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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
5章 冒険者

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97話 勉強は大変なんだぞっと

 キンコンカンコーンと、小学校の鐘の音が鳴り響く。電子音と共に教室内の空中にホログラムで帰宅時間ですと、文字が浮かび上がる。


 いつ見てもホログラムはロマン溢れる不可思議なる光景だとワクワクしてしまう。前世では、ホログラムなどは未来の技術であり、映画などではいつも見ていたが、現実では再現されていなかった。


 なので、何歳になっても、その光景にキラキラと美羽は目を輝かせてしまう。輝かせるだけではなく、触るとどうなるのかなと、皆に手伝ってもらい机を積み重ねて、よじよじと登って触ってもみた。予想と違い、まったく感触はなくてがっかりだった。そして、先生にしこたま怒られた。解せぬ。


 そんないつもは無邪気な美少女鷹野美羽は、ホログラムに目を向けることなく、机にちこんと座って細っこい足をプラプラと振りながら、幼気な可愛らしい顔を顰めていた。


「むむぅ〜。お勉強難しい」


 紙に書かれているのは、テストの結果だ。歴史のテスト結果が載せられている。


 前世の歳を合わせると、他の子供よりも遥かに頭が良い。そのはずだった。


 算数だって国語だって簡単なものだ。大人であった時は計算式を入れれば、算数など簡単だし、漢字だって変換機能を使えば、正確な漢字を書くことができる。


 即ちパソコンがあれば楽勝だった。前世では楽勝だった。パソコンさえあれば、大人は算数も国語もできちゃうのだ。ない場合はぼんやりとした記憶でしかない。算数はともかくとして、漢字を書くのは少し苦手なことが判明していた。なんか一本線が足りないとか、少しだけ記憶の漢字は正確ではないのである。パソコンに頼りすぎだった。


 パソコンがない子供の時の方が苦労するとはと、難しい顔だ。ふにゅうと紙を睨むがその内容は8点だった。ちなみに100点満点でだ。


 それでも、まだ算数や国語は大丈夫だ。まだまだ小学四年生。国語だって、うみゅうと漢字を記憶すれば、あとは問題はない。元々覚えてはいるので、あとは正確な漢字を覚えれば良い。他は楽勝である。この時の主人公の気持ちを表わせとかは、だいたい少し前の文章に書いてある。コツは覚えているのである。


 問題は歴史である。理科も少し元素記号などが前世よりも多い気がするし、魔法学があるので勝手は違うが、元々前世でも理科なんかまったく覚えていないので、一から覚えている。フォーマットされた脳に新たなる記憶を書き込むのは簡単である。


 なので、全体的に見れば優秀な娘になるだろう。なにせ小学四年生。ここでアホだと前世の記憶は邪魔という証になっちゃうし。


 しかし明らかに歴史は前世の記憶が邪魔をしていた。歴史はそこそこ記憶にあったのだ。理科なんか、水兵リーベくらいまでしか元素記号は覚えていなかったが、歴史はゲームでもテレビでも見ることが多かったので、記憶があった。 


 なので、この世界の歴史と擦り合わせができないのである。微妙に前世と歴史が合っているのが、また混乱を誘っていた。


 鷹野美羽の新たなる弱点。歴史が苦手です。


「ありゃりゃ〜、酷い点だね。8点は酷いよエンちゃん〜」


「コン!」


 悩む俺に、机の下からニュッと顔を出して玉藻がニヒヒと笑う。小狐を頭の上に乗せて、相変わらずの元気いっぱいの笑顔を見せてくれる狐っ娘だ。小狐がコンと鳴くので、そのつぶらな瞳に癒されるよ。


「鎌倉幕府の作られた年はいい国作ろう鎌倉幕府じゃないの?」


 前世では1192年と記憶しているよ? でも、間違いとなっている。


「良いドームを作ろう鎌倉幕府で、1200年だよ、エンちゃん。頼朝が永久結界魔法を鎌倉に張って、幕府を開いたんだよ〜」


「コンコンッ」


 金に煌めくサイドテールをフリフリと振りながら、玉藻は人差し指をフリフリと振って、コンちゃんもそうだよと鳴く。小狐が可愛らしいので、そっと手を伸ばして撫でながら、頬を膨らませちゃう。


「結界魔法………結界魔法……鎌倉に結界魔法かぁ」


 魔法のある世界は違うよね。時の権力者って、全員大魔法使いだよね? なんでいつもいつも大魔法で国を建国しているわけ? 魔法は本当に権力構造を変えちゃうよね。魔法と権力者は切り離せないよな。


「鎌倉の結界魔法はまだ生きていますよ、みー様。織田信長の盟友であった徳川家康が江戸に自分の街を開いた理由でもあります」


 鴉羽のように艷やかな黒髪をかきあげて、闇夜が近寄ってきて、話に加わる。


「源頼朝の使う結界魔法は、平家を滅ぼした後に、最終的に敵対した源義経の攻撃魔法を完全に防ぐほど強力でした。その彼が10年をかけて作り上げた結界の魔道具である仏像は、あらゆる魔物や敵対した敵の侵入を拒みます。その力は永続的で、家康は織田信長と敵対した際の要塞として使おうと考えていたらしいです。今は仲が良くても、将来子供や孫の時代となった時のことを考えたのでしょう」


「信長と家康は凄い仲良しだったんだよね。玉藻とエンちゃんみたいに!」


「むぎゅぅ」


 玉藻が俺の首元に腕を絡めて、抱きついてくる。ぷにぷにとして温かい。スキンシップ大好きな狐っ娘なのだ。可愛らしいので、抱きしめ返す。ついでに、脇腹をくすぐっちゃうぞ。


「きゃー、くすぐったいよ、エンちゃん!」


「みー様、私もハグしたいです」


 美羽と玉藻が抱きしめあい、キャッキャッと遊ぶと、闇夜も加わって抱きしめてくる。ついでにくすぐっちゃうので、いつの間にかくすぐりあいになっちゃう。


 キャッキャッとじゃれ合う三人である。灰色髪と金髪と黒髪のコントラストが映えて、その光景は見惚れてしまう可愛さだ。現に残っていた生徒たちの中では、その光景を眺めている者たちもいる。


 ひとしきりじゃれ合い、元気をもらうと、テスト結果を机に放り投げる。この世界の歴史難しいよ。まだ小学四年生なのにな。というか、問題もおかしい。年号だけじゃないんだ。


「剣豪将軍の必殺技はなぁに?」


「『17神剣乱舞』!」


「玉藻さん、当たりです。よく覚えてますね」


 俺がアイスブルーの瞳を半眼にして、問いかけると、はいはーいと玉藻が答えてくれる。へー、剣豪将軍って、そんな技を使えるんだ。技名から推測するに無敵っぽいけど、なんで三好に暗殺されたの? あ、マナが尽きた、なるほど?


「んとね〜、それじゃあ聖徳太子の得意魔法は?」


「『仏分体』ですね。実体のある仏の分体を使っていたらしいです」


「聖徳太子って、凄かったらしいよ。一人で何人もの仕事をこなしたんだって!」


「へー」


 アニメかな? アニメ検定の話かな? この世界は小説の中の話だけど、それでも酷すぎる。アニメキャラの必殺技を覚えるんじゃないんだぞ。


 この世界の歴史問題って、こんなんばかりだ。たぶん前世でいうとライト兄弟はなにを作ったかとか、エジソンの有名な発明品は? とか、そんな感じと同じなのだろうが、前世の常識が邪魔をしてしまう。オタクだったら、嬉々として覚えるんだろうけど、俺はライトユーザーだったからなぁ。そこまで興味は持てないんだよ。


 なので、歴史だけは壊滅的だった。困ったね、これ。


「みー様、今度お勉強を教えてあげますわ。歴史は暗記が全てなんです。私に任せてください」


 ふんすと鼻息荒く、俺の顔に闇夜は自分の顔を近づけてきて、睫毛の数まで数えられちゃう。最近どんどん綺麗になっているなぁ、闇夜。


「うん、玉藻も手伝うよ!」


「暗記かぁ〜」


 暗記………したくないなぁ。なんとなく気恥ずかしい。必殺技名を苦心して覚えようとする美羽………なんか恥ずかしくない? 羞恥も暗記の邪魔をするんだよなぁ。


 微妙な笑みを見せて、俺は暗記するしかないかとため息を吐くと、またもやお友だちが近づいてきた。


「へいへい、そこの仲良し三人組〜。そんなテストなんか忘れて、少し遊びに行かないかい?」


「そーそー、小テストじゃん!」


「期末テストで頑張ろ〜」


 気取った物言いで近づいてきたので、顔を向けると、そこにはホクちゃんたちが立っていた。先日『マナ』に覚醒しており、髪の色が変わっている。


 ホクちゃんは水色の髪の色だ。水と氷が得意で、氷の壁を作れる。そろそろ暑くなるから、大人気。


 セイちゃんは紫色で、雷の使い手だ。スマフォの充電を得意としており、アプリゲームをしてすぐにバッテリーが切れてしまっても大丈夫。


 ナンちゃんは茶髪で、土の使い手である。汚れた服もさっと綺麗にできる便利な魔法を使える。


 三人組は魔法使いの家系だったらしい。まったく確認してなかったので驚いたよ。戦闘に関してはぎりぎりできるレベルである。


「遊びに行くの?」


「うん! 私たちもさ、元服したんだから、冒険者になろうよ!」


「仮免許は10歳から取れるから、ダンジョンに行ってみたい」


「そーそー、冒険者になろー」


 ワクワクと顔を輝かせるホクちゃんたち。なるほどね、たしかに元服したんだから冒険者になれる。本免許は、12歳からだけど、見習いとして冒険者活動ができるのだ。まぁ、簡単なお仕事ばかりだけどね。


「冒険者、冒険者かぁ」


 ゼピュロス戦以降は、戦闘をちっともやっていない。理由は50レベルから、経験値テーブルが高くなるのと、もはや50レベル以上の敵は帝都ではいないからだ。まぁ、当然の話だ。レベル50からの魔物は格が違う。今までと違い多彩なスキルや魔法を使ってくる。


 そんな強力な魔物が帝都に湧くわけがない。ダンジョンだって、そんな強力なのが現れれば軍の総力をもって攻略する。


 なので、放棄された奥地にあるダンジョンに潜るしかないんだけど………日帰りは無理だよね。熟練度は上げることはできるんだけどね。今はオーディーンのお爺ちゃんやフリッグお姉さんと、今後の組織運営について動いているところだし、訓練もできていない。


「そうですね、私たちも魔法使いとして、魔法の使い方も訓練しないといけないですし、ちょうど良いかと」


「玉藻も頑張っちゃうよ! へんしーん!」


 たおやかな所作で、顎に人差し指を添えて、闇夜が同意する。玉藻は早くも『同化』して、狐っ娘に変身しちゃう。


 もちろん俺も賛成だ。そわそわみーちゃんだ。


「6人パーティーだね! それじゃあ、冒険者ギルドにレッツゴー!」


「おー!」


 ゲームでは冒険者ギルドはいつも使ってたけど、この世界では初めてだ。小柄な体をゆらゆらと揺らして、ぷにぷにほっぺを興奮で赤く染めて、美羽は拳を空に突き上げるのであった。


 冒険者ギルド。まずはお手紙配達のクエストを受けようぜ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 必殺技を暗記するのは恥ずかしいっていうけど、8点とる方がよっぽど恥ずかしいんじゃないかな
[一言] しかもつい最近良い国から良い箱に変わったというね( ;˙꒳˙; )
[一言] 当主のお勉強だと思ったら…普通(?)のお勉強だった だが8点は大変だ…!すぐさまマイルームにテスト用紙を隠すんだみーちゃん!怒られちゃうぞ!
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