375話 三人いれば問題はないんだぞっと
シンが這い出してきたみーちゃんを見て、眉を顰める。
みーちゃんは以前の灰色髪にアイスブルーの瞳に戻っているから驚いちゃったらしい。
「髪の毛が灰色に戻った?」
「きゃー、みーちゃんの力を見せちゃいます!」
体内の力を引き出す。白金の力ではなく、みーちゃんの核であった『フレースヴェルク』の力だ。
「アタッーク」
背中に鷹の翼のように両手を伸ばすと、大地を蹴って飛び上がる。キュンと速度を上げて風よりも速くシンへと向かう。
「迎え撃つ!」
『隕石』
シンの周囲の空間に無数の魔法陣が描かれて空間が歪曲する。歪曲された空間から燃え盛る隕石が落下してきた。
その数も問題だけど、みーちゃんを正確に狙うのではなくて、周囲を埋め尽くすように撃ってきたのが問題だ。
だけどみーちゃんには見えている。発動に僅かな時間差があり、隕石同士に隙間があることを。落下し始めれば、その隙間はなくなるだろうけど、今なら行ける。
「ぴよぴよっ!」
勇壮なる雄叫びをあげて、みーちゃんは風となる。風となり風よりも速く吹き荒れる。
落下をし始める僅かな時間差。その数コンマと思われる時間に、隙間を一陣の風となり通り抜けていった。
「さっきよりも遥かに速いっ!」
「みーちゃんは風となりました!」
驚愕するシンの横を通り過ぎると、空高く舞い上がる。両手をパタパタと振って、『フレースヴェルク』の力を引き出しちゃう。
「なら、風さえも切り裂こう!」
「厨二病なんだね!」
くるりと反転して、シンへと翼を模して腕をパタパタさせる。
『神翼美羽』
光を凝縮させかたのような羽を生み出すと、シンを狙い撃つ。羽が射出されてレーザーのように光条となって飛んでいく。
『魔法破壊』
迫る光羽に、冷静にシンは手を翳して対抗してくる。
やはり羽もシンにより打ち消されてしまう。遠隔攻撃はアウトらしい。
でも、それならそれでやりようがある!
「突撃〜」
風となったみーちゃんは止められないし、早いだけが鳥さんじゃないのだ。急降下してシンとぶつかり合う。
シンが刀を振るい、みーちゃんはつま先を伸ばして蹴りを打つ。ガンと鈍い音が響き、衝撃波は辺りの空間を揺らす。
刀で弾かれてしまうが、みーちゃんの加速は止まらない。弾かれても加速して鋭角に切り戻すと、再びシンに鷹の爪のように蹴りを繰り出す。
「速いっ!」
驚きながらも、またもやシンは刀で弾く。それでも問題はない。
「みーちゃんのパタパタウイングは止まらないよ!」
どんどん速さは増していき、光と化したみーちゃんは幾何学模様に空を描いて、光の軌跡を残してシンの周りを蹴りを繰り出しながら飛び回る。
「弾くのなら弾かれなくなるまで攻撃しよう。ぴよぴよっ」
「このままじゃ、ジリ貧か!」
守るだけでは防ぎきれなくなると、終わらぬ攻撃に顔を顰めて、シンは空を駆けるみーちゃんを追いかけてきた。
『神速』
シンの身体が黄金に輝くと、みーちゃんに対抗するべく加速する。
『新星光弾』
みーちゃんを捉えようと、光速の弾丸を撃ってくる。瞬き一つする前に命中するだろう一撃は、星の光を宿しており、触れれば存在を消滅させる威力を持つ。
でも、みーちゃんには関係ない。速さに特化した『フレースヴェルク』はたとえ光速でも当たることはないのだ。
「なぜなら次元を超えて飛べる能力をみーちゃんは持っているからだよ!」
空間の挾間、次元を超える速さを持つみーちゃんは、たとえ光速でも命中しない。時の止まった世界を移動するが如く、全ての光弾を躱していく。
躱した光弾が地上に落ちて大爆発を起こしていく。爆風が巻き起こり、地獄のような灼熱の炎が吹き出す中で、みーちゃんは両手を精一杯広げる。
「みーちゃんおーぎ」
『神翼鷹爪』
魔法の力を体内に巡らせて、みーちゃんはその姿を消す。
「ぐああっ!」
その瞬間に身体に5本の爪痕を残して鮮血を噴き出し、シンが仰け反り悲鳴をあげる。
「くっ、スピードでは敵わないか。ならばこれでどうだい?」
『世界蔦』
苦笑してシンが次なる魔法を使う。どんな魔法なのかなと眺めていると、後ろに聳え立つ『ユグドラシル』から枝が蠢き、大蛇のように襲いかかってきた。
一本一本が高層ビルのように太い枝だ。すぐに構えて回避に移ろうとするが、その軌道を見て困惑しちゃう。
みーちゃんを狙っていないのだ。というか、みーちゃんとシンの周りを覆っていく軌道をとっていった。
球体状に覆われて、チッチッと小鳥のように舌打ちする。かなりの狭い球体となっちゃったのだ。
「この狭さなら、速さも限界があるだろう?」
「くるっぽー!」
抗議の声をあげちゃうよ。ずるい、主人公のすることじゃないよ!
「近接戦闘で勝負だ!」
「ぴよポッポー!」
刀を構えて、間合いを詰めてくるシン。パタパタ両手を振って慌てるみーちゃん。このままではズンバラリンと斬られちゃう。
「はっ!」
『三龍点睛』
突きの構えを取るとシンは刀に魔法の力を注ぎこむ。間合いを詰めての瞬速の三連突き。刀に纏うオーラは龍となって、みーちゃんを突き殺さんとしてくる。
『光剣展開』
龍が空を駆け、眼前に迫ってくるが、みーちゃんは神気の剣を光剣へと変化させて弾き飛ばす。光の剣は龍に触れると光の欠片を生み出しながら、その軌道をずらすのであった。
「メンバー交代。俺が相手をしてやるぜ!」
「髪が黒くなった!?」
「デバッグでの戦闘経験は伊達じゃないんだぞ」
美羽の髪の毛が黒くなったのを見て、驚くシンの懐へと、凶暴なる笑みを浮かべて飛び込む。
「てい」
「中途半端な威力では、僕には効かない!」
脇を締めてコンパクトに剣を振り下ろす。力のない攻撃に、シンは刀を合わせて受け流す。間合いが近すぎて剣を振るうほどの力がなかったのを見事につかれた格好だ。
とはいえ、それは誘い水。掬い上げた体勢のシンの持ち手に鋭く蹴りを打ち込む。ゴキリと音がして、苦悶の表情となるシン。その身体が痛みで数瞬止まる隙を逃さない。
「とやー」
獲物を狙った猛禽のように、鋭い咆哮をあげて身体をぶつけるように突進して、その腹に膝蹴りを打ち込む。
「ぐっ」
「連撃だ!」
左脚でシンの僅かに下がった顎を蹴り上げて、くるりと横回転をさせて、回転蹴りを叩き込んだ。
一瞬の間に三連コンボを受けたシンは、弾けるように吹き飛ばされて、周囲を覆う『ユグドラシル』の蔦に叩きつけられる。ズンと重い音がして、パラパラと木片が落ちていき、めり込んだシンが目に入る。
「腕が急に上がった?」
「美羽の近接戦闘は最強だからね!」
追撃をしようと踏み込む美羽へとシンはなんとか手を翳すと目を見開き鋭く叫ぶ。
『ミストルティン』
魔法の力が発動し、周囲の枝葉がカサリと動く。その気配を感じて、素早く宙を蹴り風の壁を作り後退する。
「おっと」
目の前を槍のように細い枝が過ぎてゆく。風斬り音と風圧により黒髪が靡き、さらなる攻撃が襲いかかってきた。
棘のように周囲の枝が尖っていき、美羽をつき殺さんと迫ってくる。その力は見たことがある。魔法の力を封印する神槍だ。全て『ミストルティン』の力を宿していた。
「トレントと改名した方が良いぜ!」
黒目を鋭く細めると、脚に魔法の力を集中させていく。
『幻影歩法Ⅲ』
タタンと複雑なステップを踏み、美羽は残像を残して面白そうな笑みを浮かべて、迫る枝へと爪先をむける。
『絶歩』
トンと爪先を枝の尖端に触れさせると、踏み込み軽やかに移動する。次々と世界樹の枝で作られた強力な魔法の力を宿すミストルティンが襲い来るが、その全てを踏み台としてシンへと向かう。
踏み込んだ枝の後には残像が残り、空しくミストルティンは残像を貫くのみ。
「ファイナルアタックだ!」
「そうはいかないよ!」
後退していた間に、這い出してきたシンが再び刀を構える。神気の剣とシンの刀がぶつかり合い、その衝撃により世界が揺れ始めた。
「ハッ!」
シンが美羽の首元を狙い、正確に狙ってくる。頭を僅かに下げて、その攻撃を躱すと同時に柄を持つ手でシンの手のひらを殴りつける。
「グアッ!」
刀を離して、苦痛の表情となるシン。
「ていていていてい」
『乱撃』
鋭く呼気を放つと、パンチパンチキックにパンチ。
ドスドスとシンの身体に攻撃の全てが入り、シンはよろけてしまう。
「みーちゃんキック!」
「グハッ」
爪先を槍のように突き刺して、シンの身体にめり込ませる。そうして完全にグロッキーとなったシンへと神気の剣を振り上げる。
「ひっさーつ、神気超龍剣!」
『神気超龍剣』
創世神の力を注ぎん込んだ神気の剣。剣身が太陽のように光り輝く。
振り下ろした一撃は白金の光柱となってシンに墜ちる。
その威力によりシンは『ユグドラシル』の檻に押し付けられて枝を貫いていく。粉砕した枝が木片となり宙へと舞い散り、世界樹の牢屋は揺らいで解けながら砕けていった。
隕石が落下するかのように、シンは檻から飛び出ると地上に落下した。間欠泉のように砂煙が吹き上がり、地上がひび割れていく。
「ぐ、グウッ、や、やるね……だけどこれで」
傷だらけで手足もあらぬ方向へと折れているシンがそれでも笑みを崩さずに、震える手を向けてくる。
全魔法力を収束させているのだろう。世界が震え始め天が割れて大地が激しく揺れる。
「ファイナルアタックは私にお任せ!」
黒髪の美羽がふんすと鼻を鳴らすと、白金の髪と瞳を持つ少女へと戻っていった。
両手をあげて、私は全ての魔法力を集め始める。
「私の考えたさいきょーのまほーでしょーぶ!」
『世界開闢』
「これで最後だ!」
『宇宙開闢』
私の生み出した白金の小さな光球。
シンの生み出した黄金の光球。
二人の放った最強魔法は空中でぶつかり合い、漆黒の衝撃波が広がっていく。
空に虚空が広がり、大地が浮き上がっていく。
お互いに相手の魔法を打ち消さんと、歯を食いしばり押し込んでいく。
「私は……パワー特化なんだよ! てやー!」
一対一なら負けてたかもしれない。……でも私には後ろで押してくれる仲間がいるんだ!
「とやとやー」
必死になって魔法を押し付けると、シンの光球は呑み込まれていき、遂に消えていく。
押し勝った私の光球が地上へと飛んでいき、シンを押し包む。
「お見事……僕の負けだ」
シンが穏やかに微笑むのが垣間見え、超爆発による閃光が周囲を照らすのであった。
まるで太陽が昇ったかのように。
夜が明けたかのように。




