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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
3章 悪人退治

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40話 疑問が解決されたんだぞっと

 山羊頭は焦りまくっていた。餓鬼の姿が見えない。周りはオーガと戦う爺と、倉庫の隅に逃げて震えている子供たち。餓鬼の足音などが聞こえるかと、耳を澄ますがオーガの戦闘音がうるさくて聞こえない。


 見ると、オーガは2体倒されていた。なぜか敵に奪われたオーガはダメージを受けているが、まだまだ健在だ。残りの1体もたいして保たないに違いない。


 早く餓鬼だけでも倒さなければと焦り、額を汗が流れていく。身体が僅かに恐怖で震えている。


 なんでこんなことになったのか、さっぱり分からない。いつもどおりのルーチンワークのはずだった。ダンジョンに潜り、魔物を倒しながら、ミスリル喰いのところまで移動する。あとは、子供たちを餌にして、毒で苦しむミスリル喰いを倒す簡単な仕事のはずだった。


 それが、部下たちは皆殺しにあい、自身も命の危機にある。たった2人の魔法使いに追い込まれている。得体のしれない魔法使い。1人は餓鬼だ。


 だが、化け物だと内心では恐れていた。爺も聞いたことのない魔法を使い恐ろしいが、餓鬼はもっと恐ろしい。


 レイピアで傷つけても、まったく怯まない。かすり傷でも人間なら痛みで動きが鈍くなるはずだ。しかし、餓鬼は何度も切り傷を与えて、肩を削っても、まったく揺るがなかった。


 まるで機械のようだった。痛みを感じないようだった。冷静に行動する、その迷いのない行動に、山羊頭は痛みよりも心を恐怖で覆われてしまったのだ。


 ハァハァと、自身の吐く息使いがやけにうるさく感じる。カサリと音がして、振り向くなり、風の魔法を放つ。


「そこかっ! そこか? そこかぁ!」


 風の刃を音がなる方へと放ち続ける。風で漂う紙切れが斬られ、転がるバケツが砕け散る。だが、手応えはまったくない。


 餓鬼の姿はまるで分からない。恐怖がじわじわと自身を支配していく。目の前が真っ赤になり、もはやなりふり構わなくなる。


「ナンバー4まで成り上がったんだ! こんな所で、こ、こんな所で、死んでたまるかよっ!」


 もはやマナの消費を考えずにめちゃくちゃに放つ。もはやこれだけ魔法を使えば、残る爺との戦闘は不可能であろう。


 だが、恐怖で混乱している山羊頭は気にしなかった。頭は餓鬼を殺すことでいっぱいとなっていた。あとのことは考えていなかった。


『急所突き』


 そして餓鬼の言葉が聞こえてきたと思った時には、その視界が不自然になる。なぜか、視界は地へと落ちていき、ゴスンと音がして痛みが奔る。


「地獄でローン地獄に苦しみな」


 その可愛らしい声音に合わない荒々しいセリフを最後に聞いて、首を落とされた山羊頭は命を落とすのであった。




小治癒マイナーヒールⅢ』

小治癒マイナーヒールⅢ』


 美羽は傷だらけの身体を癒やす。結構ダメージ受けちゃったよ。HPが3割切ったから、結構ギリギリだったな。


 ぽややんと柔らかな白い光が俺を包み、回復させていく。『盗賊のみかわし服』の穴や切られた箇所も同様に塞がる。


「おぉ、直っちゃった」


 装備品も直ったよ。驚いて服をつんつんとつつくが、新品同様だ。この現象は初めて見るな。何度か他人に回復魔法を使った時は、衣服が修復することはなかった。『魔導鎧』も同じだ。


「………ゲームでは、装備品に耐久力はなかったな………」


 なるほど、もしかしなくても、ゲーム装備品は回復魔法の影響を受けるのか。たしかに鉄の鎧を装備しているのにダメージを受けるのは変だ。ダメージを受けたのに壊れない鉄の鎧とかな。現実になると、こういう形になるのか。


「でも、これ物凄い目立つよな………回復魔法使いの枠を超えていない?」


 美少女回復魔法使い美羽ちゃんから、何でも直しちゃう美羽ちゃんにジョブチェンジだ。これも秘匿しておかないとまずいかもしれない。ゲーム仕様だと、何でも秘匿になりそうで怖いなぁ。


 うーんと、俺が頭をコテンと傾けて困っていると、ガシャンと音がして、最後のオーガが火花を散らして倒れるのが見えた。プスプスと煙をたてて、その上でゲリとフレキがオーガを齧っている。それは食べれないぞ、狼さんや。


「ふむ………機械人形はあまり頭が良くないようだ。これは指示者が後ろにいないと、たいして脅威にはならんな」


 鍔広の帽子の向きを直しながら、つまらなそうにオーディーンが俺へと近づいてくる。支配したオーガたちは傷だらけだが、壊れていない。オーディーンと狼たちは怪我一つないので、上手く立ち回ったんだろう。


 ゲームと違う部分、いや、現実に適合して変化したゲーム仕様を研究しなきゃと思いつつ、オーディーンに向き直り


 ドカンと、無事なオーガの1体が吹き飛ばされた。ゴロンガシャンと床を部品を散らばしながら転がるオーガ。


 誰だよ、俺の玩具を壊すのと、入り口をため息混じりに見ると、バラバラと人が入ってきた。


「おいおい、山羊頭の奴、殺されているじゃねぇかよ」

「プッ、ウケる」

「仕方あるまい。奴は俺達の中では最弱」


 何やらゴテゴテとした『魔導鎧』を着込んだ男たちが、平然とした態度で倉庫に入ってきた。後ろには20人近い中古の『魔導鎧』を着込んだ魔法使いたちも続く。


「ふん、たったの2人か。腕は良いというわけか」

「良いね、皆殺しにしてるじゃねーか。殺しがいがありそうだ」

「ふん、雑魚でないことを祈ろう」


 マジかよと、俺はため息をついちゃう。いかにもボスらしき奴らが出現した。俺はしょんぼりと肩を落とすのを見て、男たちはゲラゲラと嗤う。


「どうやら驚いているようだな。このダンジョンは俺たちの生命線でな。襲撃があったら全員が集まることになっている」


「襲撃をしてくるってことは、腕に自信があるからかねぇ」


「たった2人とは、つまらぬがな」


 3人は俺たちを見て教えてくれる。ねぇ、そういうセリフって、いつも練習してるの? 俺は君たちみたいのが小説やアニメで出てくるたびに思うんだけど、そこんとこどうなの?


 ジト目になり、落胆する俺を見て、リーダーらしき男が腕を組んで見下した表情で告げる。


「どうやら、予想外だったようだな」


「命乞いをすれば助かるかもしれないよぉ〜」


「強者ならば、最後まで抗ってみよ」


 とりあえず、『調べる』っと


 獅子頭 レベル28

 竜頭 レベル30

 蛇頭 レベル18


 なるほど『キマイラ』か。蛇頭は、山羊頭よりよえーじゃねーか。


「あんたら、『キマイラ』の残りのボスたち?」


「そうだ。我ら『キマイラ』。最強の集団のトップよ」


「靴でも舐めるかぁい?」


「貴様らの力を見せてみよ」


 ボスたちは偉そうだ。特に蛇頭君、お前は一番弱いよね? まぁ、いっか。これで『キマイラ』を探す必要はなくなったな。


「そんじゃ諦めるか」


 頭を横に振って諦めることにする。


「ふん、早くも命を諦めるとは情けない」


 なにやら、勘違いしているようなので教えてあげる。


「いや、今日はダンジョン探索を諦めようってこと」


 MPを温存するの無理だよこれ。がっかりだ。


「は?」


「頭がおかしくなっちゃったぁ?」


「命を懸けてみよ」


 不思議そうにするボスたちを無視して、オーディーンへと親指をクイッと下げてみせる。クックと笑って、オーディーンは両手を広げて呟く。


「大魔導の極致とやらを確認しよう」


『3連続魔』


 オーディーンの両手がマナの光で眩しい程に輝く。大魔導の固有スキル『3連続魔』は1ターンで3連続魔法を使う。オーディーンは魔法使いⅣの魔法を3連続で放つ。


 そして、俺はレベルが19に上がった。


 やったね。レベルが上がったよ、みーちゃん。




 灰となって、風に巻かれて飛んでいくボスたちを見ながら、俺はコテンと首を傾げる。少し疑問なところがあるのだ。


「どうしたのだ?」


 オーガの残骸を分解して確認しているオーディーンが、俺がコテンコテンと可愛らしく首を傾げているのを見て尋ねてくる。


「あぁ、それが変なんだ」


「変とはどういうことだ?」


 変という言葉に隻眼を光らせるオーディーンのおじいちゃん。常に好奇心を持っているおじいちゃんである。


「いや、それがね。こんなに大量殺人を行なったのに、俺、全然罪悪感がわかねぇんだ」


 50人近く殺したんだ。変じゃね?


「悪人だからであろう?」


「いや、悪人でも、これだけ殺せば罪悪感が少しは湧くよ?」


 前世では、平凡なおっさん。現世では、良い子な美少女美羽ちゃんだぜ? 魔物ならともかくとして、人間を殺して、まったく心が揺るがないのは変じゃねと、転がる死体を見て、いまさらながらに思ったわけ。


「ふむ……。神たる儂にはわからぬが、どのような感じなのだ?」


「んと、こう……爽快感しかない。あれだ……あれだ!」


 自分の感じている感覚を説明しようと思って、ハッと気づく。


「どうしたのだ?」


「イベントをクリアした時の爽快感しかない! そうだ、え、マジか」


 この感覚、わかっちゃった。悪人を倒して、爽快感を覚えるこの感覚。ゲームで、イベントをクリアした時の感覚だ。


「ガーン。俺ってば、ゲーム感覚だ」


 ショック。ショックをちっとも受けていないのが、ショックだよ。ガガーン。


 美羽がお口を開けて、ショックで身体を固めているのを見て、オーディーンはオーガの部品を手にしながら、フッと笑う。


「ゲーム。ふむ、盤上でのゲームを楽しんでいるという感覚か。そうだろうな」


「そうだろうな?」


「うむ。そなたは神だ。気づいていないようだが、神なのだ。儂らと同じくな。神たる者は人間なぞ殺しても気にもすまい?」


「ガガーン。否定できないのが、悔しい」


 ガガーン。美羽は硬直した。たしかにゲーム仕様の身体なのだ。否定できん。そうか、ゲームプレイヤーは神だったのか。たしかにゲーム仕様とか、神の御業にしか見えないよね。


 戦闘でも、まったく恐怖を覚えなかったし、傷を受けても怯むことも、躊躇うこともない。そして、今回の出来事は、ゲームではありがちなイベントに似ている。


 まさかイベントをクリアする感覚で、悪人を殺して、さらに安い爽快感を得るとは……危険人物じゃねーか。気をつけないと……。


「あ〜っ! 俺、やったイベント全部! 『いいえ』を選んだことない!」


 闇夜を助けたとき、即座に助けに行ったことを思い出した。思い出しちゃった。


 前世で平凡なおっさんだったんだ。魔物が出たと聞いて、いくら親友だからと言っても、助けることができるかもしれないと考えていても、助けに行くか?


 ………悪いが、俺はそこまで正義感は高くない。美羽に転生して、その時はまだほんの6歳。美羽の身体に引きずられたわけではない。


 ということは、どういうことになるか?


 ゲーム仕様のプレイヤーの気持ちに引きずられたのだと気づいた。やばいことに気づいてしまった。


 これ、あれだ。イベントと知ったら、また戸惑うことなく突撃しにいきそうだ。問題はそこに俺は気づかないということ。きっと、終わってから気づくだろう。


「なるほど、ゲーム仕様かぁ」


 やはりデメリットもたくさんあるな、この身体。


 早く強くならないといけないなぁ。参ったぜ。モブな主人公は神様説、まぁ、プレイヤーは神様視点だから問題はないか。

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― 新着の感想 ―
せっかくナンバー4にまで成り上がったのに、などと山羊頭がのたまった時点で、必ずやどなたかが「奴は俺達の中では最弱」と仰って下さるとワタクシ信じておりましたので、期待通りで大変嬉しうございました。
[気になる点] 「いや、悪人でも、これだけ殺せば罪悪感が少しは沸くよ?」 前世で悪人を殺したことがあるかのような口ぶり そうじゃないなら、罪悪感が少しは湧くんじゃないかな?と濁すと思われ
[良い点] うわぁ……、そういう面までゲーム仕様なうえに素で神の扱いなのか。 これはメリットにもデメリットにもなる部分だわ。 [一言] ・・・ということは、プレイヤー=神という仕様。セーブ&ロードやオ…
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