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「書籍化」モブな主人公 〜小説の中のモブだけど問題がある  作者: バッド
13章 夜明け

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369話 粟国勝利の天啓

 時間は戦闘開始まで遡る。


 爆発音と閃光、爆炎と爆煙。墜落していく機械人形や人型の虫や戦艦型の虫たち。空は人間対魔物の戦いで、地獄のようになっていた。


「なんだよこれ! おい、誰かなにが起こっているのか教えてくれ! ウォォ!」


 『紅蓮水晶』を炎の剣に変えて、襲いくるユグドラモスマンを斬って落とし、粟国勝利は混乱で顔を引きつらせながら、闇夜たちに問いかけた。


 彼女たちならば、なぜシンの顔をした虫たちが、そしてヒロインちゃんの神無月が敵となって現れたのかを知っているに違いない。そして、あの空飛ぶ島はなんなんだ?


 闇夜は漆黒の刀『真夜天改最終決戦用マークツー』を手にして、戦艦の甲板を舞うように移動しながら、ユグドラモスマンたちを切り裂いていた。


 灰色髪ちゃんが皆の武器も改造してくれたのだ。


 槍のような口吻を完全に見切り、僅かに身体をずらすだけで回避して、放たれた炎の魔法は刀でその軌道をずらすと、間合いを一瞬で詰めて叩き切っている。


 華麗にして可憐な黒髪の侍美少女は、群がる虫たちをものともしていない。


 勝利の叫びを聞いて、ちらりと振り向くと酷薄な目で口元だけは礼儀なのか笑みへと変えて口を開く。


「唯一同じ年代の男仲間だと言って、みー様にちょっかいをかけないでくださいね? その場合、私の手が狂ってしまうかもしれません」


 キンと音を立てて、闇夜の後ろから迫るユグドラモスマンが数十にも分割されて肉片となって落ちていく。マナの流れから闇夜の影がユグドラモスマンを切り裂いたとわかるが、とんでもない威力と技だ。


「ちげーよ。僕は聖奈さんと魅音がいるからな! 他の女性に手を出すわけ無いだろ! 殺されるわっ!」


 最近、聖奈の苛烈さに本能が気づき始めた勝利である。


「勝利さん、酷いです! 私は勝利さんが守ってくれないと、死んでしまうか弱い身体なのに」


 か細い声で悲しげに聖奈が答えながら、ユグドラモスマンの口吻を掴んで引き寄せると、その身体を拳で突き破った。


「ああっ、聖奈さんがか弱いのは知って……知って……」


 歴戦のモンクさながらに、風の壁をぶち破り、爆発的な威力の拳を叩き込み、剣のような鋭き蹴りで敵を引き裂く聖奈を見て、勝利は口籠る。


 だが、すぐにカッと目を見開くと、セリフを続ける。


「愛するか弱い聖奈さんを守るのは僕の役目ですからね。わかってます!」


 目に熱い心を宿して、空を見上げながら答える。人はそれを現実逃避と呼ぶが、勝利はバーサーカー聖奈を見なかったことにした。


「あ、愛するなんて……こんにゃところで叫ばないでくだしゃい!」


 ド直球での勝利の愛の告白に、頭突きでユグドラモスマンを怯ませて、胴体を掴むとジャーマンスープレックスを食らわして、肉塊に変えた聖奈は顔を染めて照れる。


「闇夜ちゃん、あの聖奈ちゃんの姿を見て、愛の告白をするんだから、敵ではないみたい。大丈夫だよ」


「……そ、そうですね。たしかに敵認定は外しましょうか」


 狐っ娘の玉藻が木の葉の嵐で、纏めてユグドラモスマンを引き裂きながら、苦笑気味に言う。さすがの闇夜も勝利の盲目的な愛に多少引いて頷いた。


「聖奈さんは手は柔らかいし、愛らしいし、いつまで見ていても飽きない美少女だし、アダッ」


「ちょっと、勝利さん、さすがの私も大勢の前では照れるんです。止めてください!」


 頭をストンプで潰したユグドラモスマンを勝利に投げつけて、てれてれと赤く染まった頬を隠すように手で覆うか弱い聖奈。倒せるのは蛾くらいなのだろうひ弱な身体だ。


「すみません、聖奈さん。っと、そうではなくて、この状況を誰か説明してくれ!」


「知りません。みー様が大変な時には助けるのが親友なので」


「玉藻も知らないよ? 理由を聞かなくても助けるからね。ニッシッシ」


 勝利は話を戻して、現状を確認しようとするが闇夜も玉藻も顔を見合わせるときっぱりと言ってくる。


 その言葉に嘆息してしまうが、たしかに僕も聖奈さんや魅音たちが窮地であれば理由を聞かずとも助けるだろうと考えたら、怒ることはできなかった。


「それじゃ、あの戦士たちに聞くか……。あのメイドが良いか?」


 灰色髪ちゃんの仲間なのだろう。36家門の当主すら霞んでしまう力を持った9人の戦士たちへと顔を向ける。


「チチ?」


「いや、お前喋ることできないだろ?」


 先程から皆が受ける全ての攻撃を魔法の力で身代わりに受けていたバッタが、指を自身に突きつけて首を傾げてくるが、喋れないだろ。


 しょぼんとして、盾を構え直すバッタをスルーして、メイドへと声をかける。


 青髪のメイドは、小さな水滴を周辺にばら撒いて、触れた敵を一瞬で凍りつかせていたが、勝利の声に振り向いて薄っすらと微笑む。


「これは世界を支配せんとする邪神と、勇者鷹野美羽様の最終決戦です。私は魔法使いの立場ですね」


「胡散臭い……。なんだよ勇者って。『魔導の夜』に勇者なんて職業ないからな」


 半眼になってしまうが、それ以上は答えるつもりはないのだろう。


「ちくしょー。なにが起こっているんだ? それにあいつもそうだが、皆も敵も恐ろしい力じゃねぇか」


 『紅蓮水晶プリズムクリムゾン』を展開し、敵の炎の光線を防ぎながら舌打ちする。神たる僕の知らないことがあるらしい。


 虫たちも見たこともないレベルの強さだ。今は支援魔法により余裕で倒しているが、無かったら一体を倒すのにも苦戦していたに違いない。


 だが、この状況は理解できずともなんとなくはわかる。伊達に小説やアニメを見ていない。こういったシチュエーションはたくさん見てきたのである。


 なんだかよくわからないが、たしかに世界の危機とかそんな感じなのだろう。なので手伝うことは吝かではない。なぜシンの顔をした虫たちなのかは理解に苦しむが。


 そして、なぜヒロインの神無月ちゃんがあんな性格の女の子となり、僕たちの前に立ちはだかるのかもわからないが。


 これまでの経験が薄っすらと状況を理解させていた。


「戦艦が突撃してきます! しかも複数!」


「神風特攻隊? 止まらないよ〜」


 闇夜と玉藻の焦った声に空を見上げると、20隻ぐらいの戦艦型虫たちが突撃してきていた。


 大型の戦艦は撃沈したが、小型のはすり抜けてきたらしい。小型と言っても全長50メートルから100メートルの戦艦であり、接近してくるその姿に背筋がゾッとする。


 なにせ、ダメージを受けることを気にせずに吶喊してきているのだ!


 こちらの戦艦が戦艦砲を撃つ。ダイヤモンドの輝きを放つ美しき光線が戦艦を貫き撃沈させていくが、数が多すぎて倒しきれない。


「ぬんっ!」


『轟撃』


 軍人っぽい男が大剣を横薙ぎに振るうと、エネルギーで形成された刃が飛んでいく。天を割るという言葉が相応しいのだろうか、その光刃は飛んでいく中で巨大となり、戦艦の巨体に食い込むと、まるで紙のように切り裂き、真っ二つにした。


 他の面々も糸で蜘蛛の巣のような壁を作り、動きを鈍らせ、矢を放ち刀を振るい符を飛ばしてそれぞれが戦艦を倒していく。


 パワーアップしている自分たちよりも、力が上なのだ。対してこちらは戦艦に穴を開けて、装甲を切り裂き、魔法により穴を開けるが向かってくるのを止めることはできていない。


 味方の穴となっている。そのことに闇夜たちは焦りの表情となる。


 抜けてきたのは100メートル級の戦艦だ。突撃されれば、皆は無事ではすまない。


 だが、僕には切り札がある。苦労して手に入れた努力の結晶があるのだ。


「僕に任せろっ! はぁぁぁぁっ!」


 鼻の穴をぴすぴすと膨らませて、見せ場だなと興奮して僕は体内のマナを練り上げる。


 見ろ、僕の修行とドーピングの成果を!


 四肢を踏ん張り、気合の声を上げて、自らの隠していた力を引き出す。


 足の爪先から、手の指まで。髪の毛の一本に至るまでマナを巡らせると爆発させるように活性化させた。


 己の身体から爆発したかのように紅き炎のオーラが吹き出し、勝利の姿を変えていく。


 目を緩ませて、口元をニヤニヤとさせながら、周りの反応をちらちらと見て、誰もが呆れるだろう凛々しい姿を見せる勝利。


「炎神モードっ!」


 わざわざ変身のモードを叫んで、変身は終了する。赤毛は焔のように靡き、その身体は真っ赤だ。途轍もない力であることを示すように、真っ赤なオーラは吹き荒れる。


「これが僕の覚醒した姿。『炎神モード』だっ」


 シンの『黄金モード』を上回るかもしれない勝利のオリジナル覚醒モードだ。オーラの色を赤く染めるためだけに全エネルギーの2割も注ぎ込んだ奥義である。黄金のオーラではシンとかぶるので、頑張ったのであった。


「おーっ。変態になった〜。すごーい変態になった」


「へ・ん・し・ん。変身だっ! その言い方だと誤解を招くだろっ。あと、もっと皆驚いてくれよ」


 感心する玉藻の言葉にムキになって反論するが、そんな場合ではなかったと、すぐに気を取り直す。


「こいっ、『紅蓮水晶プリズムクリムゾン』」


 手を水平に伸ばすと、空を飛び交う炎の水晶に指示を出す。水晶片は伸ばした手の中に集まると、ルビーのように美しい大剣へと変わった。


「ウォォ! 僕の『炎神炎熱剣』を食らえっ!」


「炎がかぶってませんか、勝利さん?」


 叫びながら燃え盛る炎の剣を横に構えて前に出る。もはや戦艦は目の前であり、激突は近い。

 

 聖奈の応援を背に、大剣へとマナを注ぎ込む。


「僕の『炎神紅蓮剣』の力を思いしれっ、この虫やろーが!」


溶岩焔竜ラヴァーズドラゴン

 

 焔の剣から灼熱の溶岩で形成された竜が生み出される。勝利がマナを注ぎ込み、その身体は30メートル程の巨体に膨れ上がると、迫る戦艦へと突進する。


「ぬぉぉぉ!」


 歯を食いしばり、顔を真っ赤にさせて気合で撃ち込む。溶岩竜が戦艦を溶かしていき、船体の半ばまでめり込ませると、爆発させる。戦艦は爆散すると、バラバラと虫の肉片が飛び散っていく。


「み、見たかよっ! こ、これがゲホッゲホッ、勝利さまのちゲホッゲホッ」


 全力で撃ち込んだために、身体は疲労感に襲われて咳き込んでしまう。


 だが、すり抜けてきた戦艦は今ので最後だったらしい。100メートル級の戦艦を個人で倒すなんて、僕はなんて強いんだと、咳き込みながらもニヤニヤとしてしまう。


 闇夜と狐っ娘。僕に惚れるなよ? 僕はもう婚約者のいる身、諦めてくれ。


 ふぅと息を整えて、周りの雑魚を倒すか、それとも灰色髪ちゃんを助けに行くか迷う。まさか神無月があんな性格の悪い敵として現れるとは思わなかったが、なんとなく予想していることはある。


 ここはもう大丈夫かと尋ねようとした時だった。

 

 なにかが落下してきて、ガコンと甲板をへこませて、倒れ伏す。


「な、神無月?」


 それはボロボロの姿となった神無月であった。もはや血だらけで魔導鎧も砕けており、先程までの力を感じない。


 突然落下してきた神無月を追って、灰色髪ちゃんが空から降りてくる。たいした怪我も負っていないので圧倒的だったのだろう。


 トドメを刺そうと剣を振り上げる灰色髪ちゃんを見て、ピシャンと雷に打たれたように天啓が降りる。


 最終決戦。シンの顔をしたクローンバグ、ラスボスを前に、前座のように姿を見せた変わり果てた様子のヒロイン神無月。


 これはあれだ! 洗脳されているのだ! お兄ちゃんっ子の小動物のような愛らしい少女があんな性格の敵であるわけがない。


 ふふふ、神たる僕は様々な小説やアニメを見ている。間違いない!


 テンプレで主人公が洗脳されていると見抜いて助けるパターン。


 そして、助けた僕は主人公であると言えよう。神無月にも惚れられるとは、悪いなシン!


 今にも剣を振り下ろしそうな灰色髪ちゃんの前に両手を広げて飛び出る。


「ま、待ってくれ。待てよ灰色髪ちゃん」


 神たる僕にしかこの展開は読めまい。確実に操られているんだ!


「ほら、神無月はヒロインだぜ? きっと操られているんだ。もうこの辺で良いだろ? 助けてやろうぜ」


 かっこいい僕の姿を見せてやるぜと、真剣な表情で灰色髪ちゃんを止めようとするのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この章をありがとう [一言] もしわ、お前、クソ野郎があえて悪い状況を作って、その結果、みいちゃんが「ファイナルシンクロ」を使う必要が出てきたら、俺のまじでころす((((*ω*╬╬╬))…
[気になる点] >「唯一同じ年代の男仲間だと言って、みー様にちょっかいをかけないでくださいね?  これどういう意味?闇夜は美羽の中身が男だと気づいてる?
[一言] 正妻の目の前で浮気ムーブとは・・・南無(合掌
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