表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
1章 幼稚園時代

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/380

6話 しんのモブって、空気なんだぜっと

 死霊レイスと対峙して、俺は今までとは違う漲る力を感じていた。ステータスもそのとおりに表している。


レベル1

神官Ⅰ:☆

HP:12

MP:9

力:3

体力:3

素早さ:3

魔力:3

運:3


 ゲームの時のステータスだ。『魔導の夜』は小説だ。だが人気があったためにゲームにもなった。懐かしのRPG。素早さにより、戦闘の順番が複数回来ることもあるリアルタイムターン制。


 検証は後でするにしても、やばかった。『小治癒マイナーヒールⅠ』を使う前はHP1だった。後少しで死ぬところだった、あぶねーっ。


 闇夜に取り憑く『死霊レイス』は憎しみで歪む老婆の顔を動かして、俺をジロジロと見てくる。わかるわかるぜ。不思議なんだよな。とってもわかるよ、その気持ち。


 土壇場で覚醒する俺。まるで主人公みたいだ。


 だけどモブだと俺は理解した。このゲームの仕様が何よりも俺がモブだと教えてくれる。


 まぁ、それはともかくとしてだ。


「シネシネシネ」


 闇夜が人差し指を俺へと向けてくる。その人差し指に闇のオーラを集めようとするが、そうはいかねぇぜ。


「俺のターンだろうがっ! 順番はお間違えなくな!」


 手のひらを闇夜に向けると俺はジョブの特殊能力を使用する。使い方は簡単だ。頭の中でコマンドを選べば良い。努力なく使えるゲーム仕様。実に素晴らしいよな。


『ターンアンデッド!』


 MP1を使用して、俺の手のひらから聖なる光がフラッシュのように光る。その光は浄化の光。神々しい光は辺りを照らし、影を消し、全てを浄化しようとする。


「ギャァァァァ!」


 浄化の光を受けた『死霊レイス』は、煙を身体から吹き出すと、痛みに身体をよじらせて闇夜の体から離れていった。そして、空中で痛みを覚えて苦しみ藻掻く。


 その様子に俺はホッと安堵する。どうやら小説やゲームと同じ仕様だったようだ。違っていたらやばかった。


「ほっと」


 力を失い、ふらりと倒れそうになる闇夜の身体を支えると、空に浮いている死霊レイスへと冷ややかな視線を向ける。


「『調べる』」


 敵の力を解析する魔法は今は使えないが、それでも調べることはできる。それがコマンドの『調べる』だ。俺よりも多少レベルが高くとも調べるを使うとだ。


死霊レイス レベル3


 名前とレベルはわかるわけ。小説の世界だから、レベルは完全に信用できないかもだが、それでも目安にはなる。そしてレベル3なら楽勝だ。


「てめえは憑依してくるのが面倒くさいだけ。それを防ぐには主人公の得意技『魔法破壊マジックブレイク』か魔法使いの『魔法解除ディスペル』。そしてだ、『神官』の固有スキル『ターンアンデッド』だ!」


 俺のとったジョブ。それが『神官Ⅰ』だ。固有スキル『ターンアンデッド』はMP1で格下の不死者を即死させて、同レベルでも弱体化させることができる。そして、何よりも『憑依』を確実に解除できるのだ。


「お、おのれぇっ!」


「わかるぜ、憑依が解けちまったてめえは、低レベル『ドレインタッチ』しかできない。だが、もう俺のターンしか来ねえんだよっ!」


 手のひらを向けると再度魔法を使う。熟練度1の神官の魔法は固有スキル『ターンアンデッド』と初級神聖魔法Ⅰの『小治癒マイナーヒールⅠ』が使える。なので、選択肢は一つ。


小治癒マイナーヒールⅠ!』


 迫りくる憎しみに満ちた悍しい表情の老婆の死霊に、俺は回復魔法を使ってやる。とっても優しいだろ?


 皺だらけの手が俺に触れようとする寸前に、その身体が輝き、仄かな癒やしの光が死霊レイスを覆う。


「ウッギャー!」


 再び死霊レイスは苦痛に悶えて空中へと浮き、身体をよじる。もはやこちらを狙う余裕はなさそうだ。


「聖属性弱点。弱点を突けば一回行動キャンセルさせることができるんだけど、現実だとこうなると」


 ゲームだと魔物の弱点を突けば、一回行動キャンセル。次の行動の時はキャンセルできないが、どうなることかと思っていたらこうなるのか。なるほどなぁ。でも、現実だからなぁ、油断はできないよな。


「そんじゃあばよ」


 手のひらを向けて、再度魔法を使う。死霊は神官にとってカモである。グワッグワッと鳴いてくれても良いんだぜ。


小治癒マイナーヒールⅠ』


 回避不能の魔法。それが回復魔法だ。他はミスとかあったけど、これだけは絶対に命中するんだ。そして不死者にとっては回復魔法は致命的な攻撃魔法と化す。


「オォァァ……」


 『死霊レイス』は断末魔をあげると、サラサラと灰となり消えていく。俺を殺そうとした魔物は呆気なくその命を消すのであった。いや、不死者だから浄化したのかな? どちらでも良いか。


死霊レイスを殺しました。経験値1取得。魔石Fを取得しました』


 アイテムボックスに勝手にドロップ品が入ると、俺は初めての戦闘を終えたのであった。死霊系統は神官にはカモだが、他のジョブには厄介極まる魔物だ。しかも不死者はあっさりと倒せるパターンが多いので、経験値がとにかく渋い。


「まぁ、倒せたから良いか。あ〜、死ぬかと思ったよ。闇夜ちゃん大丈夫?」


 おっととと、俺は口調を変える。俺言葉なんか両親に知られたら、不良になったと悲しまれるからな。


 先生たちも友だちも遠巻きに離れていたので大丈夫だろ。う、うん、きっと大丈夫。俺の必殺スマイルで全てを誤魔化す………。


「お、おろ? あれれ?」


 身体がふらつき、血の気が引く。か、回復魔法を使ったのに、なんぞこれ? 


「まずい……ゲーム仕様は小説の設定に負けるのか……」


 俺はふらつき倒れ込む。ゲームだと回復したら問題ないのになぁ。小説だとこんなんあったわ。ほら、主人公が疲れて倒れないとイベントが始まらないしね………。


 そんなくだらないことを考えながら俺は意識を失い、眠りについてしまうのであった。




 ぱちくりと俺は目を開けた。


「病院かな?」


 ピコーンピコーンと血圧が計られており、腕には点滴の針が刺さっている。モゾモゾと動くと、ベッドの柔らかい感触が返ってくる。真新しいシーツ、薬臭い部屋……いや、薬臭くないな。


 まるでホテルのスイートルームのような広々とした部屋だった。高級感がある内装、でかいテレビに冷蔵庫。うん? なんか豪華な個人部屋だ。高いんではなかろうか。


 俺は誰もいないなぁと、少ししょんぼりしつつ、ステータスボードを開く。開く方法はコントローラーを思い描き、タッチボタンを押すだけだ。まさかのステータスボードの呼び出し方法である。この世界に転生させた神がいるとすれば、俺は文句を言いたいところだ。こんなんわかるわけねぇだろ。


 誰がコントローラーを思い描いてステータスを開くタッチボタンを押下するイメージを描くと言うのか。知っていれば別だが、知らなければ奇跡でも起きないとわからねぇだろ、ちくしょうめ。


「とはいえ、俺はこの世界『魔導の夜』で、完全にモブだと判明したと」


 アイコンを操作してアイテムボックスを見るが、魔石Fだけだ。やりこんだ俺のキャラや性能は残っていない。そううまくはいかないようだ。


「だけどリセットされただけという感じだな。課金ジョブはあるし。とするとだ、課金は他の所にも影響しているはず。ここは問題はない。で、俺はモブと」


 『魔導の夜』のプレイヤー。それはモブであることを示す。それはなぜかというと、だ。


 小説や漫画がゲーム化する。主人公を操作するパターンなら問題はない。問題は1からキャラメイクできるパターンだ。


 普通のゲームなら、プレイヤーが主人公だ。ストーリーも主人公を中心に動く。だが、小説などを原作としているとどうなるか?


 結構あるパターンだと思うが、小説の主人公と絡み、メインストーリーに混ざれるのが売りなのだが、ここで問題が発生する。


 それはプレイヤーがパーティーにいるのにガン無視して、主人公たち小説のキャラだけで会話やストーリーが進むのだ。


 まるでプレイヤーがいないかのように話をする主人公たち。たとえプレイヤーが全ての敵を倒して、主人公たちは倒れていても、やったなと喜ぶのは主人公たちだけ。プレイヤーは空気扱いされるのである。即ちモブだ。ストーリーに絡まれると話がおかしくなるのだから仕方ないのはわかるが、これは酷かった。


 ファン向けのゲームだから仕方ないかもだけど、俺もいるよと、無視しないでくれと涙を流したくなるゲームはたくさんあるのだ。

 

 『魔導の夜』はそのパターンだ。メインストーリーに一切プレイヤーは会話パートに関われないのである。空気なのだ。これが現実だと泣いて良いと思う。


 サブストーリーや隠しストーリーだと小説の主人公たちは反対に一切会話に入ってこない。現実だと無関心よりも酷い。虐めだよな、これ。


 ただひたすらやり込むのが、『魔導の夜』のゲーム版なのである。ストーリーに期待をしてはいけないのだ。


 なので、俺はキャラメイクできるプレイヤーキャラクターの時点で空気と化したモブなわけ。なんのストーリーにも関われないだろう。……いや、隠しストーリールートにはいけるかも? あれも主人公たちは関わってこないから、やっぱりモブなのは変わらないか。


「だけどプレイヤーキャラクターで良かったのかもな。主人公よりも遥かに強くなれるし」


 これがレギュラーキャラクターに転生したら、やばかったかもしれないと思い直す。だって、小説はレベル制の世界ではないのだ。ゲーム版はRPGとして作成するために、レベル制にしていた。主人公たちは雑魚を倒してもレベルアップはせず、固定レベルだった。修行イベントとかがあるとレベルアップするシステムだったのだ。


 正直いうと、最終的には主人公たちはいらなかった。プレイヤーと召喚獣や使い魔だけで戦闘したものだ。


 そう思うと、心がすっと軽くなった。良かったモブで。修行とかやってられん。死ぬほど努力しようと誓ったけど、楽なルートがあれば俺は迷わずそのルートを征く。


「強くなるのに、苦労はするだろうけど、死ぬほど努力はしなくてすみそうだな」


 現実でレベル上げとか、熟練度上げ。大変そうだけど、なんとかなるだろと、俺は枕に頭を埋める。現実とゲームの違い、いや、小説とゲームの違い? なんでも良いけど、確かめることもたくさんありそうだ。今回のようにHPは満タンにしたのに、倒れたりね。たぶん貧血で倒れたんだろう。


 ふわぁとあくびをする。眠い。かなり疲れているようだ。6歳児には大冒険だったからなぁ。


 ウトウトとし始めると、病室の扉が開き母親が花瓶を持って入ってきた。俺がアクビをする姿を見て、驚き目を潤ませると駆け寄ってくる。


「良かった、みーちゃん起きたのね!」


「おあよ〜、ママ」


 ぎゅうと抱き締めてくる母親にアクビ混じりに答える。眠い。とても眠い。


 良かったわと、嗚咽混じりに強く抱き締めてくる母親に、どうやら親不孝なことはしなくて良かったと、俺も抱き締め返す。


 良かった良かった。とりあえず、命があったことを喜ぼうかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
主人公達の会話に混ざれない癖に主人公が役立たずになるとかファンゲームとして致命的すぎる
[一言] 死霊レイスを殺しました。 死んでいるのに殺したとは、これ如何に?
[気になる点] 独り言の時に「...と」「...なっと」って最後に付けるの嫌いすぎるわ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ