない。
わかっているのはこの組織がかなり大規模な宗教法人で怪しげな儀式を秘密裏にしていた、ということだけだ。
宗教法人として成立したのは20数年前だが、組織自体はもっと前から存在していたらしい。
教義は真なる意志の探求と永遠の至福、世界平和の実現という、何とも壮大な物だが、他の宗教と大きく違っている点がある。神を崇拝しているわけではないのだ。
この組織はかつて世界最後の魔術師、或いは最大のペテン師と呼ばれたクロウリーの記した法の書の内容を基盤に独自解釈を行った物を教典としていた。
法の書の中には今まで崇められていた神々の時代が終わり、人が神になるという一文が書かれている。
――汝の意志するところを行え。それが法の全てとならん――
法の書で最も有名な文言はこの一文だろう。
これはなんでも好き勝手にしろ、という意味ではなく、自分の中に確固たるものを築き上げ行動しろという意味だ。
神に豊作を祈るのではない。雨を乞うのではない。助けを求めるのではない。
自分自身で豊作にするためには何をなさねばならなければ考え、雨がなければどうするべきかを考え、助けを求めるのではなく、助かる方法を思案するのだ。
それこそが、人が神になるという事。自分の力で未来を切り開くという事に他ならない。
神への祈りなど必要ない。大切なのは自分を信じる事。
年に何度かセミナーも開いていたようだが、そのどれもが神は素晴らしいと説くのではなく、現実的な環境問題や政治問題を上げ、どう思うか、どうすればいいかを参加者や信者で議論するという、宗教とはかけ離れた学術的な様相を呈していた。
そんな一風変わったこの組織は世間にも受け入れられていて、信者だと知られても嫌な顔はされない。
宗教と聞くと勧誘が頭に浮かぶのだが、自らの意志で入らねば意味などないとして他者の勧誘を一切禁止していたからだ。
やっていることも他の宗教と違って、自分で考える力を養うという自己啓発の一種だ。
信者向けに催されている定期的な会合も中身はセミナーと同じ、テーマに対して自分の考えを纏めて他人との違いを知るという、ディベートのようなものとなれば宗教臭さはほとんど感じない。
だがそれはあくまで表の顔に過ぎなかった。
法の書を書いたクロウリーは魔術師でもあって、それを教典として掲げていた彼らもまた魔術師たらんとしたのだ。
信者には大きく分けて2種類いて、平たく言えば魔術師と一般人。
一般人は表の顔しか知らないごく普通の信者。対して魔術師は組織の裏の顔に関わっている信者だ。
魔術師と言っても優衣達の様に本当に魔法が使えるわけではない。
毎日毎日宗教法人の一区画に暮らし、本物の魔術を実現せんと日々厨二病を全力投球していた人々だ。
どんな魔術を実績していたのかは記録に残っていない。
しかし、彼らが魔術に使う為に7人もの生まれたばかりの新生児を2年に渡り拉致監禁したのは事実だ。
事件が発覚するのにこれ程時間がかかってしまったのも、犯人が彼らだった事が大きく関係している。
驚くべきことに、魔術師の大部分は施設に用意された秘密の居住区画の外に殆ど出ていないのだ。
彼らは皆家族を失った者や行方をくらましている者、居場所を失った者で長い間誰とも会わずとも不自然でなく、それ故に捜査線上に浮上しない人物だった。
事件が発覚したのも良心の呵責に耐えられなくなった魔術師の一人が通報したからであり、もしそれがなければ事件は迷宮入りしていたかもしれない。
完璧に隔離された場所ほど情報の機密性が高い場所はない。
子ども用の何かを運び入れたとしても、なまじ巨大法人というだけあって疑われることもない。
宗教法人そのものが誘拐に関与していると考えなかった警察が犯人を見つけられなかったのも無理はないだろう。
そもそも、誘拐後一か月連絡がなく、多発した事から身代金目当ての誘拐ではなく、歪んだ連続殺人犯だと断定していたのだから。
まさか2年もの間健康状態にも気を使われ育て上げられていたとは思うまい。
2年ぶりの我が子との対面に諦めていた親は感動の涙を流したと世間を大いに騒がせた。
ただ被害者の情報は全てが完璧に規制されていて世間には知られていない。
「誘拐事件は15年前。解決したのが2年後。やっていたことは魔術の実績。これって全部偶然なのかな」
優衣の言葉にサラマンダとエクリプスは目を丸くして記事を眺めていた。どうやら彼らも文字は読めるらしい。
その言葉通り、魔術結社の誘拐事件と精神世界の穴の出現時期は完全にピタリと符合している。偶然にしては何もかもが出来すぎていた。
「でも、これはもう解決して関係者はみんな逮捕されただろ? この組織もその後すぐに潰れたらしいし」
光輝が言うとおり、この宗教法人はとっくに潰されて後釜になっているような物もない。
「そうなんだけど……これを見て」
そう言って優衣は持ってきた別の本を開いて見せた。そこには誘拐事件の裁判の結果が載せられている。
被害者は7人もいたが健康被害がなかったことで多少の恩情を受けた結果、刑期は10年で確定したという一文を読んで、今度は影人が瞠目する。
「……3年前の契約と、同じ時期だと」
事件が起こったのは15年前。解決したのは13年前。そして刑期を終えて釈放されたのが、3年前。
ここまで時系列が完全に一致した上に魔術という非現実的なキーワードまで出揃えばもう偶然とは言えない。
いや、たとえ偶然だったとしても調べてみる価値は十分にある。
『まさか、精神世界と通じる魔術を研究していたというのか……? 馬鹿な、願いを叶える力、魔法は精神世界の穴が開いてこそ使えるものだ。何もない所で使えるはずが……』
サラマンダはそう言うのだが、言葉はどこか懐疑的で震えているようだ。
「まさか他の使える方法があるのか?」
光輝の問いに、しかしサラマンダは何事かをぶつぶつと呟くだけで答えず、代わりにエクリプスが引き継ぐ。
『可能と言えば可能だが、不可能だな』
「はっきりいってくれ」
曖昧な物言いに光輝が問い詰める。
『理論上は可能だ。ただひたすらに願えばいい。精神世界にある願いを叶える力は、本来どんな人間にも微弱ながら備わっている。それが魔力の一端でもあるのだからな』
エクリプスの答えに3人は驚いた顔を見せる。それはつまり、本来は誰でも魔法を使えるという事なのか。
『それはない』
けれどエクリプスは否定する。
確かに本来人は願いを叶える力を持っているが、それを意図的に発現させるには少なくとも数百年単位で願い続けねばならない。
ましてや、願ったことを疑ってはいけないとなれば難易度は跳ね上がる上に、数百年も人は生きられない。
理論上は可能だとしても机上の空論どまりで現実的に実行するのは不可能なのだ。
「んと、これもボクの想像なんだけど」
けれど優衣はバッサリと切り捨てられた不可能の言葉にもめげずに一つの可能性を示唆する。
「多人数で同じ願いを願ったらどうなるの?」
1+1は2。願いを叶えようとする人の分母が増えればそれだけかかる時間は短くなるのではないか。
『短くはなる。……まさか』
「そのまさか」
魔術結社の自称魔術師が秘密裏に行っていた魔術とは、その願う行為なのではないか。
一体いつから彼らが存在していたのかは分からないが、宗教法人と認められたのが20年前だとすると事件まで5年ある。
5年の間に数十人でひたすら、同じ何かを願い続ければ或いは精神世界へ小さな穴くらい開けられるのではないか。
『不可能だ。』
だがいつの間にか自分の世界から抜け出したサラマンダは優衣の言葉を否定した。
『そもそも我々は精神世界という、異なる概念と理を持つ世界を知っているからこうして話が出来ているに過ぎない。何も知らない彼らにはそんな願いを思い浮かべる事すら不可能だ』
言われてみればその通りだった。
こうして精霊という異分子と交流しているからこそ精神世界の存在を知ったのだから、精霊を知らない当時の彼らがこんな突拍子もない世界に至るはずもない。
何らかの精霊が知識を授けたのかと思いもしたが、精霊が生まれたのは15年前の穴が開いた時だ。辻褄が合わない。
『だがその魔術結社とやらが怪しいのは違いない。手がかりが何もない今、調べてみる価値は十分にある』
「だとしたら、一番怪しい人はこの人だよ」
そう言ってまた別の本の1ページを開いて見せた。
法廷画に描かれた被疑者、いや、魔術結社の幹部にして誘拐事件の計画者とされた、人のよさそうな顔をした男性。
写真の下には磯野宝治(56歳)と名前が付けられている。
「3年前に釈放された中で一番偉いのはこの人だから。もしかしたら何か知ってるかも」
特徴を捉えた絵ではあるのだが、やはり写真には遠く及ばない。それに10年も経って顔つきは変わっているかもしれない。
「10年か……ちょっと待ってなー」
光輝も同じ疑念を抱いたのか、鞄から紙とペンを取り出し、さらさらと猛烈な勢いでなぞり始めればあっという間に人の顔の形になってくる。
「10年だとこんな感じじゃね?」
サブカルチャーが好きな彼は年に2回行われる祭典に、ネット上で仲間を集めて絵師としてサークルに参加している。
外見から全く想像できないが、絵に関してだけは異常なほど上手かった。
皺やたるみを生々しく追加した絵は異様なほどリアルなのだが、当然見たことがあるはずもない。
「まぁ、普通見たことないよな」
「街中を歩く人の顔をいちいち観察なんてしないもんね……」
「髪型一つで纏うオーラも変わるからな」
影人の髪型、という言葉に反応して、優衣は頭の中で描かれた絵の髪型をいくつか考えてみた。
スキンヘッドや波平スタイルが一瞬頭をよぎって笑いそうになるのをこらえつつ幾つか想像するのだが、知っている髪型のレパートリーは少なかった。
優衣の髪型は殆どがロングのストレートで、体育の時三つ編みにするくらいだろうか。時々雫に遊ばれているが、それは思い出したくないので記憶の狭間に封印した。
モヒカン、七三、オールバック、刈り上げ……どれもしっくりこないような気がする。そもそもこれらは髪型だったろうか。
精々マシなのはオールバックじゃないかと思ったところで、不思議と何かを思い出しそうになる。
「そういえば、優衣はどうして誘拐事件の関連性に気付いたんだ?」
なんだったろうかと考えていた所に、突然光輝の声が聞こえて優衣の意識は慌ててそちらを向く。
「最近お父さんが調べてるのを見つけて、あれって思って」
「そっか、優衣の親父さんは記者だったっけ」
なるほどと光輝が頷いた時には、優衣が思い出そうとしていた記憶の断片は綺麗になくなってしまっていた。
「そうだ、ちょっとお父さんに事件の事とこの人の事聞いてみるよ。もしかしたら何か知ってるかもしれないし」
事件の重要人物ともなれば当然記者として調べてはいるだろう。
どうにか手がかりらしいものに辿りついた3人が一息ついて時計を見上げれば6時半を指しており、外はもう真っ暗になっていた。
ひとまずまた明日、と手を振って優衣と光輝は一緒に、影人は途中で分かれて家路につく。
暗いから送っていこうかという珍しい光輝の提案をやんわりと断った優衣は急いで家まで自転車を転がすのだった。




