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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
13章 夜明け

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376話 別れを告げるんだぞっと

 世界が揺れて、閃光と爆発により白く染められていく。その輝きが収まった後に、私は静かに地上に降り立つとため息をつく。


「植物の世界を作るなんて嘘だったんでしょ?」


「……あぁ、もちろん。でも、らしかっただろ? ボスっぽかった」


 目の前には消えかけたシンが浮いていた。もはや肉体は消えて、その魂は黄金の粒子に変わっていっている。


「なんでこんなことを?」


「ふふっ、……君を倒さなくてはいけない。『ユグドラシル』としての本能はそう語っていた。……だが、それよりも……」


 溶けるように消えながら、シンは寂しさと悲しさが交じる声音で答える。


「本気で戦いがしたかったんだ。勝敗が決まった出来レースではなく、下手くそな劇の出演者ではなく。僕の全てをぶつけてみたかった。魔神を倒したあの時の高揚感と満足は嘘だったのではと思ってたから」


「満足できた?」


「どうだろう………満足したと答えられれば良かったけど、負けたからね。でも……」


 ほとんどが粒子となり、消えてゆく魂は最後に一言だけ。優しげな声で告げてくれた。


「ありがとう」


 ぽつりと呟くと、その言葉を最後に完全に消えていったのであった。


「主人公らしかったよ、シン」


 風に靡く白金の髪をそっと手で支えて、私は微笑みを浮かべるのであった。


 全ての力は私にある。もはやこの世界は私の物だ。


「『ユグドラシル』さん、私の勝ちだから、悪いけど全てをもらいまーす!」


『世界移譲』


 地面にペタリと手を押し付けると、ふんすと気合いを入れて力を使う。私が魔法の力を流していくと、地面が大きく揺れて白金の光が覆っていく。


 眼前に聳え立つ巨大という言葉では収まらない、世界を支えているかのような大樹も同様に白金に染まっていく。


 抵抗はない。既に『ユグドラシル』を動かせる核となったシンは滅びた。そして、その力は私が全て食べちゃったからだ。


 世界樹が染まっていく中で、枝葉の先端から解けるように消えていき、黄金の粒子に変わって空へと散っていく。


 そして宇宙を内包した光球が『ユグドラシル』から私の大樹へとふわふわと飛んでいく。黄金の光球の中には宇宙が存在している。銀河がいくつも見えて、星の光が宝石のように散りばめられていた。


 世界だ。鷹野美羽が暮らしている世界。外から見ればあんなにちっぽけな光球だ。


 だけど、今は一番大切な世界。家族が住んでいる友人たちが暮らしている世界だ。


 暖かな世界。パフェよりも甘い世界。胸がポカポカする世界だ。


 その黄金の色は白金に変わっていき、静かに大樹へと吸い込まれていった。これで世界は大丈夫だ。鷹野美羽の世界は守られた。


「それじゃ、いただきまーす」


 世界が移動すれば、もはや私を止めるものはない。小さなお口をめいいっぱいに開ける。


「あ〜ん」


 世界を埋め尽くすように広がる黄金の粒子は、私のお口へと吸い込まれていく。轟々と勢いよく流れ込んでいく。

 

 蕩けるように甘くてとっても美味しいね!


 世界を支えるほどの大きさの世界樹は全て黄金の粒子へと変わり、私が全て食べてしまう。


「甘い物は別腹だから、いくらでも食べれちゃうよ!」


 明らかに私よりも多い黄金の粒子。でも乙女な私には別腹があるから大丈夫なのだ。


 全て食べちゃうよ。……本当は世界もなにもかも食べちゃう予定だった。食べ終わったら、新たなるパフェを探すために、他の世界へと移動しようと思ってた。


 おじさんにそれを伝えたら、もっと美味しいものがあるから止めとけと言われたのだ。不思議に思いながらも、そんなのがあるわけないよと考えながらも、みーちゃんを創り上げて試したのだ。


 そのとおりだった。パフェよりも甘い物はあった。家族サイコー。こんなのがあるなんて思わなかった。


 これが終わったら、ママに手作りハンバーグを作ってもらおう。あ、ヘルメットもお土産に用意しておかないとね!


 そうして、全ての黄金の粒子は私のお口に入った。欠片一つ、粒子一粒残さずに全部食べ終わった。


 残るのは蛍のような光球だけ。


「とってもキレイ〜。これが全部魂なんだね」


 まだ世界に転生していない魂たちが、満天の星のように瞬きながら空に浮いていた。ユグドラシルに内包していた魂たちだ。


 魂たちは一時の休息を過ごすために、私の大樹の枝葉の間に入っていく。半透明の水晶のような枝葉の間で、果実のように止まり静かに瞬く。


 死せし者たちは、このまま新たなる生を得るまで、穏やかな休息をとるだろう。


 私は全てが終わったことに安堵して、ニコリと微笑む。私のパフェの旅は終わりを告げた。長い長い間、旅していた旅が。


『パフェの旅って、お前旅なんかしてないだろ。それと旅が被ってるぞ』


『なんか旅って例えるとかっこいいよね! 大事なことなのでかぶせました!』


『それよりも大変なことがあるよ。大変大変!』


 美羽が余計なツッコミを入れてくるので、むふんと威張って答えちゃう。それよりも、みーちゃん、なにが大変なのかなぁ?


『頑張って食べたら、お腹空いちゃった!』


『ほんとだ! もうペコペコだよ!』


 しょんぼりとぺったんこなお腹をさすって悲しくなる。クゥとお腹の音がして、ペコペコなことに気づいちゃった。


 早くハンバーグを食べなくちゃ! 目玉焼きは2個乗せてもらおうっと。


 っとと。その前にやることがあるや。これをわすれたら意味がない。


『皆、予定外だけど、創世の力は分散しておくよ』


 創世神になるつもりはない。だから、手に入れた力はいらないんだ。


 全部を大樹に譲ると、またヘルヘイムのような神が良からぬことを考えるかもしれないから、少しは残すけどね。


『……これまで頑張ってきた成果を全て失って良いのか?』


『うん! だって鷹野美羽は人間として生きるからね!』


 美羽の言葉に、穏やかに口元を笑みにして答える。この生は人間として生きると決めている。


 死んだ後はわからない。また蛇さんに戻るのか、それとも転生して、また新たなる人間として生きるか。


 でも、今は鷹野美羽として生きたい。皆と共に生きていく。


 数万年をあっという間に過ごしてきた。無意味に暮らしていた。


 だけど、人間としての生は長くても百年ぐらいだけど、数万年よりもきっと私にとっては長い。


 だから、ここに創世の力。始源の力は置いていこう。


『……わかった』


『みーちゃんもさんせー』


 美羽とみーちゃんは止めることはせずに、賛成してくれる。エヘヘと照れてくねくねしちゃう。とっても嬉しい。


『それじゃ、私の力を分けます!』


 きりりと顔を引き締めて、両手を天へと掲げると叫ぶ。


「平等に分けたいと思います!」


 私の中から灰色髪とアイスブルーの瞳を持つみーちゃんが半透明の姿で現れる。


 同じように黒髪黒目の美羽も取り憑いた悪霊のように現れた。


「きゃー、みーちゃんはもらいます! 頑張って管理しておくね!」


 嬉しそうに手をぶんぶんと振るみーちゃん。


「なんか今悪霊とか言わなかったか? それと俺はいらないよ? 約束どおりに新たなる世界でお金に困らない政治の世界にも首を突っ込まない平和な家庭に転生させてくれ」


 疑わしそうに半眼で見てくる美羽の言葉は、なんのことかさっぱりわからないや。約束ってなんだっけ?


「てーーーやーーー」


 白金の力を引き出して、それぞれに分散する。


「まずは私に50%!」


 といやと力を分けていく。


「そして、私、みーちゃん、美羽に平等に分けて残った力を大樹へと分けます!」


「どこらへんが平等なんだよ! お前、全然力を捨てる気ないじゃねーか! というか残りの力を分けるのに自分も入れるのやめろ!」


 なんか幻聴が聞こえたけど気のせいだよね。この平等の法則は世界的に有名なんだよ。たぶん、きっと、めいびー。


 パアッと白金の力が光って二人に入っていく。半透明だったみーちゃんは魂を持ち、本物の生命を持つ。


 逃げ出そうとしていた半透明だった美羽も魂を持ち、本物の生命を持つ。


 余った残りの力が大樹に吸収されて、その姿を維持する核となっていった。


「なんで俺にも分けるんだよ! というかなんでこの姿? 元の姿にしろよな!」


 地団駄を踏む美羽に、コテリと首を傾げて戸惑っちゃう。


「この姿の方が良いと思うよ」


「みーちゃんもさんせー」


「賛成多数につき、その姿に決定しました」


 私とみーちゃんが手を挙げて多数決で決まりました。


「なんで魂を作るんだよ。必要ないだろ?」


「それはヒ・ミ・ツ〜」


 唇を尖らせて文句を言う美羽が、私と再度重なって一つに戻る。みーちゃんも同様に一つに戻った。


 3つの意識は一つの身体へと戻り、美羽とみーちゃんは私となる。私はみーちゃんであり、美羽でもある。


 なんで魂を作ったかというと………この人間の生が終わった後にそれぞれの道を歩むためだ。


 今は一緒だけど、世界は続く。私たちもお互いの道を選ぶ時がくる。人生が終わった時に選ぶ時が。


 それが神となるか、他の世界を旅する放浪者となるか、人間として生きるかはわからない。


 だけど、その時のために魂を作っておくことは必要だ。そして力もね。ないより、あった方が良い。


 でも、それを口にするのはなんとなく寂しいし、嫌だからナイショにしておくのだ。


 終末の日を終えた神の世界を見渡す。何もない灰の世界。神々の魂が漂い、その力の残滓が神域に残るのみ。


「神々も復活できるし、オーディーンのおじいちゃんたちに力を戻すこともできるけど……。ろくなことをしそうにないからやめておこうかな」


 スカッと指を鳴らして、良いアイデアだと笑顔になる。


「神々も転生させちゃおう。力の残滓はおつまみにしておくことにしよう」


 神々の力の残滓なんて、残していても良いことはない。手を広げて空気をかき混ぜるように回すと、神々の力の残滓を集めてウェハースへと変えておく。


 ふふふ。これでバッチリだね!

 

 それじゃ鷹野美羽の世界に戻ろう。家族の待つ世界へと。


 創世の力などよりも、遥かに大事な家族の元へと。


 フワリと身体を浮かせて、大樹へと向かう。私の思念に従い、幹に次元の裂け目が生まれる。


 最後に一回だけ振り向く。


 もはや『ユグドラシル』は存在せずに、地平線の彼方まで何もない。ぽつりと小さな泉が残るだけだ。


 私が暮らしていた世界。数万年を生きていた世界。


 さようなら。いつかまた訪れる日もあるだろうけど。


 今は別れの挨拶と共に、この世界を去ろう。


 私は一抹の寂しさを残して、大樹へと飛び込む。


 ただいまと口にしながら。寂しさ以上の喜びを胸に宿して。


 人間の世界へと戻っていくのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この章をありがとう [一言] そうか。。それわ良い。。それで幸せに生きてください、お嬢様。(◡◡)
[気になる点] 生前の記憶を持ってる成人男性人格が新しい男の体と人生を欲しがるのは当然ですしそういう約束をして動き続けてたのに、その約束を理不尽に一方的な破棄というのは精神年齢幼い人格とはいえ非常に悪…
[一言] シン・シンは戦いたかっただけかぃ。まぁ操られてるだけの人生だったから、自分の意思で出来ることがそのくらいしか思いつかなかったのかねぇ……短慮! そして悪霊のおじさんは幼女に確定されました。成…
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