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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
3章 悪人退治

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42話 ダンジョンを攻略しておくぞっと

 スレイプニルは、8本足の馬だ。天を駆け、地を疾走し、マップ移動速度が大幅に上がる。ゲームでは最後の移動速度大幅アップが適用されています。


「はいよ、ス〜ちゃん!」


 釣り好きのおじいちゃんじゃないぜ。オーディーンのおじいちゃんの乗馬だ。オーディーンを仲間にすると手に入る移動アイテムである。


 次の日である。臆病な俺はやはりダンジョンに出入りするのは危険だと考えて、次の一日だけを攻略に充てることにした。


 ムニンの『解析』で調べさせて、子供たちは人の良さそうな院長のいる孤児院に置いてきた。不安そうだったが、たぶん大丈夫だろう。連鎖クエストで、借金から孤児院を助けるイベントが発生しないことを祈るのみである。


 こっそりと孤児院に置いてきたから、院長先生は大変なはず。後で支援するから、出世払いでよろしくね。孤児には固く口止めしておいた。スラム街で暮らしていたけど、限界だったと言うように伝えておいた。監禁とか口にすると、『キマイラ』のバックが気づくかもだからな。


 ………20人の大人数だ。後ですぐに支援に行くと約束するよ。


 ハイヨシルバーと、手綱を持って高速移動中である。パカランパカランと、今日は乗馬を楽しむ美少女美羽ちゃんだ。


 街中を走っているわけじゃない。8本足の馬に乗っていたら、目立つことこの上ないからな。どこにいるかというと、ミスリル喰いがいるダンジョンだ。


「ハイヨ、ス〜ちゃん! 今夜は大漁だ!」


 ペチペチと手綱を叩き、突っ走る。見渡す限り、岩山と砂で構成された場所を俺たちは駆け抜ける。


「ヒヒーン」


 スレイプニルが機嫌良さそうに嘶く。大漁なのが、大好きな模様。


「やはり餌が良いと、大漁に釣れるよなっと」


「うむ。だいぶ釣れているな」


 俺の後ろには、オーディーンのおじいちゃんが乗って、後ろをちらりと見る。俺も同じように後ろを見ると、大漁だった。なにが大漁かだって?


 もちろん、魔物が大量に釣れたのだ。今夜のオカズは魚料理のフルコースだな。後ろには砂煙をあげて、物凄い数の魔物たちが、俺たちを追いかけている。


 スレイプニルの速度を利用しての、大量トレインだ。人ほどの大きさのアリや、鎧で身体を覆った百足の化け物、口吻が槍のような巨大なノミ。他にも何種類かの魔物が追いかけてきていた。


 槍のような岩山が連なる隙間から、蟻たちが這い出してきて、砂の中からノミが姿を現す。百足がニョロニョロと岩肌に空いた穴から頭を覗かせる。まるで、百鬼夜行のような光景だ。


 少しでも脚が遅くなれば、追いつかれて、ジ・エンドだ。


「スリルがあって良いよな! うっしっし」


「前方に新たな魔物が出たぞ」


「魔物回避のテクを見せつけてやるぜ!」


 2メートルはあるアリが3匹、目の前に現れたが、俺は手綱を引いて蛇行する。アリが前脚をあげて威嚇してくるが、それがアリの弱点だ。


 スレイプニルはパカランと、あっさりと通り過ぎる。わりぃな。


「おし、3階に突入だぞっと」


「クク、命知らずな所は良いぞ、お嬢」


 可笑しそうに、おじいちゃんは笑うが、俺は効率を重視するんだ。


「ふふん、ゲーマーは時には命をかけるんだ。……『瞬間移動テレポート』分は残しておいてね?」


 まだまだ成長予定の胸を張って、美羽はニヘラと笑うが、怖いので保険はかけておく。


 蛇行しながら進むと余裕で回避だ。巨馬は俺の意図を正確に理解して、人馬一体のように蹄の音高く、駆け抜ける。


 ダンジョンと、名前をつけられているが、『魔導の夜』のダンジョンは環境ダンジョンだ。環境ダンジョン。細長い通路が入り組むダンジョンではなく、砂漠や熱帯雨林、火山や雪山などがあるダンジョンである。


 大きな空間エリアがいくつも存在し、それらを小さな通路が繋いでいる。即ち、高速で移動すれば、魔物を回避できるのだ。


 これはゲームにはなかった。ゲームのダンジョンは同じ環境だが、縮尺が変わり狭い広間となっている。これはプレイヤーにやたら広い場所を無駄に走らせてストレスを与えないようになっていたからだ。


 しかし、現実だと広大な広間だ。一部屋が数キロはあるだろう。エンカウント制のゲームでは、広間が狭くともバトル時は広大な空間で戦闘するので、問題はない。


 しかし、現実ではそれはおかしい。魔物とエンカウントして別空間には移動しないし、原作でも広大な平原の続くダンジョンを攻略する描写があった。なので、ダンジョンはスレイプニルが走り回れるほどに広いのだ。


 そのまま逃げれば、敵は俺たちを見失うが、そんなことはしない。緩やかに走って、敵が見失うことがないようにしていた。


「新たな魔物が現れたぞ」


「ミスリル喰いだな!」


 前方の蟻塚の陰から、5メートルはあるアリクイのような怪物が姿を現す。銀色の毛皮を持つ魔物だ。知ってる、知ってる。俺も結構ゲームで狩ったからな。


 細長い口は、アリクイならば長細い舌を出してくるのだが、ミスリル喰いは、細長い口が縦に割れて、ピンク色の口内を見せてくる。びっしりとスリ金のように生えている牙が気持ち悪い。


『調べる』


ミスリル喰い レベル25


 ゲームと同じレベルだ。とすると、能力も同じだろう。


「あいつ、万能以外は全耐性なんだ。硬い上に攻撃力も高いから倒しにくい。弱点は状態異常。嵌まれば弱い敵。倒せばミスリルの毛皮が手に入る。分解するとミスリル鉱石になるんだ」


「この世界でのミスリルとやらは高いのか」


「『魔導鎧』などに使うレアマジックメタルだな。一匹倒せば、1000万円は固いぜ」


 だから、ゲームでは同レベル帯では、金策にピッタリの魔物だった。だが、たかが1000万円程度だ。そんな端金のために子供たちを餌にしていたクズヤローの気がしれないぜ。


 俺の怒りの口調に、おじいちゃんは苦笑する。どうせ優しすぎるとか思ってんだろ。別に良いもん。美羽は良い子なのだよ。


 もちろん、ミスリル喰いもトレイン行きだ。こいつはイベントモンスターでもなんでもない。ただの雑魚モンスターなんだ。


 ………ゲームで金策にちょうど良い魔物が、現実でも同じ金策に使われている。予想外だが、当然だろう。プレイヤーでなくとも、この世界の人々は生きている。考える知能を持っているんだ。だから、美味しい魔物を倒す集団が出るのは当たり前だが……悪い奴らが、ああいった方法で金策するとは想定外だった。


 しょんぼりしちゃうぜ。俺はゲームをやり込んで気に入っていたからな。


 子供たちを餌にするこのダンジョンは破壊しておく。容赦はしねーぜ。レベルをついでに上げるけどな。


「4階だ!」


 早くも4階への階段を見つけて入り込む。奥に続く通路を進むと、今度は剣と盾を装備した羽蟻が群れで岩山に屯していた。


「羽蟻ってことは、ここの敵はクイーンアントだ。ここで羽蟻に出会うってことは、ここが最終階層だぞ、おじいちゃん!」


「ダンジョンというには、やけに浅いな?」


「裏ダンジョン以外は最大10階層。だいたいは3階層だな!」

 

 ストレスを与えないための仕様なんだ。運営はお手軽さを選んで、ライトユーザーを集めて、ヘビーユーザーには特別なダウンロードダンジョンを課金で売っていたのだ。


 羽蟻たちもスルーだ。ドンドコ進む。時折、矢を射てくる羽蟻もいるが、オーディーンがローブを盾にすると、弾き返してダメージを与える。


 『物理反射壁マテリアルリフレクト』があるからこそ、こんな無理ができるのだ。開幕で魔法を使ってくるやつは少ないし、低レベルの魔法は発動前に逃げられる。ゲームとは違うのだよ。ふふふのふ。


 高速で、まるで飛ぶかのように走るスレイプニル。後ろには、魔物の群れ。もはやスタンピードだ。ここでスレイプニルから落ちれば死ぬのは確実。欠片も残るまい。


 4階層を進んでいくと、死肉を固めたような壁が目に入る。高さ50メートルはある天井まで届く死肉の壁。ぼっかりと空いている巨大な洞穴。


 近づいていくと、洞穴から紅い光が輝く。ズズと音を立てて、なにかが這い出してくる。


「キシャアー!」


 高さは10メートルはあるだろう。パンパンに膨らんだ腹が洞穴に続いている女王アリであった。こちらを餌だと確認して、牙を剥き出しにして、よだれを垂らす。ジュウと音を立てて地面から煙がたつので、酸のよだれだ。


 クイーンアントだ。ここのボスである。100匹はいるだろう配下の近衛アリたちがぞろぞろと出てきた。敵が来たのだと気づいたのだ。


「ゲームでは無限に『仲間を呼ぶ』だが、現実だとああなのか」


 風で靡く灰色髪を押さえて、俺は感動する。ゲームの世界っぽい。いや、『魔導の夜』か。


「おし、『調べる』」


クイーンアント レベル52

ロイヤルガードアント レベル45


 予想どおりのレベルだ。


「おっし! オーディーンやれ!」


 『戦う』は、最初に出会った敵の時に使っている。もう準備万端だ。ピシッと人差し指をクイーンアントに突きつけて、美羽は可愛らしい声で命令する。


「敵が馬鹿なのか、お嬢が大胆なのか、はたまた両方か。どちらにしても、了解だ」


「炎、万能、万能だ! 一番弱い大魔導を使え!」


 ここのアリは全て炎弱点なのだ。でも、他の魔物には炎が無効もいるから、万能属性を混ぜておく。MPの問題で、大魔導でも一番弱い魔法を選択だ。


「わかっておる」


 オーディーンは両手を広げると、スキルを使用する。


「大魔導とは、なるほど便利だ」


 白髭に覆われた口元を薄く笑いに変えて


『3連続魔』

太陽炎プロミネンス

新星爆発ノヴァ

新星爆発ノヴァ

 

 俺の視界が真赤な輝きに覆われて、続いて深淵の闇が訪れて、光の極大爆発が起こる。


「きゃー!」


 大魔導士だけのオリジナル全体魔法は、地面を大きく揺らし、全てを溶かし無へと変えていく。震度10はあると思う。スレイプニルが僅かに空に浮いて、揺れを回避してくれるので助かったが、周りは地獄の風景と変わっていた。


 暴風が巻き起こり、地面も天井も砕け始めて、ダンジョンは崩壊を始めていた。魔法の影響をパーティーは受けないのに、間接的な余波で死にそうである。


 まるで太陽の中にいるようだった。テレビで太陽の表面を炎が龍のように噴き上げている光景をたまに見るが、それだった。


 トレインしてきた魔物は既に影も形もなく、数億度の熱と炎が世界を焼き尽くしていた。


 俺の身体に溶岩が降り注ぎ、触れるだけで燃え尽きる超高熱の熱気が当たる。だが、不思議なことに皮1枚の障壁が生まれて、全ては受け流されていく。暑さも感じず涼しい。どうやら魔法による副次的な効果もプレイヤーには害を与えないようだ。一安心であるが、怖すぎる光景だ。

 

 小柄な身体をスレイプニルに押し付けて、俺はきゃーきゃーと、悲鳴を上げる。さすがに、こえーよ! チラリとオーディーンを見ると、隻眼を爛々と輝かせていた。魔法の威力が素晴らしいのだろう。


 俺は『キマイラ』のボスを倒すのに大魔導を使わなくて良かったと心底安堵しているよ。


「む? 驚いたぞ、あの蟻はまだ生きておる」


 炎と暴風が荒れ狂う世界で、クイーンアントは苦しみながらも、未だに生きていた。素晴らしい生命力だこと。腹は既に消えており、上半身だけで、ずるずるとこちらへと這ってくる。もはや脚もほとんど無くなって、頭も半壊しているのに、凄い執念だ。


「そうだよ。だいたいクイーンアントのHPは3000台なんだ。強いクイーンアントだと、3500とかあるから、このコンボでも倒せないんだ」


 こいつとか、厄介な敵のHPは頭に残っているんだ。序盤に恐竜の卵を売り払うと大金が手に入るとか、昔の記憶でもゲームの記憶は結構残っている。あんまり自慢にならないけどな。


「なるほど、で、最後にこれで終わりなのか」


 クイーンアントの身体が溶鉱炉のように真っ赤に輝くと、前脚を振り下ろしてくる。速すぎてまったく視認はできないけど、たぶん振り下ろした。


『ファイナルアタック』


 オーディーンの身体に紅い閃光がぶつかり、紅い光はそのままクイーンアントに跳ね返った。


 クイーンアントの頭が砕けて、よろめくとズシンと地に落ちる。あっさりとクイーンアントは倒れ伏すのであった。


「『ファイナルアタック』は通常物理属性。んで、通常は『ファイナルアタック』は自爆攻撃なんだけど、こいつは『食いしばり』があって、生き残るんだよね。しかも自動回復があるから、すぐにHPが300近く回復して、1人倒されることが確定で、ラストバトルになるんだ」


 『食いしばり』はHPが2以上の場合、1だけ残る便利なスキルだ。


 『ファイナルアタック』は最大HP依存攻撃だから、800ダメージぐらいは余裕で食らうんだ。酷い技なんだよ。こちらも『食いしばり』か物理反射、それか物理防御を固めておかないと、必ず誰か倒れる。初見殺しの魔物なのだ。


 こいつ、普通に強いから追い込むまでに、誰かしら倒れているから、パーティー崩壊の引き金になるんだよ。次の攻撃が範囲魔法とか使ってくるし。ちなみにゲームでしか出てこなかった魔物だ。運営強くしすぎだろ。


「弱点を知られていれば、ここまで簡単に死ぬとは悲しい化け物だな」


 最後に『食いしばり』が発動したようだが、逆巻く炎に僅かにダメージを受けたんだろう。『太陽炎プロミネンス』は敵への継続ダメージも発生するからな。


「誰を狙うかはランダムなんだけど、現実だと俺はおじいちゃんの懐にすっぽりと入っているしね」


 予想と違ったら、『瞬間移動テレポート』で逃げる予定だったから、ゲームと同じで良かった良かった。だって、おじいちゃんのMP14しか残っていない。倒せなかったら逃げる予定だったんだ。


「それじゃ、ダンジョンコアを砕いて、脱出しよ〜! 砕いたダンジョンコアは高く売れるらしいよ」


 それに、俺はゲーム仕様。ダンジョンコアを砕いた際のボーナスもあるはずだ。ダンジョンコアを砕くとアイテムがランダムで手に入るんだ。


「クックッ、既にダンジョンは崩壊しておるぞ?」


「外で大魔導の魔法は使用禁止にしておこう。ハイヨ、シルバー!」


 ペチペチと手綱を叩いて、クイーンアントの死体を通り過ぎて、奥に進む。崩壊しているダンジョンの奥に宙に浮く巨大なダンジョンコアがあった。天井から落ちてくる瓦礫で砕けそうだ。


「ウォぉぉ! タッチー!」


 ヒビが入り、今にも壊れそうなダンジョンコアへと、ちっこい手を伸ばす。俺の手を掴むんだ、ダンジョンコア! ここまで来たのに壊れないで〜。


 現実だとこんなになるのかと、ドン引きしつつダンジョンコアにタッチする。瞬時にダンジョンコアは砕けて、アイテムボックスにボーナスが手に入る。


「おっしゃ! おじいちゃん!」


「わかった」


 可笑しそうに笑いながら、オーディーンは『瞬間移動テレポート』を使い、俺たちはダンジョンを脱出するのだった。


 鳴り止まぬファンファーレを耳にしながら。


 やったね、おじいちゃん。レベル41になったよ。


 もう、こんなことは二度としないよ。死ぬかと思った。やろうと思っても、レベル50を超える敵は特殊スキルがあるからな。トレイン前に追いつかれる可能性が非常に高い。


 それと、アリの卵が身体についていないか、念入りに確認しておこうっと。違うゲームだけど、トラウマがあるんだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] コッペパンのおじさんだ(笑) [一言] なんか見たことのある話し方の主人公と突然挿し込んでくる間話みたいなのがアースウィズダンジョンに似てるなと思ってたら作者様でしたか! 何度も読み返しま…
[一言] これ読んでて思ったことかある。 かぐや姫だ、これ
[一言] 「ミーちゃん…ミ、ミ、ミ…キシャァァァ」 \アリだー!/
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