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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
4章 元服パーティー

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89話 傭兵キャラって、現実になるとウザいねっと

「ぐぉぉぉっ!」


 ゼピュロスはグーちゃんの嘴が胴体に突き刺さり、驚愕の声をあげて吹き飛ぶ。完全にグーちゃんを忘れていたゼピュロスにグーちゃんの武技はクリティカルヒットだ。


 しかも、グーちゃんの使う『三角突進トライアングルアタック』は『突』属性扱いだ。ゼピュロスの弱点の『突』なんだ。


 俺を手放して、ゼピュロスはグーちゃんの攻撃で跳ね飛ばされると木々にぶつかりながら、地上に落ちていった。ズシンと重たい音が響き、地面にめり込み倒れ伏す。


 俺も落ちていき、地面すれすれででんぐり返しの受け身をして衝撃を流す。でんぐり返しの練習をしておいてよかったよ。小柄な身体はコロンコロンとそれはもうボールみたいに転がった。


「いたた」


 とはいえ、HPは40を切っている。もう一撃でゲームオーバーだ。ちょっぴり身体がガタガタかも。


「こ、この野郎……狙ってやがったか。くっ、アネモイが動かねぇ」


 グーちゃんの一撃はかなりの威力があったのだろう。火花を散らす『アネモイ』はギギィと軋み音を立てて動けない。ゲームの攻撃力を持つ俺たちが弱点をついたからだろう。一ターンは動けないんだ。


 最初から狙っていた? 当たり前だろ。ワイン瓶で『アネモイ』を破壊できるわけがない。少女の儚い抵抗と見せかけて、グーちゃんから意識を外させたんだ。ふふふ、見たか、火星人。地球は俺たちが守ります。


「こいつ……自分を囮に使うとは……ちびガキが……むっ?」


土拘束アースバインド


 倒れ込むゼピュロスの地面から、ニョロリと土の触手が生まれると絡みついていく。


「リーダー、入った!」


 木々の合間から、精霊使いのお姉さんが手を翳していた。土の精霊を召喚し直したのだ。


「ちっ、こんなもん!」


 土の触手の拘束を弾き飛ばそうと、ゼピュロスは『アネモイ』にマナを送りこんだ。すぐに『アネモイ』から風が巻き起こるが、木々の合間から猛然と金剛お姉さんが斧を構えて飛び出す。


「はっ! 今度は当たりそうだね!」


爆裂斧エグスプロージョンアックス


 動けない『アネモイ』に金剛お姉さんの真っ赤に燃える斧が振り下ろされる。『アネモイ』の鎧に赤熱した斧は食い込むと、大爆発を起こすのであった。

 

 爆風が吹き荒れ、土埃が舞いあがる。木々が砕けて、地上に落ちてきて、視界が遮られてしまう。


「やったぁ!」


 爆風でコロコロと転がったが、すぐに立ち上がり、みーちゃんはぴょんぴょんと飛び跳ねて、勝利を喜んじゃう。勝ったよね? 勝ったよな? もうバトルは終了だよね? とりあえず、『小治癒マイナーヒールⅢ』を自分に連打しとこ。


 金剛パーティーの皆が木々の合間から、ぞろぞろと現れて警戒の表情を向ける。


「みーちゃん、大丈夫? 無理をしたね」


 いつの間にか、俺の隣に燕さんが立っており、回復魔法の光に覆われている俺を見つめて心配そうに声をかけてくる。


「えとね……だ、あ、だめかぁ」


 答えようとするが、土埃が収まっていく中で、ゼピュロスが立っているのを見て、嘆息しちゃう。駄目だとはわかってはいたんだけどね。


 『アネモイ』の翼は半ばから切り落とされており、肩当の部分もかなり切り裂かれている。グーちゃんの嘴が食い込んだ部分には穴が開いた跡もある。魔法障壁を貫通させることはできたらしい。


「まったく………まいったぜ。ここまでやるとはな」


 やれやれと肩をすくめて、余裕そうにゼピュロスは言ってくる。ボロボロなのに、まだその余裕。余裕の理由もわかっているので、俺は半眼だ。


「その様子じゃ、もう戦えないさね! おとなしく降伏しな!」


 金剛お姉さんが緊張気味にゼピュロスへと投降を呼び掛ける。降伏しそうにない相手だからなぁ。火星人は投降することはない。最後まで戦うのがテンプレだよね。


「ハッハー。この『アネモイ』はまだまだ試作機として製造されたばかりだ。色々と欠点も見えちまったようだな」


 知ってる。プロトタイプ『アネモイ』だろ。ゲームでもあったよ。昔の機体とやらで、ハンガーに放置されていた。ストーリーが始まった時は少しフォルムが違うんだ。他にも武装がついていたしな。


「改造点が見えたってことで、褒めてやっても良いぜ」


 だろうね。ゲームではストーリーの節目節目に現れるたびにバージョンアップしてたからな。そのたびに強くなってたウザい敵だったのだ。


「どうやら投降する気はないようだね」


「もちろん降伏なんざするわけねぇだろ。っと、ようやく来たか」


 金剛お姉さんの問いかけに、鼻で笑うゼピュロス。なにかに気づいたかのように森林の上空へと視線を向けると、高速でフローラの『アネモイレプリカ』が飛んできていた。


「ダーリン、大丈夫!」


 フローラは、そのままゼピュロスに飛び込んで抱きつく。


「ハニー。遅かったな」


 ダーリンとハニー………仲の良すぎる夫婦だよ。古典小説なだけはある。昔はこういう呼び名が漫画とかで流行ったよなぁ。現実で見ると、かなり痛々しいね。


「ごめんなさい。あの親父たち、ネチっこくて。ちょこまかと逃げては牽制をしてくるから、合流するのが遅れちゃったのよぉ」


 甘える口調でゼピュロスにしなだれかかるフローラ。今が攻撃のチャンスに見えるけど、無駄だろうな。


 それに次のセリフも予想はついている。


「ダーリン、結構やられちゃったのね? そろそろ時間なんだけど。あの狼煙で気づかれちゃったみたい」


「意外とコイツがやるもんでな。殺せなかったのは残念だが」


 俺へと顔を向けてきて、ゼピュロスは面白そうに嗤う。


 わかるわかる。次のセリフは「お前とはまた戦うことになるだろう」だ。


「ちびガキ。お前とはまた戦うことになるだろう。今お前を殺さずとも、いつか戦うことになる。その時まで腕を上げておくんだな」


 聞き覚えのあるセリフだ。数十年前の話なのに、結構俺も覚えているな。ゲームでも、まったく同じセリフをゼピュロスは言っていたんだ。


 なので、俺もゲームと同じセリフで返してやる。ふんすふんすと得意げな顔で胸をそらして、宣言をするのだ。


「てんてんてんてん」


 小鳥のハミングのように、美羽は可愛らしい返事をした。なんでそんな返しなんだよと、金剛お姉さんたちが見てくるけど、これがモブな主人公の答えなんだ。「………………」この無口さを言葉で表してみせました。もしかして、みーちゃんは天才芸術家になれちゃうかもね。


「ちっ、ふざけたちびガキだ」


「てんてんてんてん」


 呆れた声でゼピュロスは俺を見てくるけど、ふざけてないよ。プレイヤーキャラは常に無口なんだ。ゲームで喋ることはほとんどない。ゲームあるあるだよね。


「まぁ、良いだろう。今度会うときはまともな装備をしておくんだな」


 プレイヤーが完全装備でも同じことをゲームでは言ってきた。なんと、現実でも同じことを言われるとはと、みーちゃんは少しだけ感動して、目をキラキラさせちゃうよ。まるでゲームの中に入り込んだような錯覚を感じるよ。


「逃すと思っているのかい!」


 金剛お姉さんたちは俺を後ろに庇い、武器を構えてドスの利いた声を出すが、そよ風のようにゼピュロスは受け流して笑う。


「勘違いするなよ? 逃げてやるんだよ、これ以上ここにいたら面倒なことになるんでね」


「その壊れた装備じゃ逃げられない」


 燕さんが弓を引き絞り、険しい顔になるが、俺は知っている。ゼピュロスの厄介さを。


「ハッハー。どこが壊れているのか教えてくれよ」


『アネモイの加護解除』


 一言呟くゼピュロス。パアッと光の粒子がゼピュロスの一言を合図に、この体から弾けるように舞い散る。そうして光が収まると金剛お姉さんたちは驚愕の表情となって、口を開けて唖然とした。唖然としたのも当然だ。


「どうだ? どこらへんが傷がついているって?」


 なぜならば、ゼピュロスは完全に回復していた。『アネモイ』もその真紅の翼は美しく元に戻っており、重厚なる緑の装甲も傷一つない。


「残念だったな。てめえらのやっていることは無意味だったんだよ」


 ゲラゲラと笑うゼピュロス。金剛お姉さんたちは青褪めているが、そりゃ完全回復を敵がしたら、青褪めるよね。


「金剛お姉さん。きっと嘘だよ。幻とか、そんなんじゃないかな」


「あ、あぁ、きっとそうさね。そうに決まってる!」


 自分に言い聞かせるように、美羽の言葉を受け入れて、戦意を取り戻す金剛お姉さんたちの姿に内心で安堵しながらも、幻ではないことを俺は知っていた。


 思い出したんだ。魔導鎧『アネモイ』はたしか神器『アネモイの翼』を組み入れている。『アネモイの翼』は神器というだけあって、恐ろしい効果を持っている。魔神を封じている神器とは違う神器だ。


 即ち空を高速で飛行し、高度な空中機動を行う。風の属性の無効化。逃走用転移魔法。そして、最後に『アネモイの加護』だ。


 『アネモイの加護』は、自分とまったく同じ能力、装備を持つ分身を作り出せるんだ。一日に一回だけしか使えないが、効果は絶大だ。しかも『神の加護』だから、『魔法破壊マジックブレイク』も『魔法解除ディスペルマジック』も『消去イレイサー』すら通じない。まさしく『魔法』なんだよね。


 原作者はなんでもかんでも、『魔法破壊マジックブレイク』で破壊するとワンパターンになっちゃうと考えたのだ。たしかに原作の主人公の力を考えるとそうなるんだよ。そうしないとストーリーがつまらなくなる可能性があったのだろう。


 どこかの変身女とは違うんだよ。しかも、ゼピュロスは『風隠れの術』を使えるために、常に分身を盾にして戦っていた。生身の身体は分身に重なって存在はしているが別次元にいるような扱いで、分身を倒さない限り、傷一つつけることはできない。


 これこそが、原作者がゼピュロスを使い勝手の良いキャラだと喜んだ理由であり………。


 ゲームでも、原作ストーリーのキャラの中で唯一と言って良いプレイヤーを認識して絡んでくる敵キャラだった。殺しても生き返るキャラみたいな感じだからね。運営は喜々としてゼピュロスをこき使ったのだ。


 そして、だからこそ空気なプレイヤーをこいつは認識していたのだ。


 ゲーム当初で出会った際には、レベルが低いためにぼこぼこにやられたが、一定のダメージを与えると、今みたいに戦闘を止める。


 俺はそれに賭けていた。分の悪い賭けだけど、生き残るにはこれしかなかったんだ。オーディーンのお爺ちゃんたちが来てくれれば良かったけど、無理そうだしね。


「それじゃあな。てめぇのその目は鷹野に相応しい。俺と同じ戦闘を求める目だ。次に会う時を楽しみにしてるぜ」


風転移ウィンドテレポート


 ゼピュロスはフローラを抱きしめて、『アネモイの翼』の最後の能力である転移の魔法を使う。ゼピュロスから暴風が巻き起こり、手を翳して防ぐ。そうして風が収まったあとには、ゼピュロスたちの姿は影も形もなかったのであった。


「ゼピュロス……私はへーわに生きるんです」


 ぎゅうと、手を強く握り締めて宣言する。ゼピュロスと戦闘なんかしたくない。あいつ、本当に厄介なんだもの。平和を愛するみーちゃんはもう関わることはないと思う。


『ゼピュロスたちを撃退した!』


 ………そういえば、ゼピュロスたちは殺さなくても、経験値やドロップアイテムが手に入るんだった。まぁ、次はないんだけどね。オーディーンお爺ちゃんの目からは逃れられない。こっそりと神器は回収させてもらうよ。みーちゃんは関わらないけど、お爺ちゃんたちは関わるのだ。本当の襲撃というものを教えてあげる予定です。


 遠くに屋敷の煙に気づいて、急行してきている武士団を見ながら、美羽はホッと安堵の息を吐くのであった。それにしても疲れた〜。あ、レベル50になってた。ソロは経験値でかいなぁ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] みーちゃんでんぐり返し=五点接地、だった説
[一言] 制限みーちゃん相手に、1日1回しか使えない加護を使い切ってしまうとは迂闊だったな!
[一言]  神器かぁ、オーディン爺ちゃん好きそうだな。カラスで探してフリッグ姉さんが回収ですね。こちらは便利な夫婦だ。
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