表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花束と笑顔を皇子達に。  作者: はつい
第Ⅳ章:黒の皇子は革新する。
139/207

ワカゲの至りにも色々あるというコト。【中】

 両具足、両篭手、両円盾。

何時も通りの防具。

そして、両腰に二振りの長剣。

帰ってきてからずっと試し続けているカタチ。

完全に本気だ。

相手に失礼だし、何より手加減したらあの馬鹿力だ。

こっちが痛い目を見る。

特に受けに回った時なんか最悪だ。

ま、骨の一、二本はもう覚悟済み。

「用意はいいか?」

 既に得物を携え、口調が変わったアイシャ姫がオレを待ち受けている。

「ああ。」

 短く答えたオレは、殺意を込めて視線を送る。

「始めようか。」

 まずは一振り、銀剣を抜く。

全力を出して、戦う為に剣の能力も使う。

また明日から寝付けない日々が続く事になるだろうが、仕方ない。

「参る!」

 重量武器を軽々持ったまま直線的に突進してくる相手きちんと確認する。

宣言してから攻撃を始めるアイシャ姫に呆れながら・・・。

「うっぐぅっ・・・。」

 恐らく全力であろう一撃をオレは覚悟して剣で受けた。

今回だけは避ける事はしない。

そう決めた。

全部受けたうえで、オレは勝つ。

それが今は必要だ。

「む。」

 視界の右隅に気配。

オレはすぐさまその気配に対応して円盾を向ける。

真紅の塊は彼女の左足だった。

受けると同時に身体ごと引いて衝撃をなるべく殺す。

「全く馬鹿力めっ。」

 だが、以前と違い武器だけに頼るような事はしなくなった証拠だ。

「はぁぁぁっ!」

 来た、ニ発目。

斬り返しの早いことで。

「っだぁぁッ!」

 もう一度真上から落ちてくる一撃を下から受け止める。

あまりの衝撃の重さに膝から崩れ落ちてしまいそうだ。

でも、この一撃一撃が彼女の心。

あれから、何も出来なかったあの時から研鑽を積んできた彼女の。

オレはそれをしっかりと見届けなければな。

と、そう思っていたんだけれど・・・だが、ニ撃目で限界とは。

身体、骨が軋む。

いい加減反撃しないと・・・ヤバめ。

堪え性が無いとか言うなよ?

バルド相手に修行を重ねてきたから、何とか耐えられる程度。

何時もだったら、全力回避を選択してる攻撃の類いだ。

「アイシャ・・・いくぞ。」

 宣言をしてからとか、オレも人の事を言えない。

オレは二本目の剣を抜き彼女の顔を目掛けて払う。

人は顔に飛んでくるものは、避ける傾向が高い。

その瞬間をしっかりと読んで、立て続けに反対の剣を振るう。

攻守逆転。

バルドの訓練で掴みつつある、隙を限りなく減らした連撃。

「くっ。」

 一撃一撃の衝撃はそう大きくないとはいえ、よく捌いている。

だが!

連撃の隙間に無理なく組み込んだオレの左足の蹴りが、彼女をなぎ倒す。

慌てて身体を起こしながら、自分の武器を突き出すアイシャ姫の胸に左足の前蹴り。

頬骨の辺りに鋭い痛みが走るが、この際無視。

そのまま仰向けに倒れる彼女の鎧の胸板部分に足を乗せたまま、剣を彼女に突き下ろす。

「あっ!」

 誰の声だったろう、今のは。

「まだ・・・続けるか?」

 突き下ろした剣は彼女のこめかみ部分をかすめ、地に突き刺さり二本目を彼女の眼前に突きつける。

「オマエはこの程度だ。」

 これを言うのもオレだけの役目。

「あの時、例えオマエが戦っても命を落としていただけだ。」

 ほほを掠めて一筋の血が垂れている自分の頬を拭いながら、出来る限り冷たい声で言葉を続ける。

「彼を止めるのは、オレだけしか出来なかった。だからオレがやった。」

 自分の無力さを嘆いた事ならば、オレにだって何度もあった。

「皆、すべき事をしただけ。だから、君が気に病む事は無い。でもな、今、ここにいる事が君のすべき事なのか?それが亡くなった者達への王族が歩む道か?」

 還ってこないからこそ、それを胸に秘めて歩むべきなんだ。

「やっぱり、貴方は私の知っているトウマだ。」

「そうかもな。」

 武器を手から離し、アイシャ姫は微笑む。

「貴方が勝ったら、結婚するというお話でしたけれど。」

「ん?」

「謹んでお断り致しますわ。」

 あはは、綺麗だな。

「そうしろ。さっさと国へ帰れ。」

 自分が成すべき事を成す為に。

何時か死んでいった者達の前で笑う為に。

だから、マール君、もうちょい待っててくれ。

多分、すぐにオレは逝く事になってるハズだから。

「結局、甘えてばかりでしたわね。」

「仕方ないかな。出会いからして振り回されてばかりいたし。」

 オレは突きつけていた剣を納めると、彼女に手を差し伸べて引き起こす。

「でも、アイシャと出会えて良かったよ。」

 そのまま彼女を抱きしめた。

「私もですわ。」

 耳元で聞こえた彼女の涙声。

「あ、でも。」 「ん?」

 ぱっと顔を離すアイシャ姫。

瞳は涙でうっすらと潤んでいる。

「結婚はお断り致しましたけど、婚約はお受け致しますわよ?」

 そう言うと、オレの唇に自分の唇を一瞬だけ重ねる。

「これで二回目ですわ♪」

「あのなぁ・・・。」

 コレ、実はとんでもない事に事態が落ち着いたんじゃ・・・。

これもケジメとやらの範疇に入るのか?

くちづけ込みで?

んな、馬鹿な・・・何の冗談なんだか・・・ん?

ずっと向こうのラミアが睨んでいる。

あぁ、絶対、なんか言われんだろうな、オレ。

全くヤレヤレだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ