41話 後片付けだぞっと
ショックを受けた感じがするが、罪悪感がちっとも湧かないので、あんまりショックを受けずに美羽は立ち直った。
考えても仕方ない。この身体の仕様だしな。まぁ、悪人が俺と戦わなければいいんだよ。うん、理論武装は完璧だ。そう思うことにしよっと。
それよりもドロップアイテムを確認しないとな。
「人工エメラルドに、人工オニキス、魔鉄、魔鉄、壊れた部品、魔石式バッテリー。………しょぼいなぁ」
しょんぼり美羽ちゃんである。まぁ、よくあるサブイベントだから仕方ないか。このダンジョンを手に入れることが、目的だったもんな。
死体からはなにかとれそうだが、どうしよう。シルフ22式は使えそうだ。他は中古が2体。残りは灰になっちゃった。
でも、この『魔導鎧』を売ったりしたら、足がつきそうだ。やめとこ。
完全に盗賊の気分で俺は判断すると、オーディーンへと確認する。
「おじいちゃん、MP残りいくつ?」
「14だ。もはや『瞬間移動』一回分しかないぞ」
「『瞬間移動』分は残してくれたんだ。ありがと」
感謝感激と、ニコリと微笑み返すと、肩をすくめて返すおじいちゃん。美少女スマイルは高いんだぞ、まったくもぅ。
『瞬間移動』は大魔導士が覚える魔法だ。拠点やダンジョンといった地点を移動できる。普通はこういうゲームでは最初らへんに覚える魔法なのに、『魔導の夜』では、大魔導士まで覚えることができなかったんだ。
現代ファンタジーらしく、色々な交通機関があったから、プレイヤーに使わせたかったらしい。実に面倒くさかったぜ。
オーディーンを最初の仲間にしたのも、『瞬間移動』があるからだ。強力な魔法しか覚えていないので、燃費が超悪くて、あっという間にMPが空になるおじいちゃんだが、これがあるので便利極まりない。タクシー代が節約できるというものだ。
もはや、ダンジョン探索は不可能だ。もう帰るかなと、一応死体から『魔導鎧』を回収しておくと、小さな声が聞こえてきた。ん? なんじゃらほい?
「あ、あの、ありがとございます」
子供たちが後ろに来て、おずおずと俺にお礼を言ってくる。うん、良かった良かった。みんな無事だ。全体即死魔法はおじいちゃんが敵と認識した相手だけだから、子供たちに影響はない。ホッと一安心である。
「これからは、君たちは自由だよ。良かったね!」
ニコリと微笑み、子供たちを安心させてあげる。もう餌にしようとするクズはいないんだ。自由に暮らしてね。
シルフ22式を死体からなんとか剥がすとアイテムボックスに入れようとして、手を止める。なぜか子供たちが、俺をジーッと見つめている。お礼は受け取ったよ? なにかまだ用があるのかしらん?
「あ、あの僕たち、これからどうすれば?」
その震える声に、ピタリと俺は動きを止める。あぁ〜、そうか。ゲームだと、「ありがとうございました」と笑顔でお礼を言ってきて、後はどこかに行っちゃうが、ここは現実である。ここに放置されても困るだけだよな。
「うぅ〜ん……どうしよっか」
人前なので、美羽ちゃん良い子モードに切り替える。腕を組んで、困っちゃう。どうしよっかな。
んん? と言うか、他にも囚われている子供いるんじゃないか?
「ねえ、他にも囚われているお友だちいるかな?」
「う、うん。いるよ! 助けてくれるの?」
勢いこんで、子供たちは目を輝かすが、こっちも限界なんだよなぁ。ボスが帰ってこないことに、残党は疑問に思わないかな。
スマフォを見て時間を確認する。23時か……。仕方ない。夜更し美羽ちゃんになるしかないか。
「おじいちゃん、子供たちの場所ってわかる?」
「ムニンの『解析』頼みだな」
さすがに無理か。それじゃ、カラスさん、よろしく。何でもわかるかと思いきや、そこまでは無理らしい。
『解析』
溶けた金属の塊にカァ君が『解析』をしてくれる。すぐに塊の情報が俺の前に半透明のボードとなって、映し出される。
名前、レベル、属性、レアドロップアイテム、ドロップアイテム、フレーバーテキスト。むぅ、レアなドロップアイテムが???だ。落とさなかったか。ロードはできないので、レアドロップは諦めてフレーバーテキストを読む。
年齢、体重、女の子はスリーサイズ、趣味に好きな物、嫌いな物、人物紹介。自分の住所。最近の賞罰、履歴書かよ。後は簡単な説明か。賞罰はろくでもないもんしか書かれていない。なんだ、拷問殺人鬼って。
「自分の住所ねぇ………」
「奴らの拠点かどうかはわからぬな」
同じく解析結果を見ながら、おじいちゃんが言ってくる。子供たちは、ボードが見えないので、何をしているんだろうと、不思議そうに見てくるが、スルー推奨、乙女の秘密だ。
「だよねぇ……」
でも、ボス4人のうち、3人が同じ住所だ。本拠地の可能性は高い。まぁ、行くだけ行ってみますか。
「よし、3時間寝て、この拠点にいってみよー!」
「まぁ、残りはろくな戦力も残っていないだろうからな」
というわけで、俺とオーディーンは倉庫の隅で寝ることにした。子供たちはここで寝るのと驚いているが、3時間寝ると半分MPは回復する。こっそりと過去にウトウトしながら確かめたんだ。おやすみ〜。
見張りはゲリとフレキに任せたよ。
結論から言うと、少し離れたビルが『キマイラ』の拠点だった。5階建てのビルで、窓ガラスは鉄板で塞がれていて、要塞みたいだった。通路は防火シャッターや、ロッカーや机で塞がれており、もし『キマイラ』のボスがいたら、階層ごとに出現する感じだ。
惜しむらくは、もう戦力はなかったこと。魔法使いが3人ほど残っていただけだった。後は有象無象のチンピラたち。なむなむ。
レベルは上がらなかったと、伝えておこう。山も海もなく、拠点の制圧はあっさりと終わったのだ。
地下には鉄格子の牢屋があり、15人ほど子供たちが劣悪な環境で監禁されていたので、まったくチンピラたちに同情するつもりはない。ザマァとだけ、送る言葉として黄泉行きのバスに乗った奴らに伝えておく。
痩せ細って、骸骨かと思う子供もいたしな。
『快癒Ⅰ』
『病気Ⅰ』の状態異常になってる子を数人回復しておく。ぽわわんと星型の光が子供に吸い込まれて、ガリガリだった子供の頬が少しだけふっくらと変わり、赤みが指す。
『キマイラ』の拠点地下から子供たちを救い出し、なんか広い部屋に子供たちを集めて回復させています。
なんにもない広間で、空手とかの道場みたいなガランとした部屋だ。荒くれ者たちが、武器を手にして、これから戦争だと集まるような部屋だ。
このビルはもはや子供たちと俺たち以外はいない。バスに乗った人たちの姿はどこにもない。灰などは、後で掃除が必要だろうが、後でで良いよね。
「ありがと〜」
「痛いのなくなったよ」
「からだが軽くなった」
ガリガリの子供たちが笑顔でお礼を言ってくるので、悲しくて泣けてくるよ、まったく。小説の世界の中だからって、酷すぎだろ。……ゲームでも人骨だらけの牢屋とか、ちょくちょく見たけど、現実となると心が痛いよ。
オーディーンのおじいちゃんは、もはや儂の出番は終わりだと、葡萄酒を飲みながら、オーガの部品をカチャカチャと興味深そうに弄っている。
仕方ないので、俺がこのビルの冷蔵庫から、すぐに食べられる物を運んでます。酒のつまみも多い。お腹に溜まるものは、米ぐらいか。幸いにも、大勢が暮らしているようで、大型の炊飯器はあった。
あったけど………ね、眠い。探索を終えて、もう4時である。朝の4時だよ。前世なら、そろそろ仕事に行かないと、起床する時間だ。
「あの……俺、米を炊きます」
「わたし、目玉焼き焼けます!」
「お味噌汁作ります」
12歳の子供たちが、ウトウトして眠そうな俺を見て、見かねて代わってくれた。もう眠い。限界だ。おうちに戻らないと両親が心配することは確実だ。
せっせとご飯を作る子供たち。
悪いが俺はここまでだ。……この子たちどうしよっかな〜。コッペパンを販売する会社を設立する訳にはいかないのである。なんといっても、俺は9歳だからな。
うぅ〜ん、この子たちをここに放置すると、残党が残っている場合、危険なんだよなぁ。
『機工師』でロボットは造れるが、初期装備はよえーんだ。強くするには武装を良いのにしないといけないし、永久機関内蔵設定じゃないから使わなかったんだ。
仲間のロボットはMPが何かアクションする毎に減っていくから使いにくくて仕方なかったんだよな。よくよく考えてみれば、あれがエネルギーとしての代用品だったのか。たぶんすぐに動けなくなるだろうよ。
「孤児院に連れていくかぁ」
床にポテンとお座りして、俺はガリガリの子どもたちを見て考える。ようはスラム街にいなければ良いんだ。それにミスリルを売っている相手もいるだろうし、離れないとまずい。
「イベントクリアで、めでたしめでたしとは、いかないなぁ」
困っちゃう美羽ちゃんだ。ぶっちゃけ、ダンジョンも使用できて数日だろう。『キマイラ』の様子がおかしいと様子を伺いにくる者がいるかもしれない。
正直、セキュリティを支配していなければ、不安で帰ったところだ。既にこのビルのセキュリティシステムも支配済みのため、今のところは問題はない。
山羊頭君のスマフォと監視カメラは連動しているからな。無防備に来ればカメラに映るだろう。
苦労の割に、実入りが少ない。
「離れた孤児院を探すかぁ。悪徳孤児院でないと良いなぁ。『解析』を使えば悪徳孤児院かもわかるだろうし」
こっそりと孤児院に置いていこう。孤児を助けましたと。スラム街から出れば大丈夫だと思いたい。完璧な対応でもないし、孤児に危険は残るが、俺は9歳なんだ。
とりあえず、拠点にあった子供たちのリストは電子、紙共に抹消。電子は機械支配しなくても『鍵開けⅡ』で入れたから簡単だった。パスワードも電子キーも鍵扱いなのは当たり前だよな。金庫の中身は……鍵穴と扉を傷だらけにして、開けられなかった風を装う。
死体は残さないし、カメラにも何も残さない。とするとだ。他の敵対勢力の攻撃だと思うかも。ボスたちが誰も生き残っていないからな。子供たちを探すよりも、ボスたちの消息を探すはずだ。
俺は金土曜日の修行を諦めて、毎日ダンジョンに潜るとする。短時間でのパワーレベリングだ。
基礎レベルを上げて、熟練度は後まわしにするしかない。オーディーンのおじいちゃん、頼りにしてるぜ。




