39話 魔導機械と戦うぞっと
『魔導兵器オーガ22式』。名前は覚えてねーけど、こんなん雑魚で大量にいたなと、美羽は金属の巨人を眺める。
コンテナに隠されていたようだ。切り札として用意していたんだろう。テンプレ的展開です。ありがとうございました。
その皮膚は重厚そうな金属肌で、関節部分からはピンク色の筋肉繊維と、ケーブルが覗く。頭には槍の穂先のような鋭い角が生えており、3メートルの体躯を持つ巨人の手には、鉄板のような分厚いグレートソードがある。数は5体。俺たちへと水晶でできた瞳を向けて、近づいてくる。
身体の各所には水晶がはめられており、赤く光っている。魔石の力で駆動する魔導兵器だ。ゲームでは稼働時間とか無かったが、現実では存在する。『調べる』を使い、強さを確認した。
『魔導人形オーガ22式 レベル26』
かなりの強さだ。魔石は使い捨てだ、なので召喚石よりも遥かに安いが、消耗が激しいだけで、その戦闘力は高い。こいつを動かすのにいくらかかるか知らんけどな。
「やっちまえ、オーガ。『その二人を殺せ』」
山羊頭は調子に乗って、得意げにオーガへと命令する。敵味方識別装置がついている魔導兵器はなるほど便利だ。
勝利を確信しているのだろう。人差し指を俺たちに突きつけて、顔を歪めながら哄笑する。
だが、魔導兵器もゲームにはあったんだよ。もちろん対抗策はある。試したいこともやっておこう。
「オーディーン!」
「頭に埋め込まれているこの知識。ミーミルの泉で魔法の知識を得た時を思い出す」
ニマリとくしゃくしゃの白髭に覆われた口元を笑みに変えて、オーディーンは魔法を使う。
『全機械支配Ⅴ』
『セキュリティカメラを支配した!』
『オーガ22式A、Eを支配した!』
『山羊頭のスマフォを支配した!』
『通信機器を支配した!』
銀色の閃光がその手から放たれる。光を受けた魔導兵器たるオーガたちの内、2体の身体に紫電がパシリと弾き、動きを止める。
「お、俺のスマフォが?」
山羊頭が自身の持っていたスマフォが電撃に覆われるのを見て、驚き取り落とす。
俺はというと、ログを見て驚いていた。なんと、現実ではこうなるのか。
「ふむ、『オーガを倒せ』」
魔法の結果を見たオーディーンが面白そうに結果を見ると、白髭を撫でながら命令を出す。機械仕掛けのオーガ2体が、隣のオーガたちにグレートソードを振り上げて襲いかかる。
ガシャンと金属音が響き、グレートソードがオーガの金属の肌に食い込む。
「な、何をしている! 不具合か?」
山羊頭は、オーディーンが支配したオーガが、他のオーガに攻撃し始めたのを見て驚いて目を剥いている。早く対抗するように命じないと一方的に倒されちゃうぜ。
魔導兵器。もちろん、対抗魔法はゲームではある。機械を支配する魔法から、混乱、部位を破壊する魔法まで。『魔導鎧』には通じないが、魔導兵器には効果覿面な支援魔法があるんだ。まぁ、ボス魔導兵器は支配はされないように耐性をつけられていることがほとんどだけどな。
『機械支配』は成功率が極めて低い。敵を仲間にするんだから、当たり前だ。イージスの額冠で魔力が高いオーディーンでも、成功したのは2体。
だが、それは問題ではない。他のことに興味があったんだ。
即ち、この現代ファンタジーで必須の力があるが、戦闘兵器などよりも、よっぽど厄介な機械。監視カメラやセキュリティシステム、通信機器だ。
しかし、現実準拠となった『機械支配』は予想以上の効果を発揮してくれた。セキュリティカメラを支配して、まさかの通信機器も支配するとはな。『機械支配』は敵が修復しないと解けない仕様だった。兵器を全部支配すると、戦闘終了となる。
ゲームでは、そのまま兵器は放置して先に進んだんだろうが、現実だとどうなるか? 恐らくはここの機器は全てオーディーンの支配下だ。うっしっし。
もちろん小説では、この魔法はなかった。同じような魔法の使い手はいたが、自分の魔導人形を大量に操る人形遣いだった。ゲームオリジナル魔法と言えよう。
まぁ、ハッカーは小説でもいたけど、魔法ではなく、普通にコンピューターに侵入してたよ。世界のどこかには同じような魔法を使うやつはいるかもだけどな。
「オーディーン。俺たちの姿を監視カメラに残すなよ」
「わかった。消しておこう」
支配下の機械には『命令』すれば良い。消すように命令すれば勝手に消えるんだろう。オーディーンはオーガの戦闘を興味津々に見ながら、適当な感じで頷く。頼んだぜ、まったく。
「何してやがる! 『壊れた1、3号も倒せ!』、くそったれ、なにが起こってやがる」
混乱する山羊頭だが、もはや説明するつもりもない。オーガの戦いにゲリとフレキを連れて、オーディーンも加わる。あっちは任せておいて良いだろう。
こんな魔法があるとは想像もしていないのだろう。久しぶりに動かして、不具合が発生したと思っているようで、焦りまくっていた。わかるわかる、非常用のシステムって、だいたい不具合が発生して必要な時に動かないよな。この魔法は秘匿魔法にしておかなきゃな。
「それじゃ、タイマンといこうぜ」
ニカッと山羊頭へと、小猫のように笑ってやる。俺を見て、口を噛み締めて悔しそうに、山羊頭はレイピアを構える。
「くそがっ!」
風を纏い、山羊頭は駆け出すと、俺へとレイピアを突き出してくる。風の魔導鎧の補正もあるのだろう。踏み出した足元の埃が風で浮き上がり、まるで浮いているかのように、滑るように間合いを詰めてくる。
『調べる』
山羊頭 レベル20
そこそこの強さだ。俺の護衛の冒険者と同程度だ。Cランクはある。
「かかってきな!」
俺も短剣を構えて迎え撃つ。魔石と残った魔鉄を使用して作った『鉄の短剣』だ。銅よりも強いんだぜ。
「喰らえっ!」
刺突に特化しているレイピアだ。山羊頭は間合いに入ると、軽くジャブのように連撃を繰り出す。
「なんの!」
複数の刺突を俺は短剣で弾き返す。寸前まで迫るレイピアはピュイと、小気味よい風切り音を鳴らしながら迫るが、先端が俺に命中する寸前に体をひねり、短剣を当てて弾く。
カキンカキンと金属音をたてて、激しい打ち合いが続く。
「こ、この餓鬼っ! なんて腕前だ!」
「そりゃ、どうもっと」
フェイントをかけるつもりなのだろう、山羊頭は俺の短剣の腕に驚きの表情になりながら、レイピアを横に振る。
タンッと俺は後ろに飛び退り、その攻撃を躱して、フフンと笑ってみせる。
内心では、ゲームの仕様の現実での変化を考えていた。
ゲームでは攻撃を選択すれば、お互いにほとんどミスとならずに攻撃は命中した。だが、現実ではこのように打ち合いとなる。素早さが物を言い、腕の差で命中するかが決まるようだ。
短剣を俺が操る腕が高いのは熟練度のお陰だと思う。ゲームでは、特殊技や魔法、身体能力が増えるだけであったが、熟練度という名前のとおりに、短剣技に習熟するんだわ。ジョブが上位になるごとに腕が勝手に上がった。
家でぬいぐるみを相手にぺしぺしと練習していた時はいまいち実感はわかなかった。闇夜たちとのダンジョンでの訓練も危ないからとメイス装備だったしな。
だが、今は実感できる。短剣を持ったことがない俺が、冷静に敵と戦えている。ゲームの熟練度は、現実ではジョブの固有スキルにある武器を操る腕前が上がると。
不思議と、変な感じはしない。元から覚えていたような気がする。さすがは俺に宿るゲームの力だ。なんか、ゲームの力って、竜の紋章とかと違ってかっこ悪いけどな。
切り合いで山羊頭も俺もお互いに切り傷が増える。素早さに特化した俺は風で素早さがアップしているこいつについていけるようだ。
「こいつ、痛みがねぇのか?」
俺の肩をレイピアで突き、切り傷を付けた山羊頭はなぜか驚いている。痛いに決まってるだろ。痛みを態度に出さないだけだ。
俺は肩から血が流れても、気にせずに短剣を繰り出す。
「てめぇは、痛そうだなっと」
動揺から僅かに隙を見せた山羊頭の懐に入ると、短剣で胴体を斬る。ギャリリと音がして魔法障壁が攻撃を阻むが、僅かにその肌に届いて、かすり傷を負わせる。
「いでえっ! こ、この餓鬼! なんで魔法障壁を越えることができるんだ! 最新型だぞ!」
痛みに驚き、ますます動きを鈍くする山羊頭。たぶんダメージ1程度だろ。そんなに動揺するなよな。
山羊頭は自分の方が格闘戦で有利なのに、風を足に纏わせて飛翔すると、大きく後ろへと下がる。ビビりやがったな。情けない奴。
「魔法で片付けてやる!」
手のひらを向けて、鬼気迫る顔で魔法を使おうとしてくる。
「死ねっ!」
『嵐風刃』
魔法陣が山羊頭の手のひらの手前に描かれると、いくつもの風が逆巻き、物理的な質量を持ち、刃となって飛んでくる。小さな刃が1メートルはあるギロチンの刃のように大きくなり、俺へと襲いかかってきた。
ヒュウと俺は息を吸い込み『防御』をする。身体を風の刃が切り裂き、鮮血を散らす。美少女美羽ちゃんを切るなんて、悪い風だ。スカートを捲るぐらいにしておけよな。
「な、かすり傷かよ! そんなバカな!」
先程仲間をスライスにした魔法だ。それなりに自信があったのだろう。口元を戦慄かせて、俺を凝視している。
「いやいや、結構痛かったぜ。『防御』をしてなければ、大ダメージを負ってたかもな」
『嵐風刃を受けた。11のダメージを受けた!』
盾を持たない俺は『防御』を使ってもダメージを受けた。『防御』コマンドは敵の攻撃を3分の1にする。盾持ちだと6分の1だ。まともに受けていたら、一気に半分以上HPが削られていたよ、まったく。
「それじゃ、俺の番だなっと」
山羊頭は混乱している。隙だらけだ。そして、俺と間合いをとったのは間違いだぜ。
『隠れるⅡ』
レベル差はあるが、問題はないだろう。熟練度がその差を縮めてくれるはずだ。
『隠れるⅡ』を使うと、美羽は空気に溶け込むように消えていく。『隠れる』に成功したのだ。
「な! 消えた? 『姿隠し』か! ちくしょうめ、どこだ? どこだ?」
不可視を見破る装備はしていないのだろう。山羊頭は周りを見渡し、焦った顔になる。
『盗賊』を前に、間合いをとるからだ。これからは俺のターンだぜ。
空間に隠れながら、美羽は犬歯を剝いて、ニヤリと獲物を狙う猛獣のように笑うのであった。




