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花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
最終章:黒の皇子は三度生まれる。
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其は皇子の誇りと愛。 (オリガ→ロザリア視点)

 カツンカツンと広い回廊に靴音が響く。

「行くぞ。」

「はい。」

 具足の金属音と私の靴音が重なり、一つの音楽のように奏でられる。

「オリガ、兄上達は出たか?」

「はい。」

 音楽を奏で続けながら私達は歩く。

「・・・彼は・・・許すだろうか?」

「?」

 誰の事を述べているのかと、私は一瞬逡巡する。

「私は確かに、国を強くする事は大事だと考えているし、優秀な者を集め、正しく人々を導くのが王としての責務だという姿勢は今も変わらん。」

 視線を合わさないまま、私の主は歩き続ける。

そんな彼の表情を横目で見ながら。

「だが、彼はこの状況を善しとするだろうか?」

「ラスロー様はラスロー様です。他の何者にもなれません。」

「当然だ。オリガ、オマエの冷静な分析・判断力は買うが、全てが正論だけで通ると思わない事だな。」

 口角を上げ、ほんのり笑みをこぼす。

王子は最近、ほんの少しだけ以前より笑うようになった。

さっき、王子は王子だと私は言ったけれど、これも彼の影響だろうか?

「だが、そう言うオマエも少し変わったな。」

「・・・王子。」

「人を統べる方法は、何も良き政策のみではないという例だな。果たしてそんな優しき彼が、こんな世界を認めるかだが・・・。」

 靴音が止まり、王子が向きを変える。

「我が第五近衛騎士団の精鋭達よ!」

 ザッという音と共に、王子の目の前にいる兵達が一糸乱れぬ整然さで敬礼をする。

「今から、二つの事を諸君等に命ずる。心して聞け!」

 とうとう・・・いくさが始まる・・・。

誰が望んでいるというのだろう?

戦いに価値など無いと思うのは、そう感じるのは、私が女だからだろうか?

「一つ!本日、これより私直属のこの近衛騎士団は解散する!」

「えっ・・・。」

 私の驚きと同じような反応・声が辺りからも聞こえる。

「諸君等はこの戦いに"義"があると感じるか?いや、国の為に戦うのが騎士の本分であり、いくさに義などは存在しないだろう。」

 人の事を正論しか吐けない女と言っていた口が、あんな事を今言っている。

男は不思議だ。

「だが、人が生きるうえで、どうしても許せない事が誰しもあるだろう。私にとっては今がそうだ。こんな下らぬ侵略戦争で・・・民に!将来を背負う子等に!諸君等は胸を張って語れるのか!私は否だ!よっては私はこれからセイブラムへ向かう。」

 そして大きく息を吸う。

「戦を止める為に!ついて来たい者だけついて来い!これは反乱と同じだ。国を憂い私は一人でも行く!」

 本当・・・男って馬鹿みたいだ。

「王子、間違っております。一人でなく二人です。」

 私が王子から離れるなんて、有り得ない事なのに。

「・・・そうか。では行こう。一番乗りをしなければ、彼に笑われてしまう。」

「王子に馬を!全員騎乗せよ!」

 騎士団の誰か、恐らく団長の号令。

騎士団全員が、その号令で動く。

本当、皆、馬鹿ばかり・・・筆頭は王子だけれど。

でも、それは誰がなんと言おうと、愛しい私の王子様。




「本当にいいのね?」

「いいも何も、私はこれでも王姓持ちなの。」

 このやりとりも、何度したかしら?

目の前には真紅の全身鎧を身にまとった美しい姫がいる。

「そうね。それに今、セイブラムに恩を売っておけば、セルブに対して強く出られるものね。」

 ヴァンハイトと同盟を結ぶ可能性が出てきたとなれば、当面警戒をしなければいけないのは、セイブラムとセルブ。

でも、セイブラムは争いを仕掛けてくるような国ではない。

「だから許可が出だのでしょう?」

 にっこりと微笑む姫。

「恩を売るだけなら簡単よね。」

 姫のような王姓の末席の者が出陣するだけで、外交上の体裁は繕える。

「あら?それでもいいじゃない?寧ろ、私が行く事になって良かったと思いますわ。」

「そうなの?」

 この姫は力比べ好きでも、誰かを進んで害するではないと思っていたのだけれど。

「はい。これならアルム皇子に胸を張って報告しに会いに行けますわ。」

「あの皇子ね・・・。」

 確かに彼なら、その身を挺してでも争いを止めようとするだろう。

「えぇ、これでも私は婚約者ですから。黙って見ていたなんて、きっと軽蔑されてしまいますわ。貴女もそうでしょう?」

「私が?」

「こんな事、マールに言えますか?」

「・・・痛いトコ突くわね。」

 その通りだ。

自由を求めていたあの子が、こんな馬鹿げた侵略戦争に怒らないはずがない。

「そうね。"理不尽"って言葉が大嫌いなコだったから。」

「それは誰でも同じですわ。でも・・・一体何時から声を上げず、慣れてしまったのでしょうね。その"理不尽"という存在に。」

「何時から・・・大人になってからかしら。」

 それが良い事なのか、悪い事なのかわからないけれど。

「皇子はそれでも"理不尽"だと叫ぶのでしょうね。いいえ、叫ぶのでなく立ち向かうのでしょう。」

 あの皇子なら、やりかねない。

まるで弟の・・・マールのようだ。

「彼が私の部下に稽古をつけた時も・・・。」

「ん?」

「人を傷つける為でなく、人を護る為に。それを常に頭に浮かべながら私達は鍛錬してきたのですもの。」

 "我等は人という国の盾"

それがこの国の騎士団の信条だ。

「結局、世界は二種類ってコトね。」

「二種類?」

「理不尽に苦しみながら、何もかも諦めて生きるのか。理不尽と立ち向かいながら、傷ついても胸を張って生きるのか。」

 私は盛大に溜め息をつく。

どちらの選択肢も世界が腐っているという証明にしかならない。

「うふふっ。」

「何?」

 姫が笑っている?

「今、少しだけアルム皇子の事が解ったような気がしましたの。」

「それって笑うトコ?」

 余程、酷いというか馬鹿にしてるとしか思えないのだけれど。

「貴女の言った言葉に対する皇子の答えがね、手に取るようにわかって、それがおかしくって。」

「へぇ。で、皇子だったら何て?」

「"一人が一人ずつ片方の手を隣に差し延べればいい。"」

「あら・・・ソレ、大正解ね、きっと。」

「でしょう?」

 こうして私達はひとしきり声を上げて笑い合った後、戦地へ。

あれ・・・本物のラスロー王子、意外とイイヤツ?(汗)

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