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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
4章 元服パーティー

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71話 その名は疾風迅雷だぞっと

 怒りに燃えるキングマンティスだが、ちっともHPが減っていないのは知っている。まだ、背中の翅をむしり取っただけだからな。母親に虫の翅をむしったなんて知られると怒られそうなので、気をつけないと。そんな残酷なことをしちゃいけませんって、怒られたら素直に謝るよ。みーちゃんは良い子だからな。


 それに本当はキングマンティスがそんなに怒っていないことも、知っているんだぜ。


「ギイッ!」


 6本の鎌を時間差で再び繰り出してくるキングマンティス。だが、その攻撃はすっかり精彩を失っており、俺の前ではただのアトラクションにすぎない。


 つまり、命の危険なく遊べる遊具ってわけだ。


 ひらりひらりと、舞うように鎌を躱していく。まだ幻影ファントムも残っているために、俺に命中しそうな攻撃はさらに少ないので、回避楽勝である。


 まったく攻撃は当たらなくなり、メタル切りが必要なほど、俺は素早く動く。残像が増えていき、ますます敵の攻撃は当たらなくなる好循環。


『武器解除Ⅳ』


 ヒュッ、と息を吐き、鋭い剣撃で迫る腕を斬り払う。だが、皮膚を傷つけただけで、腕は切れなかった。格上にはやっぱり発動しにくいな。『隠れる』必須か。


 地味に削っていくしかないかな? こいつのHP膨大なんだよなぁ。他の人たちが来て、途中で横殴りされたら泣いちゃうぞ。


 嵐の壁の外側ではなんとか結界が消えないかと、武士のおっさんや、金剛が話し合っていたり、魔法をぶつけている。残念でした、魔法では中々消えないよ。


 とはいえ、所詮はエフェクト効果。いつまで保つのか俺にもさっぱりわからない。そのため、早くキングマンティスを倒さねばならないだろう。

 

 ………とすると、やはり最高の盗技だな、うん。


「一気に倒してやるぜ!」


 キングマンティスの頭のある6メートルの高さまで、トンと飛翔して接近する。俺を迎え撃つために、鎌を振るキングマンティス。


 まずは横薙ぎ。俺の背丈と同じ長さの鎌が迫ってくるので、柔らかな踏み込みでそっと鎌に足をつける。その信じられない体術により、美羽の足は斬れることはなく、そのまま身体は横に運ばれるので、コロリンと降り立つ。


 次は袈裟斬りだ。反対の腕で攻撃を繰り出してきた。もう一本の腕が鋭い振り上げを見せるが、残像を狙っていたのでスルーだ。


 俺は袈裟斬りで迫る鎌へと、体を傾げて躱すと、その刀身に足をつけてスタタと登り始める。みーちゃん壁走りの術だ。盗賊Ⅳにとっては、こんなことは赤子の手をひねるようなものだ。赤子は可哀想だから、蟷螂の脚にしておこうかな。

 

 まさか、鎌を登ってくるとは思わなかったんだろう、キングマンティスは慌てて左右から同時に袈裟斬り攻撃を仕掛けてくる。


「それは悪手だぜ」


 迫る鎌の攻撃は勢いはなく、そして俺を捉えるには大きすぎる。所詮は蟷螂、学習能力がない。


「とやっ」


 足に力を込めて、加速しながら大きくジャンプする。真横を鎌が猛スピードで通り過ぎていく。左右を鎌に挟まれた格好となった俺は体を傾けて、三角跳びの要領で、その鎌を壁代わりにしてトントンと蹴りながらジグザグに登っていった。


 キングマンティスの頭が近づくと、顎を開けて威嚇してくる。噛まれたら、胴体真っ二つコースになりそうだ。


 だが、鎌を振り切ったあとのキングマンティスは、頭を突き出して、噛みつき攻撃はできなかった。体勢を崩してしまうからだ。これが人間の知性を持っていれば、迷わずフェイントくらい入れただろうが所詮は蟷螂。虫の頭だ。多少頭は良くても、危機となれば本能で動く。演技でも良いのに、噛みつく素振りすらしてこようとはしない。


「だから、虫なんだ!」


『砂煙Ⅳ』


 手をさっと横に振ると、キングマンティスの顔を砂煙が覆う。盗技『砂煙』は相手の視界を奪うんだ。レベルⅣだから、かなりの効果だぜ。


「キィ、キイッ」


 頭を振って砂煙から逃れようとするキングマンティスだが、残念でした、それはスキルなんだ。その効果はなかなか消えないぜ。


「致命的な隙を見せたな!」


『隠れるⅣ』


 『砂煙』の効果で視界が悪いキングマンティスは、目の前で美羽が隠れると、あっさりと見失った。


 空間に隠れている俺は、タンッとキングマンティスの顎を踏み台にすると、ふわりと浮いてクイーンダガーを構える。ここで大ダメージを与えてやるぞっと。


 チャキリと、クイーンダガーを構えると、キングマンティスの頭へと躍りかかる。


『不意打ち』


 即死、クリティカル確率大幅アップの『急所突き』と違い、『不意打ち』は攻撃ダメージの倍率が高い。そして、敵に精神異常『混乱』、『朦朧』、『スタン』のどれかを付与できる技だ。


 サクリと首元に入った一撃により、緑色の血が噴き出し、巨体が揺らぐ。キングマンティスの頭の上に煙のエフェクトがポワポワ浮かぶ。


 『朦朧』だ。ついているぜ。『混乱』はダメージを受けると正気に戻るし、『スタン』は1ターンだけ無防備だ。しかし『朦朧』は最低1ターンの『スタン』。平均でも2ターンは『スタン』状態だ。そして、『朦朧』中に攻撃すると必ずクリティカルになるのだ。


 クリティカルは入らなくとも、昆虫特効のダガーでの武技の一撃だ。かなりのダメージが入った。状態異常のエフェクトって、俺以外が見ることができるんかなと思いつつ、ダガーをちっこい手で強く握りしめる。


 ステータスボードを眼前に呼び出し、残りのMPを確認する。いけると思う。ソロで勝てるぜ。


「良い子のみーちゃんの日頃の行いの良さだぞっと!」


 くるりと回転しながら、俺はキングマンティスへと追撃する。


『スピンブレード!』


 多段攻撃『スピンブレード』。3回攻撃が敵に入る短剣技だ。俺は武技の名前のとおりに、体を激しく回転させて、短剣を振るっていく。


 もういっちょだ。


『スピンブレード』


 さらにもう一回。


『スピンブレード』


 俺の身体に緑色の返り血がシャワーのように降り注ぎ、連続回転斬りにより、キングマンティスの頭はズタズタになった。クリティカル連打を喰らったキングマンティスはそれでもタフさを見せて、ようやく『朦朧』から立ち直り、頭を振るとこちらへと不気味なる複眼を向けて咆哮する。


「キィィィィィ!」


 ガラスを引っ掻くような、音波攻撃にも思える咆哮をあげると、キングマンティスの緑の身体は真っ赤へと変わり、湯気のようにその身体からオーラが立ち昇った。


 『超狂乱化ハイパーバーサク』だ。ボスにありがちなスキル。筋力を大幅に上げて、クリティカル率を極端に上昇させ、ミスの確率を増やすキングマンティスのスキルである。HPが5割を切ると発動する厄介なスキルだ。


 このスキルはキングマンティスと極めて相性が良かったので厄介だった。なぜならば、6本の腕を持つキングマンティスは、最低でも3回の攻撃をプレイヤーにしてくるからだ。多少ミスをしても、一度でもクリティカルヒットが入れば、プレイヤーは大ダメージを受けるからだった。


 対処を間違うと全滅する危険性があるのが、キングマンティスなのである。


 だが、これを俺は待っていた。一気に倒すチャンスだ。


「女王のピンチだ! 来たれ、近衛!」


『インペリアルアント召喚』


 指に嵌めたクイーンリングがキラリと輝くと、紅い線が俺の前に現れて魔法陣を描く。即座に全長3メートルの金色の外骨格を持つ羽蟻が魔法陣から飛び出てきた。その手には白金の槍と盾を持っている。


『インペリアルアント:レベル45。クイーンリングから召喚される召喚昆虫。消費MP60』


 この固有技がクイーンリングにはあるので、俺は好んで使っていた。使い勝手の良い蟻さんなのだ。


 インペリアルアントは翅を広げて、ホバリングし、俺はその頭の上に飛び乗ると指示を出す。


「『聖騎士の誇り』だ!」


 俺の命令を聞き、インペリアルアントは白金の大盾を翳し、武技を使用する。


『聖騎士の誇り』


 大盾の前に幾何学模様の魔法陣が描かれる。インペリアルアントの身体を緑色のオーラが包みこむ。


「ギイッ!」


 憤怒に燃えて、狂乱化しているキングマンティスは6本の腕を振り上げると武技を発動させた。


紅光撃レッドフラット


 その瞬間、キングマンティスの腕はかききえて、紅き閃光が俺に襲いかかってきた。俺は反応もできずにその攻撃を受けてしまう。


 『紅光撃レッドフラット』は、高位武技の一つ。必ず先制攻撃となり、命中率アップとクリティカル率が上がる。ただ、他の武技は高いダメージ倍率が乗るし、同じようにクリティカルも乗るので、プレイヤーは使用しない武技であった。


 しかし、それを『超狂乱化』モードのキングマンティスが使うとなると、話が変わる。1ターンに1人、必ず仲間が死ぬダメージを叩き出す。普通に1000超えダメージを入れてくるのだ。


 6連撃にクリティカルが乗る悪夢である。ガガガと轟音が響き、紅き光線のような鎌の攻撃が俺を襲う。


 だが、俺はピンピンしていた。傷一つない。代わりにインペリアルアントがダメージを受けて、外骨格が割れて血が流れていく。しかし、落下することなく、ホバリングをして、その身体は揺らぎもしなかった。


「ナイス。『聖騎士の誇り』は発動しているようだな」


 『聖騎士の誇り』は、パーティー全体を物理攻撃から庇うスキルだ。使用者は防御体勢扱いとなり、全ての物理攻撃を受け止める。そして、この武技の特徴はクリティカル無効とするところだ。素のダメージしか負わない堅固な防御スキルなのである。


 複合ジョブ『聖騎士』が使えるタンク役にピッタリのスキルである。まぁ、全体攻撃も受け止めるので、防具を揃えていなかった場合は、下手したら1ターンで沈むこともあるんだけどな……。


 そして、インペリアルアントは『聖騎士』なのである。ソロにピッタリのタンク役と言えよう。


 キングマンティスが、『紅光撃レッドフラット』を連打してくるのはわかっていた。だからこそ、今のタイミングで、インペリアルアントを召喚したのだ。


「うっしっし。これで王様は退位の時間だな」


 みーちゃんスマイルを浮かべながら、俺は手のひらをキングマンティスへと向けると、何かを掴むように握りしめる。


 盗賊Ⅳの最高コンボを魅せる時だ。お代はお前の命でいいぜ。


能力強奪ステータススティール:力』


 マスターとなった盗技。その中で最高のスキル。盗賊必殺のスキルだ。


 ゆらりとキングマンティスから、燃えるようなオーラが吹き出ると、霧の塊となって俺へと吸い込まれていった。


 吸い込んだ瞬間に、圧倒的な力を感じた。ステータスが一気に跳ね上がり、身体に力が漲り始める。


 力:241


 ステータスボードの表記は、ノーマル戦士と同じ程度に上がっていた。


 『能力強奪ステータススティール』は、バトル中、相手のステータスを任意で一つだけだが、20%も強奪できるスキルだ。自分にバフ、相手にはデバフがかかる特殊スキルなのだ。バトル中は、『魔法解除ディスペル』系統を使われなければ、解けることはない。


 『超狂乱化ハイパーバーサク』を使って、跳ね上がったキングマンティスの力を俺は奪いとった。


「さて、フィニッシュといくかなっと。疾風迅雷の名前のとおり、瞬きの間に倒してやるぜ」


 ラストアタックといこうか。これでバトルも終了だぜ。鮮やかに紅き光を宿す女王の短剣を構えて、美羽は不敵に笑う。


 畳みこもうとしたところ、ゲームと違うことが起こった。自分の力を盗まれたキングマンティスは、ヨロヨロと後ろに後退ったのだ。なぜか、その身体から恐怖を感じてしまう。なぜなんだ、王様なのに。


「王様だろ。逃げるなよ。背中を見せる王様は終わりなんだぞ。怯懦に陥る王は死あるのみ」


 スッと目を細めて、インペリアルアントの上で、前傾姿勢をとる。キングマンティスは俺に攻撃もせずに、後ろへと下がっていたが、王の気概を思い出したのか、すぐに気を取り直して攻撃を繰り出してくる。


紅光撃レッドフラット


『隠れるⅣ』


 再びの6連撃。紅き閃光がインペリアルアントを襲うが、力を奪われたキングマンティスの攻撃では、インペリアルアントを落とせない。後一回は同じ攻撃が必要だ。


 インペリアルアントは白金の大盾を構えながらホバリングして、その攻撃を全て受けきり、微動だにしない。でも、HPは半分を切っている。王様よりも根性はあると思う頼りになる蟻さんだ。


 だが、インペリアルアントが沈むタイミングで、俺はキングマンティスを倒せるはず。空間の裂け目に隠れて、俺は隙を狙おうとするが、インペリアルアントを倒せないと見たキングマンティスはくるりと体を反転させた。慌てたように、ドスドスと逃げていく。


「逃げる気かよ。ゲームとは違うんだな」


 そりゃそうか。負けを悟ったのだから、ボスといえど逃げると。勉強になりました。でも、王様だろ。倒せないからといって、背を向けるとは王様失格だ。


「だが、逃すわけないだろうが!」


 凶暴なる獣の笑みで、美羽は飛翔すると逃げるキングマンティスの背中に追いつく。魔法の力を身体に巡らせて、世界の理を変えて武技を放つ。


 短剣技最強の武技を。


幻影輪舞ファントムダンス


 空間の裂け目から飛び出した美羽は、キングマンティスの胴体をクイーンダガーを振るいながら、高速で通り抜けていった。その手のクイーンダガーは、巨体を切り裂ける紅き刀身が形成されており、ひと振りでキングマンティスの身体は大きく切り裂かれた。


 キングマンティスの胴体が斬られて、傷口が開かれる前に、またもや美羽が空間の裂け目から躍り出て、クイーンダガーを振るいキングマンティスを通り過ぎる。


 すぐにもう一人、また一人と、6人の美羽が視認もできない高速の動きで飛び交いながら、キングマンティスの身体へとクイーンダガーを振るっていき、空間へと溶けるように消えていった。


 そうして、ホバリングするインペリアルアントの頭へと美羽はふわりと降り立つと、身体を僅かに傾げて、ふっと息を吐き、笑みを見せつける。


「6連撃はお前だけの専売特許じゃないんだ。不満なら特許庁に行くんだな」

 

 その言葉を前に、逃げるキングマンティスの身体がグラリと揺れると、亀裂が入っていき、バラバラとなって地面に肉片となって降り注ぐのであった。


 どうやら、賭けには勝ったようだと、胸を撫で下ろしちゃう。ちょっと危険な賭けであったのだ。


 『幻影輪舞ファントムダンス』は短剣技最強だ。6人の幻影が敵をサクサク切り刻む。ダメージ倍率もそこそこあり、6連撃で敵を倒す。


 この武技の特徴は、力依存の武技なのだ。短剣なのに、力依存。本来は力の低い盗賊ではあまり使えない残念最強武技だが、『能力強奪ステータススティール』で『力』を奪い取れば、その威力は跳ね上がる。


 キングマンティスのHPは4000前後。自動回復なしで、ゴリゴリの戦士タイプ。HPは高いが、柔らかい。力を奪い、昆虫特攻のダガーでの『隠れるⅣ』からの6連撃。クリティカルが2回出れば、倒せる計算であった。


 本来はインペリアルアントは次の一撃で倒されてしまうから、もしも倒しきれなかったら、一気にピンチに陥っていたはずだったのだが、まさかの逃亡である。


 予想よりも楽な戦いとなったよ。これもみーちゃんの日頃の行いだな。でも、ボスでも怯むのかぁ………。なるほどねぇ。まぁ、良いや。現実となったので、これからも色々と気をつけないとな。


 ドロップアイテムも手に入ったが、生のキングマンティスの素材を使えるか興味がある。インペリアルアントに地面に降りるように命じる。


 素直にインペリアルアントは着陸し、俺はぴょこんと降りる。


「さて、貴方はどなたなのでしょうか?」


 タイミングよく、竜巻のエフェクトが消えたために、駆け寄ってきた人に涼やかな声をかけられるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ついに、謎に包まれた疾風迅雷の正体が!?
[気になる点] 戦闘描写が何というか……冗長? 最初のレイス戦はまだ必要事項を後々のために説明しながら~的に見えたのでいいのですが ゴーレム戦くらいからこっち 「無駄(本当に主人公が思っただけで何かの…
[一言] 剥ぎ取りタイムの邪魔をするとは、許せん!
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