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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
3章 悪人退治

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46話 チャリティーするんだぜっと

 もちろん、空気となって、鷹野美羽は主人公たちにスルーされなかった。ここは現実の世界。ゲームの世界ではないのだ。小説の世界だけどな。


「こんにちは、お嬢さんたち。初めましてですね。わたくしの名前は神無かんな大和やまとと申します」


 俺に近づいてきて、細目はにこやかな笑顔で挨拶をしてくる。そうそう大和という名前だった。ごめん、本当は覚えていませんでした。


「私は鷹野美羽です。小学3年生です! 来年は4年生になります!」


「私は帝城闇夜です。お会いできて光栄です。神無公爵」


 元気にご挨拶だ。美羽は挨拶のできる良い子なのだ。闇夜は良い所のお嬢様らしく、綺麗な礼を見せて挨拶を返す。


「僕の名前は神無シンです。よろしくお願いしますね」


「よろしくね、シンちゃん!」


 指輪ください。違った、よろしくねと、笑顔でご挨拶だ。シンはのんびりとした人の良さそうな空気を醸し出している。裏表のなさそうな性格だ。この父親から、よくこんな性格の良い子供として育つよな。小説のご都合主義というやつだろう。


「僕もよろしく。粟国勝利だ」


 ぶっきらぼうな挨拶を返すのは、性格の悪そうな勝利だ。う〜ん、見た目で決めつけるのは悪いか。まだ9歳だしな。……でも、こいつ違和感を覚えるんだよなぁ。生来から気の合わない人間のような感覚がするんだよ。珍しいことに。


「お嬢さんは回復魔法使いの娘ですね? 鷹野伯爵家の孫娘の?」


「おじーちゃんは会ったことがほとんどないからわからないよ。私はパパの、んと、鷹野子爵家の娘です!」


 父親はなんか爺さんとは微妙な感じらしいから、とりあえずニカッと笑顔で子爵家の娘だよアピールをしておくぜ。


「そうでした。失礼、子爵家のお嬢さんですね。歳はシンと同じですか。それは奇遇です。皇城でのパーティーもシンと一緒でしょう。どうでしょう? 背伸びをしてみるつもりはありませんか? 大人がするエスコートというものを、うちのシンにやらせてみませんか?」


 お遊びという名で、エスコート役をシンに任せようとする細目。すげーな、このおっさん。会ってすぐに薦めてくるか?


「おいおい、神無公爵。あまり困らせるな。そういうのは仲の良い奴が良いよな、嬢ちゃん? うちの勝利はこの間のことを反省していてな。謝罪がてらエスコート役を任せてみないか?」


 燕楽よ、あんた仲の良い相手じゃないと、と言いながら、息子を薦めてくるんじゃない。俺が首を縦に振ると思ってんのかよ。


 呆れてしまうが、モテモテだ。あれだ、ネトゲーで白魔道士をしていた頃を思い出すよ。あの時もモテモテだった。回復魔法が欲しいという点で間違っていないと思う。


 はっきりと断るかと、俺が笑顔で口を開こうとしたら、スッと俺の前に闇夜が出てきて、ニコリと微笑む。


「みー様は貴族社会に不慣れなのです。なので、今度のデビューパーティーは私がエスコートをします。子供のお遊びなので、問題はないと思います」


「まぁ、子供たちの遊びだ。儂は構わぬ」


 王牙のおっさんがその言葉に乗る。


「それは残念です。うちはシン以外にも双子の弟に、妹もいます。ここで出会ったのも、何かの縁。今度遊びに来てください」


「みー様共々、その申し出は嬉しいです。ありがとうございます」


 ニコニコと闇夜は答えて、話を誤魔化した。闇夜恐ろしい娘。まだ9歳だよ?


 神無公爵たちは不満を表に出すことはせず、にこやかに、ではまたと答えて、クイーンアントの死骸へと歩いていった。粟国親子も同じく向かい、王牙もそれに続く。勝利が振り向き、チラチラと俺と闇夜を見ていたが、なんだろうな? この影響はでかいとか呟いていたから、年の割に色々考えているんだろう。さすがは高位貴族の嫡男だこと。


 それよりも、シンは今度のパーティーに出ると。それまでに偽物の指輪を用意しておこうかなっと。


 幸運だったねと思いながら、俺はチャリティーイベントをすることを決意する。孤児院にレッツゴーだ!



 2週間後である。俺はさり気なく、ここの孤児院にしようと、闇夜にお願いした。まさか、そんなに熱心だとは思わなかったようで、闇夜は驚いていたが、それでも手伝ってくれて、孤児院にチャリティーを行うことを説明して了承してもらった。闇夜が動いたのは執事にお願いしますねと伝えただけだったが、ありがたい。持つべき者は親友だよな。


 なんか20人も孤児院に子供が増えて、大変だったらしい。良かった良かった。個人経営の孤児院で、院長は魔法使い。とはいえ、戦闘まではできない力の弱い魔法使いだ。


 痩せた中年男性で、細々と魔道具を作って、孤児院経営をしているそうな。無論、国からの補助金はあるが、それでも偉い。魔物に襲われて家族を失い、天涯孤独となった子供たちを引き取っているらしい。


 試しに『戦う』を選んだら


『善人の孤児院長があらわれた!』


 と、表示されたので、善人確定である。ログは嘘をつかないからな。もちろん倒さないで『逃げる』で戦闘は解除したよ。


 孤児は50名ほど。本当にごめんなさい。そりゃ、困窮するわ。


 古ぼけた宿舎を払い下げてもらい、孤児院にしている。床はギィギィと鳴り、隅が腐っている。雨漏りもしており、隙間風も入っていた。


 元宿舎なので、部屋に余裕はあるが、ベッドのお布団はペラペラだ。うん、罪悪感マックスである。


 俺はてこてこと孤児院を見回り、眉を顰めていた。


「パパ! 私がチャリティー頑張る!」


 もちろん、子供がチャリティーを行うことなどできるはずもなく、両親が付いてきている。闇夜とメイドさん。玉藻の両親と玉藻も一緒だ。そして、帝城家と油気家の召使い多数。


 食堂で、孤児たちがお歌を歌い、俺は回復魔法を餌に寄付を募る。帝城家と油気家に招待された貴族たちが大勢集まっていた。ざっと見たところ、30人はいるだろう。少ないと思うなかれ。この人たちは金持ちだ。寄付は一千万は集まるはず。それぐらいあれば、1年は大丈夫だよな?


「チャリティーなんて、よく知ってたね〜、エンちゃん」


「うん! 困っている人を助けることができるんだって!」


 玉藻が隣でサイドテールを靡かせながら、面白そうな顔で言う。フフンと俺は軽装甲の胸を張って、得意げになる。


「チャリティーとは良いことよ、みーちゃん」


「てへへ」


 優しい微笑みを浮かべて、母親が頭を優しく撫でてくれるので、嬉しくなっちゃう。良い子なのだ。えっへん。褒められたので、嬉しくなりスキップをしてしまう。身体が勝手に動いちゃうのだ。


「いやはや、本当にありがとうございました。助かります。最近少し大変なことがありまして」


 孤児院の見学を終えて、食堂に戻ると、ハンカチで汗をフキフキ院長が頭を下げてくる。うん、俺の方こそごめんね? 頑張るから許してください。


 歌を歌う準備をしていた子供たちが、俺の姿を見て、半数近くの孤児が、ワッと笑顔で集まってくる。美少女美羽ちゃんは大人気だ。


「助けてくれてありがとう!」


 ウンウン、チャリティーで助けてくれてありがとうか、なんのなんの。


「今日はおでん屋のおじいちゃんは?」


 おでん屋? おでん屋は眠たい目の少女が経営しているもんだ。


「牢屋から、コフッ」


「気にしないで! 私も頑張るから、皆もお歌を頑張ろうね」


 ラリアットを最後の子供に食らわせて、笑顔で告げると、皆は顔を引きつらせて、コクコクと頷いた。ローヤがなんだって? というか顔を隠していたのに、なんでバレたんだ? 声か。声なのか。今度少年探偵の持つ変声機を手に入れないといけないな。


 ぶっちゃけ言うと、少し意外だ。子供たちは俺に怖れを抱いている。空気でわかるよ。そりゃそうだ。少女の俺が人を殺しまくったもんな。怖がらない方がおかしい。

 

 それなのに笑顔なんだ。良い子たちなんだろうなぁ。


「ありあと〜。からだいたくないの」


 幼女が俺の裾を引っ張って笑顔でお礼を口にする。この娘は、山羊頭に連れられていた娘だ。俺とオーディーンが何十人もの人を殺したのに、笑顔で近づいてくるとはな。……なんか、泣けてきちゃう。


「ううん、気にしないで。私がしたいようにしただけだから」


 幼女の頭を撫でながら、笑顔になってしまう。この娘たちは、小説ではモブだ。あれは死んでいった仲間ですとか言われて、人骨として転がっていたりしたかもしれない。助けることができて良かったよ。


 同じモブ同士、仲良く助け合わないとね。


「みー様、この娘に治癒魔法を?」


「うん! 少し調子が悪そうだったからね!」


 いつの間にと、不思議そうに聞いてくる闇夜だが、この間かけたんだ。嘘は言っていないよな。


 食堂にいる貴族たちに目を向けると、帝城家が用意した軽い料理を食べている。お酒はないが、高級そう。


 子供たちの中には、食べたそうにしている子もいる。うーん、金持ちのチャリティーって、こういう矛盾したところがあるよなぁ。この分を寄付に回せば良いのではと思うが、歓待されれば参加者は嬉しくなる。次のチャリティーにも参加しやすくなる。そういうことを考えると、必要経費なのかね。


 どうせ余るだろ。あとは皆で食べられると思うよ。


「よし! 皆で準備しよー!」


 たった2週間しかなかったので、無茶振りここにきわまるが、仕方ないよな。


「おーっ!」

「頑張ろー!」

「おなかすいたー」


 美羽が可愛らしいおててを掲げて、気合いを入れると、皆は笑顔で叫ぶ。良い子たちだ。前の孤児たちは、新しい孤児たちのせいで、困窮したことを理解している者もいるだろうに、屈託がない。院長先生の人柄が忍ばれるぜ。


 孤児たちが、簡易的な舞台に立ってお歌を披露する。たった2週間の練習しかしていないのに、結構上手い。


 俺も頑張っちゃうぞっと。とりあえず、目標はツギハギだらけの服を新しくする。お腹いっぱいに食べて、おやつもついてくる環境だ。


 『調べる』を使うと、貴族たちのほとんどは『病気Ⅰ』だった。老齢の人が多いから、何らかの病気持ちなのだろう。『病気Ⅱ』も数人いた。それは残念ながら治せない。ごめんね。


 だから気合いをその分入れるぜ。


範囲小治癒エリアマイナーヒールⅡ』


 貴族たちを入れるように、範囲魔法を使う。突如として、柔らかいひかりと共に回復を受けて、その顔を光に照らされながら驚く貴族たち。


 レベル41になったのだ。MPはたんまりある。もちろん今日は神官Ⅱにジョブは変更済だ。


 『快癒Ⅰ』で治らない人は体力だけ回復しておくので、次まで待っていてくれ。『快癒Ⅱ』に上げておくから。


 そうして、俺は範囲回復魔法を何度も使い、状態異常回復を使いまくった。とりあえず全員に『快癒Ⅰ』をかけて、範囲魔法を数回。


 貴族たちは驚愕した顔で、寄付をしていってくれた。小切手を置いていった人もいたが、何度も来てほしいから、小額で良かったのにと思ったのはナイショだ。


 とはいえ、チャリティーは大成功であった。


「来月も頑張ろー!」


 俺は気を良くして、毎月やろうと、子供たちに声をかけた。次は劇と共に回復魔法だぜ。


「いえ、数年は大丈夫です」


 と、院長に断られたけど。


 解せぬ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「おでん屋は眠たい目の少女が経営しているもんだ。」 同じ作者だと気付き驚いた…! また面白い作品を読めて嬉しい…!
[良い点] > 呆れてしまうが、モテモテだ。あれだ、ネトゲーで白魔道士をしていた頃を思い出すよ。あの時もモテモテだった。回復魔法が欲しいという点で間違っていないと思う。 スクワットをするのだ……。 …
[一言] 「来月も頑張ろー!」  俺は気を良くして、毎月やろうと、子供たちに声をかけた。次は劇と共に回復魔法だぜ。 「いえ、数年は大丈夫です」  と、院長に断られたけど。  …
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