378話 変わりゆく日常なんだぞっと
朝ご飯を食べ終えて、みーちゃんはテレポートポータルを使い帝都に移動した。
「ていと〜。帝都に到着〜」
車掌さんなみーちゃんは、空間と空間を繋げるポータルからとてとてと歩み出て、外を見渡す。
何本ものテレポートポータル発生用の塔が聳え立っており、多くの人々が荷物を持って並んでいた。貨物も用意されており、さながら空港みたいな賑わいである。
このテレポートポータルは、日本各地、外国にも何本か建っている。具体的に言うと外国はニニーの故郷だ。あそこはニニーの育った学院があるから、学院の魔法使いの口利きで、トントン拍子で話が成立したのだ。
「ゲートはすぐに閉じませんからね。安全に移動したい方々は使用なさりたいのでしょう」
私のカバンを持ってくれている蘭子さんが、外の様子を見ながら陽射しを防ぐように目を細める。
「だよなぁ、俺もハネムーンは外国にしようかねぇ」
「マティーニのおっさんは、まだ金剛お姉さんとハネムーン行ってなかったの? 護衛の給料なら行けるでしょ?」
「外国はなぁ……船も飛行機も魔物に襲われる可能性があるから嫌だったんだよ」
「あたしたちは、魔物の恐ろしさを知っているからねぇ」
みーちゃんの護衛であるマティーニのおっさんが頭をかきながら答える。金剛お姉さんも同意見の模様。たしかに船も飛行機も襲われたら逃げようがないからね。
戦闘を生業としているからこそ、そのデメリットだけが目につくんだろう。
地上と違って厄介な魔物が多いから、躊躇う人たちが多いのは知ってる。でも、テレポートポータルならばひとっ飛びだ。
まぁ、飛行機でいえば、ファーストクラスの値段を数分のために支払えるかどうかという問題はあるけどね。
みーちゃんの場合は、魔石を使わずとも魔法の力があるので、タダでポータルは開けます。なのでコストゼロなのだ。
ぞろぞろと後から、みーちゃんがポータルを開くのを待っていた人たちが歩いてくるので、ササッと移動する。どうやらみーちゃんがテレポートポータルを使う時間がわかっており、待機していたっぽい。
これで少なくとも朝寝坊はできないことが、確定しました。だって子供連れで待機していた人たちもいるんだもん。謀ったなパパ!
「あ、いました、いました。みー様〜!」
「さすがは闇夜ちゃん。もうエンちゃんの行動を予測するプロだね〜」
親友たちが制服姿で、みーちゃんを見つけたよと目を輝かせて手を振ってくる。約束していないのによくわかったなぁ。
「ニッシッシ。今日は皆で入学式に出たかったからね〜。さっきから待ってたんだよ〜」
なるほど、待っていてくれたのか。闇夜の後ろにテントが見えるけど、あれはただの冗談だよね?
「ちょうど良かったよ〜。玉藻は10分前に着いたんだ〜。危うくすれ違いになるところだったね」
「コンコンッ」
玉藻が笑って、頭の上のコンちゃんも飛び跳ねる。
やっぱり冗談だった。びっくりさせるんだから、まったくもぅ。
「一生に一度しかない記念日ですから、絶対にすれ違いはしたくなかったのです。あ、そのテントはもう片付けてください」
ニコニコと微笑む闇夜が、後ろに待機していた召使いさんに指示をだす。召使いさんたちは、慣れているようで、テキパキと片付けていった。
「芸人魂なんだから、闇夜ちゃんは」
ニコニコと微笑む闇夜に、苦笑しながら言う。受け狙いのためにテントまで用意するとは、お笑い芸人の鑑だね。
ニコニコと微笑む闇夜は頬に手を添えているだけだけど。
「でも、テレポート港も大きくなりましたね。今もたくさんの建物が建設されていますし」
「ここが2年前まではスラム街だったなんて、誰も思わないと思うよ。こーんなに大きな施設ができるなんて凄いよ〜」
「うん、これからもどんどんテレポートポータルは増やして、世界各地と繋がるハブ港にするつもりだからね。まだまだこんなものじゃないよ!」
周囲は元はスラム街だ。更地にしてテレポートポータルの聳え立つ港施設にしたのである。
広大な土地を買い占めて、スラム街の人たちはすぐ近くに建てたマンションに住んでいる。この港を運営する人々が必要だったので、スラム街の人たちをたくさん雇用もしていた。
帝都にあったスラム街は姿を消し、最低の貧困層はかなり少なくなったのだ。
これはみーちゃんがちょっと魔法の力が強くなったからできる技である。
オーディーンのおじいちゃんにもできない。何しろ塔に使っているのは不壊の素材『ウェハース鉱』だ。
おじいちゃんは最近はなぜか『マイルーム』に閉じこもっていて、嬉しそうに色々な研究を身体を与えたミーミルちゃんと共にしている。
断じてみーちゃんがやらかしたからではない。未知の魔法がたまたまたくさんあったから研究しているだけだよ。魔法の神は知識欲が満たされて満足そうだ。
「でも良かったのですか? テレポート港はみー様の東京に建てても良かったのでは? なぜ帝都に?」
「う〜ん、東京にも小規模のハブ港は建設する予定だけど、帝都が首都だしね。将来禍根を残すようなことはしておきたくないんだ」
不思議そうに首を傾げる闇夜に、むふんと胸を張って答える。
今は良いけど、みーちゃんがいなくなった後とか絶対に問題になるに決まってる。いちゃもんをつけて東京を接収してこようとするのは、歴史が語っているからね。
権力者というものは、欲しいものがあれば手を変え品を変えて奪おうとする可能性が高いのだ。
「さすがはみー様です。その深慮遠謀はどのような方も勝てません」
「ありがとう闇夜ちゃん。みーちゃんも高校生になるからね。ちょっとは頑張らないと」
テヘヘと頬を赤く染めてくねくねしちゃう。闇夜は優しげな笑みを浮かべて、その手はカメラでみーちゃんをパシャパシャ撮っていた。みーちゃんの目でも視認できなそうな速さでシャッター押しているけど、カメラ壊れないかな?
「おかしいなぁ、ホクちゃんたちも来ているはずなんだけど、見ないね〜」
「あれ、ホクちゃんとナンちゃんも来てるの?」
「うん、仲良しグループで登校しようねって、合流しようよと話し合っていたんだよ」
玉藻がキョロキョロと周りを見渡しているが、なるほどね。納得したよ。
「だから、みーちゃんの背中にセイちゃんが乗っているんだね」
「……おは……ね、眠い……おはすみ〜」
いつの間にかみーちゃんの背中におんぶされていたセイちゃんがねむそうに挨拶をして、顔を肩に乗せてくる。早くもすやすやと寝息を立て始めるので、おはようとお休みの新語だった模様。それにしても、セイちゃんも全然成長しないなぁ。仲間仲間。
どこで仲間と判断したかはナイショだよ。
「な、な、みー様の背中にいつの間に! くっ、私もおんぶしてください!」
「………闇夜ではもうおんぶはできない」
「くっ、こんなところで私の成長が枷に!」
セイちゃんの言葉に、ムキーと唇を噛む闇夜。たしかに背丈も伸びて、重装甲にもなっている。大和撫子ここにありだ。その装甲はどこで買ったのか聞きたいです。
「エンちゃーん! おはよ〜」
元気よくおっきな声で、ターミナルからホクちゃんがブンブンと手を振ってでてきた。片手はナンちゃんの首元を掴んでいる。
「もぎゅもぎゅ。この施設だけのご飯多いよ〜」
なぜ合流が遅れたかは明らかだね。ナンちゃんが山と食べ物を抱えているし。
「皆合流できたのかな? せーちゃんは来ないのかな?」
「これでメンバーは全員だよ。聖奈ちゃんは粟国君と登校するんだってさ」
そっか。少し残念だけど仕方ない。戦闘力が2割まで落ちた勝利が心配なのだろう。レベル20ぐらいまで力が落ちたからね。
覚醒モードで黄金の糸のパターンを僅かに変えて赤く染めた勝利は、死んだ後に赤く染めていたパワー分だけ肉体を構成していた糸が残っていたので、鍵から人間に戻すのに使えたのだ。
黄金の糸の波長を変えるとは、さすがは転生者だと感心したよ。
悪運の強い奴である。聖奈には、蘇生時に赤ん坊の勝利、綺麗な勝利、泣き叫んで助けてくれと駄々をこねる謎の物体Xのどれにしますかと、女神よろしく確認したのに聖奈の選んだのは……。
「せーちゃんもダメ男に尽くす系だなぁ」
「今では次期当主代行として、頑張っているらしいです」
「次期当主代行って、なぁに?」
尽くす系ではなく、乗っ取る系みたいな感じもするから別にいっか。
「それじゃ、出発を」
「ワハハハ鷹野女王陛下、お待たせ致しました! 芳烈様のご指示によりこの女王近衛隊隊長佐久間が護衛を致しますぞ!」
大音量で、おっさんがのそのそと歩いてきた。ピシッとしたシワ一つないおろしたての新品のスーツを着込んでいる。
その後ろから、魔導鎧を着込んだ兵士たちがぞろぞろとついてくる。帝都で雇った元戦車大隊長で英雄の佐久間のおっさんである。
なぜ一人だけスーツ姿なのか問い質したいけど、それよりも優先すべき問題が発生した。
「鷹野女王だって?」
「俺たちを雇ってくれた?」
「聖女様だ!」
「ハァハァ女王様〜」
周りにいる人たちが、佐久間の台詞を聞いてみーちゃんに気づいちゃったみたい。
まるで獲物を見つけたゾンビのようにみーちゃんへと皆は顔を向けてくる。そして、一斉に走ってきた。
「うぉぉぉぉ〜! 女王陛下〜!」
「握手をお願いします!」
「この子に祝福をお願いします」
「あなたのお陰で助かりました」
ドドドと足音を踏み鳴らし、何千人もの人々が走ってくるのは少し怖い。しかも皆笑顔なのが怖さを増しています。
「むっ! 早くも仕事のようですな。この佐久間にお任せあれ! 皆の者、鷹野女王陛下を守るのだ。こら、ソフトクリームを持ったまま駆け寄るな! あ〜、買ったばかりのスーツについた! 貴様、面白そうにソースを塗って来るんじゃないっ!」
円陣を作って押し寄せる群衆を防ごうとする佐久間。だが、人々は我も我もと駆け寄ってきて、みーちゃんをひと目見ようとしてくる。
もちろん、その中には食べかけの食べ物を持っている人もいたので、佐久間のスーツにはソフトクリームやらソースがべたべたとついていった。これを自業自得と言います。
仕方ない。みーちゃんが助けてあげるよ。
「てーい」
ぴかっと光って変身する。髪の毛は白金色になり、瞳に神秘的な光を宿したみーちゃん見参!
きりりと凛々しい表情でお願いを口にする。
「皆、みーちゃんはこれから高校の入学式なんです! だから離れて」
「きゃー! 噂の幼女モードよ!」
「握手、握手して」
「写真を一枚!」
「美羽様、バンザーイ」
「今度お菓子を一緒に食べようでつ!」
「きゃー! みーちゃんです! みーちゃんが通りまーす」
なぜか皆に担がれて、わっしょいわっしょいと運ばれるので楽しくなって、ふりふりと手を振って笑顔になっちゃう。
用意された車まで運んでくれるようだから、問題はないよね!




