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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
4章 元服パーティー

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80話 神無公爵の誤算

 日本魔導帝国。


 始祖である織田信長が建国した国である。戦国時代に突如として頭角を現したうつけ者と呼ばれし大名は、その圧倒的な力で日本を統一した。日本を制覇した信長は、後に自らが半神半人であると宣言。あらゆる魔法を使いこなし、天空の城を始めとして見たこともない新たなる魔道具を次々と作り出した。そうして日本を支配したのである。

 

 以来500年余、一人の天才により建国された日本魔導帝国は様々な国難に襲われたものの、連綿と続き、現代に至っている。


 日本魔導帝国は皇帝と貴族が支配している。皇帝を支えている貴族たち。その中で特に有力な貴族が36家門と呼ばれている。


 即ち、3つの公爵家。3つの侯爵家、30の伯爵家から成る高位貴族たちだ。


 その中でも、神無公爵家はこの日本魔導帝国にて、貴族の筆頭だ。3つしかない公爵家だが、他の公爵家と比べても、頭一つ抜けている自負がある。


 皇帝に忠実であり、最強の力を持ちながらも、商売に興味がないために、いまいち財力面が弱い龍水公爵家。


 野心はあり、軍にも武士団にも多くの家門の魔法使いを送り込み、主に鉱山ダンジョンなどを管理しており、莫大な資産を持つも、神無公爵家や帝城侯爵家に一歩負けており、影響力が弱い粟国公爵家。


 その2つと比べて、軍事企業を持ち兵器部門は軍に食い込んでおり、大きな影響力を持ち、財力の面でも神無デパートから、アミューズメントパーク、様々な多角的な商売をして、各界に大きな人脈を持つ神無公爵家は紛れもなく、筆頭公爵家であった。


 なにより、複数の属性を操る家門は、同じく複数の属性を操る弦神と変わらない。少しだけ適性属性が少ないだけだ。


 もはや、これは皇帝の座を奪っても、まったく問題はないだろうと、飛ぶ鳥を落とす勢いの神無大和公爵は考えていた。


 考えていたのだが………。


「………どういうことなのですか?」


 いつもはその細目は開くことなく、穏やかで胡散臭い顔をしている神無公爵は、執務室で椅子に座り執務机をトントンと叩きながら、対面に立つ男たちを見ていた。


 アンティークで揃えた上品な内装の執務室だ。覗かれないように、様々な魔法的措置をしており、外には一切音も漏れない。古から存在する公爵家には門外不出の今では製造できない物も多く存在するのである。


「は、はいっ。………『ロキ』とはまったく連絡がつきません」


 肩をすくめて、恐怖の顔になる部下たちを見て、ますます神無公爵は不機嫌な顔になる。いつもは冷静沈着で、高位貴族らしく自分の感情を表に出すことのない男にしては珍しいことだ。


 それだけ現在の状況が気に喰わないのだろうと、部下たちはさらに身体を縮こめてしまう。


「ロキの性格は知っています。あの者は日本が混乱することを愉しんでいました。財宝にも無頓着であるので、裏切られることは無いと思っていたのですが……」


 椅子にもたれかかり、顎を擦って考え込む。『ロキ』は皇帝と争う私を支援していた。私が皇帝になる寸前までは、邪魔はしないと考えていたのだ。皇帝になる寸前に裏切り、敵対勢力に手を貸す可能性はあるだろう。常に刺激を求めている者だ。そこまで信用はしていないが、その性格は読んでいたのだ。


 しかし、今回は裏切った………。


「『ソロモン』の連中に殺された可能性は?」


「いえ、現場には『ソロモン』であろう多数の魔法使いの死体を確認しております」


「むぅ………」


 魔物を操り、魔神とやらを復活させ使役しようとする団体『ソロモン』。古代ソロモン王が使役せし、72柱を探す魔物使いの集団である。強力な魔物を操り、使い勝手の良い便利な集団だった。なので、今回の仕事を行うにあたり手を組んだ。


 魔物使いは魔物を操り敵と戦う。その性質上、敵に捕まりにくく、しかも魔物を使い捨てにできるので、強力な戦力であった。今回の作戦では、信用できない相手であったので、途中で裏切ることも考えられたが、その場合の対応も用意していた。


 所詮は外国の集団。大量の財宝を運ぼうとしても限界はある。すぐに運搬方法に行き詰まり、裏切っても再び神無公爵を頼るしかないと考えていたのだ。戦わずとも、相手を操る方法などいくらでもあるということである。


 『ソロモン』は強大な力を持つが、『魔物使い』は数が少なく、運搬や情報集めなどの戦闘以外の力は弱かったのだ。今回、日本に入国させるのにも、神無公爵が裏で手を回したから、密かに潜入できたのである。


 なので、『ソロモン』が裏切っても問題はなかった。多少は財宝を分けなくてはならないだろうが、すぐに自分の下に財宝は戻ってくる予定だった。


 裏で使える重要な資金源となるはずだった。金の流れが分からない資金なので、色々と使い道を考えていたが、パーとなってしまった。


「死体の中にはソロモンのボスである『ソロモン王』もいました。偽物の可能性もありますが……。なにせ、死体は全て下着姿でして、身に着けていた物は全て奪われていたのです」


「魔道具を奪われたことこそが、本物の証ということですか。偽物………。『ソロモン』の返答は?」


「大混乱となっているようです。今回の作戦は多数の高弟も参加していたらしく、上層部が一気に失われたことで、組織の維持に奔走しているらしいと報告を受けております」


「ならば本物が殺されたのです。ここで死んだことにするメリットは『ソロモン王』にはまったくないですからね」


 とすると、やはり『ロキ』が裏切ったのだろう。


「キングマンティスを倒したこともそうですが、今回の『ロキ』の行動はおかしいですね………。彼らしくない。……まさか皇族側についた?」


 そこまで神無公爵家は勢力を大きくはしていない。していないというか、できなかったか。皇族の勢力は大きく、皇帝も抜け目がないのだ。


 そのため、今回の作戦は乾坤一擲とも言える作戦であり、成功すれば一気に皇帝の威信は落ちて、その間に神無公爵は勢力を一気に拡大させる予定であった。


 乾坤一擲と言えど、今回の作戦は成功する可能性はかなり高かった。勝算は充分にあったのだ。『ソロモン』というスケープゴートに相応しい強力な集団。混沌を楽しむが故に、現在は裏切る可能性が極めて低かった『ロキ』。


 長年温めてきて、ようやく準備が整ったために起こした作戦だったはずであった。今回の作戦は時間と金の両方を大きく賭けていたのだ。


「『ロキ』が裏切るとは予想外でしたね。あいつは何件の仕事を同時に受けていたのです? 回復魔法使いの少女も誘拐しようとしていたらしいではないですか」


「『ロキ』に鷹野美羽の誘拐を依頼した者は不明です。……というか、容疑者が多すぎて絞り込むことは不可能です」


「力も財もない平民あがり。しかも強力な回復魔法を将来は使える可能性が高い少女。誘拐してでも手に入れようと考えるのは、表、裏、両方の世界でいくらでもいますからね。仕方ありません、鷹野美羽の件はもう追わなくて結構」


「はい、畏まりました公爵」


 どちらにしても、もう手は届かない。あの少女は鷹野伯爵家の当主となったのだ。誘拐しようとしても、今度は家門の力がある。もはや以前とは比べ物にならない程に困難となっている。放置で良いだろう。どちらにしても、神無公爵が狙っているのは、弦神聖奈だ。


 誘拐してでも手に入れようとする無意味なことはしない。表で使えなくては、回復魔法使いの価値もぐっと下がるし、露見した際のデメリットが大きすぎる。攫おうとしたのも、どうせ子爵以下のデメリットを考えない愚か者か、裏の良からぬ者たちに違いない。


 興味を失い、鷹野美羽のことは忘れることにして、さらに部下と話を続ける。


「弦神聖奈と息子は仲良くなれましたか?」


「はい……程々というところでしょうか。どうやらシン様が助ける前に、粟国公爵家の嫡男が助けたらしく……その嫡男とお忍びで遊んでいるという噂もあります」


「側仕えの侍女を買収し、さり気なく弦神聖奈を平民区画に誘導させるまでは上手くいきましたが、以降は計画と違いましたからね」


 本来はシザーズマンティスのスタンピードで大混乱となり、帝城家は警備の不備で影響力は失墜。混乱時に人々を助けるために動いた自分は影響力を高める予定であった。


 弦神聖奈も、仕込みの魔法使いによるピンチを作り出し、その時に自分が助ける予定であった。息子には皇女と行動する際には、絶対に助けるようにとも伝えておいた。そのための魔道具も渡しておいたのだ。発動させることはなかったようだが、上手く助ければ子供なのだ。好意的になるだろうと考えていた。


 しかし、全て上手くいかなかった。抱き込んでおいた戦車大隊長は予想外の奮闘をして、その結果、混乱とはならなかったために、帝城は平民区画に救援にいける余裕ができてしまったのだ。


 神無公爵は念の為に貴族区画の防衛をと言われたら、断ることはできなかった。無理にでも平民区画に行けば、怪しまれていただろう。


 もう少ししっかりと戦車大隊長を買収しておけば良かったのだが、怠惰で上には媚びへつらうタイプだと考えていたので、そこまではしなかった。後々罪を被せるためにも、そこまで自分が関わっていると思われたくなかったこともある。


 まさかあそこまで英断を下せるとは予想もしていなかった。無能な太った豚だと思っていたが、古来の腹心である佐久間家の一員ということだろう。


 失敗したことを考えるのは止めて、これからのことを口にする。


「『須佐之男すさのお』部隊の設立のための根回しはどうです?」


「設立自体はできると思われます。しかし、軍からも武士団からも独立した部隊とはならないと思われます。皇帝陛下の威信が高い現在、どの貴族も色良い返事は返ってきておりません」


 力なく首を横に振る部下の否定的な報告に、しかし神無公爵は予想通りなので悔しがりはしなかった。


「独立した部隊としては不可能ですか……。強権を持たせるのも不可能。仕方ありません、ならば、最低でも軍の直下に入れることを目指します」


「帝城家や他の貴族が横槍を入れてくると思いますが……」


「危険視して、監視役も入れてくるでしょうね。人事も私の息のかかった者たちだけとはならないでしょうから」


 『須佐之男すさのお』部隊。魔物狩りを目的とする軍からも武士団からも独立した部隊。……となる予定であった。自分直下の精鋭部隊。邪魔な政敵を倒すために使おうと考えていた部隊だ。


 それも無理そうだ。しかし、とりあえずは軍の直下に入れておけば、後から強権を与えることができるかもしれない。設立だけはしておくつもりだった。


「なんにしても、全て上手くはいきませんね……。『ソロモン』が壊滅したということは、ダンジョンのスタンピードも無理となりましたか」


 『須佐之男すさのお』部隊の箔付けのために、『ソロモン』に各地のダンジョンでスタンピードを起こさせる予定でもあったが、それも不可能となってしまった。


「全てにケチがつきますね……そういえばアリのダンジョンを攻略した集団は見つけましたか?」


 粟国家を陥れるべく、密かに狙っていた粟国家が密かに所有していたアリのダンジョン。いつかスタンピードに使おうと考えていたが、それも攻略されて不可能となってしまった。


「それも見つかりません。………その、最近は少しおかしくて」


「おかしい?」


「はい、最近次々と裏の情報屋の犯罪がばれて逮捕されています。少なくとも数年は刑務所行きでしょう。今の都内は急速に情報が手に入りにくくなっております」


 裏の情報屋は、ハッカーを含めて、少なからず罪を犯している。それが見つかって、逮捕されることが多くなっているらしい。


「情報屋がね……。どこか大きな組織が都内にやってきましたか」


 漠然とした不安が神無公爵を襲う。なにかがおかしい。『ユグドラシル』……いや、『ニーズヘッグ』の巨人を名乗る者たちだろうか? それにしては、やり方が今までと違う。洗練されている。


「わかりませんね。仕方ありません。今後の戦略を練り直します。それと、恐らくはどこかの組織が日本に入り込んでいます。調査を開始しなさい」


「はっ! 了解致しました!」


 敬礼をして部屋を出ていく部下を横目に、机を指でトントンと叩く。


「どこの組織かはわかりませんが……邪魔をしてくれた報いは受けさせます。それに一つの作戦が失敗したからと言って、私の野望が潰えることはありません」


 細目を僅かに開き、神無大和公爵は不敵に嗤うのであった。

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― 新着の感想 ―
勝利君の話楽しみだなーツンデーレ真人間ルート入るかな?
[一言] 天皇消えとる…あの時代現人神と認識されてたはずなのに…戦乱の世を見守って、貧乏生活してただけなのに。
[一言] しんのくろまく 原作は語られてないところに本作とは全く違う真のストーリーが隠れているのがハッキリしてきたけど… これは原作作者の意図が介在してるんだろうか、まぁ死を劇的に演出して人気稼ぐ人…
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