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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
4章 元服パーティー

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64話 勝利はヒロインに会う

 時間は少し巻き戻る。シザーズマンティスたちが現れる少し前であった。


 日本魔導帝国の最高の爵位である公爵家の嫡男である粟国勝利は、高位貴族しか入れない皇城内のパーティーホールにて、10歳のお披露目パーティーを楽しんでいた。


 豪華絢爛なパーティーだと言われている皇帝が主催する10歳のお披露目パーティー。確かに平民区画のパーティー会場、下位貴族の区画の庭園でのパーティー会場に出る料理も、美味な上に多種多様にあるし大したものだ。


 しかし、城内のパーティーは遥かに格が違う。滅多に取れないハイホーンベアカウの肉料理から始まり、フライング超鮫のキャビアや火炎松茸、白金トリュフなど、普段は金を積んでも買えない素材を元にした料理がずらりと並んでいる。ちなみに蝶鮫とは違い、フライング超鮫は物凄く強い魔物らしい。


 魔法宝石のみで作られた美しく絢爛なシャンデリアの光の下に、高位貴族たちは一着で平民が一生暮らせるレベルの服を着込んで楽しんでいた。


 ………楽しんでいた。そう勝利は思いたい。


「いやぁ、勝利様はそのお年で炎の魔法を使いこなせるとか。実に素晴らしい」


「今度、勝利様のお家に遊びに行きたいですわ」


「せっかく我らは同じ歳で産まれたのです。どうでしょう、なにか我らのみのクランなどを作るというのは?」


 いつものことだが、取り巻きがおべっかを使い話しかけてきていた。男も女もおべっかを使ってくるが………。


「貴様ら、もう少し……いや、なんでもない。まぁ、パーティーを楽しもうじゃないか」


 いつものことだが、いつもとは違うこともある。子供たちは、子供に不似合いな喋り方だ。きっと、親に言われたのだろう。


 大人たちはギラついた目で、勝利を褒め称えてくる。いつもはほとんど大人と話さない勝利はうんざりしていた。


 元服式も終わったので、これからはパーティーに出ることも多くなる。こんなおべっかを聞き続けなくてはいけないのだろうか。


 使用人たちは、自分を恐れてほとんど話しかけないし、おべっかを使う者はこれまではほとんどいなかった。取り巻きたちも子供の無邪気さもあり、おべっかを使ってきても、たどたどしく多少のことで気にするほどでもなかった。だが、これからは違うのだろう。


 前世ではオタクにして元フリーターの自分にとっては面倒くさい。元々学校に行かず、引き篭もったのも、なんとなく面倒くさかったからだ。公爵家で育ち、礼儀作法を覚えて、力にも自信があるようになったが、性格は変わらない。


 使用人ならば、うるさい、制裁だと蹴り飛ばせば良いが、ここにいるのは将来自分の味方にしなければならない高位貴族たち。好き勝手に横暴なことをすれば破滅が待っているのは容易に予想できるために、愛想笑いを浮かべて答えていた。


 正直疲れる。金持ちになり、未来は素晴らしいとだけ考えていた勝利は予想と違うことにうんざりしていた。だが、金のある人生は素晴らしい。前世のように、課金ガチャで金が無いと、親に強請るようなことをせずとも良い人生。課金ガチャのゲーム会社を買い取ることができるレベルの金持ちなのだから、我慢は必要だとため息混じりに相手をしていた。


「楽しんでますか、粟国様?」


 澄んだ可愛らしい少女の声が、自分にかけられたので、振り向くと恭しくお辞儀をして返す。


「これは弦神様。はい、楽しんでおります。これだけの料理を見るのは初めてで感動していました」


「ふふっ。私もこれだけの料理を見るのは初めてなんです! だって、お父様は元服式まではパーティーに出ちゃいけませんって、禁じていましたから」


 楽しげに笑うと、その周辺がほんわかとした空気となる。その笑みだけでヒロインなのだと勝利は感心しながら、相手を見る。


 声をかけてきたのは弦神げんしん聖奈せな。皇帝の息女だ。皇族で皇女は彼女一人であり、兄たちからは、かなり可愛がられていることを、勝利は知っていた。


 腰まで伸びる白金にも見える銀髪。ルビーのような紅い瞳。可愛らしさと美しさが同居している女神のような美しい顔立ちの少女だ。皇女に相応しく宝石の嵌められた白金のティアラをつけて、きらびやかなドレスを着ている。回復魔法のスペシャリストで、丁寧な物腰と、優しい性格、そして、多少ヤンチャで悪戯が好きという『魔導の夜』のヒロイン役である。


 そして、主人公以外にも、たびたび心境を描写されており、勝利が安心できる人間でもある。心境が少ししか描写されないキャラクターは原作のままのイメージを持ってはいけないと、最近の勝利は薄々考えていたので、聖奈は主人公のように安心できる相手であった。


 原作では、回復魔法が必要な時には、なぜか毎回そこにはいないという間の悪いキャラクターであったが。まぁ、そこは原作者のせいであるので、気にしない。


「これからは僕たちはたくさんのパーティーに出ることになるのではないでしょうか?」


「そうですね、ちょっと面倒くさいですよね。あ、これはナイショですよ?」


 聖奈の隣に立つのは、シンだ。神無シン。原作『魔導の夜』の主人公。なぜか聖奈の隣にいる。婚約者はどうした、エスコートしろよと言いたいが、彼女はおたふく風邪で家で寝込んでいるのも知っている。


 この数日後、回復した婚約者と二人だけでの小さなパーティーをすることも知っている。なので、聖奈の隣にいることもおかしくはない。聖奈はシンを少し話しただけで気に入ったのだ。自身を回復魔法使いであり、皇族だと、特別扱いしない人間なので気に入ったことを神である勝利は知っていた。


 この現代ファンタジーの世界は、異世界ファンタジーと違い、特に男女間の交際に煩くない。貴族だから部屋で話す時は、二人きりは避けるとか、婚約者がいる相手と親しく話しかけるのは禁止とかはない。普通に友達付き合いとかできるのである。


「たしかに少し面倒くさいですね。僕もうんざりですよ」


 肩をすくめて、おどけてみせる。


 聖奈は勝利のお気に入りだ。テンプレ銀髪紅目のクローンヒロインだが、それだけ銀髪紅目は人気である証拠。そして勝利も同じく大好きなのだった。


 そして、好感度を上げる方法がはっきりしているヒロインであることも理由だ。


 イベント以外にも、もちろん好感度を稼がなくてはならない。なので、勝利は秘策を用意した。その秘策が何なのかというと。


 シンの真似をする。聖奈を特別扱いせずに、普通の友だちとして扱う。それが秘策であった。


 正直、自分がそんなことをできるのかという自覚はあるが、なんとかなるだろうと、神である勝利は考えていた。何しろ、己には多数の女性との交際経験がある。無論、モニターの中の女性だが。


 普通ならば、ゲームの女経験は現実では通用しない。それぐらい勝利だって理解している。

  

 しかし、この世界は小説の世界。腹を抱えて笑ってしまうような臭い台詞回しも、大袈裟なリアクションも、この世界ならば問題はない。前世との常識が違うのだ。ゲームの経験が役に立つに違いないと固く信じていた。


「意外です、粟国様はこのようなパーティーがお好きに見えたのですが」


「あぁ……。そう見えますか? それならば、上手くやれているようだと、安心できました」


「あら、噂と違いますのね」


 クスクスと笑う聖奈の姿を見て、生のヒロイン、モニターから飛び出てきた女の子を前に、ニヤニヤとニヤけて鼻がぷっくりと膨らみ、おっとっととゲスな笑みが見られないように口元を押さえる。


 だが、やはり大ファンであった『魔導の夜』のヒロインが目の前にいるのは感動を抑えきれない。絶対にモノにしてやるぜと心に誓い、手を強く握り締めるのであった。


 そうして、少し話し込んでからである。設定集で裏のストーリーを知っている勝利は、ベッタリと聖奈にくっついていた。この先の展開を知っているからだ。


「あぁっ、申し訳ありません!」


 機会はシンがワインを載せたメイドとぶつかったことから始まった。ぐるぐる眼鏡にくすんだ茶髪のメイドとシンがぶつかって、ワインで服が濡れてしまったのだ。


「も、申し訳ありません」


「いえ、僕がよそ見をしていたのが悪いんです」


 さすがは神無公爵家や悪人以外には寛大な主人公様だ。穏やかな笑みで手を振り許していた。とはいえ、気づいていた。聖奈がメイドの脚をさり気なく引っ掛けて、ワインがシンに被るようにしたのを確認していた。


 悪戯そうに、聖奈は小さく笑いチロリと舌を出す。そのことにシンも気づいていたために、怒ることはしなかったという理由もある。


「大変だわ、シン、控室で着替えましょう?」


 パンと手を打って、聖奈はシンの手を引っ張る。慌ててメイドがあとに続いて、控室へと足早に移動する。


「僕も一緒に行きますよ、弦神様」


 どうやって移動したのか、それだけが不思議だったが、なるほどこのような方法で移動したのかと納得して後に続く。


 聖奈は少しだけ考え込んだが、ニコリと微笑むと問題ないと考えたのだろう。


「勝利さんと呼んでも? 私も聖奈で良いですわ。それでは行きましょう」


 やったと、勝利は内心でガッツポーズをとる。一歩前進だと笑うのであった。


 控室で、焦るメイドがシンの服を脱がして、こういった服を汚すような場合のことを考えられているのだろう。新しい服を持ってきた。


「申し訳ありません。その指輪もお拭き致します」


「あ、はい。ありがとうございます」


 ワインでベタついていたのだろう。シンは指輪も拭くために外して、メイドは丁寧にハンカチで包み拭く。勝利はあの指輪が魔神を封印している最後の神器だと知っているために、多少気になりその様子を見ていたが、特に不審なところもなく、メイドは拭き終わりシンに返していた。


 まぁ、ストーリーでも指輪が奪われるイベントなどはなかったのだが、なんとなく安堵した。なぜかはわからないが。


「シンさん、勝利さん、どうでしょう、この服は?」


 控室に来てから、隣の部屋に移動していた聖奈がジャーンと新しい服を着込んで、現れる。小綺麗だが、少し高価なワンピースだ。平民用の一張羅に見える。そして、その美しい銀髪はくすんだ茶髪になり、ぐるぐる眼鏡を付けていた。


「変装しました。どうです? 私とわかりますか?」


「いえ、わかりません」


「たしかに。どうしたのですか、その姿は?」


 シンが苦笑しながら、錆びた指輪のついたネックレスを再び付け直す。勝利は予想通りだが、わざとらしく驚いてみせる。


「それはですねぇ……。あ、その前に貴女はもう良いですよ。あと、ここで見たことはお口チャックでお願いします」


「はい、畏まりました。では、失礼致します」


 メイドへと聖奈が退室するように告げると、恭しく頭を下げて去っていった。残りは自分たちだけとなると、聖奈は人差し指を口元にピトッと付けて、フフッと悪戯そうに微笑む。


「こっそりと平民区画のパーティーに行きましょう? 秘密の転移陣があるんです。サッと行って、楽しんでこっそりと帰ってきましょう」


「本気ですか?」


「少しですよ、ほんのすこーし。なので、勝利さんも着替えてくださいね?」


 シンは聞いていたのだろう。肩を竦めるだけだったが、型どおりに一応勝利は尋ねてみた。だが、聖奈が絶対に平民区画のパーティーに行くことは知っていた。


 なにせ、このパーティーが原作開始の合図なのだから。


 このパーティーが分岐点となるのだ。皇族と貴族の勢力争い。そして、原作の根幹となるイベントだ。


 くくくと内心ほくそ笑みながら、勝利は聖奈に連れられて、秘密の転移陣へと向かうのであった。


 そういえば、あのメイドも今の聖奈みたいな格好だったと思ったが、これから始まるイベントに心を湧き立たせていた勝利はそんなつまらないことはすぐに忘れた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勝利くん、嫌がる相手を奪い取って屈服させたがる性癖だと思っていたけど、彼女の好感度は気にするんだ。 上げて落とすつもりとか、主人公の絶望が見られればいいとかかな? それとも失敗を重ねた上に、…
[良い点] 更新お疲れさまです。 もうすぐでかけ違えていた歯車が何故かピッタリハマりそう……w
[一言] バッカモーン、そいつがデュパンだ!
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