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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
4章 元服パーティー

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78話 パーティーのやり直しなんだぞっと

 カマキリ祭のあった元服式の10日後である。


 皇帝は再度のパーティーのやり直しを宣言した。オーディーン夫妻が調べたところ、手に入れた財宝を少しを残して売り払い、その金で都内だけパーティーをやり直すことにしたらしい。太っ腹なことである。恐らくは、皇帝としての威信もあるのだろう。まぁ、戦車の代金とかは国の予算から出ていそうだから、数字のマジックがありそうだけどな。


 マイルームにて経過を教えてくれたオーディーンのおじいちゃんは、これでかなりの量の大判小判が出回るので、紛れ込ませて売り払えるなと教えてくれて、その横で小判チップスをパリポリ食べて、フリッグお姉さんが余計なことをするのねと、ムキーと悔しがっていた。フリッグお姉さん、その小判は8万円なんだけど? 最初から売る気なかっただろ。


 祭りのやり直しにより、お役人はデスマーチだったはず。都内だけとはいえ、その調整をするのは、門外漢の俺でもわかる。もう一度、大量の食材やらが必要となり、プチ景気が訪れたとか。


 スタンピードで怪我人は出たが、死人はゼロ。公式では、そのようになっている。スタンピードに恐怖した人々であったが、見事な対応をした軍や武士団を褒め称えた。その後も皇帝のパーティーやり直し宣言に、さすがは皇帝と心強く思い、支持率は鰻登りとなった。原作とちょびっと違うストーリーとなったわけだ。

 

 そうして、親孝行な美少女鷹野美羽はというと、皇城内にいた。パーティーホールなのだろう。きらびやかなホールだ。お金がいくらかかっているんだろ?


 多くの人々がホールには居て、その中で急遽作られたドレスを着て、俺はその中に混じっている。お気に入りのワンピースで良かったのにと、少し不満げに頬をぷっくり膨らませていた。


「それでは、シザーズマンティスのスタンピードを防いだ論功行賞を始める! まずは皇都防衛隊鉄蜘蛛隊大隊長である……」


 ホールの奥、そこは階段となっており、その奥の広間は畳敷きとなっている。ツルツルとした床のパーティー会場とは全く合わないへんてこな和風の広間だ。


 皇帝が肘掛けに肘を乗せ、その手には扇子を持つ。カリスマ性のある厳しそうな顔で、座布団の上であぐらをかいている。まさに日本のお殿様という雰囲気だ。和洋折衷な広間である。昔、畳は高価なので、木床の上に数枚畳が敷かれて、一番偉い殿様しか座れなかったとか、俺の雑学的記憶にはあるけど、その名残りだろうな。


 畳の上で正座をして平伏する戦車大隊の面々。合わせて16名だ。どうやって階段の上がわかるかって? 会場のホログラムに映し出されているんだよ。貴族、平民全てが、この映像を見ているに違いない。最近では一番大きな事件だったからな。


「わたくし、佐久間一族が織田家に仕え、早500年……」


 おほんおほんと、咳払いをして緊張しているのを、ありありと見せながら、メタボな隊長さんが、得意げに何やら壮大な話している。ビッグバンから説明を始める気だろうか。


 褒美は一人金板100枚。キラキラと輝く金板が盆に乗せられて、隊長たちに渡されている。誰かが、あれは1枚10万円するんだと話しているのが聞こえたので、1000万円の褒美ということだろう。後はなにやらの勲章も授与されていた。


 軍人に金の報奨を与えるとは、帝政なのだなぁと実感するところだ。前世の軍人なら仕事だから、報奨としてでも昇進だって難しかっただろう。


 皆が歓声をあげて拍手をするので、俺もちっこい手でぱちぱち拍手をする。早くご飯食べたいので、早く終わらせてくれないかな。


 メタボなおっさんの話は長く、石山本願寺を攻略した先祖の話あたりで、皇帝が扇子を投げつけて、終わった。ナイス皇帝。


 ペコペコと頭を下げて謝りながら去っていくコミカルなおっさんと、苦笑して下がる兵隊さんたち。その後に聖女ちゃんが入れ違いとなり、しずしずと階段を上がっていく。


 銀髪赤目の美少女だ。作者は一番人気の出そうなキャラとして作ったのは間違いない。俺も銀髪キャラは好きだもん。


 おだやかで優しそうな顔の聖奈は、てこてこと階段を登ると、畳の上に座る。十二単衣かなと思うぐらい豪奢で豪華な着物を着込んでいるが、恐らくは魔法がかかっているのだろう。その動きに澱みはない。模様の鳥さんとか、今にも動き出しそうなぐらい精緻だよ。


「続けて、多くの人々を救い、敵の中心となっていたキングマンティスを周りの者たちと力を合わせて打倒せし、聖女弦神聖奈への報奨に移る!」


 司会者さんがマイクで宣言すると、メタボなおっさんたちよりも、多くの人々の歓声があがる。哀れメタボなおっさん。美少女には敵わないよな。


「聖奈様!」

「我らの聖女!」

「万歳、聖女様!」


 わぁわぁと皆が感激の声をあげるので、俺も合わせて、ぱちぱちと拍手をしちゃう。


「ありがと〜、聖女様! わたし達を助けてくれて!」


 感動だ。聖女様ってば、多くの人々に回復魔法をかけて、なおかつキングマンティスを武士団と力を合わせて倒したらしい。さすがは原作のヒロイン。大活躍だよな。


 むふーっ、むふーっと興奮して、アイドルへと手を振るように頑張っちゃう。キャーキャー、聖奈様〜!


「あの……みー様?」


「なぁに、闇夜ちゃん?」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねて、アイドル聖奈へと満面の笑顔で声援を送る俺に、言いづらそうに、隣に立つ闇夜が声をかけてくる。


「あの………いえ、なんでもないです……」


「?」


 教えてくれる様子はなさそうなので、コテリと小首を傾げて微笑むだけに留めておく。


 そうなのだ。聖奈の活躍でキングマンティスを討伐したという話になったのである。


 皇帝も『ロキ』が面白半分にキングマンティスを討伐したなどとは、公開できなかったのだろう。なにせ、『ロキ』は『隠されし神殿』を解放し、シザーズマンティスのスタンピードを巻き起こしたと思われる最重要容疑者だ。なのに、キングマンティスを倒したなどと、マッチポンプも良いところなので隠蔽することに決めた模様。


 幸い人々は聖奈だと思っているし、『ロキ』だと知っているのも少人数な上に、忠誠心が高い武士団とその上司の娘である闇夜のみ。箝口令は簡単に敷けたのだ。


 なので、今や聖奈は時の人である。テレビやラジオでは連日聖奈のことを放送しているし、早くも映画化されるとの噂だ。平民たちを助けるために、護衛を説得して戦場に向かう奇跡の聖女なんだと。


 俺がした全ての功績を自分の物として、にこやかに魔法カメラに手を振る聖奈。報奨の勲章を掲げて、満面の笑みである。罪悪感の欠片も見えない。


 皇族ということなのだろう。人気取りのために頑張っちゃう聖奈を全力で応援するぜ。俺の功績って、かなり大きいと自覚しているしね。正直、押し付けてごめんなさい。功績は重圧にもなるから、申し訳なさでいっぱいである。この先、聖奈は大変だろうからな。


「みーちゃん、行くよ」


 声援をかける美羽に、父親が声をかけてきた。その声音には緊張感が混じっている。美羽のちっこい手を握ってくるので、無邪気な笑顔で返す。反対側からは母親も手を握ってくれるので、ご機嫌美羽ちゃんだ。


 これからなにが起こるのか俺は知っている。悔しく思うが、知らないふりをして、両親を安心させるのだ。無邪気で可愛らしいみーちゃんなのだ。


 ゴクリと両親はつばを飲み、俺達家族はてこてこと階段を登る。同じく父親の兄である嵐と、爺さんの風道も隣で階段を登る。


 嵐は憎悪の籠もった目で俺たちを睨んでくるが、自業自得だろ。俺の方が睨んでやりたい。


 風道爺さんは複雑そうな顔だ。喜んでいいのか、悔しがるのが正しいのかわからないと判断に迷っている表情である。


「論功行賞は終わりだ」


 カメラを止めるように、皇帝は手をあげる。指示どおりにホログラムは消えたので、見せしめにする気はなさそうなので、少し安堵した。これで誰にも見られない。まぁ、皇帝の声はホールには響き渡っているけどね。声だけは高位貴族に聞かせるつもりなのだろう。


「これよりは確認するべきことがある」


「へへ〜」


 俺はちこんと座ると平伏する。お代官様〜。


「ははっ!」


 他の人たちは軽く頭を下げただけだった。


「みーちゃん、平伏するのはまだ早いの」


 母親がつんつんとつついて、小声で教えてくれる。あれれ、そうだっけ?


「くくっ。まぁ良い。子供のすることだ」


 笑う皇帝に、どうやら頭を下げなくていいみたいだねと、俺は平伏を止める。目の前に座っている皇帝は、厳しそうな目つきの壮年の男だった。カリスマ性と威圧感を持つ王者の空気を纏っている。


 先祖の織田信長にそっくりと言われているらしいよ。弦神げんしん刀弥とうや。聖、万能属性以外を高レベルで操り、その刀の腕は剣聖と呼ばれる程だとか。


 原作では戦うことがなかったために、ちっとも強さが分からないおっさんである。ゲームでも、皇帝と戦うイベントはなかったので本当に強いか分からない。でも、この様子を見るに強そうだな。光速剣を使うとゲームでは語られていたけど、どうなんかね。皇帝だから、戦闘の機会はないか。


「宰相」


 たった一言呟くと、司会者さんが直立不動となり口を開く。司会者さんではなくて、宰相さんだったのか。


「はっ! 鷹野嵐。汝は恐れ多くも皇帝陛下主催のパーティーにて、死傷者が出てもおかしくない危険な魔法を使った。これに異論はあるか?」


「魔法は完全に制御できており、この小娘のみに効果があるように調整しておりました。周りへの危険はありません!」


 元気よくアホな回答をするドヤ顔の宇宙人さん。マジかよと、宰相さんが驚いてマジマジと宇宙人を観察しているよ。風道爺さんは遠い目をしており、父親は唖然としていた。わかるわかる。この人は宇宙船火星号の乗組員なんだよ。


「なので、俺がここで答えるのは、こいつを保護させてくださいということです。馬鹿で力のない芳烈じゃ、守るのは無理ですからね」


 えっへんと胸を張る宇宙人。このアホは本当にお主の実子なのかと、宰相さんが風道爺さんに信じられない表情を向けていた。『ロキ』が変装しているんじゃないかと、言い出しそう。


「そうか、力の無い芳烈殿では無理だと? なので、あの騒ぎを起こしたというのか?」


「はっ! 身の程知らずなところを見せつけました!」


「あいわかった。では、沙汰を下す」


 皇帝はもはや気の毒そうな顔になって風道爺さんを見ている。皇帝からも同情されるって……。


「ならば、鷹野美羽は力を持つがよかろう。余の主催するパーティーにて、危険な魔法を使ったことにより、罰として嵐はこれ以降は平民として、ダンジョン攻略を命ずる。鷹野伯爵家の一員と名乗ることはまかりならぬ!」


「な!」


 なんて寛大な沙汰なんだと、宇宙人が感激の声を上げるが、次が問題だった。


「風道。そなたは隠居せよ。当主の座は鷹野美羽に命ずる。幼き当主を補佐するため、20歳までは当主代行を鷹野芳烈に命ずる!」


 威圧感のある鋭い眼差しで、空気を切るかのように皇帝は告げる。驚くことはない。もうすでに聞いていた話だけど……むぅぅ。


 どうやら、鷹野家族は伯爵家の者になっちゃうらしい。なんで、みーちゃんが当主なんだろうな。

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バレテーラ
[一言] 立場逆転してて草 この兄...とんだジョーカーだったよ
[気になる点] > 光速剣を使うとゲームでは語られていた 長政が親父が使う最強技は「光輪剣」と言ってましたが、合ってますか?
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