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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
4章 元服パーティー

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55話 10歳のお披露目会なんだぞっと

 ここは現代に蘇った平安時代かと思う光景が美羽の目の前にあった。いや、違う。豊臣秀吉が行なった大花見大会かもしれない。それだけ、目の前に広がる光景に、俺は感動した。


 壮大な光景だったのだ。前世も含めて一度も見たことがなく、テレビやアニメですらお目にかかれない光景が広がっていたのだ。


 門を潜り抜けて、目の前にあったのは広大な公園だった。整えられた芝生には、魔法にて保護されている桜並木が連なり、花びらがひらひらと舞う。桜の下では、多くのテーブルが置かれて、様々な料理が並んでいる。


 ローストビーフから、一口大のサーモンなどが乗っているクラッカー、サラダから始まり、魚のムースやキャビアやらエビやらが入っているカクテルグラス。コックがいるテーブルでは、ステーキが焼かれて、板前が寿司の注文を受けていた。


 もちろん、デザートもチョコフォンデュが噴水のように流れて、ケーキも芸術品のような美しい物、アイスもあって、団子などもある。


 ここにない料理などはないのではないか? そう思えるほどに多種類の料理が並んでいた。しかも無くなる前に、メイド達がすぐに補充してくれる。


 飲み物もたくさんあるようで、シルバーのトレイにワインが注がれたグラスを乗せて運ぶメイドもいるし、簡易的なバーも設置されており、日本酒なども完備しているようだ。


 ちょっと予想が甘かったわ。この城は広い。というか広すぎる。この庭園だけで、前世の日比谷公園を何個も集めた広さを持っているぜ。


 もちろん、人も多い。貴族たちや有力な平民たちが家族で来ているから、合わせて1万人はいるんじゃないか?


 これだけ豪華絢爛で、壮大な花見大会など見たことはない。豊臣秀吉のやった大花見大会もこの花見には敵うまい。あ、花見じゃなかった。お披露目会だった。


 息を呑んで感動で瞳をキラキラと輝かせて、灰色髪の少女はくるりと振り返り、驚きの声をあげてしまう。


「ふぁぁ、パパ、ここがお披露目会場?」


「そうだよ。奥に進むとバルコニーがあって、そこで皇帝陛下が挨拶をして終わりだよ。後は料理を楽しんで、交流を深めるだけさ」


 驚いている美羽を見て、優しい笑みで父親は頷き説明をしてくれた。なんか簡単そうなお披露目会だな。たしかに遠くに城が存在し、バルコニーも見えている。


「私、パーティー用のホールでお披露目会すると思ってた!」


「他国はそうだけど、日本は違うんだ。皇帝陛下は代々多くの人々との交流を大事にして、堅苦しい礼儀などは必要ないと考えているからね」


 なるほどねぇ。たしかに原作でも庭での回想シーンだった。パーティーで庭園はおかしくないかと思って、今回のパーティーとは違うんじゃないかと考えていたが、当たりのようだ。念の為にムニンを借りてきて良かったぜ。まさかお披露目会を外でやるとは想像していなかったよ。


「36家門の子息子女は、バルコニーにあがって、皇帝陛下にご挨拶をするんです。なので、少し待っていてくださいね、みー様」


 残念そうなしょんぼり顔で、闇夜が言ってくるが、なるほど、これだけの人数の中でバルコニーで挨拶なんか大変すぎるもんな。俺ならノーサンキューだよ。


「その間は玉藻ちゃんと一緒に料理巡りだね。ぐるぐる回ろうよ、ぐるぐる〜」


「うん、ぐるぐる〜」


 玉藻と手を繋いでぐるぐると回る。広大な庭園なので、そんなことをしても当たることはない。玉藻の着物の裾が広がり、美羽のスカートが翻り、二人の美少女は楽しげに回るので、周りの人々が微笑ましいと微笑みを見せる。


「すぐに挨拶を終えてきます!」


 むぅ、と頬をふぐのように膨らませて、闇夜はダッシュでバルコニーの方向だろう先に走っていった。身体強化をしているのだろう。恐ろしい速さだ。子供用とはいえ、ハイヒールを履いているのに、黒豹みたいだ。他の人に当たらないように気をつけてね。闇夜の母親が微笑ましそうに闇夜の後に続いて去っていった。


「皇帝陛下が、元服の儀式の開幕を告げるまでにあと30分ぐらいあるわ。みーちゃんは何を食べたい?」


「う〜んと。帰ってからのご馳走が楽しみだから、軽いの食べる!」


 庭園に広がる料理よりも、我が家のご馳走の方が楽しみだ。特にケーキは三つ星ケーキよりも上回る七つ星をつけちゃうぜ。神龍だって呼べる価値があると思うんだ。


 なので、キャビアにフォアグラ、イクラにムースっぽいものを選ぶ。高価で食べたことの無いものを食べるんだ。あんまりお腹いっぱいにならないように気をつけなくちゃな。


「玉藻ちゃん、行こ〜」


「お〜、行こう、行こう〜」


 玉藻と手を繋いで、仲良く料理の並んだテーブルへと小走りで向かう。やっぱりキャビアは止めようかな、これは珍味なんだよな。個人的には好きじゃない。しょっぱいだけなんだもん。


 玉藻がステーキを食べたがったので、二人で半分こずつにして食べる。マジか、このお肉柔らかすぎる! 口の中で溶けちゃった。ミルクホーンベアカウのお肉? 一度見てみたい魔物なんだけど。


 両親に見守られて、二人でキャッキャッと食べ回る。なぜか両親の周りに人がたくさん集まり、俺と同じ歳の子供たちが友達になろうと言ってくる。


 とっても嬉しい。


 なんで、嬉しいのかというとだ。


「皆で分けて食べよ〜!」


 目指せ料理全種類制覇! バイキング形式なのに、ステーキとか普通より少し小さい程度なんだよ。お腹いっぱいになっちまう。


 なので、ちゃっかりみーちゃんは、新しいお友だちと、料理を分けて食べるのだ。なんだか、新しいお友だちは驚いていたが、ナイスアイデアだろ? そのチョコムースは6等分にしようぜ。


 戸惑い驚いていた新しいお友だちも、すぐにワイワイと騒がしく楽しげな様子に、笑顔へと変わり、皆は料理に舌鼓をうつ。


「隊長、フォアグラのテリーヌを小分けにしました!」


「うん、皆に配って配って!」


「イチゴのタルトが上手く分けられないよ〜」


「任せて! 私が戦うから! ていっ!」


「アイスクリームをたくさん貰ってきたよ」


「好きな種類を食べよ〜! 私、チョコアイスクリーム!」


 皆が一体となって、全種類制覇を目指し、楽しくてたまらないといった笑顔で料理を食べていく。そうして、和気藹々とした空気になった時であった。


 ラッパの音が鳴り響き、奥にあるバルコニーに壮年の男が立っていた。


「皇帝陛下よ、みーちゃん」


 母親が声をかけてくるので、スッと目を細める。……うん、よく見えないや。『マナ』に目覚めている子供たちは『視力強化』で見えているらしい。羨ましいことだ。玉藻も見えている様子。この集団で見えていない人もいるようなので、全員が魔法使いではなさそうだ。


「ママ、あんまりよく見えないよ」


「ジャジャーン! ちゃんと双眼鏡を持ってきました〜」


 なんと驚き、主婦の知恵だ。母親は得意気に双眼鏡をカバンから取り出す。周りの大人たちの何人かも同じように双眼鏡を持っていた。皆、頭いいな。


「ママ。貸して貸して〜」


「はい、落とさないでね」


「うん! ありがとう!」


 お強請りみーちゃんは、ぴょんぴょんと飛び跳ねて、母親は微笑ましそうに渡してくれる。俺はすぐに双眼鏡を覗き込み皇帝陛下を見る。


 マントを羽織り、王冠を被った偉そうな壮年の男がなにか言っているが、ぜんっぜん聞こえん。拳を握りしめて語っているけど遠すぎる。マイクを使っていても、途切れ途切れだよ。


 だが、問題ない。俺はこの光景を知っている。思い出したとも言う。主人公のシン目線で語られていた。公爵家なので、挨拶のために宮殿内のバルコニーの側にいるはずだ。


「次はこう言うはずだ。我が皇家に産まれし、4人目の聖女を紹介しようってな」


 皇帝陛下が手を振り下ろして、身体を傾けながら宮殿の奥へと顔を向ける。すると、銀髪赤目の少女が金糸の意匠で彩られた白いローブを着て、しずしずと歩いてきた。その隣には車椅子に座ったお爺さんが続く。お爺さんの脚には毛布が掛けられている。


『調べる』


田内たないたもつ:レベル38、足封印Ⅲ、病気Ⅰ』


 興味があって、確認すると結構な強さだが足が欠損しているようだ。しかもⅢレベルか。かなり難易度が高い。病気Ⅰもあるな。


「新たなる聖女の力を皆に見せよう。次代の皇家の聖女の力を!」


 と言っていると思う。口パクでのアテレコだけどな。皇帝陛下の力説に、周囲は静かになり、少女へと視線が集まる。


 お爺さんの脚にかけてある布を侍女が取ると、太ももから下の両脚が無かった。ふむ、完全に無いとレベルⅢの欠損になると。だとするとⅣレベルの封印はどんな欠損扱いなんだろう?


 まぁ、いつかわかるだろう。今は聖女様のお力を拝見といこうかねっと。


 シンは側にいるので、色々と見ていると思うけど、俺はモブなので、遠く離れた場所で眺めるだけだ。


 遠くにいても、わかる。跪いた少女の身体が純白の光に覆われていく。段々と光は強くなり、聖女の顔は辛そうに歪む。この双眼鏡、素晴らしい解像度だな、聖女の表情まで見えちゃうぞ。高くなかった? 今日のために買ってくれたんだよね? 新品だもん。


 無駄に斜め方向の心配をしながら眺めていると、パアッと光が身体から放たれて、光のリングとなって、お爺さんの身体を頭から下へとスキャンするように通り過ぎていく。


 聖女は立ち上がると、両手を天へと翳して厳かに口を開く。本当は、可愛らしい小鳥のような声だとか、清らかなる声音とか原作では描写があった……ような気がする。もう大体の本筋しか覚えてねーよ。細かい部分は忘れた。


「貴方に癒やしを! 『うんちゃらかんちゃら』」


 口パクのアテレコにも限界があるんだよ。癒やしの魔法の名前忘れた。ごめんな、聖女様。集音器も必要だったぜ。


 しかし、俺のアテレコとは関係無しに、聖女の力は本物だった。お爺さんの脚に光が集まると、脚の形に形成されていく。そうして神々しく眩い光が収まっていくと、お爺さんの脚が見事に生えていた。健康そのもので、多少若返ってもいる感じがする。


「おぉ〜! 治っちゃった、治っちゃったよ、エンちゃん!」


 俺の裾をクイクイと引っ張り、玉藻が興奮で目を輝かす。たしかに同意見だ。欠損Ⅲを治せるとはさすがはヒロインさんだ。


「うん! 凄いね! あの人が新しい聖女様なんだね!」


 皆がその光景に息を呑み、驚きの表情となる。車椅子に座っていたお爺さんは立ち上がり、元気に歩けることを確認すると、聖女の少女の前に跪いて感涙していた。


『調べる』


『田内有:レベル44、病気Ⅰ』


 一応、完全に治ったのか確認したが………ううん? なんで『病気Ⅰ』が残っているんだ? ゲームと違って、それぞれ回復する場所によって、使用する回復魔法が違うのか?


 疑問を覚える結果に、俺は首を傾げてしまう。聖女は辛そうな顔をして、ヨロヨロとよろけていた。マナ消費量が高いのかしらん。


 皇帝陛下がよろける聖女へと手を差し伸べ、聖女は手をとりニコリと笑い返す。


 手をとった聖女を抱きかかえて、皆に見えるようにしながら、誇らしい顔で皇帝陛下は宣言した。


 うん、これは覚えていなくとも、だいたいわかる。


「我が娘、弦神げんしん聖奈せなに幸あれ! 新たなる聖女の誕生を皆で祝え」


 そう宣言しているはずだ。弦神聖奈、彼女はこの『魔導の夜』の聖女様。皇帝陛下の娘にして、主人公のヒロイン役なんだよ。


 このパーティは聖女のお披露目会でもあったんだ。


 主人公の次に会えたよ。原作のヒロインさんに。サインを頼んだら駄目かな? モブっぽくて良いと思うんだ。


「だけど、困ったな。あの回想シーンだとまずいことになるかも」


 美羽は眉をひそめて、困り顔になるのであった。記憶と違っていればいいなぁ。でも、今のバルコニーのシーンからだいぶ場所が変わっているから、もしかしたら何も起こらないのかも。


 ムニンの報告待ちかなと、俺は再び料理を食べるのであった。このチョコレートムースしゃわしゃわした食感で美味しい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >もちろん、人も多い。貴族たちや有力な平民たちが家族で来ているから、合わせて1万人はいるんじゃないか? みーちゃんが感じた数かな? かの桜を見る会が18000人くらいだったらしいので…
[良い点] 子供愚連隊がいくぞー! [一言] お、本物やるやん!
[良い点]  さすがのみーちゃんさまの女帝っぷりな采配に笑う(^皿^;)あっという間に同年代のちびっ子たちを統率するって周りのほかの親御さんたちは唖然ですな♪  ちゃんとメインヒロインちゃんは聖女し…
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