51話 妖しげなる女神登場だぜっと
北欧神像。課金アイテムであり、様々な北欧神を召喚でき、仲間にすることができる。オーディーンのおじいちゃんも、この神像で召喚したのだ。
皆がそれぞれチートな能力を持つ。北欧神に相応しいキャラクターばかり。その中でも性能的に最強のおじいちゃんを召喚したわけだが、次なる仲間はフリッグらしい。おじいちゃん的には役に立つ仲間だとか。
俺的には、フリッグは微妙な性能だから、召喚するのを躊躇うレベルだったんだけどな。次はヘイムダルかフレイヤを召喚しようと考えていたから意外だぜ。
ふむんと、美羽は小首を傾げて神像を眺めて、すぅと息を吸う。小柄で幼気な美少女はあやとりをするかのように、ぽてんとお座りして手を翳す。
なんとも可愛らしい姿の美羽だが、行うことはあやとりではなく、神召喚です。
空間に表示される半透明のボードに映る神々一覧。その中で女神フリッグを選択する。マイナーな女神だよなとか、内心思ってたり。ポチっとな。
「『女神フリッグ』召喚だぞっと」
召喚するエフェクトとして、俺は両手を前ならえの格好にして、フリフリと動かす。そうして神像の前に光でルーン文字が一つずつ描かれていき、幾何学模様の魔法陣が周囲を覆う。美羽とそばで興味深い表情で見ているオーディーンの顔を光が照らす。
魔法陣からキラキラと金粉のようにマナの粒子が吹き出し、周囲を舞っていく。光が一層輝くと、魔法陣から一人の女性が徐々に現れてきた。
黄金の髪が波打ち、金の瞳が輝く。妖艶なる美しい顔立ちの美女がその姿を現した。その肢体は豊満な胸に、くびれた腰、世間で完成されたと言われるようなモデルよりも完璧だ。誰もが見惚れてしまうだろう美女、いや女神が顕現した。
自分の身体の与えるインパクトを知っているのだろう。両手を後ろ手に、身体を僅かに反らせて、魅力的だ。
服はひらひらの白い簡素な物だが、大粒の宝石が大量に付いているネックレスを何個も首から下げて、さらにすべての指には宝石の付いた指輪、そして、腰には黄金でできている鍵束を下げている。ちょっと成金っぽいが、美女が付けているので、美しさを際立たせて下品な感じがない。
フリッグ、オーディーンの妻だ。
すいっと切れ長の目を開き、艶かしい唇を開く。
「私の名前はフリッグ。最高位の女神にして、オーディーンの妻たるもの。後は面倒くさいからテキストフレーバーを読んでね、お嬢様。ふふっ」
雑な自己紹介をする女神だった。妖艶なる笑みは見惚れるが、どことなく残念な女神だ。それと、フレーバーテキストだから。間違ってるぞ、フリッグ。間違いやすいとは思うけどさ。残念さは上がっちゃった。
「フレーバーテキストね。まぁ、見てみるよ」
フレーバーテキストを見ておく。こんな感じだ。
『北欧神の一柱であり、愛と豊穣を司る最高位の女神。オーディーンの妻。豪華なる宮殿に住み、家の全ての管理を行なう鍵束を持つ。予言の力を持つが、その内容を決して口にすることはない。名前の由来から金曜日の女神とも言われる。貴金属に目が無い強欲なところもある』
「神々を召喚しない理由の一つが食料なんだよね。食料を用意するのが無理だったからなんだけど、大丈夫?」
何しろ9歳の少女なのだ。オーディーンのおじいちゃんは永遠に尽きない葡萄酒の入っている瓶を持っているので、大丈夫だったんだ。デザイン画では腰に葡萄酒の瓶を下げていたんだよ。それもおじいちゃんを召喚した理由の一つだ。
おじいちゃんの食料は葡萄酒だけ。他はゲリやフレキに与えるんだよね。現実化したら、神々もご飯が必要ではないかと恐れたのだ。北欧神は宴会とか大好きだし、普通にご飯を食べると思ったのだ。
ちなみにムニンは勝手に餌を探しているらしく、ゲリとフレキは俺がこっそりとカリカリ君を買ってきたので大丈夫。母親にカリカリ君が見つかったけど、お菓子だと思って買っちゃったと誤魔化したので大丈夫。
「大丈夫よ、お嬢様。オーディーンが戸籍を作っているのでしょう? 私の分もいくつか作ってもらうわ。ダミーの会社と戸籍を作って、家を買うつもりよ」
妖しい笑みで、頼りになる言葉を口にするフリッグお姉さん。オーディーンと同じく俺の知識をある程度は引き継いでいるらしい。お手並み拝見といこうじゃないか。
「その身に着けている宝飾品を売って、資金にするの? 高く売れそうだけど?」
キンキラキンの姿のフリッグ。身に着けているネックレスの一つでも売れば、資金にはなりそう。宝石が大粒すぎるからな。この世界の貴金属の価値は前世とおんなじだろうし。
フリッグはニコリと微笑むと、俺へとズイと顔を近づけてくる。美女に顔を近づかれると照れちゃうなと一瞬思ったが、すぐに悟る。その笑みの凄みに。
「お嬢様? これは私の物なの。譲渡不可だから、売っても数秒で私の手元に戻るの。売らないけど。手放さないけど。手放さないけど。わかる? 手放さないけど? 大事なことなので、3回言っておくわ」
これは怒ってます。どうやら地雷を踏んだようだ。ちょっと怖い。美羽の額にグリグリとフリッグは自分の額をくっつけて、威圧してくる。なるほど、貴金属に強欲だという意味がわかりました。
譲渡不可の意味はわかったけど、あんまり嬉しくない。まぁ、譲渡不可だと売れないことはわかったよ。
「それよりもお嬢様。貴女、この間のダンジョン攻略で大量のアイテムを手に入れたでしょう? アイテム整理もやってあげるから、出してご覧なさい?」
さすがは家の管理をしてくれる女神さんだ。早くも頼もしいところを見せてくれる。おじいちゃんはそこらへんに関してはまったく役に立たないからなぁ。自分の叡智を高めるのに、懸命だ。生活力皆無のおじいちゃんである。
「うん、今出すね!」
美羽は猫を被った! にゃーん。フリッグが怖かったからだよ、にゃーん。女の怒りは男よりも怖いんだ。
「えぇと、石岩百足の甲羅、ストローノミの口吻、荒れ地蝙蝠の翼」
てこてことソファに戻り、座り直すと、テーブルにぽんぽんとアイテムを置いていく。かなりの量だ。フリッグも隣に座り、出されるアイテムを覗き込む。
「ゴミね。早く捨てなさいよ」
「いや、武器や魔導鎧に使えるよ?」
「ゴミね。そうやって倉庫に使わないゴミを貯めるネトゲーマって多いのよね」
そう言いながら、空間に穴を開けて『マイルーム』に備え付けてある『亜空間倉庫』に乱暴に放り投げるフリッグ。『亜空間倉庫』はアイテムボックスの超大型の物だ。無限に入るといっても良い。パーティーキャラクターもどうやら使えるようだ。
「たしかにそうだけどさ」
役に立つことがいつかあると思うんだ。きっと、たぶん、いつかね。俺はそう信じているよ? ゴミにしか見えないけど。ちなみにおじいちゃんは興味を失い、また端末に戻りました。
「えぇっと、魔銅、魔鉄たくさん、ミスリル50個ぐらい」
「はいはい、仕舞っておくわ」
結構価値があると思うんだが、駄目らしい。
「銀塊、金塊もそこそこあるな。宝石も多種類」
近衛アリは必ず各種宝石を落とすし、羽根蟻は銀塊やたまに金塊を落とす。結構あるな。ジャラジャラと貴金属がテーブルいっぱいに広がり、眩い感じだ。
「仕舞っておくわね」
亜空間倉庫にフリッグは同じように仕舞って………。
「ねぇ、なんで右手は倉庫に仕舞って、左手は自分のアイテムボックスに仕舞っていくの、フリッグお姉さん」
「活動資金ね。それに宝石は粒の大きさがまちまちだから、悪い品質の物を売っていく予定よ」
なるほどな。たしかに軍資金は必要だ。でも、もう一つ気になることがあるんだよ。
「ねぇ、たまに宝石を口に入れるのはなんで?」
「品質を確かめるのには、口で味わうのよ。ダイヤモンドとかひんやりとした感触なのよ」
ポイポイと仕舞って行く中で、時折口に宝石を放り込むフリッグ。お菓子だろうか? スナック感覚で食べている。
「なるほどな……って、吐き出してないじゃん! 飲み込んでない?」
品質確かめてねーだろ。お姉さん食べてるだろ!
「ついつい食べちゃうのよ。ほら、テキストフレーバーに書いてあるでしょ? 貴金属に目が無い。好物なのよ」
ほら、ここよと、フレーバーテキストを呼び出して、一文を指し示す。たしかにそう書いてあるな。
「これ、食べ物的な説明だったの? それにフレーバーテキストだから! というか、おじいちゃん〜、この人は凄いうちのエンゲル係数を高めるよ!」
宝石を食べるとか、酷いだろ! チェンジをお願いしたいんだけど! おじいちゃんヘルプミー。
「それ以上に稼がせれば良かろう。それにどれぐらい食うのか今のうちに確かめておけ」
冷たい物言いのおじいちゃん。まるで他人のような扱いだ。夫婦は仲良くしないといけないんだぞ。たしかフリッグが死ぬまで、オーディーンは宮殿に戻らなかった逸話があったなぁ。やっぱり仲悪いじゃねぇか。
「大丈夫よ、お嬢様。あまりにも大量に宝石があったから、食べていいのかしらと、ついつい食べたけど、普段は月に1個ぐらいで良いわ。普通の食べ物も食べるし、おやつにシルバーアクセサリーを食べるぐらいで満足するから」
「月に1個かぁ。そういえば、この世界はダンジョンから宝石が産出されるのに値段は変わらないね」
屑宝石を落とすダンジョンを探してもらおうと思いながら、ふと気づく。不思議だ。普通なら宝石が溢れかえらない?
「それは魔法や魔導具の触媒に使うからだな。なので、宝石の価値はそこそこ高い。魔法宝石だと天井知らずだ」
「あ〜、使うと消えちゃうもんね。なるほど」
おじいちゃんは情報については役に立ちました。ごめんなさい。既に相場や社会の知識については、美羽を上回るだろう。チート、チートなおじいちゃんだこと。羨ましい。
「まぁ、それぐらいなら余裕でこの資金を元に稼ぐから安心なさい」
「うん、頼もしい言葉をありがとう。それと、それはシュークリームじゃないからね? 金塊だよ?」
ムシャムシャと金塊を美味しそうに食べるフリッグお姉さん。フリッグの歯って、どうなってんの? 貴金属の防御力を無効にする能力でもついているのかな?
ジト目の美羽の視線を受けて、モグモグゴクンと食べきってから、頬に手を添えて、フリッグは上品に微笑む。
「あら、ごめんなさい。シュークリームだと思ってしまったわ。黄金のシュークリームって、よく聞くわよね?」
まったく悪びれる様子のない女神さんである。クイーンアントからドロップした宝石は食べられるのは嫌だから、アイテムボックスに仕舞ったままにしておこうっと。
ツッコミを入れない俺を見て、諦めて肩をすくめると、フフッと妖艶に微笑む。
「まぁ、心配しないで、お嬢様。私は愛と豊穣を司る女神。即ち、福の神のようなものよ。あっという間にお嬢様の望む財産と勢力を作ってみせるわ」
「ほんと〜?」
嘘だったら、泣いちゃうぜ? 美少女美羽ちゃんはギャン泣きしちゃうよ?
「えぇ、お嬢様の望むのは、誰にも気づかれないで、資産と力を手に入れること。貴女の知識を共有したけど、どうやら古代より現代の世界の方が容易のようよ。愛の力と豊穣の力、そして、私の能力を以ってすれば楽勝ね」
パチリとウィンクして自信たっぷりで、豊満な胸をポヨンとそらすフリッグ。ん〜………任せるよ?
「それじゃあ、とりあえずは」
「とりあえずは?」
「もう0時になったから寝るね」
夜ふかししすぎちゃった。実は元の世界は夜中なのだ。こっそりと両親にお休みを言った後に『マイルーム』に来たんだ。なので、もうおねむの時間なのです。続きは明日の夜にお願いします。
おやすみ〜。




